20.母様としては譲れない!アマリーリア視点
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「アマリーリア陛下。エレナ殿下が、城内で働く者達を、何やらお部屋に集めておられます」
「そう、遂に何か始めたわね。報告有難う。あなたも付いてらっしゃい」
自室にある新たな隠し扉を開け、狭く暗い通路へと足を踏み入れる。
---- あの娘、本当に何をしてるのかしら?
あの娘が学院に入学すると同時に、夫に泣きながら頼み混み、この隠し通路を作って貰った。
アリステアの幸せを猛烈に望むあの娘が、大人しくする訳ないと、今までの経験から想像出来る。
姉をそこまで想う妹がいるのかと、正直不思議で堪らないが、あの娘が大きくなるまでは、仲睦まじい二人の子供達の姿に、とても心癒された。今では、あの娘の妄想染みた姉への想いに、悩まされてばかりいるが----
---- 本当、信用ある侍女に、あの娘を見張らせて正解だったわ。
アリステアの誕生日パーティーなのに、本人よりも早く帰城するなんて、流石に驚いたわ。帰城した時に、あの娘の顔を見て思ったのよね---- 絶対、何か企んでるって。
狭く暗い通路を歩いて行くと、小さく光が差し込む場所へ辿り着く。光が差す方の壁に手を当て、少し前屈みになりながら、光が見える穴へと目の位置を合わせた。
穴を覗くと、部屋に置かれたラウンドテーブルを囲むように、あの娘以外の五人が椅子に着席している。立ったままのあの娘は、小型のナイフを手に持つと、テーブルの真ん中へとナイフを突き刺した。
報告なさい! と言い切ったあの娘は、得意顔で着席し、カップの持ち手を摘み始める。
---- 馬鹿なのかしら? ナイフを、何故テーブルに刺すのか、全く意味不明だわ----
そう思っていると、騎士隊の副隊長であるパウルが、話しをし始めた。
どれどれと、耳を澄ませて話を聞いてみれば、どうやらアリステアの婚約者である、ウォルフの話しをしているようで、パウルの話す内容に唖然とする。
---- バブバブ倶楽部---- 四十五歳の伯爵夫人?
一体何なのか分からず、先程よりも耳を澄ませていれば、侍女長であるヒルデが、私を更に唖然とさせる話をしていく。
---- 膝枕で耳掻き? それにママだなんて---- 小さい子のようじゃない。クシャナが、前に一度嘆いていたけど、こういう事なの?
それにしても、あの娘の見張りを、信用ある侍女に頼んで正解ね。以前ヒルデに頼んだ時、あの娘の報告を中々して来なかったのよね、それもその筈だわ----
すると、後ろ姿である男性が話し始めたのだが、話しの内容よりも、声と話し方が気になり記憶を掘り起こすと、オスカー様であると気付き驚愕する。
---- オスカー様?! 何故ここにいるのかしら、あの娘は知っていたの?
王の従兄弟であるオスカー様は、王位継承権を放棄し、毒の研究をするべく庭師長として働き始めた。今では、城内の古参しか知る者はおらず、政治に関わらないよう、極力人を避けていた筈。ダガリーとも、距離を開けていたのに、あの娘と関わっていたなんて---- ダガリーは知っているのかしら----
考えを巡らせていると、オスカー様の笑い声が耳に届く。
----- 話を聞いてなかったわ。考えるのは後にしましょ。
再び耳を澄ませ、声を聞き漏らさないよう集中していると、ハロルドが話し始めた。マイヤー殿下とアリステアの名前が、出てきて顔を歪めてしまう。
----- マイヤー殿下は、確かあの娘が招待していたわね。怪しいと思っていたけど、アリステアに会わせる為だったなんて--- 全く、困った娘だわ----
部屋に集まるメンバーの中で、唯一静かにお茶を味わっているジンバ先生へ、あの娘が話しを振ると、ジンバ先生の目が、見た事もない程大きく開いた。
----- あの目って開くのね、知らなかったわ。
まあ、と驚きながらも、ジンバ先生の話しを集中して聞けば、話しの途中であるのに関わらず、私の心は急激に黒く染まりだす。
----- アリステアが泣いたですぅぅってぇえ!
ウォルフゥー、あいつ何してくれてるのよ!
アリステアが泣くだなんて---- 小さい頃を除いて、見た事ないわ!
凄く腹が立ってきたわね、---- アリステアも何我慢してるのよ! ダガリーも、アリステアの気持ちなんか聞かずに、早く婚約破棄すれば良かったのに!
あぁー、何より、自分に一番腹が立ってきたわ!
---- 先程の話しを聞いてると、あの娘はアリステアを、マイヤー殿下に会わせたがっていたわよね。て事は、アリステアの新しい婚約者に、マイヤー殿下を選んだって事かしら?
---- マイヤー殿下って、バレルシア王国の王太子よね。あの娘---- 自分が女王になるつもりかしら? それはそれで、国の事が不安だわ---
今までの、エレナの行動を思い返す。
---- あの性格じゃ腹芸は出来ないし、威厳を感じさせるのも難しいわね。それに、あの娘が大人しく城にいるなんて、想像出来ないわ。
だけど---- あの娘って帝王学は誰よりも早く、学び終えたらしいのよね。ダガリーが驚いていたけど、本当かしら? それに治水の開発もしていたし、他にも開発した化粧品や下着は、新たな国の特産品になろうとしているわ。利益が見込めるだけに、ダガリーがハロルドに、量産を増やすよう頼んでいたわね-----
---- 思い返せば、洗濯に使用されていた石鹸を、病気の予防に使用するよう広めたり、絵本とやらを作って教会に寄付し、孤児の子達に文字を教えようとしたり---- 以外と国や民に対し、貢献してるのよね。
宰相様も認めてるぐらいだし、それに----
部屋に集まっている者達に、視線を注ぐ。
どういった意図で、この者達をあの娘は集めたのか---- 今になって身震いしてしまう。
王になれば、必ずと言って良い程、腹心の部下が必要となる。ただ信頼が置けるだけでなく、城内に働く者達や、貴族達に影響を与えられる者でないと、近くに置く部下として意味をなさい。
ここに集まる者達の、皆に影響を与える強さは如何程か---- そんなの考えなくても分かる。
ヒルデは、侍女長として恐れられてはいるが、皆ヒルデの仕事振りに尊敬を抱いている。ヒルデに、何かしら助けられた者も多く、ヒルデの言う事に侍女達は従順だ。
横にいるパウルは、歴史あるサリンザ伯爵家の嫡男。女たらしの為、城内の者は皆遠巻きに見ているが、騎士達からの信頼は厚く、騎士隊長のお気に入りでもある。
お茶を味わうジンバ先生は、城内の中でも知識が深く、変わり者ではあるが、宰相を含め城内の上職に就く貴族達から、ご意見番として重宝されている。
そして---- 正直オスカー様の影響は、私にも計り知れない。ただ、王族の血筋を尊ぶ貴族達には、絶大なる影響を与えるだろうと、容易に想像出来る。
---- アリステアの周りにいる貴族達よりも、影響力が遥かに高い者達が、この場にいるだなんて----
私の知らない間に、あの娘は凄い人材を仲間にしていたのね。
もしあの娘が、女王になると宣言すれば、今アリステアを押す者達は、容易く抑え込まれるだろう。
アリステアは、幼い頃から未来の女王として、血の滲むような努力をしてきた。
あの娘は馬鹿だけど、アリステアの努力を分かっていて、マイヤー殿下を新たな婚約者にと考えたのは、自国に良い結婚相手がいないと、判断しての事だろう。
そうなると、あの娘がもし女王になった時、誰を王配にするつもりなのか----
「いい? 私の作戦は風林火山よ!!」
あの娘が勢いよくテーブルを叩き、声を張り上げる。
自身の思考から、目の前の光景に意識を戻した。
---- まあ、その時になってからで良いわね。それにしても、フウリンカザンって何なのかしら?
為せば成るよ! と言いながら、フウリンカザンとやらの作戦を、皆で考え始めた。
最初の頃よりも、全員で作り上げていく、真剣な空気に圧倒される。
---- あの娘、フウリンカザンとやらの兵法を、いつ知ったのかしら? いつの間にか兵法まで学んで--- 帝王学を学び終えたというのも、きっと本当ね----
作戦である風林火山の内容が、私にも理解出来た頃、風林火まで作戦が固まったようだが、『山』だけが固まらない様子。部屋の中が急に静かになり、気を揉んでいるとオスカー様が話し始めた。
「山は、ウォルフ様の母親を使えば宜しいかと。宰相様に教育を嘆くほど悩まれていたら、私達側に付く可能性は高いと思います」
---- クシャナか。何か起きた時、余裕を持って構えるには確かに良いわね。クシャナは、見た目と違って人格者ではあるけど、息子の味方をしない何て、母親としては言い切れないわ。しかも誕生日パーティーで、ウォルフの本質を暴きたいなんて、貴族達が騒ぎ立てるわね。まあ、それが狙いなんでしょうけど。
誕生日パーティーに出席する貴族や、運営する城内の者達への根回しについて話し始め、役割がどんどん決まっていく。
---- それにしても、何故私やダガリーに協力を、あの娘達は頼まないのかしら? クシャナへ誰も言えないのなら、私に頼むべきなのに----
ダガリーの正妃として、協力する訳にはいかないけど、私だってアリステアを思う母親なのよ?
先ずは、私に言うべきじゃないかしら? あぁ! もう腹が立つし、見てられないわ!
部屋を覗く穴から目を離し、その場にしゃがみ込むと、スライドする腰までの四角い壁を動かす為、へこんだ部分に手を引っ掛ける。
早る気持ちを抑えつつ、明るい部屋に足を静かに踏み入れ立ち上がれば、皆の表情が先程よりはっきりと見えた。
「エーレーナー! 話は聞かせて貰いましたよ! 何を、こそこそとやっているかと思えば、何ですか?」
声を出せば、私に注目が集まるかのように、皆の視線を一気に受ける。
「は、母様?! どこから出てきましたの? それに話っていつから聞いてましたのー?」
「エレナ、私が貴女を、ただ見守ると思いますか! どこにいたかは、言いませんよ。悪い事ばかりして、バレたら意味がありません! 少しは反省なさい!」
胸の前で腕を組み、声が大きくなるのもお構いなしに、言葉を吐き出していく。
「母様! 私は、お姉様の幸せを祈ってるのです。あいつとは絶対、婚約破棄させますわよ! 邪魔しないで下さいませ!」
------- どうやら邪魔しに来たと思ってる訳ね、私の事なんだと思っているのかしら、本当嫌な娘ね! アリステアの幸せを願うのは、貴女だけじゃないのよ!
「分からない娘ねー、コソコソしてないで、私も混ぜなさい!」
興奮しながらも、自分の気持ちをあの娘に伝えれば、勢いよく私に抱きつき、声を立てて泣き出した。
珍しく素直ね---- と思いながらも、何だかんだ可愛い我が子に甘えられのは、母親として嬉しく感じる。泣く我が子を慰めるように、抱き返し片手で優しく頭を撫でた。
エレナの涙が止まってから少しして、私も用意された椅子に腰を下ろし、皆と同じく丸いテーブルを囲む。仲間の一人になったようで、気恥ずかしさはあるものの、少しだけ嬉しい。
「今度こそ、本当に天は我に味方せりよ! 皆良い? 武田信玄は言ったわ、もう一押しこそ慎重になれ! 慢心せず、最後まで気を抜かないよう頼むわよ!」
タケダシンゲンって誰かしら? と思いつつも最終確認を皆ですれば、この場は解散となった。部屋を退室する時、私がまだ部屋から出ていないのにも関わらず、あの娘は真剣な顔のまま、私が出てきた隠し扉を探し始める。
声を立てて笑いそうになったが、信用ある侍女を連れて、何も言わずに自室へと歩き出した。
----- 何だか、さっきまでの腹立だしさが嘘のようね、愉快な気持ちだわ。
自室のソファに腰を下ろし、呼吸を整えるようゆっくり息を吐き出す。
先程までの話の内容を、自分なりに整理していけば、ウォルフへの苛立ちが先程よりもこみ上げてきて、耐え切れず近くにあるクッションへと、遂八つ当たりしてしまう。
------ あいつぅ---- 見てなさいよ!
私も兵士として戦ってやるわ、まずはクシャナと話さなくてはいけないわね。少し難しいけど、私の腕の見せ所よね。正妃として培った話術を、ここで使ってやるわ!
「見てなさいよー! やってやるんだから!」
あの娘に影響されたのか、私は想いの丈を部屋に響かせると、あの娘がいつも何故叫ぶのか、少しだけ理解出来た。
信用ある侍女は驚いていたが、声を久しぶりに響かせた私は、清々しい気分でクシャナを呼び出す為、手紙に書く内容を考え始める。
---- 夜会まで後四日。急がないといけないわね。
夜会に向け、私もあの娘の兵士の一人として、動き始めた。
読んで頂き有難う御座います!
次はエレナ視点で、夜会前日を書きます!
もうすぐ終盤、頑張ります!




