異星にて
エスト達は、二人の兵士に挟まれながら役所の応接間のような場所に連れていかれ、順番に席に座るように促された。
中は簡素な造りで、机、椅子、モニター、連絡機の他には何もなかった。
ここまで案内した兵士は、もう少しだけお待ち下さいとだけ言うと、部屋から出て行ってしまった。
緊張した時間がこれからも続くのかと思うと憂鬱が襲ってくるが、仲間の不安げな瞳を見れば弱音など吐いてはいられない。エストは心の奥底に不安を押し込んだ。
数刻も経たぬうちに扉がノックされる。
「……はい」
皆の顔を一瞥し、エストが毅然とした声で返す。
入って来たのは三人。一人は扉に凭れ腕を組んでいるいる大柄の男。
ミーナの正面に座ったのは白衣の女性。端末を持ち、忙しなく何かを書き込んでいる。
エストの正面に座ったのはスーツの小太りな男性。何やら急いできたようで、汗をハンカチで拭いている。
今から何が始まるのだろうかとエスト達がビクビクしていると、一息つけたのか小太りの男性が話し
始めた。
「私は、この星の首長だ。話は兵から聞いている。だが、もう一度貴方達の遭遇した黒い艦について聞かせて頂きたい」
エストはここに送られる途中、兵士から事情を聞かれ答えていた。その内容を、もう一度首長に話した。
首長は渋い顔をした後、意見を求めるように隣の白衣を着た女性を見る。
「博士、どうお考えで?」
博士と呼ばれた女性は、組んでいた足を組み変え、顎を手に当て唸っている。
「ふむ……。まだ確証はありませんが、あれがまた動き出したのかもしれません。警戒するに越したことはないでしょう」
「ならば軍の警備を強めましょう」
すると、これまで黙っていた男が話に入ってくる。
「なら、哨戒活動を強化しよう。とりあえず狙いがこの星なのはほぼ確実と言っていいからな」
「お願いしますよ、元帥」
男が壁際に移動し、連絡機を手に取る。
「さて、これからどうしたらいいものか」
首長が頭を垂れる。しばらく、男の声だけが辺りを包む。
(これからどうなるのかな)
未知の星にたった数人。聞きたいことも知りたいことも山ほどある。
とりあえず、自分達の処遇が知りたいとエストが質問しようとしたが、先に声が出たのはミーナだった。
「質問、宜しいでしょうか?」
震える声音でそう問う。だが、挙げた手は真っ直ぐに伸びている。
「どうぞ」
首長が答える間もなく、博士から即座に返答がくる。
「私達の処遇をお教え願えますか?」
その質問に首長はハッとした顔で手を叩く。どうやら完全に忘れていたらしい。博士はやれやれといった風に頭を押さえている。首長は頭を掻きながら丁寧に答えた。
「君達の処遇だが、まだ詳しく決めてなくてね。君達が帰るまでの間、生活はこちらで何とかしよう。艦もこちらで修理させているが、酷い状態だったからな。数日かかる。修理が終わり次第それに乗って帰るといいだろう。途中まで護衛させる」
「ありがとうございます」
かなり良い待遇だ。艦の修理はオートメーション化しているが、場所を取る。他の星なら、宇宙エレベーター上にドックを作っておくのだが、この星には宇宙エレベーターがない。
今度はエストが聞く。
「艦はどちらで修理なさっているのですか?」
マックはちらっと元帥の方を見て、首を横に振るのを確認した。
「軍の施設の方に預けております。何処にあるかはお教え出来ません」
「それだけお答えして頂ければ結構です」
自ら取りに行こうと思ったが、軍の方の情報は聞けない。
流石に引き際だと覚り、エストは質問を切った。
「艦が修理できるまで彼女らは何処に居てもらうのだ?」
連絡を終えた元帥が、再び壁を背にして尋ねる。今度もマックは答えず、博士が答えた。
「市役所の客人スペースはどうかしら?」
「まあ、そこならこの人数が数日過ごす分には問題ないか。首長、そこの予約は取れるか?」
慌てて首長が端末を取り出し、予約状況を調べる。偶然にも、予約は全く入っていなかった。
「大丈夫です」
首長の返答に二人は頷き、元帥は兵士を呼ぶために再び連絡機を使う。博士は立ち上がり、エスト達の方を見て、にこりと笑う。
「今日はこれで終わりです。また兵士の案内があると思うのでそれについて行ってください」
博士と首長は一礼してすぐに出ていき、少し遅れて元帥が連絡を終えその後に続いていった。
また取り残されたエスト達だったが、その顔からは不安が少し薄れている。安心には程遠いが僅かばかりの安堵を覚えていた。