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異世界の学生剣士 ~未来を斬り拓く一刀~  作者: 夜神
第1章 ~旅立ちと出会い~
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第9話

 ……結構食べるな。

 今俺の前にはシアという少女が座って食事を取っているわけだが、表情をほとんど変えずに一定の速度で料理を頬張り続けている。小柄なだけに小動物のようで可愛らしくもあるのだが……いったいどこに入っているのだろうか。

 いや、あちらの世界であった大食いの番組を思い出してみると、出ていた人間は案外細かった気がする。見た目だけで考えるのは良くないかもしれない。腹の虫が鳴いていたことから、かなり空腹だったようだし。


「食べながらでいいんだが、いくつか質問してもいいか?」

「……ん」

「えっと……」


 まずは呼び方だよな。

 見た感じ俺のほうが年上なので呼び捨てでも構わないのだろうが、初対面の相手なのだから確認くらいは取るべきだろう。


「シアで構わないか?」


 俺の問いに彼女は小さく頷く。言葉で返事をしなかったのは、口の中にまだ料理が残っているからだろう。


「シアは……エルザとどういう関係なんだ?」


 髪は同じ銀色だが……顔立ちとかは似ていないし、親子というわけじゃないだろう。年齢的に考えても、エルザはまだシアのような大きな子供がいるような歳に見えないし。

 質問をしてからしばらくすると、こちらを真っ直ぐに見つめてモグモグと動いていたシアの口が止まった。


「エルザとは……昔からの顔見知り。敵対することが多かったけど」

「敵対?」


 気が付けば声が出ていた。

 だがそれも仕方がないだろう。エルザは世間からも認められる剣の達人だ。彼女の化け物じみた強さは、つい先日まで一緒に過ごしていただけによく理解している。


「敵対って……戦ったことがあるのか?」

「まあ何度か……手加減された上にボコボコにされたけど」

「それは……そうだろうな」


 だってあのエルザだし……。

 と思った直後、目の前にいる少女が少しむすっとしていることに気づいた。彼女を馬鹿にしたつもりはなかったのだが、受け取り方が自分が思っているものと異なるなんてことはよくあることだ。


「いや、別に君が弱いとか言ってるわけじゃなくてだな……エルザが強すぎるというか、規格外すぎるというか」

「……ま、そうだね」


 そう言ってシアは再び料理を口の中に詰め始める。

 どうやら機嫌の下降は防げたようだ……あまり表情が変わらないなので違うかもしれないが、ここはポジティブに考えたい。


「……何で敵対してたんだ?」

「それは……エルザが遊撃士で、わたしが傭兵団に所属してたから」


 遊撃士と傭兵。

 前者は言うなれば民間からの依頼を受け、成功すれば報酬をもらう何でも屋だ。

 何でも屋といっても、主な仕事内容は魔物の討伐や貴重品の運搬といった危険性のあるものだ。このような仕事は基本的に兵士が行っているのだが、都市部から離れるほど兵の数が減少し、また突発的に魔物が異常発生してしまった場合は人手が足りない場所が出てくる。ある意味ピンチを助ける正義のヒーローといったところか。

 そのため各国にはギルドと呼ばれる遊撃士の施設があると聞いている。ただ国に認められている職業ではあるが、国家には基本不干渉という約束があるため、国家絡みのことについては簡単に手を出せないと聞いた。ただエルザほどの遊撃士になると話は違ってくるそうだが。

 傭兵も遊撃士と似てはいるが、最大の違いは金次第で盗みや恐喝、暗殺といった法に触れるものまで行うことだろう。

 同じ何でも屋でも衝突するのはおかしくない。こんな子が傭兵を……、とは思いたくないが、ここは元いた世界のように平和じゃない。彼女よりも小さい子供が手を染めることもざらにあるのだろう。


「……何でここに来ることになったんだ? 傭兵団ってことは仲間も居るんだろ?」


 その質問がシアの深いところに触れてしまったのか、口に料理を運ぼうとしていた手が止まる。開けていた口を閉じ、そっと料理を皿のほうに戻しながら話し始める。


「確かに仲間は居たよ……でも、団長が死んでからバラバラになった。みんな、わたしを置いてどこかに行っちゃった……」


 シアの顔には寂しげな感情は見えない。だが、彼女の声には寂しさだけでなく悲しみ、怯えといった様々な感情が混じっているように思える。

 彼女の口ぶりからして団員には可愛がってもらっていたのだろう。なのに大切な人が死に、家族にも等しい存在は自分を残して去って行ってしまった。投げやりというか無気力になってしまうのも無理はない。


「……そんなとき、エルザと偶然会った。話をしたらここに行けって」

「そっか……悪かったな、辛いこと聞いて」

「別に。そっちからすれば理由は知りたいだろうし……それにわたしみたいな子、世の中には山のようにいるよ」


 現実的なことを口にし、シアは止めていた手を動き始める。俺の料理の腕前は人並みだが、それをここまで食べるのは……彼女にとって食事を取れる生活というのは当たり前ではなかったからだろう。

 ……くそ、エルザの奴。何でこんな子を俺に任せるんだよ。俺はついこの間までただの学生だった人間で、この世界の知識にはまだまだ疎いんだぞ。剣術だって初伝レベルなわけだし……。

 内心で彼女に文句や言い訳をするが、シアを今後どうするかについては大体の答えが出ていた。はいそうですか、と捨てられるほど腐った心は持っていなかったのだ。


「理由は分かった……シアが居たいと望むならここに居ていい。ただ……」

「……ただ?」

「俺には目的というかやりたいことがある。いつまでもここに居るわけにはいかない。だから――」

「ん、じゃあ手伝うよ」

「――一緒には……」


 この子は今何と言った? 俺の聞き間違いでなければ、手伝うとか言ったような気がするのだが……。


「今何て……?」

「リオンのやりたいこと手伝うって言ったの。どうせやることもないし、リオンと一緒に居れば携帯食じゃなくて、こういうご飯食べられそうだし」


 理由が暇潰しというか現金なものに聞こえたが、彼女はこれまでに多くの土地を渡り歩いてきたように思えるし、傭兵として生きてきたのならば戦闘もこなせるだろう。

 出会ったばかりの人間を信用するのもどうかと思うが、エルザが引き合わせた人物だ。少なくとも理由もなく人を殺すような悪人ではあるまい。剣の腕もまだまだなので、正直言って独りで世界を回るのは不安が大きかった。考え方によってはチャンスかもしれない。

 もしかするとエルザは、俺のためにシアをここに来させてくれたのではないだろうか……いや、どちらかといえば面倒だから押し付けたって可能性が高いか。だってあのエルザだし。


「そうか……じゃあ、よろしく頼むよ」

「ん、ラジャ」

「ラジャ?」

「了解って意味。このへんではほとんど使う人はいないだろうけど……機械が発達してるとこじゃ結構使われているよ」


 それはつまり、俺達の世界の住人が暮らしている。またはその子孫がいるということなのではないだろうか。もしかすると帰るための手段について何か分かるかもしれない。


「その場所教えてくれないか?」

「別にいいけど……ここからだとかなり遠いよ?」

「今すぐ行くつもりはないさ。いつか行ってみたいだけで」

「分かった。じゃ、いつか教える」


 今教えてくれよ、と言いたいところだが、シアはかなり距離があると言った。アルカディア周辺の地理しか分からない俺では説明されても理解できない可能性がある。自分で口にしたように今すぐに行きたいというわけではないのだから、そのうち聞けばいいかもしれない。


「あぁ、いつか教えてくれ」

「ん」

「……明日から旅の準備しないとな」

「言っておくけど、わたしお金なんか持ってないよ。コレは持ってるけど」

「分かった、分かったから武器はしまえ」


 お前の武器は剣であるのと同時に銃でもあるんだろ。扱いには慣れているだろうから大丈夫とは思うが、万が一にでも暴発したら危険過ぎる。せっかく良い感じに話がまとまったのに暴発で死ぬなんて俺はご免だ。


「金に関しては遊撃士として稼ぐさ」

「……面倒臭いけど、言った以上手伝う」

「そっか、ありがとう」

「別に……どうせ暇だし」




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