妹でもばれなきゃ犯罪じゃないんですよ
学校である。
学校というのは言ってみれば一種の牢獄のようなもので、例えば、なんと8時間ほどにわたって妹との接触をほぼ断ち切られるという悪夢に苛まれたりする。
いや、妹に会おうと思えば会える。だが、学校内ではイケメン・美少女を演じる我ら兄妹が学校で遭遇してしまうと、そのイメージが脆くも崩れ去る危険性があるのだ。
さて、そんなわけで俺は教室にいる。
クラスに入ると同時にイケメンスマイルで挨拶をかまし、自分の机に優雅に座る。朝の気だるげな感じでイケメンオーラを振りまいていると、背後から声がかかった。
「おい、奏也」
メガネ系委員長(ただし男)の金子理道くんである。彼とはいわば友人であり、学校では完璧超人であるところの俺の正体を知る数少ない人物の一人である。
「なんだ、理道」
「今日の帰り、ちょっと良いか」
「すまんな、今日はテスト勉強をする予定でな」
当たり前だが建前である。本当は早く妹とイチャコラしたいだけである。次のテストまでは2ヶ月位ある。
「バカ言え、そんなことないだろ。妹さんとここでは言えないようなことをするつもりだろう」
「バカ、やめろ、そういう根も葉もない嘘をつくな」
根っこと葉っぱ、ありまくりである。理道は真実しか言ってないが、俺のクールなイメージに傷がついても困る。聞かれてたらどうするんだ。教室後方の女子団から「奏也くんと奏美ちゃんってやっぱり……キャー!」という声が聞こえたが気にしない。キャーってなんだキャーって。うん?実は意外と本性バレてる?
ともかく、だ。放課後の妹を捨てて、もとい勉強時間を削って帰りに寄り道するつもりはない。
「悪いが理道、放課後は無理だ」
「まあ待て。お前ならそう言うと思ってたからな。もう妹さんには連絡を入れてある。お前が来ると言ったら喜んで行くといっていたぞ」
「待て。お前どうやって奏美にその連絡をした?」
「メールで」
「アドレス持ってんの?」
「うん」
俺の中で何かが切れた。
「へえ……、そうかあ、アドレスを、ねえ……」
「ちょま、奏也、お前怖い!怖い!」
「神が許しても俺が許さん」
意図的にどす黒いオーラをまき散らす。あれだ、オーラは出そうと思えば出るのだ。雰囲気大事。
「落ち着け!落ち着け!なあ、お前、奏美ちゃんに友だちが出来ないとか無いか?」
「!?、お、お前何故それを!?」
「お前奏美ちゃんのアドレス持ってる奴皆威圧してるだろ……」
「アドレスを持っていないと友人もできない奴を奏美のそばにおいて置けるか」
「いや、正論なんだけど……」
まあ似たもの兄妹か……、と呟いて、理道はため息をついた。ん?待て、今の会話の何処にそんな終着点があったのだ?似たもの?まあ愛し合っているという点では確かに折れと奏美は似たもの兄妹ということになるが……。
「ナチュラルに愛し合ってるとか考えてんじゃねえよ否定はしないけどな」
「貴様、まさか読心術の使い手か?」
「な訳あるか。にやけヅラしてんじゃねえぞ」
「で?似てるってどういう事だ?」
「ナチュラルに嫌味をスルーするなお前……。いや、妹さんが入学してきた時、奏也と俺が話してただろ。んで、その途中で妹さんが話しかけてきて」
「ああ。奏美は可愛いからな」
「待て、話の腰を折るな」
「折ってなどいない。間違いなく俺は世界の真理を説いたんだ。たとえどんな会話の途中であろうと心理は不変だ」
「だから、俺の話を聞け。っていうか聞いてきたのお前だろ、奏也」
「なに?ならば奏美は可愛く無いと言うのか?理道のくせに理想が高いな。宇宙最高よりも上を望むか」
「いや、奏美ちゃんは可愛いとおも……やめろ奏也その目怖い怖い怖い!ほんとに面倒くさいなお前!」
「で?なんだ?その、奏美の入学式で何かあったのか?俺の知らないところで貴様は奏美と何をしていた」
「引っかかりを感じる言い方だが敢えてスルーするぞ。実はな……」
「待て、それ以上言わなくていい。理道。貴様は有罪だ」
「俺何も喋ってないけど!?話進まないからそろそろやめろよそのキャラ!」
「ん?何をやめるんだ?」
「ナチュラルにシスコンなのが凄い腹立つ!」
で、理道の話はこうだ。
入学式終了後。理道は校舎裏に呼び出されたらしい。奏美に。
「おい理道てめえ俺でもまだ校舎裏イベント経験してねえんだぞ!ギルティ!やはり貴様殺す!」
「落ち着け!話を聞け!」
んで、理道は美少女な奏美に校舎裏に呼び出されてちょっとワクワクしていたらしい。
「やっぱり有罪だ貴様ぁぁぁ!」
「落ち着け!最後まで聞けよ奏也!全然話進んでねえよ!」
いざ校舎裏に言ってみるとドス黒いオーラを放つ奏美。本当にあなたが兄の友人に相応しい方なのですか?と笑顔で脅迫。理道は恐怖。
「うう、奏美……。俺のために、そんな悪役を買ってくれるなんて……。涙が止まらん」
「違うだろ。今の感想としてそれっておかしくない?」
マジで怖かったらしい。ヤンデレ風味奏美も可愛い。ぐへへ。やべ、よだれが……。
「で?理道、お前なんて答えたんだ?」
「『すみません私のような小市民ごときが奏也様の学友など!明日よりは一切関わりません!』と言ってその場をやり過ごし、翌日、お前のノートを移させてもらった」
「ナチュラルに小物やってんじゃねえよ!」
奏美は理道の図太さを評価して、奏也の友人として認めているようです。