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魔法と物理は相性が悪い~婚約破棄されたと思ったら、今度は犬猿の仲の腹黒(変態?)令息と婚約ですって!?~  作者: 桜祈理


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20/20

20 最強の二人

 その後の話を、しておこうと思う。


 ルシオラ侯爵が開発した魔導具の効果もあり、刺客三人組はすべてを正直に話す羽目になった。


 その結果、隣国マグノールの策略が白日の下にさらされる。


 七年前の戦争で敗北を喫したマグノールは、それでも温暖な気候と豊富な資源に恵まれたこの国を諦めることができなかった。しかし武力では到底及ばないと思い知ったこともあり、力で攻め落とす以外の方法を模索するようになる。


 そこで思いついたのが、フリュムという魔法薬の開発・生成と王太子カストル殿下の排除だったのだ。


 まずは依存性の高い魔法薬を開発し、密かにこの国に広めることで社会不安や秩序の悪化、国力低下を引き起こす。と同時に王家の要である王太子にも摂取させ、依存状態に追い込むことで、最終的には王家の破滅を導く。そうすれば、きっとこの国は自滅する。


 それが、マグノールの描いたシナリオだったらしい。


 膨大な時間と労力をかけてでも、この国を内側からじっくり追い詰めていこうと目論むマグノールの執念は、やがて魔法薬フリュムを完成させることになる。


 ちなみに、フリュムの効果が摂取量で変わることに関しては、はじめからそれを狙っていたわけではなかったらしい。あの『微量の摂取で発揮される媚薬効果』は、開発途中で得られた偶然の産物だったという。


 完成したフリュムをこの国に広める役割を命じられたのは、他ならぬメルム子爵だった。


 子爵家とマグノールとは、交易を通じてつながりを持つようになっていたらしい。


 マグノール王家は元来野心家のメルム子爵に対し、計画が成功すれば新たに侯爵位を与えると約束した。隣国での出世を夢見たメルム子爵は経営する商会を隠れ蓑にして、まずは平民相手にフリュムの密売を始めたのだ。


 一方、メルム子爵家の令嬢リナ様もまた、父親に負けず劣らずの野心家だった。


 彼女はマグノールの策略に父親が加担しているのを知り、自ら協力を買って出たという。しかも、自分がカストル殿下にフリュムを飲ませてみせると豪語したんだとか。びっくりである。


 学園で見せていた、何も考えてなさそうな無邪気で可愛らしい姿は何だったのか。中身はまるで真逆、別人じゃないの。


 野心家なだけでなく自信家でもあったリナ様は、カストル殿下に近づくべく、まずはダイロン殿下に狙いを定めた。そして、難なく、本当にあっけなく籠絡した。


 ダイロン殿下がちょろ過ぎたとしか、言いようがない。


 ところが、思った以上にカストル殿下のガードが固かったのだ。


 あのとき化粧室の密談で話していた通り、ガードが固すぎてカストル殿下には思うように近づけず、フリュムを飲ませるという作戦はなかなかうまくいかなかった。


 それでも、マグノール側としては、フリュムを使ってこの国を手中に収めるという計画を変更する気はなかったらしい。平民の間でフリュムの密売が横行し始めているのは事実だし、放っておいてもこの国はどんどん荒れていく。それを静観しながら、この国が衰退していくのを悠々と待つ気でいたのだ。



 ところが。



 ここで想定外のことが起きてしまう。



 暗殺部隊の暴走である。



 七年前の戦争が終わったとき、マグノール軍に対する国民の不信と落胆は相当なものだった。


 だからこそ、国としては武力以外の方法を模索し始めたのだけど、マグノール軍、とりわけ暗殺部隊にとって、それは受け入れ難いことだったのだ。


 武力の否定は、軍部や暗殺部隊という存在の否定と同義である。


 そう捉えた彼らは、魔法薬なんてまどろっこしい手を使わなくても、王太子の首が獲れればいいのでは? と考えた。王太子さえいなくなれば、この国は勝手に自滅する。当然、自分たちの名誉も回復できる。


 折しも、建国記念祭が近づいていた。


 暗殺部隊は渡りに船とばかりにリナ様と接触し、共謀を持ちかけ、自ら王太子の暗殺を試みたのだ。



 まあ、結果は大失敗だったわけだけど。


 

 マグノール側は当初、すべての策略が明るみに出てもそれを認めようとはしなかった。


 刺客三人の世迷い言、完全なる作り話として片づけようとしたらしい。


 でも、マグノール王家から直接指示を受けたメルム子爵の供述や、子爵が隠し持っていた書簡なんかも見つかって、最終的には言い逃れができなくなってしまった。


 王太子の排除はもとより、いかがわしい魔法薬を開発して他国の民に広めるなど、人道に反する。国際社会からも激しい非難を受けたマグノール国内は荒れ、各地で内乱が勃発し、そしてとうとう第三王子がクーデターを起こすという前代未聞の事態にまで発展している。


 この先、マグノールという国がどうなっていくのかはわからない。


 ただ、政権を奪取しようとしている第三王子は、対外的には穏健派だと噂されている。内乱が収束し落ち着いた頃を見計らって、多額の補償金を要求するなりこちらに優位な二国間協定を結ぶなりして、外交上の主導権を握ることができるだろう、とカストル殿下は話している。





 建国記念のパーティーから、数週間後。


 マグノールの刺客三人とメルム子爵、そしてリナ様は極刑に処されることがあっけなく決まった。


 悪意ある魔法薬をこの国に広めるだけでなく、王太子の命をも狙ったのだ。当然の結果である。


 ただ、この結果を受けて、ダイロン殿下だけは一人憔悴しきっているらしい。


 愛し合っていると思い込んでいたリナ様が、実は国家転覆を狙って自分に近づいたと知ったのである。しかも、一歩間違えれば自分のせいでこの国が滅んでいたかもしれないのだ。


 さすがのダイロン殿下も己の愚かさに思い至り、ショックのあまり自室に引きこもっているという。


 さもありなん、である。


 大いに反省してほしい。


「というわけで、かねてから伝えてあった通り、そなたたちには褒美を与えたいと思っているのだが」


 その日、王城に呼び出された私とヴィンスは、謁見の間でカストル殿下を見上げていた。


 その横に座るのは、国王陛下と王妃殿下。もちろんこの国の重鎮たちも、軒並み勢揃いである。


「なんでも望むものを申してみよ」


 『優秀な王太子』の仮面を被る殿下の言葉に、私たちは顔を見合わせ頷き合う。


「では、私から」


 ヴィンスはいつもの不遜な態度を封印しつつ、涼しい顔で言った。


「恐れながら、宮廷魔術師団に対して割り当てられる年間予算の大幅な増額をお願いいたします」


 その言葉に、カストル殿下は一瞬呆気に取られた表情をする。


「……は? 予算の増額……?」

「はい」

「……そんなことで、いいのか……?」

「そんなこと、とは異なことを仰います。魔法や魔術の研究には、金がかかるのですよ。ご存じでしょう?」

「それは承知しているし、今回の件では魔術師団の開発した魔導具にずいぶんと助けられたのだ。そなたが言わずとも、予算の増額は当然考えていたのだが」

「では、殿下が見込まれていた額にさらに上乗せした額をお願いいたします」


 澄ました様子で頭を下げるヴィンスの向こうに、驚きつつも感極まっているルシオラ侯爵が見えた。


 まさか、こんな展開は予想していなかったのだろう。


 感動して、今にも泣きそうである。


 そして、同じように涙ぐみながらも、「よかったな」とルシオラ侯爵の肩を叩くお父様。相変わらずの仲良しである。


「では、アメリア嬢。そなたはどうだ?」


 カストル殿下に尋ねられ、私はすっと背筋を伸ばす。


「恐れながら、魔法薬フリュムの依存症状に苦しむ民に対して、療養施設をお作りいただきたく存じます」


 私の言葉に、カストル殿下は本日二回目の呆気に取られた顔をする。


「療養施設……?」

「はい。フリュムの密売は平民の間で横行しており、依存症状に苦しむ民は想像以上に多いと思われます。卑劣なマグノールの謀略によって被害を受けた民に対し、国として手を差し伸べるべきではないでしょうか」


 臆することなくそう言うと、カストル殿下は「なるほどな……」と思案顔になる。


「確かに、そなたの言う通りだ。考えておこう」

「恐れ入ります」

「それにしても、そなたたちは欲がないのだな」


 もっと法外な要求を突きつけられるとでも思っていたのだろう。カストル殿下の声には戸惑いというか困惑というか、「そんなことでいいの?」とでもいうような拍子抜けした色が乗っている。


「欲がないわけではありません。一番ほしいと思うものはとっくに手に入れましたし、これからのことは別に殿下の手を借りるまでもないというか」

「……は?」

「俺はアメリアさえいてくれれば、あとのことはどうでもいいんで」


 封印していたはずの不遜な態度でしれっと言っちゃうヴィンスに、開いた口が塞がらない。


 でもそれは、一堂に会した国王夫妻や国の重鎮たちも同じらしい。みんな一様に、目が点になっている。


 ただお父様は満面の笑みだし、ルシオラ侯爵に至っては恐縮しきったような顔をしているのだけど。



 カストル殿下に褒美について考えておくよう言われたとき、私とヴィンスはすぐに話し合っていた。



「俺、もうほしいものとかないんだけど」


 考えるまでもない、といった調子のヴィンスに、私も最初は驚いたのだ。


「え、ないの?」

「ない。ていうか、もう手に入れちゃったから」


 そう言ったヴィンスは、うれしそうに私を腕の中に閉じ込める。


「ほら、こうやって、抱きしめたいときにはすぐ抱きしめられるしさ」


 見上げたヴィンスの瞳が、甘やかな熱を宿す。


「それに、どちらかというと、殿下に何かしてほしいというよりは、アメリアにしてほしいことしかないっていうかさ」


 なんだそれは。


 いや、もう、ヴィンスの言わんとすることは、だいたい想像できてしまう。


「それ、いつもの破廉恥なことよね?」

「当然」

「……一応聞くけど、私に何をしてほしいの?」

「そりゃ、エロいこと全部に決まってるだろ」


 事もなげにそう言って、不敵な笑みを浮かべるヴィンス。


 ドキリとする私を尻目に、伸びてきた不埒な手は躊躇なく、そして遺憾なくその変態ぶりを発揮し始めるのだった――――















「……ちょちょっと! 結婚するまではダメ!」

「えー」







無事に完結です。


変態ヴィンスは本当に結婚するまで待てるのだろうか、という一抹の不安はありますが……苦笑


最後までお読みいただき、ありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
おもしろかったですー! アメリア様ポンじゃなかった:笑) ごめんなさい風評被害。 むしろ冷静で理知的なお嬢様だった。 しかも強い。懐も広い。 そしてダメロン殿下w きっと彼の唯一の功績は婚約破棄だ…
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