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88.毒薬の事

 「苟師兄!折り入って質問があるんだけども?」


「ん?どうしたの改まって?何か悪い事でもしちゃった?」


外門に帰るなりまずは薬堂へと向かい、苟師兄を訪ねた。理由は言うまでもない通り魔対策だ。


通り魔くらいビビらずに済むような修行はするつもりだが、当面の事もある。運を天に任せるようなことはせずに、十分な対策は打っていきたい。


「いや悪い事はしてないけども、これからしようと思ってさ。毒ってどこかで手に入れられる?」


そう、通り魔対策に毒薬でも作ってやろうという魂胆だ。


「え?誰を殺そうって言うの?」


「違う違う!最近通り魔が出て怪我した人を見たから、必要かと思って」


「そうなの?でも、うっかり間違えて関係ない人にでも使ったら、事だよ?」


「そうだけど、別に殺すばかりが毒じゃないじゃん?痺れさせるなり眠らせるなり、何なら目潰しでも構わないし」


「ああ!そう言う事ね!通り魔を見つけ出して殺してやろうとしてるのかと思った」


何でそうなるのよ!この世界の人の発想怖すぎるだろ!自分はただいざという時に身を守るすべを手に入れようってだけなのに!


「そんな殺すのなんのって、物騒な事早々する筈ないじゃん?」


「いやほら、知り合いでも斬られて恨み骨髄なのかなってさ。まぁでもそうなると、いざ鉢合わせた時に使うようなものだよね?わざわざ飲ませるような事も出来ないし、毒薬としては結構制限があると思うけども」


それなんだよねぇ。普段自分が食べてるのは料理して食べる毒だから、ただ投げつけたからってどうこうってもんじゃないし、じゃあ毒蠍かなんかでも捕まえてくるか?となれば、相手に必要以上の怪我を負わせたり、最悪殺しちゃうかもしれない。それはそれで自分も気軽に扱えなくなって、いざという時使えないんじゃ本末転倒だ。


「何か、こう……手頃に相手を無力化できるような毒って知りません?」


「知らないねぇ。例えば石灰で目つぶしなんて話は聞いた事あるけど、あれって失明したりするし、それこそ気軽には使えないもんねぇ」


なんかアレだよな?石灰が水に溶けるとアルカリ性になって腐食溶解するとかなんとか、それで小学生とかが目に重いダメージを負ったりするなんて、聞いた事がある。


「じゃあ、何かこう、毒を色々売ってる店を教えてくれるだけでもいいんです。毒の専門の人なら、ちょうどいいの教えてくれるかもしれないし」


「うーん、そうだねぇ?」


「あんたたち、いつまでそうやってお喋りにうつつ抜かしてるんだい!」


師兄と二人で頭をひねっていると、師兄のお姉さんからかなり不機嫌な声を出されてしまった。


「すみません苟師兄のお姉さん。最近噂の通り魔対策に毒でも手に入らないかと思って」


「何だい友人でも殺されて、復讐しようって?それならこの辺で手に入る一番強い毒は……」


「いや!違います!いざ襲われた時に逃げるための対策です!」


「何だそんな事かい!暗くなったら家に引きこもって鍵かけて寝な!そうすりゃ通り魔なんて出会わないだろ!」


「そうですけど、時には夜間に出歩く用事だってあるんですよ!」


「何だってんだい!」


「姉さん!百師弟だって年頃なんだから色々あるだろ?それより何かいい方法は無い?女修だって外を歩く時には身を守るすべの一つも持ってるだろ?」


「ふん……そうだねぇ。私ならこの懐剣でブスっと一発……」


随分と物騒な事を言いながら、不気味なほど鋭利な刃を持つ短剣を見せてきた。


そして、多分自分の顔を見て察したのだろう、すぐにしまうと腕を組んで考え始める。


「自分は本当に農と厨と丹薬しかできないので、あまり武張った形じゃなく、逃げる為の時間さえ稼げればいいんですけども」


そう言うと、そっくりの顔の兄弟が首をひねり、何もない中空に目が向かう。


「ううん……面倒くさいね!いっぞ冰花堂にでも行って、買ってきたらいいじゃない!」


「どこですか?その冰花堂って?」


「鸚鵡緑苑外苑にポツンと一軒建ってるからすぐ分かるさ。目指すは鸚鵡緑苑の沼から水を引いてる地味な泉だ。そこに一軒だけ離れて質素な家が建ってればそれだね」


鸚鵡緑苑か……正直、まだ行くには早い気がしてる。


理由は単純で、自分の件がどこまで落ち着いたのかよく分かってないからだ。


見た目は誤魔化してはいるけども、当然ながらバレたら事だし、あまり危険は冒したくない。


まぁ、元々自分は羊雲城の護衛に殴られて吹っ飛んだだけの筈なのに、何をそんなにビビってるの?って話なんだが、例の羊雲城の護衛が大怪我して運び出されたとか、その辺の噂の真相が分からない内はやっぱり隠れていた方がいい気がする。


「あの?他には?何かいい案ありません?」


「いや、毒なんてそもそも正派じゃ滅多に使わないし、無理でしょ?」


「そうだよ!毒なんてやめて、ちゃんとまっとうに力をつけな。そうじゃなきゃ武修に護衛してもらえるくらいのコネか、お金か作る為に必死に仕事するんだね」


どっちもあるにはあるんだけども、武修が狙われてるから自分で何とかしたいんじゃん!


うーん何かいい方法は無いもんか?


頭をひねりつつうなる自分を苟の姉弟がそっくりの呆れた顔で眺めてる。

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― 新着の感想 ―
それこそ符術で対策なりなんなりしとけば大丈夫そうだけどねぇ。 それか、風塵宗は辛い食べ物が多いんだから、それで目つぶしとかどうかなぁ。
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