44話 自己紹介①
――驚いた。
まさかあのお団子頭の少女が、生徒会本部にいるとは。
まだ本人から直接説明をされたワケではないが、夏休みなのに学校にいる点や俺たちの部室にいた点を考えれば、恐らくそういう事だろう。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です、先輩!」
「お疲れ」
浦上たちが口々に挨拶をしていく。
俺もやや遅れて「お疲れ様です」と合わせた。
一瞬、初対面で「お疲れ様です」と言っていいものなのか悩んでしまったが、変に違うことを言って浮くよりはマシではあった。
因みに高坂だけ敬語じゃないのは、最上級生だからだろうか?
「みんなお疲れ様〜。ささっ、入って入って〜」
お団子頭の少女が二度手招きする。
ナマハゲも無言で俺たちに頷いた。
難波が「失礼しまーす」と扉の仕切りを跨き、俺も「失礼します」と真似るように後に続いた。
すると、仄かな木の匂いが鼻腔に入り込んできた。部室と似ているようで、部室よりも埃っぽさが無いような匂い。初めての場所に足を踏み入れたのだと実感させられ、自然と背筋が伸びた。
ただ、いざ入ってみると、広さは部室の半分、或いは三分の一と言われても不思議ではないほどの狭さだった。
――こんなとこでこの人らは活動してんのか。
改めてその顔ぶれを見遣る。
監視下に置きたいという話を聞いて、ナマハゲよろしく厳かな奴らの集まりだろうと思っていたが、今の印象はむしろ真逆。
明るさの中に朗らかさというか緩さというか、とにかくイメージとは異なる印象を抱いてしまった。奥の窓から見える青い空が、そう思わせているのだろうか?
まぁそれも、ただ一人、頬杖を突いて不機嫌そうな表情を浮かべる男を除いては、だが。
やがて全員が入室し終わり、入り口の右角から順に難波、俺、扉を挟んで高坂、小牧、浦上と並んだ。そしてお団子頭の少女が着席したところで、廊下からナマハゲの声が聞こえた。
「では、後のことは頼むぞ。失礼する」
そう聞こえるや、扉が右にスライドされて閉まった。
半透明な窓越しにナマハゲの影が去っていくのが見えた。
「よしっ。そんじゃ始めよう」
張りのある低音が響くと同時、椅子がガタッと音を立て、奥の席の男が立ち上がった。
「まずは皆んな、今日は来てくれてありがとう。夏休みを楽しみたいところ、ここに来てくれた事に感謝する。さて、早速だが本題だ。恐らく巌先生から聞いていると思うが、今日から本部と執行部の合同で文化祭準備を進めていく事になる。ただ、あまり一緒に活動して来なかったのにいきなり『一緒に活動しろ』と言われても大変だろうし、特に今年が初めての人はよく知らない人相手で緊張すると思うから、まずはブレイクタイムがてら、軽く自己紹介といこうと思う」
そう言うと、「それでも大丈夫だろうか?」と俺に目を合わせ、次いで俺の左側に目線を移した男。多分、俺と小牧に気を遣ってくれているのだろう。何せ、『今年が初めての人』なのだから。
周りが口々に「えぇ」や「はい」と了承するのに紛れ、俺も「あぁ」と応えた。
「ありがとう。じゃあまずは……俺からいくか」
そうして、先ほどの男から自己紹介が始まった。
「俺は三年の曽我直理だ。生徒会長をしていて、皆んなからはなおまさんと呼ばれてる。好きな食べ物はお米! お米が大好きで、よくスーパーでご飯のお供を探してる。オススメのお供があったら是非教えてくれ! 因みに俺のオススメは『肉そぼろ』だ! 以上だ!」
言葉が終わり、周りから拍手が送られた。
俺も同様に何度か両掌を叩いた。
それにしても張りがあってよく通る声だ。滑舌もいい。
流石は生徒会長といったところだろうか。
「なおまさん、お昼はいつもおにぎり三つだもんね〜」
「で、毎回みんなでおにぎりの具を予想するのが恒例になってるっすもんね」
お団子頭の少女が補足し、目の前の短髪男が乗っかった。
当の本人は眉を逆ハの字にして笑っている。
なるほど、仲間内で定番になっているくらいにはお米が好きなんだろう。
ただ、成長期ど真ん中の男がおにぎり三つでお腹空かないのだろうか? おにぎり一つがデカいのか?
「次はウチやねぇ」
俺の疑問を他所に、次は会長の左隣の女が立ち上がった。上品な雰囲気を醸し出す、ミディアムヘア……と言ったか、の女だ。
「ウチは三年の八重京奈と申しますぅ。ここでは生徒会副会長をやらせてもろうてますぅ。趣味はそやねぇ〜……ガーデニングかねぇ。お花を育てるのも好きやし、押し花で栞作るのも好きなんよねぇ。そんじゃあ文化祭、一緒にええもん作りましょねぇ。よろしゅうねぇ」
そうして一礼ののち再び席に着き、例の如く拍手が送られた。雰囲気通り柔らかな人だ。一礼する時に手を腹部に持っていく動作も、それから両手を揃える動作も、急いた様子が無くゆったりとしていて、どことなく育ちの良さを感じた。
「はいは〜い、次はわたしいきま〜す」
そう言って今度は、お団子頭の少女が立ち上がった。
瞬間、心臓の鼓動が少しだけ速くなったような気がした。
「わたしは三年書記の立花彩葉って言いま〜す。甘いものが好きで〜、たま〜に自分でお菓子作りもしてま〜す。みんなで楽しい文化祭にしようね〜。よろしく〜」
言いながら両手を振ると、立花は着席。
また、拍手の音が響いた。
「そーなんよぉ。彩葉ちゃんの作るクッキーは、これがまたえらい美味しゅうてなぁ」
「彩葉先輩のお菓子はお店出せるレベル……」
拍手の音が静まると、副会長は頬に手を当ててそう微笑み、続けて立花の左隣に座る長髪の少女が頷いた。
「えへへ〜、ありがとね〜」
これには立花も、ふにゃっと蕩けたような表情を浮かべた。
その時、俺の頭にぼんやりと何かが浮かんできた。――姉さんの顔だ。それも、にへらぁと綻ばせている時の顔。
無意識のうちに浮かんだ顔だが、改めて意識すると似ている気はした。
雰囲気や表情だけなんだろうか?
いや、顔立ちもよく見ると――。
「どうしたの〜?」
「……え?」
「わたしの顔、なんか付いてる〜?」
その時、立花と目が合った。不思議そうな顔で首を傾げている。
思わず心臓がドキリと跳ねてしまった。
「あぁ、いや……何も付いてねぇよ。ちょっとぼーっとしてただけだ」
「あははっ、初めましてだと緊張しちゃうよね〜。でもだいじょ〜ぶ。一ヶ月あれば余裕で慣れるから〜」
「あ、あぁ」
多分誤解されているけど、真実を悟られるのも恥ずかしいので静かに肯定しておいた。
「分かるよ大和。立花先輩いいよね」
もっと誤解しているヤツがいたわ。
「お前は黙っとけ……」
難波が小声で軽々しく肩を組もうとしてくるので、その腕を振り払った。本人がいる前ですぐに話をそういう方向に持っていくのはやめてほしい。
「じゃっ、次は史郎ね〜」
そうして立花が史郎と呼ばれる人物を名指しした。
だが――。
「面倒だからパス」
と、ソイツは吐き捨てるように言った。
不機嫌そうな表情を浮かべながら――。
お読みいただきありがとうございました。
2週間に1本程度の更新と宣言しておきながら、1か月以上遅くなってしまい申し訳ございません。
さて、今回で三人の名前(史郎くんを含めたら四人)の名前が明らかになりましたね。お米好きの曽我会長、京都弁の八重副会長、そしてお団子頭の少女こと立花さんは今後も活躍していきますので、よろしくお願いいたします。
次回は史郎くんのフルネーム、そして会計コンビの名前が明らかになると共に、ペア決めも始まります。さて、他のメンバーはどんな性格なのか? そして、どうやってペアを決めるのか。こちらも乞うご期待です。
それでは、次回もまたよろしくお願いします!




