42.5話 密かな勝負の行方
大変長らくお待たせして申し訳ありません。
今回はちょっとした幕話(おまけ話)になりますが、次編への繋ぎでもありますので、是非最後までお読みいただけると幸いです。
「ところで浦上、テストの結果どうだったんだ?」
多くの客で溢れるお昼時のファストフード店――通称、ナック。活気溢れる賑わい声と食欲そそるジャンキーな匂いに包まれる中、俺は対面のソファ席に座る浦上に尋ねる。
「私、ですか?」
ポテトをひと摘みしようとしていたのだろう。
浦上は口に入る寸前で右手のポテトを止めると、目を丸くして聞き返す。
「あぁ。嫌だったら大丈夫だが、ちょっと気になってな」
俺は左隣の椅子に座る難波をチラ見する。
視線に気づいた難波が、まさかとでも言わんばかりに目と口を開いてこちらを見つめてきた。
――あぁ、そのまさかだよ。
口にはしないが、そう伝わるよう頷き返しておいた。
そう、以前難波が言っていたように、難波は浦上のことをライバル視しており、密かに浦上と点数勝負をしているのだ。
しかし、浦上に直接戦いを申し込むのは「気を使わせてしまうからと」言って表面上は争おうとせず、密かに"打倒浦上"を掲げているのである。
どうせ今回も順位を聞くつもりは無いだろうし、それなら代わりにさりげなく聞いてやろう、というのが俺の算段なのである。要は、ただのお節介だ。
因みに、難波の対面――浦上の隣に座る小牧は、両手でSサイズのオレンジジュースを掴み、ストローでジュースを吸いながら静かに俺たちの方を見つめている。
なんだろう、チューチューという擬音を無性に当てはめたくなる。
「大丈夫ですよ」
そう言って浦上はポテトを置き、紙ナプキンで手を拭う。そして、ポケットからハンカチを取り出して二、三回手を拭うと、横に置いていたリュックサックを漁り始めた。
謙虚な浦上のことだ。自慢に思われたくなくて拒むんじゃないかと思い、拒めるように「嫌なら大丈夫だが」と前置いたのだが、意外にもすんなりと了承してくれたらしい。
――かえって気を遣わせてしまったか?
訝しむ俺を他所に、やがて浦上が取り出したのは一枚の紙。横長で両手ほどの細長さのそれは、まさしくテストの結果表だった。
「少し恥ずかしいですけど」
と、そんな前置きをすると、浦上は俺たちから見て正面になるように結果表を開いてくれた。
俺も難波も少しだけ腰を浮かせて覗き込む。
すると、そこに書かれていたのは――。
「一位!?」
点数欄にズラッと並ぶ「99」や「100」の文字と、順位欄に堂々と載る「1」の文字だった。
「み、御堂くん……!」
「ちょっ、声デカいって大和……!」
「あ? あっ」
二人の慌てっぷりに俺は左へ首を向けると、店員と客の視線が一挙にこちらへと集中していた。
「わっ、わりぃ……」
言いながら軽く頭を下げ、腰を下ろす。
いや、あんな数字見せられたら誰だって驚くだろ……。
逆にどこをミスしたのか気になるくらいだ。
「にしても一位ってすげぇな。ほぼ全部満点だしよ……」
「いえ、これもみんなと勉強したおかげですよ」
「さっすが浦上先輩です!」
相変わらず謙遜する浦上に、小牧は胸の前で両腕を上向きに折り曲げ、目を輝かせる。
「陽奈ちゃんもありがとうね」
小牧の言葉に、浦上も柔和な笑みと共にお礼の言葉を返した。――その時。
「ぐはっ!」
「小牧さん!?」
突然、小牧がソファにもたれかかり、難波が驚きの声を上げたのだ。安らぎの微笑みを浮かべている小牧の顔は、魂が身体から抜けていくアニメーションが付きそうなくらい穏やかである。
「幸せ……」
言いながら両手を合わせる小牧。
まったく、騒がしいヤツである。
「俺もみんなと勉強して伸びたんだけどなぁ……」
一方、難波はポテトをむしゃむしゃと食べながら、どこか遠くを見つめて言葉を溢した。
「んまぁ、その……どんまい」
「ははっ、一位の壁は高いね……」
儚げに呟く難波の横顔には、どこか哀愁が漂っていた。
こういう時、どう声を掛けてやるのがいいのだろう。適当な言葉を思いつくことができない。
壁を作り上げている張本人も同じなのだろう、苦笑いを浮かべるしかないようだった。
若干気まずい雰囲気が漂い始める。が、それはすぐに払拭されることとなる。
「そうだ先輩方! 陽奈の成績も見てくださいよ!」
――あっ、復活した。
小牧の意識が戻り、快活に喋り始めたのだ。
ゴソゴソと橙色のリュックサックを漁る小牧。
あった、と言いつつファイルから取り出したのは、浦上同様、横長で両手ほどの細長さの一枚の紙だった。
「陽奈史上、一番の成績です!」
「どれどれ?」
提示された紙を見るべく難波が身体を乗り出したのに合わせ、俺も浦上も身体を乗り出す。
すると、そこに書かれていたのは――。
「おぉ、すげぇな」
「よく頑張ったね!」
順位欄に記された「30」の数字だった。
「でしょでしょ!」
小牧が持ち手の紙を軽く上下に揺らす。
よほど嬉しいようだ。
小牧は前回の中間試験で「平均点以下ばかり」だったのに、今回は殆どの教科で平均以上の点数を叩き出している。
とどのつまり、下から数える方が速かった点数が、上から数える方が速いくらいに成長しているのである。嬉しくないはずがない。
俺のお陰とは決して思わないし、何なら勉強を教えた難波と浦上の支えがあってこそだと思うが、それでも、あのとき小牧を誘って本当に良かったと思う。
胸がじわりと熱を帯びていくような感覚は、その現れなのだろうか。
「陽奈ちゃんもずっと頑張っていましたもんね。私も嬉しいです! おめでとう、陽奈ちゃん!」
浦上も太陽のように明るい笑顔を見せた。
って、おい。そんな顔を小牧に見せたら――。
「ぐっはー!」
「小牧さん!?」
小牧が背もたれに倒れ込む。
そして両手を合わせて微笑んだ。
「もう死んでもいいです……」
さっきもやったぞこの流れ。
再びソファにもたれかかれて安らぎの笑みを浮かべる小牧に対し、推しの破壊力は凄まじいらしいと、他人事のような感想を俺は抱くのであった。
★―★―★
「いよいよですね〜、なおまさん」
「あぁ、楽しみだな」
クーラーの効いたやや肌寒い一室。
鳥居の下側の島木を抜いたような配置で並ぶ六つ机のうち、左真ん中の席にゆったりと腰掛けているわたし。
わたしが、こちらから左斜め前に――図で書けばこちらに対面する形で右上に座るなおまさんに声を掛けると、なおまさんは低いけれど張りのある声で応えてくれた。
因みに、なおまさんっていうは、会長の愛称だよ〜。
「最後の文化祭やもんねぇ。えぇもんにできるよう、気張らんとあきまへんなぁ」
あっ、クーラーの風速下げるわね、とエアコンのボタンを押しながらわたしたちの会話に同調したのは、副会長だ。
そう、およそ一ヶ月半後は待ちに待った文化祭。
わたしたち三年生にとっては、一生徒としても、そして何より生徒会としても、最後の花形イベントなのだ。
絶対に成功させるという意気込みは過去の比ではなく、わたしはとても心を奮わせていた。――というのに。
「不良野郎が邪魔しないといいがな」
さも不快そうに言葉を吐き捨てる声が正面から聞こえた。
視線を向けると、頬杖を突いている男が目に入った。
同じ書記の男だ。
わたしは彼の言葉につい反応したくなった。
「大丈夫だよ〜。由良ちゃん曰く、『根は真面目』らしいからね〜。それに、ウチにはもう既に不良みたいな人がいるしね〜」
わたしは正面の男を見遣り、口角を上げてみせる。
すると案の定、彼は眉毛をピクリと動かした。
「あ? てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
「ん〜?」
「あ゛?」
「二人ともやめんか」
険悪な雰囲気が漂い始めたものの、なおまさんが両腕を伸ばして仲裁のポーズを示してくれた。
お陰で喧嘩にならずに済むことができ、正面の男は「ケッ」と呟きながら、わたしとなおまさんの居ない方にそっぽを向いた。
「ははっ、相変わらずっすね」
「……そうね」
わたしの右前に座る男の子と、わたしの右隣に座る女の子の後輩会計コンビも慣れてしまったのか、やや呆れ気味に言葉を交わしていた。
と言っても、喧嘩になることは無いんだけどね〜。
「ったく、先が思いやられるぞ……。っと、もう時間か。よし、みんな、そろそろ休憩も終わりだ。各自作業を再開できるよう頼んだぞ」
「はいっ!」
「えぇ」
「ケッ」
「了解っす!」
「……はい」
なおまさんの言葉にみんなが応え、動き始める。
さぁ、次の文化祭は執行部のみんなと合同での作業。
夏休み期間での準備だけれど、久しぶりの執行部との交流が楽しみだ。
そして、今回こそ――。
「……よしっ!」
わたしはひとり意気込みを入れると、再び書類の山に手を付けるのであった。
お読みいただきありがとうございました。
今回は最後に生徒会メンバーがチラリと登場しましたね。
ということで次回、遂に新編が始まります。
題して、『文化祭編』です!
文化祭に向けて、大和含む生徒会執行部と、生徒会長率いる生徒会が連携していきます。
共に作業をする中で、どんな関係が生まれていくのか?
そして、その中で待ち受ける苦悩とは……?
投稿開始は春頃の予定です。
現在、連載開始に向けて鋭意執筆中です。
また暫く時間が空いてしまいますが、その分、読み応えのある物語を紡いでいきますので、ご期待くださると幸いです。
それでは、また次編でお会いいたしましょう!




