秋の気配はいろいろ
季節が巡るのは早く、じりじりとした夏の日差しもやわらぎ秋の気配が近づいてきた。街道の景色も変わり始めているようだ。
周りに広がる草木の濃い緑色の中に、鮮やかに赤く、緋色に近い葉がちらほらと見えてくる。
あまりにも綺麗な緋色なので、ティアは葉に触ろうとしたらラースに止められた。
今の季節に紅葉する葉は、漆科の植物が多く触れば肌が被れてしまうらしい。
王都から離れたことのないティアは、初めて聞く話だったのでそうなのかと思い、こいつがそんなこと知っているということは山岳地帯の出身なのかと考えてしまう。
まあただ、物知りなだけかもしれないが・・・
そんな二人のやり取りを、フィヌイ様はじーと見つめていた。
相変わらず神託のないまま、いつもの子狼姿のフィヌイ様を先頭に、私たちは裏街道を秋に変わりゆく景色を眺め東へと向かい歩いていた。
――ふ、ふん、ふん、ふ~ん♪
ご機嫌にティアにしか聞こえない鼻歌を歌い、フィヌイ様は白いふさふさの尻尾を揺らし、和らいだ日差しの中を歩いていく。
相変わらずフィヌイ様の尻尾、もふもふしてて猫じゃらしみたい。
なんかウィルくんじゃないけど、とびつきたい衝動に駆られてしまう自分がいたが・・
いけない、いけない、私は聖女なんだから、神様の尻尾にとびついて、心ゆくまでスリスリしたいだなんて、そんな不純な動機を抱いては駄目だと、己を強く律していると・・・
ラースが、じと目でこちらを見てくるのだ。その視線は、相変わらずこいつ変な奴だなあと語っているのが判るが、それは無視。
それでも前を行く、白い子狼姿のフィヌイ様を見ていると、ティアはあることに気がついたのだ。
ふわふわの白いぴんと立った直立の耳、愛くるしい尻尾、それに背中の毛色が僅かに色が変わってきている。前は確か、真っ白な毛に褐色が少し混じっていたはずだが・・
「フィヌイ様の毛色、少しオレンジ色に変わってきていませんか・・?」
疑問に思ったことをティアは口に出してみると、
フィヌイ様は嬉しそうに後ろを振り返り、得意げに説明をする。
――ふふふふっ、やっぱり気づいた!そうなんだよ。白い子狼は、まだか弱くっていろんな獣や大きな鳥にも狙われるから、身を守る保護色として、秋の色に合わせカモフラージュしているんだよ。
「ん?・・そうなんですか・・」
フィヌイ様に天敵なんているのだろうか・・?とティアは疑問に思う。
彼女の思いつく限りでは、たしか最強ランクの神様のはずだ。だが、ここで突っこみを入れてもややこしくなるので、とりあえず黙っておくことにする。
そして、ふとあることに気づいたのだ。つまり狼の毛が秋用に生えかわってきているということは・・?
これは、もしかしてチャンスでは・・
ティアはしょうもないことだが、思い切ってある提案をしてみたのだ。




