鍛冶と鉱物を司る(4)
「――なに、ただの冗談というやつだ」
ダレス様は真顔でさらりと言ってのけたのだ。
その言葉にフィヌイ様は頬を小さくプウーと膨らませ、不満そうにしている。でも、みたところ本気で怒っているわけでもなく、ティアはしばらく様子を見ることにした。
「キャウ、ギャウ―!」
――僕は、とても高貴で威厳にみちた神様なんだぞ! 思わずもふもふしたくなるような、可愛い子狼の姿は世を忍ぶ仮の姿で、だんじて余計な物体なんかじゃないんだ!
「フィヌイ、その姿で言っても説得力は無いぞ…」
ダレス様の呆れたような鋭い突っこみに、確かにとティアは冷静に頷いてしまう。隣のラースもそうだなとでも言いたげな顔だし。
――ふんだ~、ふんだ~いいもんね。そんなこと言うなら、今から説得力ある威厳にみちた姿になるから、それなら文句なんかないはずだもんね。
「フィヌイ様、ちょっと待ってください! つまりその姿と言うのはひょっとして…」
ふと嫌な予感がよぎり、ティアは慌てたようにふたりの間に割って入り声をあげたのだ。フィヌイは不思議そうに首をかしげると、
――やだなあ、ティアもよく知っているいつもの大きな狼の姿だよ! あれなら説得力だってあるし、ばっちり威厳にみちている。そんでもってとても高貴な姿だしね。
「たしかに、あの姿ならとても神々しくってダレス様だって納得されますが…でも、この建物は大丈夫なんでしょうか。大きさがちょっと建物に収まらないような気がして危険なのでは…」
――あ、ボロっとしている小屋だから、もしかしたら倒壊するかもしれない。そんでもって瓦礫しか残らないかも…
「おまえ、俺の工房を潰す気か――!」
――だって、僕が気を使って無害な子狼の姿でいるのに、威厳がないとかいうんだもの。
いじけたように上目遣いでダレス様を見上げている、フィヌイ様のその姿。それでは神様の威厳というものが…心の中で困ったようにティアは、ため息をつくしかなっかった。
「そもそも、貴様が気など使うわけないだろ。大体この姿は、お前が好きでなっているものだろうが」
――あれ、わかっちゃった。でもさらに付け加えるなら、この姿は僕が特別な加護をあたえた者の心を映しているんだよ。
「だが前回、俺の前に姿を現したときも白い狼の姿だったが…」
――そうだっけ?
「ああ、間違いない。たしか今この地にあるリューゲル王国を創り、初代の王となった若者と一緒だったか。思い出したぞ。そのときもお前の神力を注いだ魔石を持ち込み、ごり押しでタリスマンを作れとかいってきたはずだ」
――懐かしい、そんなこともあったんだね。今となればいい思い出だよ。
そんな神様どうしのやり取りを聞きながら、なるほどなるほどとティアは頷く。
話の内容がだんだんわかってきたぞ。つまりは以前フィヌイ様が話してくれた、この国の初代国王となりフィヌイ様の加護を初めに授かった若者と一緒に、タリスマンを作ってもらうため、ダレス様のもとを訪れたのだ。
そしてディルの街で見た聖遺物こそが、そのときのタリスマンなのではないかということに。
さらに重要なことに初代の王様は私と同じように、フィヌイ様のモフモフが大好きだったに違いない! ティアはそう確信したのだ。
相変わらずズレたことを考えているティアとは違い、ラースは静かな表情で話の続きを聞いていた。
これまで疑問に思っていたことが繋がっていく、そんな予感がしたのだ。