鍛冶と鉱物を司る(3)
「――まあいい。お前たちのことは、噂では聞いていたからな…」
ダレス様は落ち着いた口調で、私たちを静かに見回したのだ。
たったそれだけの事なのに、背筋がしゃんと伸びるような凛とした緊張感が広がる。それは、隠していた神様の気配をほんの少し解き放ったからだろうか。
同じ神様でもいつもは子狼姿の、のほほ~んと可愛いフィヌイ様に慣れていただけに、ダレス様の気配にはちょっと驚いてしまう。
でも、大きな狼の姿になったフィヌイ様だって、もふもふの可愛さはそのままに、これぐらいの威厳ぐらいあるんだからね。全然負けていないんだから、と訳の分からない対抗意識をティアは思わずもってしまっていた。
そんな中、ラースは奥の工房を気にしながら、ゆっくりとダレスに近寄ると小声で話しかける。
「おい、話の途中悪いが…あんた、このままこの話を続けてもいいのか? なんというか…俺たちの今の話、奥の工房に聞こえているんじゃ…」
「あ! そういえば…」
私は、思わず大きな声をだしてしまいそうになったが、慌てて口を塞ぐ。
そうだった! フィヌイ様の声は他の人には、キャウキャウしか聞こえていないけど、私たちといえば、神だのなんだの大きな声で騒いでいたではないか。それって、かなりまずかったのでは…
奥の工房には、他の鍛冶職人やさっきの見習いの子もいるはずだ。このままでは、大騒ぎになってもおかしくはないとティアは今更ながらに気がついたのだ。
だがそんなティアたちとは対照的に、フィヌイは落ち着いた様子でティアの腕からすり抜け、いつの間にやらカウンターの上にちょこんとお座りをしていた。
呑気に真っ白な毛並みの毛づくろいまで始めている。だが、ふとティアの視線に気がつくと小首を傾げ。
――そんなに慌てなくっても大丈夫だよ。もし、何かあっても厄介なことは全てダレスにおしつけちゃえばいいんだし、問題ないってば!
「…お前というやつは、相変わらずだな。そうやって、こいつらのことも振り回しているんだろうが…」
フィヌイ様の尻尾をフリフリお気楽発言に、ダレス様はため息交じりに呟いたのだ。
その姿はまるで、悟りを開いた高位の神官のようで、それとも諦めの領域に達し吹っ切れてしまった賢者とでもいうべきか。とにかく無の境地に達した、そんな表情をしていたのだ。
ひょっとしてフィヌイ様って…ダレス様のこと、過去にもかなり振り回していたとか?
つい憶測で色んなことを考えてしまうティアだったが、フィヌイは悪戯っぽい顔をすると、
――まあ、冗談はこれくらいにして、その辺りのことなら心配ないよ。ダレスのことだから、僕がおやすみ中でもちゃんと対策は施しているようだしね。
「ああ、そうだな。ここに入ったとき、念のため幻影魔法をアレンジした結界を張っておいた。工房には当たり障りのない会話、つまり幻聴の話し声だけが聞こえている。ついでに『余計な物体』も見えてはいないはずだ」
さらりとした口調で『余計な物体』発言に、フィヌイ様は心なしかピクピクと痙攣している。
これってダレス様の、フィヌイ様に対する意趣返しでは……とティアはなんとなく思ったのだ。




