鍛冶と鉱物を司る(2)
でも…やはりと言うべきか、まだラースは混乱しているようで。
「ティア、説明しろ。つまり…どういうことなんだ……」
「この親方はフィヌイ様と同じで、つまり神様なんだよ」
「ダレスって言ってたよな。まさか……あの大地をも揺るがす神…嘘だろ! こんな大物がでてくるなんて……」
「ギャァウ!」
――なにそれ……! 初めに出会ったときの僕に対する態度と全然違う…僕だって偉い神様なんだぞ! わかっているのか~
フィヌイ様は頬を小さく膨らませて、ぷううとむくれていた。どうやらラースの態度が気に入らなかったようである。
このままでは工房中を走り回り、その辺りの備品とか、もしも高い壺なんか置いていたらそれらを壊して回りそうな勢いだったので、私は慌ててフィヌイ様を抱きかかえると、よしよしを背中の辺りそして毛づくろいでは届かない首の下も撫でたのだ。
そのとたんフィヌイ様の耳は垂れて、気持ちよさそうに目を細め私に体重を預ける格好となる。その姿は人懐っこい子犬そのもの。
「……」
私はまったく気がついていなかったが、そのやり取りに親方――いやダレス様は、私とフィヌイ様の様子をなんとも言えない生暖かい目で見つめていたのだ。
フィヌイ様をよしよしと撫でながら、正直なところ私も自分で言っといて少しびっくりしている。
大地をも揺がす神――ダレス。
この名も神話の中に出てくる神様の名前だ。
鍛冶と鉱物を司る神として、人々に鍛冶の技術を最初に伝えた神様としても有名だが、戦乱の時代にはフィヌイ様と共に人々を助けてくれたとして、伝承にも記されている。
いやはやフィヌイ様と出会ってから、かなりレア度が高い経験ばかりさせてもらったりしているような気がする…ふつうに生きていたらこんな出来事に出会うこともないだろうに。
でもまあ、それもいいかな。色々大変なこともあるが、それ以上に良いこともたくさんありとても充実している。
それに、愛らしいもふもふのフィヌイ様を心ゆくまで、もふることもできるし、ああ幸せだなあ~
柔らかい真っ白なフィヌイの毛並みを撫でながら、知らずにティアは満面の笑みを浮かべていた。
「……」
「……」
ラースはいつものことながら、ティア達を眺め呆れていた。
そしてダレスも、本当にコイツら大丈夫なのか? というような冷めた視線を向けていたが、本人たちは全く気付いてはいなかったのである。