楽しい夕食へ
「ん~ご飯が美味しい! 食事が美味しいと、悩みなんか吹き飛んじゃうから不思議よね!」
ティアは満面の笑みを浮かべ、熱々のホワイトシチューを木の匙ですくい口の中に入れ、頬張ったのだ。
「もぐもぐ……ああ…幸せ…」
「お前…なに食ってもそう言うよな。ほんとうに、感心するよ…」
――ティアたら、食べてる時がいちばん幸せって顔してる!
呆れ果てたラースの言葉に対し、フィヌイは子狼の姿でしみじみと納得、うんうんと頷いていた。
そうさっきまで私は、ぶつくさ言いながらふたりに腹を立て膨れていたが、今考えれは些細な出来事だったような気もする…。
つまりは、繊細な乙女心も気がつけば完全に修復されていた。なんてご飯の力って素晴らしいことか――!
そんなことを考えつつも、私たちは夕飯を楽しんでいた。
あれから私たちはセピトの街の中に入り宿を取って、今は一階にある食堂で夕食をとっている。
今日のメニューはミルクをたっぷりと使ったホワイトシチューに、キャベツの酢漬け、焼きたてのロールパンである。
メインのシチューは、具材の野菜と鶏肉が程よく煮込まれていて口の中に入れたとたん熱くてほくほく、でもほどけるような柔らかさと旨味が口いっぱいに広がるのだ。
それにこの辺りが特産の秋のキノコも、芳醇な風味と程よい歯ごたえも残っており、これは丁寧に調理されている証拠だとティアはみている。ここの料理人の腕の良さが窺い知れるというものだ。
フィヌイ様にも専用の陶器のお皿が用意され、私たちと同じシチューが淹れられていた。
わざわざ宿の方で専用の料理を用意しようとしてくれたみたいだが、本人が私たちと同じシチューが食べたいと駄々をこねたので私が同じものをとお願いしたのだ。
そのフィヌイ様の足元には肉球に優しい最高級のふかふかの絨毯が敷かれいた。本人はその上で今はおとなしく美味しそうにシチューを食べている。
この料理は子狼の姿をしたフィヌイ様が好きなミルクが使われているため、これが食べたかったのだろう。
つまりはフィヌイ様だけは私たちよりもグレードの高い、最高級のおもてなしを受けているのだ。
もちろん、これにはちゃんとした理由がある。
それは今から遡ること少し前――私の聖女らしい喋り方が不評だったので、ぶつくさ文句を言いながら街を歩いていた時のことだったか。
なぜか人通りが多い通りに入ると、街を歩く人々の視線がそれとなく私たちに集まってくるのだ。
いや、正確には真っ白な子狼の姿をしたフィヌイ様にである。
本人は人がたくさんいるところにくると、よく可愛い子犬のフリをして道行く人に愛想を振りまいていたりする。すると、もふもふ好きの人たちが近寄ってくる。そして運がよけれがクッキーなどのお菓子がもらえるのだ。
まさか! それが目当てでフィヌイ様は子犬のフリをしているのではと…? 疑念も浮かんだが神様なのでそれはないだろうと慌てて頭の中の考えを打ち消したのだ。
これはてっきりまたいつものように、モフリたい人が集まってきているのかと思っていたのだが……今回はどうやらそうではなさそうだ。