御使いさま
――なぜかというと、みんな私たちを遠巻きにして集まり、こちらに注目していたのだ。
特に、不穏な空気や嫌や気配などは感じられない。それでもこういう状況になれば、普通は戸惑ってしまうというもの。
だって、だって集まってきた人のなかにはフィヌイ様の姿を見るなりと立ち止まり祈りを捧げたり、感激のあまり涙をながしているそんな人までいるんだもの!
これにはさすがにドン引きして、驚かずにはいられなかった。
これはひょっとして神様だってことがバレたんじゃ……と私は思い、その場でひやひやしたり、挙句の果てには固まってしまったのだ。
だが、こんな状況でもラースは落ち着いた様子で私たちからそっと離れ、その辺の人たちにそれとなく話しかけ情報を聞き出してくれていた。……とにかくこの状況を早くなんとかしてくれ! と私はそう思わずにはいられなかった。
心の中でこっそりと、フィヌイ様に助けを求めてみるが、返事はまったく返ってはこない……
ふと顔を向けると、カバンからちょこんと顔をだし子狼の瞳でじーと私を見つめているのだ。そしてキャウと言いながら首を傾げているではないか。
ダメだ。完全に子犬のフリに徹底している……。その顔はいつものごとく、ただの子犬だからよくわかんな~いと言っているのだ。
そんな~!! とティアは心の中で絶叫するが、つまりは自分たちで何とかするようにということなのだろう。
神様の助言はとても期待できそうにないと速やかに諦め、まずは周りの状況を懸命に把握しようと努力する。
一方ラースのほうは、集まってきた人たちの中から、いかにも人の良さそうなおばちゃんに声をかけていた。
「悪いがちょっといいか。少し聞きたいことがあるんだが……」
「ん、どうしたんだい?」
「俺は連れと一緒に旅をしているんだが、これはなんの騒ぎなんだ。この街に入った途端に注目を浴びちまってどうにも居心地が悪いし困っていてな。連れも困惑しているし、何がどうなっているのか理由だけでも知りたいと思ったんだが……。知っていることがあればなんでもいい、教えてくれると助かるんだが」
「ああ、なるほどね。まあ、余所から来た人なら知らなくてもしかたないさね。これは幸運の兆し、心配しなくても大丈夫だよ」
「つまりはどういうことなんだ……?」
「あんたらは『御使いさま』を連れてきてくれたんだよ。御使いさまは、この街にとってはとても尊いお方でね。まあ、慣れないと戸惑うかもしれないね」
おばちゃんはコロコロ笑いながら朗らかに答えたのだ。
「御使いさま…?」
「御使いさまって言うのは神様の使いのことで、真っ白な動物の姿をして現れると、この街では昔からの言い伝えにあってね」
「……。つまり、あいつのことか?」
視線を向けた先ではオドオドしているティアをよそに、彼女が下げている肩掛けカバンから顔をだし、ふてぶてしくも何も知らない子犬のフリをしているあいつの姿が見えたのだ。




