フィヌイ様、ヤキモチを妬く
「おい! こいつは、霊獣とかも食うのか……」
「いや、どうなんだろう……? 人が食べてる物なら、とりあえずは食べるけど」
顔を青くしてラースはこちらに慌てて聞いてくるが、ティアは首を傾げるしかなかった。
それでもなんとか知識を総動員して考えてみると、それらしい話をやっと思い出したのだ。
神殿のありがたい説法の中にこんな話がある。
フィヌイ様は神話の時代、邪神に味方する悪霊や悪い霊獣を食べ人々を助けてくれたという――確かそんな話だったような気がする……
しかしだからといって、悪くもないラースの霊獣を食べたらさすがにダメだろう。ティアはそう思うと少し強めに注意をする。
「フィヌイ様、ダメですよ! その霊獣はいつもラースを助けてくれているんですから、そんな美味しそうなんて言っちゃ可哀そうじゃないですか。ほらこんなに怯えて、それとも……その霊獣は悪い存在なんですか…」
――ううん、違うよ。こいつは悪い奴じゃない… ただ昔よく霊獣を食べていたから、もちろん悪い奴限定でね。鳥の霊獣なんて久しぶりに見たから、つい美味しそうに見えたのかもしれない……それと、もしかしたらちょっとヤキモチをやいていたのかも。
私にしか聞こえないように、最後の方はボソッと呟いたのだ。私は子狼のフィヌイ様を抱き上げるとぎゅっと抱きしめる。
――だって、だって…。ティアの目がキラキラしてたから。僕だって可愛いのに…
私はやれやれと思うのと同時に、とても愛おしい気持ちになった。だが、いけないことはいけない。私は聖女だし、しっかりと伝えなければいけない。
「それじゃ、悪い霊獣じゃないんですね。だったら、なおさらそんなこといっちゃいけません……」
――…ごめんなさい。
耳が垂れ目を潤ませて、少ししょぼくれながらも素直にフィヌイ様は謝ってくれた。もちろんノアにも……
だが、こうやって見ると、ただの白い子犬にしか見えないから不思議だ。
そして、私はフィヌイ様にだけ聞こえるように、
「確かに…他の子のことも可愛いと思うかもしれません。けど…いつだってフィヌイ様が私にとっての一番なんですからね。これだけは譲れませんよ」
――本当に!
フィヌイ様は、耳をぴんと立て、尻尾を大きく振ると元気を取り戻していた。
自分の霊獣を失ってしまうという危機を脱し、ラースも安心したようにほっと息を吐いていた。
今まで怯えていたが、鳥の霊獣ノアもようやく落ち着きを取り戻し、そしてなぜだか・・私の顔をじーと見ると尊敬の眼差しを向けてくるのだ。
神様に対し毅然とした態度で怒るなんて凄い~! という思念がなぜか伝わってくる。
いや……尊敬の眼差しを向けられても特に大したことしていないから・・とティアも困ってしまう。
「取りあえずは、落ち着いたようだな」
「ええ、フィヌイ様も納得してくれたしよかった…」
そして当のフィヌイ様は、安心しきったように私の腕の中でくつろいでいた。
「……」
相変わらずというべきか、自由気ままな神様のようである。