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ラースの目的 ~後編~


 ――王太子セレスティアは、弟である馬鹿王子ルシアスとは違い、聡明な人物として知られている。


 民たちの間でも人気があり、父王を助け政務をこなしつつも国を豊かにするため大胆な政策を幾つも打ちだしてきた。それゆえに、古い考えに基づき汚職などやりたい放題だった貴族からはよく思われていないようだが……

 それでも、類まれな才覚から未来の国王として将来を有望とされている人物だ。


 ティア自身も、神殿の祭事のときに遠くからちらっと見たことがあるくらいで本人のことはよく知らないが、女と街で遊びまわっている第二王子ルシアスとは違い、真面目に王城で公務に励んでいるという印象があるくらいか。

 ほんとうに噂話でしか知らないので、正直どんな人なのかよくわからないのだ。


 「あの……フィヌイ様、セレスティア殿下のことについてどう思われますか?」

 ――う~ん、そうだね。ルシアスよりはかなりましだよ。僕の評価では腹黒なところはあるけど、まあまあな人物じゃないかな…

 「なるほど、よくわかりました。ありがとうございます!」


 子狼の姿で、入念に毛づくろいをしつつフィヌイ様は答えてくれた。私はその言葉を聞くと満足して、大きく頷いたのだ。


 「おい! 俺に聞かずなんでこいつに聞くんだよ……ていうか、その答えでお前は納得するのかよ!」

 「だって、フィヌイ様は公平な判断をしてくださるもの」


 なぜか、ラースが突っこみを入れてきたので私はしごく冷静に答えたのだ。

 はっきり言って、余計な情報などいらないのだ。この際、私はシンプルでいいと思っている。


「そうかよ…まあいい。横道に話がだいぶ反れちまったが、つまりはセレスティア殿下の密命でお前と、この主神である犬っころを俺は探していたわけだ。そう、あれは夏至に行われた王都での『天赦祭』の後ぐらいからか……神殿から神と聖女がいなくなったという噂が王都リオンを中心にどこからともなく広がっていた。そうすると国民の間にも動揺が広がり始める……。隣国の中には、この国は神から見放されたと考える連中も出てくるし、周辺諸国とのパワーバランスも変わり影響がで始め、政治的にもややこしい事態になる可能性も出てきたからな」


 「あのね、念のために言っておくけどラース……フィヌイ様はこの国を見捨てたわけじゃない。それは貴方も分かっているでしょ……」

 「まあな…。神殿の腐敗ぶりに嫌気がさして、新しい聖女と一緒に旅にでたか……。そんでもって昔この国に張っていた結界を聖女と共に修復している最中ってことだよな」


 ―― う~ん、それだけでもないかな。ほら神殿ってなにもやることなくて窮屈だし、ご飯も神様にふさわしい物が決められていて好きな物も食べれないんだよね。なら息抜きもやっぱり必要でしょ! 命のせんたくのため、神殿を脱走してティアと一緒に旅に出たんだ。今はティアと一緒に美味しい物を食べながら、楽しい旅を満喫している最中だから、念のため言っておくけどしばらくは神殿に帰るつもりはないからね。


「……?」

「……」


 しばしの間、なんともいえない沈黙が辺りを支配していた。

 子狼の姿をした主神フィヌイ様の有難いお言葉に、ラースは口を開けたまま唖然としていた。その様子を見ながら私は、なんかフィヌイ様らしいな~と妙に納得していたのだ。


 「おい……今の犬っころの話は聞かなかったことにしていいか…」

 「ははは……」


 ラースの言葉に、私は何と答えていいかわからず笑って誤魔化すしかなかった。


 「どちらにしろ……セレスティア殿下には、まともな内容だけ…報告はするつもりだ。そのあとで引き続き聖女の護衛という形で、俺としてはそのまま旅に同行するつもりでいる」


 その言葉を聞きティアはなぜかほっとしたのだ。また、このメンバーで旅が続けられるのがもしかしたら嬉しかったのかもしれない。

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