84.縁を知ったの王子は愛刀を求める
「優勝はデュカ•メレンスさん! おめでとうございます。ステージにお上がりください」
司会のシテムが読んだ名前は私が望んでいない名前だった。
歌姫コンテストに出場した大勢の参加者が、一同に並んでいる所にスポットライトが当てられた。
幼少期から歌のレッスンをしているであろう貴族令嬢を置いて、独学で練習してきたフィアちゃんが優勝するのは厳しかったようだ。
「続いて、特別審査員賞の発表です」
あら、そんな特別枠があったのね。フィアちゃんがそれに受賞出来るかもしれないわね。確か、特別審査員は宰相と第一王女メディの二人だから、審査員賞も二枠あるのかしら?
「ニェルニエさん、おめでとうございます!」
めでたくないわ。それは私の望んでいない結果だわ。第一王女が決めたとは思えないし、宰相かしら……。でも、公平性を重んじる彼が、私を贔屓するような真似をするとは思えないわね。
「続いて、フィアさん、おめでとうございます!」
よかった……はなから優勝する気すらなかった私が受賞したのに、フィアちゃんが落選したとなっては、ファズに申しわけがない。
『全て、うまく行ってよかったですね』
「ええ、本当にね」
『ちょっと、やたらと人間達が騒がしいのだけど。うちの子達が怯えてるてのよ。どうにかして』
白黒の眠そうな顔をした猫が店の商店に入ってクレームを入れてきた。マニルが私に似ているからと、クーニャと名付けられていた猫だ。
「今日はおめでたい日だから仕方がないの。ごめんなさいね。ファズの事を教えてくれたお礼に、今日は奮発するわ」
私は収納棚からスフィア商会に住み着いている猫達に人気の猫用おやつを一つ取り、封を切った。それをクーニャの口元に突きつける。
『私は餌付けされるほど落ちぶれてはいないわ。皿に盛り付けてもらえるかしら』
クーニャはそう言いながら鼻をピクピクとさせている。
「クーナ、ここにいたか」
「あらアスティル、猫達に餌を出してから向かおうと思っていたの」
アスティルは儀礼服ではなく、普段使いよスーツを着ていた。彼はコンテストに合わせて開催されるパーティーに参加したはずだ。
いち早く抜けて、こちらの打ち上げ会にきたのかしら?
「ここなら誰も聞こえないか……ビド」
「はい、誰も入らないように見張っています」
「頼む、それで早速だが……。俺は明日、日異に向かう」
「どうしたの急に、学園の長期休暇までしばらくあるわよ。そんなに急がなくても」
フィアちゃんがコンテストに参加する為の準備を残虚で行った。その時に、神社で数日お世話になったついでに、アスティルの刀を作ってもらえないか、八兵衛さんに頼んだ。
しかし、断られてしまったのだ。
その理由を教えてもらうことはできなかった、当時者のアスティルだけがその理由を教えてもらっていた。その事と何か関係があるのかしら?
「俺一人で行くだけだ。日異に行く為の船を買わせてくれないか?」
「一人って……まさか護衛もつけずにいくの?」
「大丈夫だ。無理をしなければスキルが無くても自衛はできる」
「無理に決まっているでしょう?」
隣の街に移動するだけでも、少なくとも数十の衛兵か、デセンドの騎士数人連れる必要がある。王族関係者の護衛ならそれでも少ないぐらいだ。
「ああ、だからこっそりと行こうと思っているんだ」
「残虚で何かあったのね?」
「口止めはされていないが……クーナなら教えてもいいか」
「良くないことなの?」
「いや、俺は……あの英雄助平の生まれ変わりだそうだ」
残虚に彼を連れて行った際、残虚の迷い人を案内する神様である狐々様が、アスティルにずっとくっついていた。ひどく懐いていると思ったけど、それが理由だったようね。
「どうして秘密にしているの。他の人に言っても、あなたの言うことなら信じてくれるわよ」
「そ、そうか。……だが、そういうわけにはいかない。俺が日異に行くのは、保管されている英雄助平の刀を盗みに行くからだ」
前世に使っていた刀を他国へ盗みに行く、なんて一国の王子が言ったら大問題ね。確かに誰にも言いたくはないわよね。
「という事は……アスティルはその刀を手に入れたら神力が使えるという事かしら?」
「神力……はよくわからないが、アビリティのような物を使うことができるとふちさんから聞いた」
「分かった、私も手伝うわ。盗みは良くないとは思うけど……これしか方法がないのでしょう?」
「国宝だからな、金を積んでどうにかなる問題でもない」
数百年も前に大陸を救った英雄の一振りしかない刀だ。それを売ってもらえるとはとても思えない。
『クーナの刀は遠く離れた場所からでも呼び出す事が出来たはずですが、アスティルには同じ事が出来ないのですか?』
「刀を残虚の神社に持っていってから、儀式を受ける必要があると言われた」
『万能というわけではないのですね』
「人数は少ない方がいい。たしかピニアは日異の文化に精通していたな。ここにいる三人とピニアの四人で向かうか」
『やはり、ビドは日本語を理解していたのですね』
日異は貿易を受け入れてはいるけれど、鎖国しているので、外国人の入国には厳しいはずだ。許可をもらい、入国出来たとしても厳しい制限が付くでしょう。
「いや、そんなわけないだろう。四人というのはマルも含めてだ。ビドは日異語を喋れないはずだ」
マルはパカパカとハッチを開け閉めしている。
『その数え方をしてもらえるのは嬉しいですね。それはともかく……データーベースによると、入国はそれほど難しく無いようですが。立ち振る舞いで外国人だと気づかれると観光用の区域から出られなくなります』
この四人の他で日異に溶け込める人はいない。私も日異語は怪しいけど、年相応な会話ぐらいならできる。
「俺の母上は日異人だ。その辺りの知識に問題はない」
「ひとまず細かい話は後にして、ピニアにも意見を聞きましょう」
「分かった。俺は王宮に帰って、クーナとピニアの二人に立ち入り許可を用意しておく」
王族が住む王宮には、許可証が無くては入れない。王様でも簡単にわたしたちを入れることが出来ないほど、セキュリティが厳しいのだ。
「わ、私嫌よ……。そんな所に行ったら緊張で心臓が口から出てしまうわ」
「母上に城に来ていただくよりも、そっちの方が簡単だ。少しは我慢してくれ。学園には話を通しておく、明日からあわただしくなるからな」
アスティルはそう言った後、店から出て行く。
『落ち着いたかと思えば、新しい課題ができましたね』
「そうね……。ひとまずは、フィアちゃんのお祝いパーティーを楽しむ事としましょう!」
フィアちゃんとファズの今後と、ラジオ放送局の運営に必要な指示を与えた後、デセンドからしばらく離れることになる。今のうちにパーティーを楽しんでおこう。
しばらくは顔を合わせることが出来ないかもしれないのだから。




