64.アスティルの在宅ワーク 特殊部隊創設編(アスティルside)
ワンルームマンションの一室。PCデスクで調べ物をしていると、騎士団の団長であるルトル兄さんが訪問してきた。
慣れた様子で、俺の部屋にある冷蔵庫へ勝手に入れたビールを、一つ取り出して飲み始めた。
ゴキュゴキュと喉から音をたてているので、随分と美味しそうに飲んでいる。俺も飲みたいが、まだ仕事中なのでやめておいている。
「くぅーー! 仕事終わりのビールは最高だぜ!」
おっさん臭い事を言いながら、彼は冷凍庫から、唐揚げの冷凍食品を、冷凍庫の上に置いた電子レンジに放り込んだ。
唐揚げにビールとか、そんなの絶対に美味しいに決まっている。
「それ俺のなんだけどな……別にいいけどさ。ルト兄、そっちは何人集められた?」
「志望者はいくらでもいるさ。でも、騎士団の全員を連れてくるわけにもいかないだろ」
「じゃあ、何人ぐらい?」
「うちの奴らは全員優秀だからな。下級20人、上級が10人、特上が1人でどうだ?」
「特上は誰?」
「ユターツは真面目も真面目のド真面目くんだ。統制がとても重要な、この部隊に向いている。隊長にならないか声を掛けたら任務内容にとても喜んでたぜ」
しばらく戦争をしていないこの国は、騎士の仕事が余っている。殆ど護衛ばかりで、荒事といえば魔物討伐や盗賊討伐ぐらいだ。新組織創設のタイミングにはもってこいの状況だろう。
「衛兵隊からは二等兵から兵士長まで50人だったよ」
「80人以上か……追加手当はちゃんと出せるのか?」
「もちろんだよ。エッチな物って本当すごいね。金持ちがひょいひょいと金を出してくれるし」
クーナからプリペイド式クレジットカードを買い、インターネットで商品を注文すると、この家に買った物が届く。日異人と同じ雰囲気の人達が、一日待つと商品を持ってきてくれるのだ。
その機能を使って、クーナに頼めない、エッチな商品を買うことが出来る。それを貴族のおっさんに高値で売りつけると、面白いぐらいに儲かるのだ。
マルの言う通りにしたら想像以上に資金が溜まった。あとはこれで、車両や武器を購入してもらえばいい。
国一つ滅ぼせる程の強力な軍事力だ、扱いには気をつけないと。魔法とは違い、肉体と霊体を同時に傷つける事ができず、肉体損傷のみで威力は劣る。射程は何倍も長く、一方的に蹂躙できる火力を持っている。
無力な幼児を狙う、非道な組織の構成員の命よりも、部下の命の方が遥かに大切だ。出来る限り強力で性能が良いものを使いたい。
クーナが我々に武器を売る事に、気を負わないよう、隊員たちが非人道的な行動をしない様に、ちゃんと統制がとれるように教育しなくては。
「在庫から一個もらっても良いか?」
ルド兄は、エッチな本を一冊手に取ると、ぴらぴらとふって見せる。
「俺に聞くな。勝手に持って行けばいいだろ……」
「固くなって全てを気負うなよ。勝手にウチの国から拉致って行く奴等が悪い。口で言ってもしらばっくれるから、力ずくで取り戻すだけだ」
「俺はディグスや他の国にいるような王子とは違って、前線に出られない。全て、お前たち任せじゃないか。人を殺す時の責任ぐらいは負わせてくれよ」
「みんなを信用してやれ。全員お前の為なら、火の中でも飛び込むさ。当然、俺もな」
「スタンピードで亡くなったみんなを思うといつも思うよ。冷酷になりきれない俺は王子には向いていないって」
こんなことを言えるのも。幼い頃から俺の事をよく知っているルド兄ぐらいだ。ディグスの主義がまともであれば、あいつに任したいぐらいだ。冷酷な思考をできるところは、王に向いている。
「アスティ、それだけは言っちゃダメだ……。頼むから、二度と言わないでくれ。あの時、脱走した奴は1人も居なかった。お前が次の王だと信じて散った奴らに、同じ事を目を見て言えるのか?」
「分かってる。自分を偽っても、俺は王になるつもりだ。この部隊を作るのに妥協をするつもりはないよ」
マルとの相談以外にも、自分で学習するのは大事だ。特殊部隊の参考文献は、インターネットや、通販サイトで書籍を買うことが出来た。高度な軍事技術をここまで公開しているのは信じられない。英語という言語を習得していれば、更に情報の幅が広がるけど。俺が把握している日本語の語彙だと、翻訳機能を使っても理解できない。
それでも十分に合理的な部隊が作れる気がする。だけど、命のやり取りをするのだから、出来るだけ知識は深めておきたい。
「空港の建設は何処がいいと思う?」
俺もルト兄も地理は把握しているし、騎士や兵隊を動かすノウハウはある。一人であれこれ決めるよりも、相談した方が小さな問題を是正できる。
「リンドルの姉御は、アスティにぞっこんだ。国境にも近いし、街道も整って移動しやすい」
「彼女ばかりに頼っていたら申し訳ない。設置した空港や拠点が、ゼゼンダルやヴェイゼアに狙われたら危険だ。他にも国境にも近くて、協力を頼める人はいる」
「じゃあ、ウェスビー家だな。鉱山が閉山して失業者で溢れているから、空港建設の人材も確保できる。まだ、鉱山資源も豊富だ」
不足している素材はクーナから売ってもらえばいい。彼女が移動しやすい様に、ワープ用の部屋を設置する為に、衛兵に厳重な警備をさせた建物を用意するのもいいだろう。
「ルド兄もそう思う?」
産業大臣の親類で、リンドル家との仲もいい。南にある帝国領地からの侵攻を防いでいるから、軍の扱いにも慣れているから、土台も、整っている。
「気になるのは、第一将軍がなんか言ってきそうな事ぐらいか。侵攻作戦はデセンド軍の管轄を侵犯してますぞ! とか言ってきて、特殊部隊をデセンド軍に組み込もうとして来ないか?」
「介入させない為に、俺の私財を使うんだよ。王子のポケットマネーを巻き上げる将軍は流石に居ないだろ?」
「そりゃー信用ガタ落ちどころか、お家取り潰しだろ。あ、唐揚げ忘れてた……」
「ルト兄、コーラもついでに」
「ビールは飲まないのか?」
「まだ仕事中だよ」
ルト兄は電子レンジから、ほかほかと湯気を立てる唐揚げを取り出すと、冷凍庫から2本目のビールとコーラを一本持って来る。
PCデスクの上に、黒色のボトルを置いた。異世界の黒い飲み物は歴史が長い。この商品で政治が動いた事もある。
魔法で綺麗な飲み水を得られる。そんな世界にすら、ここまで突き抜けた、飲み物に対する娯楽性はない。
「父上は凄い王だよ。大国の技術を均一化すれば、争いをコントロール出来る。異世界で抑止力という仕組みを実現してるんだ。このバランスが崩れると、戦争のコントロールが人の手から離れる」
この大陸で、第一次世界大戦という戦争と同じような事を起こしてはならない。なのに、父上の取っているバランスを帝国は崩そうとしている。
「大陸で衝突が起きやすいのは、世界が違っても同じか。軍事帝国主義のヴェイゼアからすれば、得意な軍事でデセンドに負けているのが気に入らないと」
「高みの見物をしているように見えるんだろうね」
「だからって、成人の儀を済ませていない子供を、ダンジョンに放り込むなんてイカれてる」
ダンジョンはレベルアップが早い。大量の魔物を倒したクーナやペニャが、ダンジョンの中に居たのであれば、魔族化する程にレベルが上がっただろう。
魅力的な経験値に潜む、恐ろしいペナルティがダンジョンにはある。
だけど、7歳に満たない子供がダンジョン内でレベルアップをすると、高密度の魔力に耐性を持たせることができる。
帝国に潜入させているスパイからの報告では、向こうのダンジョンの死者数に、成人の儀を受ける様な子供が増えているのは判明している。強力な兵士を効率的な方法で大量に作るつもりなのは確信してもいい。
「……念のため、大型ダンジョンのある、リンドルのスルゥエルに人員を増やしておこうか」
「強化した子供を巨大ダンジョンへ突っ込ませるってか……そこまでするか?」
「相手から領地を奪えるぐらいの力を持ってたら。俺ならあそこを狙う」
レベルがいくら高くても、まだ子供でしかない。しかし、成人の儀を終えて、成長したらどうなる事か。身体面が成長しなくとも、霊体に強力な力を持す事はできるのだ。
ロスコは低コストで治療魔法を使える。特殊なスキルだ。もし、その現象にあった人間が全員特殊スキルが得られたとしたら。考えるだけでも恐ろしい。
クーナは小柄な少女だけど。レベルが五十台にもなれば、野生の熊よりも遥かに強い。体重の軽さに苦戦するだろうが、野生動物に素手で圧勝できる。
レベリングをした少年兵が、わらわらと戦場に出てきたら大事だ。幼い見た目に、こちらの兵士が躊躇して一方的にやられるだろう。
こちらの兵士に行っている人道的な教育が裏目に出る。
「その前に絶対に全員保護すんぞ。な、ロスコ!」
「期待してるよ。ロスコ」
ベランダで、剣と馬具の手入れをしているロスコがポカンとしていた。当人は実感していないだろうが、彼は国内でも上位に入れるぐらいに、強くなれる可能性を秘めている。
「え、何がです?」
「そろそろダンジョンに行って、レベル上げをしてもらおうかなって」
「俺とビドが教えることはまだあるが。ひとまずは大丈夫だろ。習うより慣れろ」
ダンジョン内で魔物を倒すと、経験値が多く入る恩恵がある。その代わりに、魔族化するリスクを孕んでもいる。
ロスコは効率的にダンジョンで経験値稼ぎが出来るのだ。
「みんなで行くんですよね?」
「最初のうちはね。最初はクーナのスキルで、部屋をダンジョンに繋げてもらう。クーナに援護してもらいながら、ハイヒールとブラットカルチュアが使えるぐらいのレベルになったら。学園で習得して欲しい」
以前、攻撃力がトップクラスのソックに、全力でマンションの扉を攻撃してもらい。破壊して中に入れるか検証したが、傷ひとつつかなかった。つまり、ダンジョンに賃貸物件の扉を設置すれば直接、ダンジョン最深部へ潜れる。扉が破壊される心配はないので、魔物が王都に侵入する危険はない。鍵をかけ忘れさえしなければ安全だ。念のために昼夜問わず。厳しい管理を衛兵にしてもらうが。
到達地点毎に扉を増やせば、物資の枯渇を恐れる心配はない。
「俺も強くならないとな……」
期限までは充分ある。きっとクーナなら、勝利を確信出来る装備を作ってくれるに違いない。




