55.最終戦前のリモート恋バナ
『準決勝、勝者はペニャさん!』
『まさか遮蔽物を蹴って、魔法を避けるとは思わなかった。近寄ったらすぐに決着がつく、まるで鬼ごっこの様な戦いだった』
26回目の戦いはペニャの圧倒的な勝利に終わる。これまで、ペニャは全て対戦相手を圧倒して短時間で終わらせていた。
「思っていた通り、レイピアはペニャとの相性はいいわね。剣が軽い分、取り回しがとても早くなってる。容赦なく追いかける姿がミサイルそっくりね」
ビドさんの言う通り、あの剣はかなり軽く作ってある。
私……ビドさんにレイピアのことを話した覚えがないのだけれど。こっちの世界でも使われていて、偶々目にする機会があったのかしら。
「ビドさんはどこかでペニャの剣を見た事があるの?」
「任務で同行した冒険者が持っていたのよ。巨大ダンジョンでドロップしたらしいわ。その人も体重が軽くて、機敏な立ち回りが得意な人だったから、馴染むって言っていたのよ。それで前々からレイピアはペニャに合うと思っていたの。剣術指南書がないから試行錯誤するしかないわね」
大陸で一番大きなダンジョンは、別の世界から物が流れてくるという噂がある。私を産んだ、日本人のお母様もそこに迷い込んだというし、地球産のレイピアを手に入れた人が居るみたいね。確証の高い噂なのかもしれない。
「ルレとペニャの二人はどちらが勝つのかしら……」
「ペニャとも仲良くなったのね。ここまで来れたなら、勝敗は関係ないわ。現役の騎士といい勝負が出来る。それだけで騎士候補の肩書きには十分ね。ルレが負けても夢が途絶える訳ではないから、安心して勝負を見守ってあげて」
「そうなの……?」
長い時間、ペニャと関わって気づいた。あの子は人との関わり方を知らないだけで。本質的にはいい人だ。
「ペニャはいつもあんな風に平民を下に見ている事を言っているけれど、あの子は酸っぱい葡萄のお話と同じよ。冒険者に依頼も出来ない貧しい村へ、一番乗りで魔物討伐に向かうような子だもの。クーナちゃんが仲良くなれると思っていたわ」
「酸っぱい葡萄?」
「手に入れられない物を卑下して、あれは自分に相応しくない物だと思い込んで、諦める狐のお話よ」
童話は結構な数を読んだ事がある。残酷な終わり方をするものは苦手だけど、優しいお話もある。しかし、聞いた事が無い童話だ。
「ペニャの家は村の皆からも評判のいい家なんです……あ、すいません……聞こえてきたのでつい……」
「大丈夫よ。ロスコさんはペニャと幼馴染って言っていたわね」
「はい。あの子は寂しがりなので、僕も一緒に王都に来ました。でも、大きくなるにつれて当たりが強くなってきて……。今では兵士をやめて村に帰れって良く言われています」
多分、ペニャはロスコさんを心配しているのだろう。
地球には赤十字という組織が存在しているらしく、民間人や両国の兵士を分け隔てなく治療するそうだ。攻撃すれば全世界から非難される。
治癒士部隊は戦争になれば奇襲されやすい。この大陸には治療している兵士に攻撃を禁止する条約は存在しない。彼は戦場で真っ先に狙われる。
「あなた達……何を勝手に私の所有物に話しかけているのかしら」
また第一王女が話しかけてきた。話しかけてくるなというルールを覚えていないのかしら。頭にUSBメモリをブッ刺してあげたら記憶力が増えないかしら?
「クーナさん、怒っているのは分かるけれど。何故USBメモリを握りしめているの?」
ついつい、ワフ姉さんの所に置き忘れていた、異世界の人から貰ったUSBメモリをポケットから取り出してしまった。
今度、マルに読んで内容を確認してもらおうかしら。
「あら……いけない。私ってば……」
「それを刺しても人の記憶力は増えないわよ……しまいなさい」
「メディ……黙れ。お前の私兵では無い。お前が命令する権利はない」
アスティルが間に入ってくれた。彼女とのやりとりは彼にどうにかしてもらうしかない。
私がメディの頭にUSBメモリを刺して全てが解決できればいいのに。
「私は許した覚えはないわ。それなら直接、あの兵士に命令すればいいもの」
「お前に何を言われようと、返事をしなくてもいいと命令してある。立場を利用しようとしても無駄だ」
「ちっ……覚えておきなさい。あの兵士は私の所有物なのよ!」
そう言うと、席に戻り始めた。
次はルレの出番だから、心待ちにしているものね。しかし、何でロスコさんにそこまで執心しているのだろう?
ついさっき、同じような話が……。
「あ……ロスコさんの事……」
口に出そうとした瞬間、ビドさんに指で唇を塞がれ。微笑みながら、首を左右に振った、。
「乙女の恋心を勝手に公にしては駄目よ?」
確かに不躾な行為だったわ。ビドさんも気づいていたようだ。私が頷くと、抑えられていた指を離される。
勤務中の部下に対する態度は凛としているのに、プライベートでは大人の女性らしい人だ。正直、彼女のような大人の女性に憧れもある。
「僕、何か失礼な事をしてしまいましたか……?」
「よし、ロスコにはツンデレハンターという二つ名を与えよう。その名に恥じないように研鑽に励みたまえ」
勤務中の言葉遣いだ。でも声色は柔らかいので、冗談なのは分かりきっているはずなのに、それを聞いたロスコさんの背筋がシャキッと起きる。
ツンデレって前にマルが言っていた。お父様みたいにそっけない態度や、ペニャみたいに当たりが強い態度の人が、本当はその相手が大好きだったりする事ね。
「二つ名ですか……僕なんかには畏れ多いです!」
「そんなふざけた二つ名なんて付けるわけないでしょう……冗談よ。あなた苦労しているわね。今日は仕事では無いのだから、もっと力を抜いてもいいのよ」
「気をつけます。でも、殿下のお陰でかなり良くなりました」
「ロスコを奴から解放する様に頼まれたのだ。お前の扱いを知った時の、ペニャの怒り様は凄まじかったぞ。俺が断っていたら、何するか分からん」
ペニャもツンデレということかしら?
「ペニャもロスコさんを……」
「クーナちゃん?」
「ペニャが僕を……?」
おっといけない。さっきビドさんから怒られたばっかりだ。
「扱いが酷いということはご飯を食べさせて貰えなかったのかしら、お腹いっぱいにさせたいのでは無いかなって……という事で焼きそば、召し上がって?」
「いいんですか……頂きます!」
危なかった。何とかソースの匂いで全てを誤魔化せた……。今は私服で男性の服を着ているから分かるけれど、性別が分かりにくいわね。
「すっごく美味しいです!」
「私やハイラさんは貴族ではないから、敬語を使わなくてもいいのよ」
「そうだったんだ。階級が上の方に囲まれる事が多くて癖になっちゃって。回復魔法がが得意なだけで、戦うのは苦手だから肩身が狭いんだ」
「ロスコはそう言っているけれど、すごい特技があるのよ」
「例のレベルアップと関係があるんですか?」
「うん……成人の儀を受けずに治癒魔法が使えるようになったんだ」
スキルを授けられる成人の儀を行う前に、ダンジョン内でレベルアップをすると起きる現象で、彼の成長が極端に遅くなっている。
私と会話して居る18歳の大人の男性は私と同じ見た目の年齢にしか見えない。長寿化以外に何かあるのだろうか?
「ハイヒールを何十回も使えるのよ」
「自分の身も守れないんですから。護衛してもらわなければ何もできません」
「あなたは成長が遅れている。だから身体能力のベースが低いだけで、レベルをちゃんとあげれば強くなれるわよ。クーナちゃんなんて四十台を超えて居るから、そこら辺に居る体格のいい冒険者よりも強いのよ」
私で例えないで欲しい。冒険者よりも腕っ節が強いなんて、淑女としては不名誉なことだ。自分ではなく、銃やマーケットスキルが強いのだ。
「僕なんかが本当に強くなれると思いますか?」
「なれるわ」
「ペニャから僕は必要ないと言われました。あの子は昔から臆病な子で、同世代の子に声を掛けるのも苦手出来ないくらいだったのに。僕が必要なくなるぐらい強くなって、強くなる必要はないと思っているんです」
私はピニアのお陰で、同世代の平民であるハイラさんと普通に話す事ができた。貴族令嬢と平民の壁は大きい。屋敷で働いている平民と関わることの方が多かった私は恵まれて居る。
ペニャの家は準貴族で代々騎士として王国に仕えている。平民と貴族の丁度中間で、社交界でも苦労するし、平民との関わりでも苦労するだろう。
「今もあの子は臆病よ。スタンピードの時、ソックさんが居なければ、恐怖で押し潰されていたかもしれないって言っていたわ」
「クーナさんの言う通りね。大規模な戦闘で一番辛いのは仲間が傷つく事よ。あの子、自身がいくら強くても、助けられない仲間は大勢いる」
「それこそ……僕はペニャの足手まといに……」
「全く、まどろっこしい男だなお前は。兵士を辞めぬのは何故だ。ペニャの事を支えたいのであろう?」
「その通りです……。でも、ペニャは優勝したら、僕に兵士を辞めて、村に帰るように言われました」
「何故、そんな事を勝手に決められなくてはならんのだ。お前がどうしたいかを聞いておる。お前には二つの選択しかない。強くなるか、故郷に帰るかだ」
「僕は強くなりたいです。そして、ペニャの夢を叶える手伝いをしたい」
あの子にも夢がある。騎士家が3代続いて、功績を残せば男爵家になれる。ペニャは3代目、彼女が今のまま何かしらの功績を挙げれば、貴族に昇格出来る。しかし、女性当主が貴族に昇格するのは難しい。
「なら、黙ってないで次はちゃんと応援してやれ」
ロスコさんはペニャの試合が始まると、じっと見て居るだけだったものね。向こうからこちらの声は聞こえないから、応援しても聞こえないけれど、気分の問題かしら。
「わかりました……殿下、ありがとうございます」
「お前の地元では友人にかしこまった言い方をするのか?」
「……ありがとう、アスティル」
「よし。それじゃあ、ツンツンじゃじゃ馬娘に言うこと言葉は決まっているな?」
「うん、大丈夫だ」
あらあら……それじゃあ私からもロスコさんの応援をしてあげるとしましょう。
私とハイラさんは立ち上がって、席から離れる。二人で待機室で休憩して居るであろうルレの通信機にチャンネルを合わせる。私はワイヤレスのインカムに付いたPTTボタンを押して、ルレを呼び出した。
『お疲れ様、ようやく最終戦ね』
『すごかったよルレ!』
『ありがとう。この剣のお陰なんだけどね』
『そんな事はないわ。ルレの実力があっての結果だから。普通の剣でだって負けなかったわよ』
『いい動きしてたもんね』
ハイラさんはルレの事をよく見ていた。騎士の夢を諦めて、魔導技師になろうとしていたことも知っている。それなのにソックさんから剣の修行を辞めなかったのか。彼女も薄々と感づいていたらしい。
『うん……ここまでくるのに沢山、頑張ったから』
『最後に二人がいい戦いが出来る様に、燃料を投下したいのだけれど。私のお願いを聞いてくれるかしら?』
『もしかして、ロスコさんの件だね。いいねーいいと思うよー!』
『どういうことよ?』
ハイラさんも私の考えに賛成のようだ。
ルレは私の頼み事を聞いた直後、楽しそうな声で快諾した。なるほど、これがマルの言っていた恋バナというものなのね。
女の子は恋バナが好きらしい。実際にしてみて分かったけれど。確かに楽しい気持ちになれる。




