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46.貧民街開発計画

 炊き出しも終わり。一区切り付いた所で、エレルさん親子を貧民街から連れ出す。


「エレルさん。あなた、読み書きと計算は出来るかしら?」

「ごめんなさい。どちらも苦手です……」

『お店の店員として雇うのであれば、製品マルを使えますよ。エレルさんが出来ない事を製品マルが、製品マルが出来ない事をエレルさんにやって貰うのです』

「マルは量産型でも凄いのね!」

「POSレジというシステムを組み込みましょう。文字が読めなくても運用できます」


 文字の読み書きが出来る人は平民でも少ない。家庭教師や、塾をやっている教会で教わる事ができるが。お金が必要だ。親が学問に理解がないと通わせてもらえない。


「あの……私にお仕事を頂けるのですか?」

「そうよ。お店を準備するのに時間がかかるけれど。それまで少しお勉強をしてもらうわ。その費用は私が負担するから安心して頂戴」

「ありがとうございます!」


 とりあえず、エレルさん親子はマンションに連れて行って、身なりを綺麗にさせなきゃ。それらはピニアに任せましょう。

 私はその間に、アスティルの元へ赴き、新しいお店を作る相談をする事にした。

 学園が休みの間、アスティルは日中に王城の第三王子執務室で仕事をしている。

 

「という事で、お店を開く事にしたわ」

「ふむ……露店は特別枠を用意してもいいが……この際、店を持つのも良いな」

「何処かいい物件はない?」

「今は商業区の敷地が足りておらん。商業区の拡張に、貧民街の一区画を貰ったのだが。働けない貧民が住んでいて、触るに触れん。追い出せば碌な事にならんからな。職を与える事が出来れば最善なのだが……難しいな」

「貧民街はどの辺りなの?」

「少し待て……」


 アスティルはボールペンをテーブルに置くと、デスクのチェストから紙を取り出して、デスクの上に広げた。

 紙にはデセンド王国城下街の地図が描かれていた。


「ここから一番近い貧民街の一部だ。元は住宅や商店が並んでいたが、老朽化で廃墟になっている。幸い、兵士の立ち寄りも多いので犯罪組織の影は無い治安は最悪では無い」


 アスティルが指で丸く指し示した区画は、マニルさん親子を保護して、炊き出しを行った場所だ。メイン通りから離れた、一番奥側で人の流れは少ない。


「開発しても使い勝手が悪い。第二王子がゴネたせいで、一番良くない場所を寄越してきた。ここを改善できたら、他の所も譲るとな。放置しているから、取り上げられたというのに。全く、往生際が悪い男だ」

「その……一番奥の所よね?」


 一応、第二王子が管理する区画ではないか確認をする。


「そうだ……店を置いても客足は少ないだろうな」

「怪我とか、病気とかで働けない人達がいるのよね?」

「ああ。手前側は老朽化も少なく、廃墟には貧民が住んで、少ないながらも税金を納めている。税金を納めない者達は、建物が朽ちた奥側に追いやられた。子供や老人、病気や怪我をしている者が大勢いる。全員は助けられん。餓死しない程度の食事を配給するのが限界だ」


 あそこにいた人たちは皆、エクストラヒールで元気になった。炊き出しで栄養価の高い食事も与えたから、しばらくは持つだろう。


「あの……既にやったというか……」

「何を?」

「こう……にょきにょきとか色々と」

「そうか……にょきにょきしたかぁ……」

「やり過ぎたかしら?」

「いや、上出来だ。お陰で開発が直ぐにでも実行出来そうだな」

「まだ、全員治療出来て居ないと思うのだけれど」


 アスティルがもらった貧民街の区画はとても広い。動けない人の分も取りに来ていた人も沢山いた。あの場に居ない人達を治療する事が出来なかったので。今度は元気になった人が、その人たちを運んで連れてくると言っていた。


「あの区画の住民名簿を作らなくてはな。部下に手で書かせた物を、マルクスにスキャンさせて、それをマルに渡す。治療すれば良い人数がそれでわかるだろう。謝礼は出すつもりだが、多くは出せない。期待はしないでくれよ」

「魔力のお代だけ頂けたら助かるわ」

「一人、二千カクルぐらいだったな。それくらいなら払える。開発が待ちきれないなら、貧民街の好きな所に店を置いてもいい。別の所で開くのは好きにしていいが、空きはないだろうな」


 第二王子が管理している側の方がメインストリートも近く人通りも多いけれど。アスティルがもらった方は市場に近いから、人通りはそれなりに多い。


「ええ、色々やってみるわ」

「頼むぞ。お前からも税金取るから、帳簿はちゃんとつけておけよ。マーケットスキルには領収書は無いから仕方がないが、偽りが無いようにしてくれ」

「素敵なお店を作って、沢山稼いで納税してあげるわよ」


 とりあえず。学園が始まる前には開店できる様にしたいわね。廃墟をどかして、新しい建物を置く。これはマルに相談した方がいいかもしれない。一旦、マンションに戻って、作戦会議ね。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま。二人の様子はどうかしら?」

「早速、ハイラさんから文字の読み方を学んでいる様です」

「後でケーキの差し入れを持って行ってあげて」

「承りました」


 スキルでお皿に、ケーキを何個か用意しておく。お茶の方はピニアに任せておけば、美味しいお茶を淹れてくれるだろう。


「炊き出しをした、1番端の貧民街に、お店を置いても良いことになったわ。廃墟の残骸を消して、新しい建物を建てるのに1番効率がいいのは?」

『残骸をマーケットスキルで売る出来ませんか?』

「そういえば……試した事が無かったわね。ゴミなんて売ろうなんて考えたことが無かったわ」

『薬莢やペットボトルとビニール。それらのゴミを売れるという事は、残骸の撤去にも使えると思いますよ』


 ペットボトルやビニール包装紙はマーケットスキルで売る事ができる。便利な水筒や紙ぐらいに思っていたけれど。マルからすればゴミなのか。

 

「ピニア、明日また貧民街に行きたいわ。平民街との境目あたりにお店を作るわ」

「承知しました」


 


 翌日、私は貧民街に足を運んだ。

 目の前には瓦礫一つない、土だけが広がる広大な土地。私のマーケットスキルで瓦礫の山を売り払ったのだ。所有者が居ないので、売ることができた。

 一山で100カクルだが、まさかお金をもらえるとまでは思っても居なかった。


『広めのコンビニくらいの土地ですね。プレハブの仮店舗を置いて、本格的な建物を依頼しますか』

「そうね。建材はスキルで出せるけど。専門家の力を借りないと」


 こう、私にとって都合のいい、誰にも雇われていなくて。働いてくれる専門家とか居ないかしら。

 エルフとかドワーフなら手先が器用だし、建築に魔法を使えるし。なんて……都合のいい話があるわけないわよね。


「女神様……あんたやっぱり……女神様じゃねぇか!?」

「聖女様かと思っておったが……ちげぇねぇ、女神様だ」


 ボロ服を身に纏った、エルフとドワーフの二人組がひざまづいて、私のことを拝んでいる。


「これは消滅魔法めデストロイエクステンドを使用しただけなのだわ。奇跡の力とかそういうのでは無いのよ」

「だとしても、おら達には聖女様である事にはちげぇねぇ」

「変な面を被ってねぇけど、魔力で分かる。俺達の体を癒してくれた、聖女様だ」


 これは説明しても聞こえなさそうだ。このまま女神として祀られるより、聖女の方がマシかもしれない。


「あなた達はどうしてここに?」

「おら達は動けるようになったから。仕事を探しに行くところだ」

「少しでも働けねぇ仲間達を食わせてやらねぇと」

「安くても、食いもんが買えればいい。聖女様が治してくれたおかげで、バリバリ働ける」


 いた。都合がいい人たちが居た。


「ドワーフとエルフの方達よね。建物を作れたりはしないかしら?」

「おらは木工と鍛冶なら趣味ぐらい出来るな」

「資材と工具は用意するから、お店を作ってはくれないかしら。もちろん、お給金も出すわ」

「俺はハーフエルフのビンケルだ。木の扱いには心得がある。よろしくお願いします」

「おらは見ての通り、ドワーフのドスゴンだ。よろしく頼むだ」

「設計は出来るの?」

「外観のイメージ図があればそれに合わせて作れる。全部おらに任せてくれてもいいけど。見てくれに聖女様が納得してくれるかはわかんねぇ」

「設計はマルにお願いしましょう。とりあえず一日、一人二千五百カクルでいいかしら?」

「そんなにくれるのか!」


 収入としては下の方で平均的な金額だ。いいお仕事をしてくれるのなら、もっと出してあげたい。しかし、私も車を買ったばかりで、お金がそんなに無い。お店で稼げたら、賃金を上げよう。


「経過を見て、お給料も上げるから。いい物を作ってね。お仲間さんも誘うなら、ここに出来る、お店の人に声を掛けて」


 多く出せないのは、人手を増やすと、当然支払う給料が増えるからだ。私も元手のお金がないと、商品が作れない。

 アスティルとミェルの3人で計画している。間違いなく、大きな収益を見込めるけれど。その利益を出すのも時間が掛かる。


「お店とは……これから俺達が作る建物では?」

「その前におら達が小さい小屋を作るんで?」


 マーケットスキルでプレハブを購入する。お値段は16畳で百万円だ。それを更地に設置する。


「箱が……箱が突然出てきたぞい!」

「違う……窓がある。これは家だ!」


 私はプレハブの裏側に回って、不動産機能でアパートの賃貸を選択する。月に2万円で2Kの部屋を三つ貼り付ける。設置面積の限界だ。

 三部屋で7万5千カクルと、貧民一人の平均月収ぐらい。


「聖女様……このドアは?」

「三つあるぞい……」

「あなた達はここに住んでもいいわよ。狭いけれど、お仲間の人達も住ませてあげるといいわ」


 私はアパートの一部屋を開けて、中を案内する。湯沸かし器の使い方がわからず。マルに使い方を教えてもらう。


「こんなところね……。あなた達の仲間は何人居るの?」

「聖女さまが連れて行った、エレルとマニルの二人を除いて……30人以上はいる……」

「数えきれないぐらい居たけど。今回の冬で、沢山死んじまった……」

「マニルが頑張って食いもんを集めてくれたけど、持たなかったなぁ」

「手に職持ってんのはおら達が働ける。これからはマニルが大変な思いをする事もねぇ」


 部屋の数足りるかしら……。光熱費とか食費とかも色々考えたら。安くは済まないからあまり部屋も増やす余裕もない。

 雇って抱えた分は、私が稼がなければ。


『お店を建設した後、建設会社を立ち上げるのもいいかもしれませんね。私とクーナで、地球の工法と建材を使って建築が出来ます』

「いいわね!」

『せっかくですし……簡単な発電所も作りますか。電動工具も使えるようになりますし。上下水道の設置も今のうちに用意しておくと、後々楽になりますね』


 デセンド王国首都は海が真横にある。下水道から汚水を垂れ流しているので、いつかは下水処理施設を作らなくてはならない。工業化が進んでからでは遅い。アスティルとミェルに相談して、少しずつでも実現していこう。

 貧民街開発の道のりは先が見えないぐらいに長い。とりあえずまずは、お店の用意だ。ルレ達の試験はもうすぐ始まる。それまでにはお店を開店させたい。

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