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45.炊き出しをするのだわ!

 コストルと王都の移動に時間を使うことがなくなったが。コストルの商業ギルドには、私が王都でしばらく過ごすと言っているので、向こうで露店を開くことができないのだ。

 露店を開くなら王都の市場で出店しなくてはならない。


「申し訳ありません。予約が3ヶ月先まで埋まっておりまして……」


 商業ギルドの職員が深々と頭を下げる。

 流石は王都の市場だ。ぱっとでの私が簡単に出店出来るようなところでは無いらしい。




「どうしましょうか」


 エルフさんの錬金工房で大量生産したポーションや解毒剤、ドワーフさんの所で作った投げナイフや鉄製の矢などの新しい商品を売る手段がない。

 公園でサンドイッチを頬張りながら、どうするか思案する。とは言えどうするも何も露店は開けない。

 店舗を持つということも考えた。資金的には可能だけど、露店の様に定期的な出店では採算が取れない。


 ふと、横から物凄い刺激臭がふわりと漂ってきた。横を見ると、ガサゴソとゴミ箱を漁っている、小汚い子供が居た。髪を整える事もなく、伸ばしっぱなしで男女の区別がつかない。

 私の視線に気づいたのか、何かを伺う様な目線を返してきた。


「何……?」

「あなた孤児院は?」

「お母さんいるし、そんなのいらない」


 子供はじっと、私の手元のサンドイッチを見つめている。お腹が空いているのだろう。


「お腹が空いているのね。食べる?」

「いらない……知らない人から物をもらうなって、お母さんに言われた」


 ゴミを漁るなとは言われなかったのね。


「そう、それじゃぁ……私はもう食べられないから、これはここに捨ててしまいましょう。捨てるのは面倒だから……あなたが好きにするといいわ」


 この子には悪いが、臭いのせいで食欲が失せたのは本当だ。新品のサンドイッチをいくつかスキルで追加購入した。日持ちする訳でもなく、これでずっと食べていける訳ではない。あくまで一期一会だ。


「ありがとう……」

「捨てたものなのだから、あなたが礼を言う必要はないわ」


 子供はサンドイッチを掴むと、ビニールの上からかぶりつこうとしていたので、私は急いでそれをやめさせた。

 

「色がついていない紙は食べられないのよ。ここをこうやって引っ張るの」


 鼻声で食べ方を説明する。風呂に入っていない冒険者も同じような臭いがするが、私はどうしても慣れない。

 今すぐにでも、この子を今すぐにマンションまで連れて行って、風呂に入れて綺麗な体にしたいのだわ!

 

「あなたちょっと付いてくるのだわ!」


 子供に消臭剤と香水を付けたあと、騎士団寮まで連れて行く。サンドイッチのおかげか、警戒心は薄れている。それでも距離は取っているので、無警戒という訳でもなさそうだ。


「やあ、クーナちゃん。どうしたんだいその子は?」


 新米騎士のエズウィさんとすれ違った。ペニャよりも年上だけど、後輩でもある。


「お風呂に入れようと思って」

「お風呂……あー謎部屋か……うん」


 他の騎士団員には、マンションには触れないように厳命されている。王子の命令なので、信用第一の騎士が破る事は絶対にないだろう。

 扉を開けるだけで、職を失いたいと思う騎士は居ないだろう。


「今度、森で遠征任務があるから、商品を見せてもらいたいみたいな事を、副団長が言ってたよ」

「分かったわ」


 一応、騎士団や軍などの得意先はあるけれど、お店の様な物とは違うので、面白みはない。売った物で命が助かる事があるのなら、それに越した事は無い。


「お姉ちゃんはお姫様なの?」

「違うわよ」


 今はリェースの名を伏せている。今、隣国のゼゼンダルには私が死んだという偽装をしているらしい。葬儀をわざわざやってまでの偽装だと、ピニアは言っていた。


 マンションの中に入って、脱衣所の扉を開けるとルレが全裸で鏡を見ていた。


「その子、どうしたの?」

「この子も一緒に入れてもらってもいい?」

「別にいいけど、私は先に入ってるわよ」

「おふろってなに?」


 貧民で一桁ぐらいの子供なら知らなくてもおかしくはない。


「あったかい水に入るのよ。服を脱いで」


 服を脱がせて、洗濯機の中に脱がせた服を入れる。


「あらあら……」


 可愛らしい顔だから分からなかったが、小さい子供だし問題はないだろう。


「それじゃ、お願いね」

「わかったわ」

 

 ルレに任せて、私はリビングで待つことにした。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 ピニアが出迎え、紅茶を淹れてくれた。温かい紅茶を飲むと体が温まる。ピニアとマルに日本語で会話する。

 しばらくすると、廊下の方から足音が聞こえてきた。


「ちょっと……この子、天使族じゃない……」

「あら、男の子では無かったのね」

「女の子でも無いわよ。びっくりしたじゃない」


 天使族に男女は無い。二つの特徴が同じく存在している。


「お家に帰らなきゃて……」

「服を乾燥させてからお家に帰りましょうね。それまで食事をしましょう。あなたお名前は?」

「マニル」

「そう、私はクーナよ。商人を営んでいるわ」

「お金持ちなの?」

「程々にね」


 キッチンから包丁や、調理器具などを動かす音が聞こえてくる。マニルとルレ達の食事を、ピニアが作っている。私はサンドイッチを食べたのでお腹が空いてはいない。

 手早く調理を終えて、ダイニングテーブルにオムライスを配膳していく。


「おいしい……」

「ジーゼルさんがいるので作る機会が減っていましたが。そう言っていただけると幸いです。デザートもありますよ」


 マニルは初めて食べる料理に、おっかなびっくりな様子だったけれど。一口食べた瞬間から続けて食べていった。

 随分とピニアが張り切っている。彼女も飢えていた幼少期を過ごしたこともあり。マニルと重ねているのかもしれない。


「お母様はお仕事はされていないの?」

「病気になって働けないの」


 もしかしたらエクストラヒールで治せるかもしれないわね。奇跡の魔法と言われるだけあって、殆どの病気を治せると言われている。

 実際に聞くかどうかは分からないけれど。ひとまず治癒魔法を試すだけでもやったほうがいいだろう。


「マニル、お家まで送るわ。一緒に行きましょう」

「分かった」


 マニルの服も乾燥が終わっている事だろう。身支度を整え、外へと出かける。治安が良く無い区画へ出かけるので、ピニアにも付き添ってもらう。


「う……酷い匂いね」

「下水設備が整っていないのでしょう」


 貴族街や平民が住む区画は下水道が存在している。しかし、日本の様なレベルの高い物では無い。下水処理施設という物が存在しない。

 今はまだ人口も少ないが、文明が栄えて人工が増えると、環境汚染というものに気をつけなくてはならない。

 東京という一番大きな都市に隣接する海は汚れた水が混ざってとても汚いそうだ。海流というもので何とか生き物が住める様になっている。あれ程の文明が発達していても、改善する事が出来ない。


「離れた場所に下水道があるだけ、ゼゼンダル全土の街よりはマシですが。リェースはインフラに重きを置いているので、別格です」

「ゼゼンダルの王都には無いの?」

「平民街、貴族街ともに酷い物です。あの国で清潔感のある貴族は、リェース家の者たちだけです」


 そういえば、リェースには下水道がある。コストルにも整えられているので、恵雨お母様の影響だろうか?

 環境汚染について知っているかもしれないなら、間違いなく用意するだろう。リェース家のトイレは、マンションの物ほどでは無いが水洗トイレがあった。


「でも、リェースは貧乏だとお兄様、お姉様が言っていたわよ?」

「そうですね。貴族の中でも蓄えがありません。戦争も頻繁にさせられますから。旦那様は先代が食い潰した家を立て直すのに、苦労されたと聞き及んでいます」


 嫌われていなかったと叔母さまから教えられてから、お母様達に会いたいけれど。今は難しいようだ。盗賊の件をお父様に報告した時、想像以上に不味い状況だと言われたようだ。

 落ち着くまではこうして家の外で過ごすしか無い。


「お家に着いたよ」


 私の胸元の高さぐらいの木材を立てて、布を重ねただけの荒屋がそこにあった。家とはとても言えないような住処だ。こんなところに住んでいては、病気になっても治りようが無い。

 私は仕切りの布をめくる。


「お邪魔するわね」


 とは言え、室内とは言えない。人間が二人寝そべる事がやっとの空間だ。中に入るのは、マニルの母親に添い寝するような形になってしまう。

 麻布を掛けたマニルの母親が横になっている。マニルにそっくりで綺麗な顔付きだ。水浴びをまともにしていないせいで、とても体が汚れている。

 寝息はたてているので、生きてはいるようだ。


「お母さん……朝からずっと起きないの」

『とてもやつれて、危険な状態ですね。エクストラヒールを使用した後、粥などの消化の良い物を与えましょう』

「エクストラヒール」


 マニルの母親にエクストラヒールをかけて、治療を試みる。この魔法は餓死寸前でも、普通に動ける程度には回復できる。

 要は死ななければ、全快出来る。


「マニル……?」

「お母さん!」


 流石は使い手が滅多にいない奇跡の魔法。数千は必要な魔力を、丸ごと持っていかれる理由もわかる。


「ピニア、ついでに炊き出しをしようと思うのだけど」

「良い考えかと思います」

『鶏ささみの挽肉を使って、クリームシチューをパン粥にして作りましょう。消化にいい上に、栄養価も高いです』


 大量の食事を作るのであれば、マーケットスキルは自炊が一番安くて済む。


『大鍋に、エルピーガスボンベ……紙の器を大量に用意しましょう』

 

 買い揃えると安くは無い値段だが。一度買ってしまえば、他所でも使うことはできる。大量の食材を購入する。ピニアと二人で大量の野菜を切る。

 私が剥いて、ピニアが切り刻む。

 忍者である事を隠す気があるのだろうか。彼女は宙に浮いた野菜を一瞬でみじん切りにする芸当を見せてきた。


「お姉ちゃん魔女みたい!」

「魔女ではありません。忍者……メイドです」

「あの……あなたが、私を助けてくれたのですか?」

「私はクーナよ。マニルを見かけて、身なりを綺麗にさせてもらったわ。あなたの事を聞いて、治療させてもらったわ」

「私はエレルです。本当に何と言って感謝をすればいいのか……」

「今、食事を用意しているわ。周りの人達にも配るから少し時間がかかってしまうの」

「わ、私も手伝います」


 エクストラヒールで全快したとは言え、栄養不足を補えているわけでは無い。体を動かすための必要最低限のエネルギーしか補えていない。当然、体を動かせば体調を崩してしまうだろう。


「まだ休んでいて」

「申し訳ありません……」

「私の事は秘密にしてくれればそれで良いわ」


 食材には火が通りやすいので、量に対して時間は掛からなかった。マニルに周辺の住人を呼んできてもらう。

 その前に、私はマーケットスキルで狐のお面と大きなマントを購入した。目的はもちろん姿を隠すため。側からみればとても怪しいが。これからちょっと、騒ぎになるような事をする為にも必要だ。


「はい、次の人」

 

 病気や怪我で働けない人たちにエクストラヒールを掛けていく。それからピニアに食事を配膳させる。

 治療と配膳の受け取りをすると、みんな泣きながら感謝の言葉を述べていく。


 貧民街の惨状が見ていられないのもあるが。目的は貢献度という物だ。以前のスタンピードで上がった貢献度は、誰かを救った際に得られるのでは無いか。魔物から女の子を救った際にそれは上がった。

 こうして、炊き出しでもして。働けなくなった体の人達を癒せば、貢献度も上がるのかもしれない。

 まだまだ貧民街も広いので、一部の人達しか助けられないが、たまにここへやってきて、治療するのも良いかもしれない。

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