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4.盗賊デリバリー!

「くっ………んんっ」


 薄い布のカーテンから明るい日差しを透過して部屋中をを照らしている。背伸びをすると、全身が突っ張るような軽い痛みと、血の流れが良くなったような気持ちよさが走る。

 決められた通りのスケジュールを過ごす私には、メイドが起こされる事が殆どで、自分で起きる事が久しぶりに感じる。

 自然と目が覚めて起きるのは、とても気持ちが良い気分だ。


『お目覚めですか。クーナ、おはようございます』

「おはよう、マル」


 寝巻きを脱いで、普段着に袖を通す。生まれて12年、3度目の自身の手で行う着替え。シャツのボタンが上手く入らなくてもどかしい。

 だけど、一つ入る度に嬉しい気持ちになる。早く、着替えを終わらせて外に出たい。とは言え、端ない格好で外に出るわけにもいかない。1日が台無しになってしまう。

 バックとガンホルスターを取り付けた、大きなベルトを腰に締め付ける。


「マル、おいで」


 マルはそのまま連れて歩いても、一風変わったゴーレムと思われるくらいで、黙っておけば変に思われる事はない。魔導技師がスキルレベルを上げる為に連れて歩く事は一般常識らしい。

 テイマーで魔物を連れている場合は、冒険者ギルドで登録が必要らしいので、ゴーレムを装った方が楽だ。

 

『クーナ、準備は整いましたか?』

「ええ、まずはソックさんのところに財布を届けに行きましょう」


 昨日の夜、財布に刺繍を施した。料理や洗濯は一切出来ないけれど、刺繍なら得意だ。

 マルに刺繍のデザインを集めた本があると勧められ、マーケットで買い物をした本を参考にした。

 太い糸の変わった布地で勝手が違ったけれど、我ながら完璧な仕上がり。


 私がドアを開けて歩くとマルがコロコロと転がって付いてくる。


「クーナちゃんおはよう!丁度、朝ごはんの準備が出来たから呼ぼうと思っていたんだけど……今日はお出かけ?」


 私が部屋を出ると、廊下をお世話になっている宿屋さんの娘さんのハイラさんが歩いていた。

 可愛らしいくて、元気な方。私は線が細くて、暗いと言われる事が多かったので、ハツラツとした態度は羨ましい。


「あら、ハイラさん。ごきげんよう。ちょっと東門でお仕事をされている門番の方に、依頼されていた品があったので。お仕事が忙しくなる前に届けてこようと思ったのよ」


 早朝と昼は業者と冒険者が多く、門番のお仕事も忙しくなるので、今ぐらいの時間がソックさんに迷惑をかけずに済むだろう。


「んー。そうだね!それが良いね。東門ならすぐそこだし。朝ごはんは食べるよね」

「ええ、帰ってからすぐに頂くわ。昨日のディナーはとても美味しかったから、楽しみだわ」

「クーナちゃんってお嬢様みたいだよね。上品だし、服も可愛いの着てるし……もしかして……貴族だったり?」


 不味い。適当に何か言って誤魔化さなくては。


「ありがとう。でも、違うわ。村で先生をしていた方がメイドのお仕事をなされていたのよ。私はただの辺鄙な村生まれの田舎者よ」

「王都に比べたらここも田舎だけどね!父さんに聞いた話だと、ここから馬車で一週間も掛かるんだって。一度でいいから行ってみたいな」


 王都……ね。多分、私はこの街で一度休憩する予定だったのだろう。馬車が襲われた場所から、街道を真っ直ぐ進んでここに着いたから、多分そう。

 もしかしたら家の者が、この街に私を探しに来るかもしれない。そうなったら……あまり喜べる状況ではないわね。

 あの家に私の居場所は無いのだから。




「ソックさんごきげんよう」

「クーナちゃんだったね。おはよう。どうかしたのか?何か困り事でもあるのか?」

「頼まれていた財布を届けに来ました」


 リュックサックからソックさんに頼まれていた財布を、プレゼント用の箱に包装紙で包んだ物を差し出す。


「ああ、助かるよ。すぐにお金を渡したいのだが……。門の通過で一人審査をしなくてはならないんだ。その後でもいいかい?」

「ええ、構わないわ」

「すまないね」


 ソックさんは門の反対側まで歩いて行くと、馬車の御者に話しかける。


『クーナは猫が好きなんですか?』

「ええ、良く庭に遊びに来ていた子が居てね」

『猫と犬は私をおもちゃ扱いして来るので……クーナ、銃を構えて!』


 マルの警告を聞いて、私は拳銃のグリップを抜いて、ホルスターから引き抜く。門の方からソックさんの叫び声が聞こえる。


「クーナ、そこから離れろ!」


 ソックさんがいる方へ視線を向けると、剣を抜いて、見知らぬ男と対峙していた。

 男はソックさんへ切り掛かる、上段、下段と素早く切り替える、連続した連撃を放つ。ソックさんはそれを防ぐが、切り返す余裕が無さそうにも見える。


「マル……撃った方がいいかしら」

『ソックに当たる可能性があります。敵がソックに敵わない所を見ると、クーナを人質に取ろうと考える可能性があります』

「ソックさん、全然攻撃していないけど……」


 ずっと敵ばかりが攻撃して、ソックさんはそれを剣で防御してばかり。ソックさん……負けたりしないよね?


『剣筋がブレていない事を見ると熟達した剣士と分析できます。彼の仕事は人を殺す事ではなく。生存した状態で犯罪者を捕縛して、情報を得て。未然に別の犯罪を防ぐ役も担っていると思われます』

「皆の為に身を挺して治安を守る、素敵なお仕事なのね!」

『そうです。ゴム弾のリロードを提案』


 昨夜、マルから購入を勧められていた、非殺傷の拳銃の弾を用意していた。

 シリンダーを開いて、装填してあった弾丸を全て排出する。スピードローダーに取り付けたゴム弾を、シリンダーに空いてる6つの穴へ一度に刺して、ロックを解除する。

 

「とても便利な道具ね。考えた人は素晴らしい人ね」

『非力な女性や子供が身を守る為に使う……と考えたら、間違いは無い、かもしれませんね。手放しで褒められる道具ではありません』


 確かに悪いことに使おうと考えている人間が、拳銃を持ってしまったらと考えると、それだけでゾッとしてしまう。

 私もこの強力な武器に溺れてしまわないようにしなくては。


『ゴム弾の予備は用意していますか?』

「撃てなくなったらこわいもの。ちゃんと用意してあるわ」

『敵がソックから離れ、こちらへ向いた瞬間に全弾射撃。50mは距離があるので、余裕を持って5秒以内にリロードという流れはどうでしょうか?』

「わかったわ」


 剣同士がぶつかるひっ迫した状態から一転、敵がソックさんから距離を取った。私の方へ走ってくる。

 この間は馬車の扉越しに撃ったから何とか撃てたけど。目の前にいる人間に向かっては撃つことなんか出来ない。

 今拳銃の中に入ってるゴム弾なら簡単には死ぬ事は無いと考えたら、トリガーも軽くなる。

 狙撃する時は、撃鉄を起こしておくと狙いやすくなるとマルが言っていたのを思い出して、親指で起こす。

 サイトの後ろの照尺の窪みと、バレルの先端に付いた照星を、敵に狙いをつけて発砲する。パンっと破裂音が鳴ると、男が倒れて、ゴロゴロと地面を転がって悶絶している。

 後ろから追っていたソックさんが腰に付けていた捕縛用の縄を手に取り、男の身体に巻きつけている。


『ナイスヒット!追撃の必要はありませんね。ソックに任せましょう。クーナはガンナーとしての素質がありますね』

「こういう細かい事は得意なのよ」


 ソックさんが他の衛兵に犯罪者を引き渡すと。私の方へやってきた。


「待たしてしまったどころか、危険な目に合わせてしまうとは……申し訳ない。変わった魔法だが、あの距離を一撃で当てるとは凄い精度だな」


 マルには拳銃の事は誰にも教えるなと言われている。警告でも提案でもなく。絶対にやめろと強く言われた。


「えっと……まぁそれなりに魔法の練習はしておいたので」


 私が使える魔法は、竈門に火をつける程度とコップ一杯の飲み水を作る生活魔法の他に魔法は使えない。


「無力化させたとして報奨金も出る筈だ。明日またきてくれ」

「え、でも捕まえたのはソックさんで……私はあの男性を痛がらせただけよ」

「そこまで大きい額でもないよ。それに街に逃げ込まれなくて済んだから、助かった。しかし……困ったな。」

「どうかしたの?」


 ソックさんは馬車の方を向いて言った。


「あの馬車はここに停留予定のリェース家という隣国の貴族が所有している筈の馬車なんだが……盗賊に盗まれていてな」

「それは……心配ね……」

「乗っておられた方はまだ幼い筈だが……無事だといいが。奴からきっちり話を聞いてやらないとな。明日また謝礼を出すから明日またここにきてもらっていいかい?何度もすまないね」

「構わないわ……」


 やっぱり私が乗っていた馬車だった。中にいた筈の貴族令嬢の行方は今ここにいるのだけど。家には帰りたく無い。でも、私のせいで外交問題に発展して、戦争の引き金になってしまわないか……不安だわ。




ゴム弾を至近距離で撃つと致命傷になる可能性もあります。てっぽうは怖いね!(>_<)

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