3.元令嬢、初めて街を歩いて、交流する。
作画がすごく楽そうなマルさん。分解するととても難解に!
貴族であるリェース家の四女である私は、侍女や護衛を連れずに街を歩いたのは初めてだった。街にある何かに興味を持ったとしても、それを表に出す事は良しとされていなかった。
『ユーラシアの文化と酷似している所がありますね。レベルや魔法と魔物の有無で文化の過程に相違がないのか。それとも、人間の創作意欲という力なのでしょうか?』
縛る物が無い今の私のように、マルの視線は何処に向いているかは分からないけど、街の見る物全てに興味を示している。
この世界よりも発展した文明を持っている世界から来たマルが楽しそうにしているのは嬉しくもある。ただ、生家の領地では無いのがちょっと悔しい。
「そうね。人の為に何かを作ると言うのは立派な事だわ」
『私を作ったマスターも立派な方でした。……商業ギルドを確認』
道なりに転がっていたマルは、左手側にある大きな建物へと転がって行った。壁面には大きな文字で商業ギルド連合コストル支部の看板が掛かっていた。
「子供だからって、追い出されないかしら……?」
自分から行動を起こすのは初めての経験だった。マルは選択を私に委ねている。だから、自分でこれからどうするかを決めなくてはならない。ギルドの登録はその第一歩。
私は大人の方々が並ぶ列に混じる。マルとこれからの事を相談しながら、順番が来るまで時間を潰した。
「こんにちは」
眼鏡をかけた大人の女性。笑顔もなく、愛想もないから少し怖い。けれど、仕事をきっちりとこなしそうな雰囲気がある。
「ご、ごきげんよう。ギルドカードを作りたいのだけど」
「新規の登録ですね。他のギルドカードはお持ちですか?」
「持ってないのだけれど……登録が出来なかったりするの?」
「情報を統合するだけですので問題ありません。登録費用として500カクルが必要となりますがよろしいですか?」
財布から銀貨を四等分に分けた価値を持つ、クォーター銀貨を2枚取り出す。
「頂戴します。では、こちらに名前を他に記入出来る所を全てお願いします」
名前……平民として活動するつもりの私に家名を書く事はもう無い。クーナの名前だけを記入する。
出身地を書く所もあるけれど、名前の無い村とだけ書いておこう。スキルの有無なんかもあるけれど、鑑定スキルを持った方にお金を払って調べて貰わないと分からない事もあるので、知らない方々も大勢いる。
一通り書き終えた羊皮紙をギルド職員の方に渡す。
「……とても綺麗な字ですね」
貴族教育の一環で字を書く練習は常日頃からやらされていた。出来て当たり前のことだから、褒められるのは初めてだ。素直にこう言われると嬉しい。
「ありがとう」
「写本ですか?」
職員が言っているのは写本を作るために字の練習をしたのかという事。本の複製を作るには万人に読める字が書けないと買い取って貰えない。貴重な紙を無駄にするだけ。
でも、自分で一通り揃えて写本を作ると大きな儲けになる。平民でもそれなりの儲けを生み出せる仕事だ。
私はマーケットスキルがあるから別の仕事も考えているけれど。それが見つかるまで写本を作るのも悪くない選択だ。
「はい」
「図書館の紹介は補償金2000カクルが必要となりますが、いかがですか?」
「お願いします」
私は懐から再び財布を取り出して、銀貨を2枚渡す。2400円だからちょっと大きい出費。とはいえ、図書館を利用できるのは大きい。
「それではプレートが出来ましたので、こちらをお持ちください。紛失等で無くされた場合は速やかに各地ギルドに再発行の申請をお願いします。その際、記録の再申請に手数料が発生しますのでご了承ください」
預けたお金の情報はギルドカードに記録されているけれど。無くすと、ギルド同士で結ばれている馬車を使って記録を追わないといけないので、遠くの場所で無くすと、その距離に応じてお金が発生してしまう。
お金だけじゃなくて、時間まで消費してしまうので無くさないようにしなければ。
「それではご利用ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
本当にお待ちしているのか不安になりそうなぐらい無愛想な方だけど、どの方に対しても同じ態度だった。他のギルド職員は愛想が良いけれど、それでもこの窓口に並ぶ人は多い。
それだけ信用されているのかな?
私は窓口を後にする。
「あ、ちょっと待ってください。宿はお決まりですか?」
「いえ、まだこの街にはきたばかりなの」
「それはよかった。信頼できる宿屋を紹介しますが、いかがですか?」
愛想が悪い彼女の窓口に人が多く並ぶ理由が分かるような気がした。
「それは助かるわ。幾らぐらいかしら?」
「一泊500カクルですが、連泊で400カクルの所があります。店主は強面ですが料理も上手く、防犯の面でもおすすめです」
「是非紹介して欲しいわ」
「…………いらっしゃい」
「ひぇっ……」
ギルド職員に紹介された宿屋に入ると、私の身長の倍はありそうな大男が私を睨んできた。筋肉盛り盛りの、丸太のような太い腕。親の仇を見つめるような鋭い眼。
強面と聞いて覚悟を決めていたのだけれど。
想像以上に怖かった……。慌てて、ホルスターに仕舞ってる拳銃を抜く所だった。
「父さん!お客さん来たら立っちゃダメって言ってるでしょ!お客さん怖がっちゃうじゃない!」
エプロンを身に付けた女の子が一人、カウンターの向こうの部屋から出てきた。
正直、店主の方が座っていても同じ反応になると思うのだけれど。
「すまない…………」
「ご、ごめんなさい。私も驚いてしまって。部屋に開きはあるかしら?」
「あるけど……今日は連泊用の部屋しか空いてないんだよね」
「それじゃあ、お願いしようかしら」
「連泊なら一週間から、1日400カクルで先払いだよ」
大銅貨で支払えば一枚、30円で50カクル。20枚が600円で1000カクル。大銅貨で払えば銀貨を買うための円の消費が半分で済む。
とは言え全部、大銅貨で払うのは嫌がられてしまうだろう。
銀貨2枚と大銅貨16枚を渡した。
「銀貨で払ってもらえると助かるよ!両替するのにも手数料取られちゃうからね。冒険者だとその辺だらしない人が多くってさ」
「あら……私も今度から大銅貨で払おうかしら?」
「それは…………困る」
「っひゃ!」
店主の目つきが、より一層鋭くなった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!冗談です!そんなことしません!」
「父さん!冗談なんだから変な反応しない!ごめんね……アレでも困った時の顔なんだよ」
「だいじょうぶよ。怖くなんかないわ!」
どういたぶって殺すか悩んだ時の顔じゃ無いの!?さっきから足が震えているのだけど!
「ああ……すまない。うむ……良かったらコレを……」
「ひっ」
店主がカウンターテーブルの下で何かを探して、熊のような太いその手をヌッと私の方へ差し出す。指先にはリボンの付いた袋に詰められた何か。
「クッキーよ。こんな怖い見た目してるけど、お菓子作りして孤児院の子供達に配るのが趣味なのよ」
すっごく優しくて良い人だったのね!見た目で判断して怯えていたことが申し訳なく思ってしまうわね。砂糖は安い物でも無いのに。
「ありがとう。砂糖って結構お高いでしょ?」
「砂糖が少しでも……塩をちょっとだけ入れると……甘さが強くなる」
「塩っぱくならないのね……不思議ね」
「俺も何故か分からない……不思議だ……」
「部屋は一階、そこの部屋。これが鍵だから、長い時間留守にするなら預けて貰っても良いからね。基本留守の時、貴重には責任を持てないから」
平民は自分を守るのは自分だけ。護衛に囲まれて過ごしてきた私には戸惑いのある環境だけど、そうしなければ痛い目に遭うのは自分自身だ。
「ええ、ありがとう。お世話になるわね。まだ寝るには早いし、出かけてくるわね」
「夕食は日没後からだよ。その後に湯浴みの支度をするから、準備が出来たら呼ぶよ」
「お風呂があるのね!」
「いや……貴族じゃないんだから。お湯を用意するから布で体を拭くんだよ。父さんが綺麗好きでね。使いたい人はサービスで用意してるの」
お風呂に入れないのは残念だ。でも、身体を綺麗に出来るのは、とても助かる。
森の中を走ってたくさん出た汗を吸ったドレスから、マーケットスキルで買った服に着替えたから。まだマシだけど。
「本当は……風呂を作りたい……」
「そんなお金ないでしょ?」
「……うむ……風呂はいいぞ?」
宿から出て、ソックさんの居る門まで向かう。商人ギルドのカードを見せて、補償金の受け取りをしなくては。周りを見ると、日没前で閉店の準備をしているお店がチラホラと見える。
『夕焼けの色はどこの世界も同じですね』
「ええ……綺麗ね」
『そうですね……綺麗です』
家にいた頃と違い、明日が全く予想できない。とても新鮮な気持ち。明日になったら何が起こるのか。楽しい事も、辛い事もあるかもしれないけれど。
だけど、とても楽しみ。
前話でクーナが門番のソックおじさんに敬語を使っていましたが、修正しました。クーナさんは貴族教育が根付いているので、平民に対しては敬語を使いません。
元々平民同士だと敬語を使わないのが一般的なので功を奏している訳ですね。
ちなみにクーナの持ってる銃は9mmでも38口径です。9パラはリボルバーに使えません。




