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21.マルと少女会議

『こういった場所でバトミントン。屋外レジャーの醍醐味ですね』

「ねぇマル」

『何ですか?』

「バトミントンというのはあんなに激しい遊びなのね。故郷の人たちはもっと強いのでしょう?」


 バトミントンのラケットを持つ、ソックさんとラルンさんが対峙して、シャトルという羽根の付いた物を交互に打っている。


『私の知る限り、あの様な危険な遊びでは無いですね。ネットが無いからってめちゃくちゃです』

「そうでしょうね!あれはどう考えてもああやって使う物じゃないでしょ!?」


 父親の本気について行けず、不貞腐れているルレ。


「やるな!技を使わしてもらうぞ」

「いいだろう、受けて立つ!」


 明らかに二人は高揚している。


「【ファストスラッシュ】!」

「あ……シャトルが粉砕した……」


 ソックさんが斬撃技を使った瞬間、羽根の部分がもぎ取れた。頭に付いていた球がラルンさんへ目掛けて飛んでいく。


「【エアレジスト!】」


  ラルンさんがラケットの前方に魔法陣を出現させた後、球を打ち返す。羽が無くなって見えにくくなったことも手伝って、目で追えなくなってきている。


『空力抵抗を減らす魔法ですか……銃にも応用できそうですね』

「私、魔法の才能がないのよね。使えるかしら?」

「【ファストスラッシュ!】」

「あ……弾も砕けたのだわ」


 皆で遊んでいた所に、森の中へ行っていたピニアが帰ってきた。獣化スキルで変身してからというもの、あまり私に近寄ろうとはしてこない。

 殆ど日に浴びたり、黙って森の中に行ったり、寝ているだけだ。

 

「ピニアおかえりなさい」

「きゃーん」

「森の中で何をしてたの?」

「きゃーん……」

「何を言っているのか分からないわね……」

「一人で森の中に行くと言ったら野……」

「お花を摘みに行っていたのね!!!」

「きゃん!」


 同じ女性でも、ラルンさんは冒険者で抵抗が無いのかもしれないけれど、私達はそんなはしたない事を口に出したりは出来ない。


「ご令嬢のような反応だな。いや、普通の女の子はそんなものだったか?」

「クーナの反応は過剰すぎとはおもうけど、好き好んで口に出そうとはしないわね」


 元々ルレのを誘ったのは、穴を掘る時に魔法で土を柔らかくしてもらう為に誘ったのだ。

 結局、ソックさんが狂った様にたくさん穴を掘ってくれたので、私とルレの仕事は無くなった。

 別に寂しいと思って誘ったわけでは無い。

 ピニアとマルもいるのでそんな事はないのだわ。出発前に寝れなかったのは、睡眠薬で眠らされすぎたせいね!


「ピニア……私の事避けてる?」


 ピニアはふさふさとし金色の毛で覆われた頭を左右に振った。


「きゃん」

「鼻が敏感すぎて……ああ!臭いのか!」

 「そ、そんな!私はドラム缶風呂に毎日入っているのに!他のみんなを避けていないのに、私だけ避けるって事は私が臭いの!?」

「きゃ!?きゃーーーん」

「違う。いい匂い過ぎて困っている。ああ……そういうこと……」


 不快な匂いでなければ問題ない。しかし、困るというのは何故だろう?考えてみても思い当たる節がない。


「なんて言っているの?」

「うーん……クーナのことが大好きと言っている様だ」

「私もピニアの事は大好きよ?」


 お父様から見放されて誰も信じられなくなってしまっていたけれど。ピニアはずっと私の事を考えていてくれて、一緒に居てくれることを選んでくれた。

 

「ははは……痛い、痛い」


 ラルンさんはピニアに前足でペシペシと顔を叩かれている。

 今日はキャンプ最後の日、ピニアが元に戻れる日だ。だけど、まだ戻る気配は無い。それは夜になってもだった。本当にマルの言う通り、ピニアは元に戻れるのだろうか。


「それ私が育てていた肉なのだわ!」

「言わないとわからないじゃない!そこまで怒るなら返すわよ!」

「ルレの食べかけなんか要らないのだわ!」


 最後のバーベキュー。ルレと騒げるのも今日で終わり。明日からは仕事をしなくては。


「冷えたビール……物凄くうまいな」

「ああ……今度ギルドの酒場に冷やす様頼もうかな」

「氷魔法使える奴なら沢山いるからな……なぁルレ。氷魔法の魔導書買ってくるから」

「氷魔法ね、私も夏場に使えるからいいけど」


 魔導書は目を通したことがあるけれど、私には魔法の才能がないので内容が理解できなかった。生活魔法は使えるから困らないけれど。

 読んだ者に固有魔法を授けるスクロールであれば私でも上級魔法でも覚えられる。


 マルは私のスキルなら、この世界に存在している物を買えると言っていたけれど、買えるのは通貨だけ。それ以外は地球の物だけしか購入出来ない。

 

 スキルレベルが上がれば買える様になるのかしら?


「ふぃ〜〜〜癒やされるのだわ〜〜」


 ドラム缶という鉄の筒に水を入れて沸かすお風呂。リェースの屋敷にある大浴場とは違って狭いけれど、私の体を温めるのには十分だ。


「そんな毎日入っていたら病気にならない?」

「らしいわね。だとしても私は風呂を入る事をやめないわ!!!」

「そ、そう……」


 ルレは髪をタオルで拭きながらそういった。

 マルが言うには嘘で、毎日風呂に入っても病気にはならないと教えられた。

 逆に洗うと病気になりやすくなる場所はあるとも言っていた。私は元からそんな所は洗わないので心配はない。


「あの……お嬢様……少しよろしいですか?」

「ピニア!元にもどったのね!」


 私はドラム缶風呂から出ると、仕切りから飛び出してピニアの元へ駆け寄る。


「お嬢様!服を!服を来てください!」

「あ、ああ!私ったらはしたない……」


 よく見たらピニアも服を着ていなかった。


「ピニアも入りましょう?」

「え!そ、そんな狭い所にお嬢様と一緒に入るだなんてそんな……」


 ピニアに湯浴みで体を流した後、ドラム缶風呂の中に入ってもらった。後で、ピニアの服を買わなくちゃ。いつもメイド服を着ているし、メイド服を買った方が良いのかしら?

 私も風呂桶の中に入る。


「暖かいですね」


 さっきピニアのお尻に傷があった。獣人でいう所の尻尾の付け根。獣人ならあるはずの尻尾が彼女にはなかった。

 ピニアはいつも私がお風呂に入っている時は外にいるので、一緒に入るのはこれが初めてだ。


「……」

「……尻尾がない理由が気になりますか?」

「聞いても良いの?」

「私がクーナ様の専属メイドになる為に邪魔だったからです。後悔はしていません」

「何でそこまでして私に尽くしてくれるの?」

「クーナ様が私を助けようとした時、獣人なんか助ける必要はないと言った使用人にお嬢様が怒っていたからです」


 あの時は必死で獣人の事を理解していなかっただけだ。幼い頃だからよくは覚えていない。それに私は、母が亡くなった後、教会の教えを盲信していた。獣人は穢らわしい、悪い人間が転生して生まれてくる存在だと信じて疑わなかった。



「でも……私、獣人族の事、悪く思っていたのよ。ピニアが傷つくとも知らないで」

「申し訳ありません。クーナ様の側にいるためには公にする事は出来ずにいました。今は……怖くないのですか?」

「あんなピニアの事を悪く言う教義なんて、御不浄にボットンしてやるのだわ!」


 あんな所、回復魔法を手に入れる為に利用していたのだもの。結局、私は取得出来なかったから役立たずなのだわ!


「あのさ大事な話ししている所悪いけど、湯冷めしそう……中、入っていい?」


 想定外のピニアも入っているが、ドラム缶風呂は小柄な私達三人であればなんとか入れる大きさだ。


「ごめんなさいね。入って」

「ん……狭いわね。あの大きい狐の?髪型が違うから気づかなかったけど、お父さんに切りかかっていた人よね?」

「クーナ様のご友人でしたね。専属メイドのピニアです」

「ルレよ……クーナ、あなた貴族なの?」

「そんなわけないのだわ!商人!商人の娘なのだわ!」

「嘘が下手だわ。メイド服を着ているのは貴族の関係者という証よ。この国では見ない物だし。まさか……リェース領主の娘、深窓の令……嬢……」


 リェースにそんな呼ばれ方をする姉妹がいたとは。知らなかった。


「お姉様か妹達の誰かの事かしら?」

「……クーナ様の事ですね。嫁に出したくないと旦那様は、クーナ様を人目の触れない様にしていましたから」


 政略結婚に出すのにも恥ずかしい、役に立たない娘だと言いたいのかしら、あの父親は。どこまで私の事が嫌いなのか!

 

「リェースの領主って、私のお父さんみたいな人なのね……でも、ショックだわ……吟遊詩人から世にも美しい令嬢がリェースにいるって聞いて、憧れていたのに……」


 お父様とソックさん。全く似ていないと思う。ソックさんの方が娘想いで優しい。


「ルレ様はご令嬢の様な喋り方をされていますね。クーナ様の影響なんですか?」

「クーナを想像した姿書きとか物語が、そこら辺に売られているわ。昔、コストルで流行っていたの。想像上のクーナに憧れて癖になってるの。まさか市場で、その深窓の令嬢と殴り合いの喧嘩をするとは思わなかったわ……」


 お姉様達の方が男性に好かれているし、流行り物に詳しい。私は容姿で、そんな話題になる様な人間ではないと思うのだけど。


「……それは書店に行けば買えるのですか?」

「ええ……欲しいの?」

「いえ……まぁその……一応話が主人の評判を落とす物ではないかの確認を……」

「ピニア!これから貴女は私を平民として扱わないと駄目よ」

「なぜですか?」

「元貴族だって知られると余計な問題を呼ぶじゃない。これから敬語と敬称は禁止よ」

「そ、そんな!クーナ様!」

「クーナ」

「クーナ…さん」

「よし。さて……そろそろ上がりましょうか?」


 ピニアの寝巻きをマーケットスキルで購入しないと。何を買うかはもう決めてある。


「はい、ピニアのパジャマよ」

「こ、これは……」


 彼女に渡したのは、狐のパジャマだ。


「こ、これは恥ずかしいというか……私はメイド服があれば……」

「まさかリェースに取りに行くの?マルの故郷で作られたメイド服があるから、明日用意しておくわ」

「おじょ……クーナさんはこの寝巻きを何処から出したので……」


 相当喋り辛そうにしている。ピニアには悪いけれど、今後の為にも慣れてもらわないと。


「テントで寝る前に全てを話すわ」

「私、お父さんのテントで寝た方が良い?」

「ルレにも聞いてほしい。実は相談したいことがあるの」


 テントへ向かうと、マルは外で望遠鏡を空に向けていた。空の星でもみていたようだ。


『この惑星には月のような衛生はあるが。銀河系天体との類似性は見られず。年代測定は不可能……起動時の時間は2032年12月31日から時計が止まっている。私は……何故、独り言を?思考処理なら内部で処理すれば良い。クーナに購入直後から演算速度に不具合もある』

「マル?」

『お帰りなさいクーナ』


 マルは故郷が恋しいのだろうか?マルは物だって言っているけれど。マーケットスキルはマスターさんと過ごした、目の前にいるマルを買う事は出来ない。買えるのは何の記憶も無い、別のマル。

 もしかしたら、マルが人と同じような体を持ったとしたら?マルの故郷にはホムンクルスのように人間と見分けの付かないロボットは存在しない。

 でも、魔導を応用して、錬金術と科学を組み合わせたら。作れるかもしれない。


「私は盗賊を倒した後、マルと一緒にコストルに着いたの」


 私は今までの経緯を二人に打ち明けた。元々、地球の物は目の前で見せているので、すんなりと受け入れられた。


「そうか……それで旦那様はクーナ……さんを」

「酷い父親ね!クーナを他国の貴族に嫁に行かせるなんて」

「違う、旦那様は一言も婚姻とは言っていない。他所の貴族に面倒を見させる。と言っていた。クーナさんをリェースから離れさせる理由があるはず……」

「婚姻以外何があるというの?」

「クーナさんの存在はリェースの最大機密。その為に忠誠を誓えるか試されました。理由はマーケットスキルを持つクーナさんを王家や貴族に知られないようにすること。スキルの事を領主様が知らないはずがないのです」


 まさか……そうだったとしたら……役に立つと思っていたこのスキルがお父様の役に立てると、僅かな期待を持っていた。

 


「だとしたら私は……お父様に重荷でしか無いじゃ無い!」

「消息が絶たれた時にクーナさんを心配していたのは領主様も同じです。……軍馬って幾らか分かりますか?」

「知らない……」

「優秀な軍馬ならもっとしますが、彼女は大白金貨三枚……三千万ミームルです。あの人は私を一刻も早くコストルに行かせる為に「駄馬は要らん」と言って、私に譲ろうとしたのです」


 相変わらず父は口が悪い。大事にしている馬をけなすなんて。ピニアに悪いとは思わないのだろうか。


「他の貴族に渡って、障害になるのが嫌だったのでしょう?」

「リンドル領主には会いに行ってませんね」

「私が向かう予定の場所って……」


 リンドル領はコストルを内包する領土だ。


「コストルです。そこで領主様とお会いする予定でした。奥様の姉……クーナさんの叔母さまです」


 確かに、それが本当なら婚姻な訳がない。ヴェゼラル領主は女性だ。子供は娘が一人。結婚は出来ない。


「わかったわ……。この事は頭に留めておくわ。よく考えさせて」


 お父様は全て私の為に?分からない……。あの人が私に愛情を感じた事なんて一度もない。ピニアの言う事だけど、素直に受け止められない。


『つまり魔導具は用途に合わせた素材に魔法陣を刻み、魔力供給をする事で機械と同じ様に動くわけですね?』

「魔導回路がハンドウタイと同じ様に働くという事は分かったわ。でも、雷で動かすというのがわからないのよね。不便過ぎない?魔力から魔法で雷を作って動かしたらエネルギーロスが起きない?」

『ルレの言う通り、発電効率や変換効率にロスが発生します。大気にエネルギーがあるような物なので……無尽蔵と変わりませんね』

「違うわ、時間を掛ければ体内に取り込む事ができるだけで、使える量は限られてるの。魔力回復ポーションは魔力回復を一時的に早くするための薬なの」


 暇を持て余したマルとルレが、難しい話をしているわ。機械について少し勉強はしたけれど、詳しい話はさっぱりなのよね。


「ルレ、錬金術と魔導をマルの技術を組み合わせて。ホムンクルスのように体を作れないかしら?」

「ホムンクルスはだめ。あの力に魅せられたら、今度こそ人間も魔族も居なくなる。殺された人がどれだけいるかわかって言っているの?」

「勘違いさせたならごめんなさい。マルに人と同じような体を作ってあげたいの」

「言い方が紛らわしいわよ……」


 二足歩行のロボットがどう言った物か、ルレに分かりやすく伝える為には、ホムンクルスに例えると分かりやすいだろうと思ったら怒らせてしまった。

 それほどに、ホムンクルスは禁忌の技術なのだ。


『クーナ、私の体を作る気ですか?』

「ええ、マルにも肌で何かを感じたり、味を感じたりするような体を作ってあげたい。一緒に何か食べたり、笑ったり出来るのよ?」

『それは……楽しみです!』

「楽しみにしている所悪いけど、まずは王都に試験しに行かなくちゃね。王立学園は難関だから受かるか分からないわよ?でも、あそこの機材なら大抵の事はできるわ」


 学校……私行った事ない。もし、通えるなら通ってみたい。お金貯まったら、少し考えてみようかしら。

 ルレと同じ学校に行けたら、もしかしたら楽しいかもしれない。

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