第十二話 祈り
私たちは
生まれ育った町を離れて
遠い遠い、とても遠い所へ泳いで来ました。
だけど
やっぱりここも、とても暑くて
食べられるものが少ないので
もっと北へ行かなければならないと、大人たちが話しています。
ここに来るまでに
私たちの群れは、ずいぶん小さくなりました。
私たちは、どこまで泳げば良いのでしょうか。
私たちが生きていける町は、あるのでしょうか。
私たちは
身体がとても小さいので、
魚たちのように、遠くへ行けません。
全身がひりひりして
息が苦しくて
一生懸命、水を蹴っても
以前のようにうまく泳げません。
どうすれば良いのか分かりません。
最後の力を振り絞って産んだ
私の愛しい卵たちは皆、溶けてしまいました。
私たちは、どうすれば良いのでしょうか。
私たちは、どうすれば良かったのでしょうか。
私たちは
この海が大好きでした。
多種多様な魚たちが泳ぎ
柔らかなイソギンチャクたちがゆらゆらと舞い
鮮やかで尊い命にあふれていた
この海が大好きでした。
今はもう
命の声はひとつも聞こえません。
私と話してくれるものはありません。
家族は皆
白くなって沈黙してしまいました。
お母さんが最後のご飯を分けてくれてから
どれくらいの時が経ったのか
もうお腹が空きすぎて、分かりません。
私たちは
永い時を生きてきました。
たくさんの物語を見てきました。
様々な困難を乗り越えてきました。
あなた方が想像もできないほどに。
だけど、もう終わりのようです。
小さいものから消えていく。
大きいものも時間の問題です。
あなた方も例外ではありません。
今、この海には
魚たちの代わりに
あなた方が作った物が浮かんでいます。
あなた方が放出したものが
至るところに積もっています。
水の中にも。
土の中にも。
私たちの身体の中にも。
あなた方の身体の中にも。
私たちは手がないので
取り除くことができません。
足もないので
ここから逃げることもできません。
ああ、今日も暑い。
また、身体が崩れていく。
あなた方は
まだ気づいていないのかもしれません。
思い出して。
かつてこの海で生まれた命を
その身に受け継いでいること。
どうか、手遅れになる前に。
どうか……
「さかな達」を読んで下さってありがとうございます。
「ひとり達」をもう少ししたら再開するので、そちらにも遊びに来てもらえると嬉しいです。




