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龍の巣 14


 ジークさんがトドメをさした龍は、ジャールさんたちによって調べられる。

 寸法や特徴、そして肝心のエーテル器官。

 解体自体はまだだが、隅から隅までをメモに書き残していく様は、まるで奴を丸裸にしているよう。

 いやまあ、初めから龍は裸だから、その例えは不適切ではあるんだけども……。

 ともかく、特異個体の龍はここから研究され尽くすはずだ。


「あの龍のエーテル器官は、調べられたらどこへ行くんでしょう」


 僕はエリッサさんに聞く。

 

「並の物、最初に倒した奴のエーテル器官などは、異常がなければ一般の業者に卸すが、今回の反射はさすがに王国で管理せざるを得ないだろうな。珍しさもそうだが、魔法を問答無用で反射するという特性は、乖離の獣王にすら匹敵するほど強い。誰かの所有物とするより、国力として運用するべきだろう」


 なるほど、国のために使うか。

 確かに誰かの手に渡れば、奪い合いすら起きかねないほどに強力なもの。

 管理するなら国がした方が一番いいのかもな。


「それにしてもお手柄でしたね。ジークさんが終いと言った時には、どういうことなのか全然分からなかったけど、蓋を開けてみれば完璧な作戦勝ち。すごいな」

「ああ、確かに賞賛を送るべき戦闘だったな。おそらくジークの作戦は数段階で構成されていた」

「数段階、ですか……?」


 初めからアレを狙っていたわけ、ではないと。

 

「まず、第一段階。私の魔法で打ち破れるかどうか」

「さっきの衝撃波のことですよね」

「ああ。奴のシールドは結果からいえば、おそらくどんな魔法でも反射できる。が、もしかすれば、私の全力でなら打ち破れる可能性もあったわけだ。それを確かめるために、彼は私に指示を出した」


 まあ普通のエーテル器官なら、跳ね返せる威力に上限とかがあって強力すぎる魔法は跳ね返せないとかもありそうだもんな。

 それを確かめるために、エリッサさんに全力の魔法を打たせたわけか。


「そして二段階目。展開できるシールドに上限がある可能性だ。面積か、枚数か。どちらにせよ上限があり、無限には展開出来ないパターン」

「なるほど。そういう可能性か」

「それを確かめるために、ジークは私の魔法でまず大きなシールドを展開させ、それを飛び越えた上で、魔法を放った。これも結果からいえば、あれだけの枚数面積を自在に出せるとなればほぼ上限がないと言っていいくらいだが、もし上限があれば。あれば、ジークの嵐火爆撃・終型(スターマイン)で決着が着いていたはずだ」


 展開上限。

 無限に展開出来ない可能性を探るために、わざわざ飛び上がって全方位爆撃を。


「そして、三段階。威力上限も、展開上限も無かった場合。我々にとっては一番考えたくない最悪のパターンだ」

「でも、今回の相手はそれだったと」

「こうなれば、対処法は限られてくる。無限に展開できる全てを跳ね返すシールド。裂け目などない中で奴にダメージを与えるには、今回やったように攻撃を中に紛れ込ませておくくらいしかないだろう」

「紛れ込ませる。龍の額に刺していた氷が、今回は生きたと」

「ジークの行った攻撃は、見事だ。どこの地点からあの攻撃を行う未来が見えていたのか、発想力の賜物と言っていい。番いの龍が守る素振りを取っていたことから、シールド内に片割れを入れることは、ほぼ規定事項だったはずだからな」


 龍の素振りから、シールド内に片割れの死体を匿うことを予測しておいて、かつ、トドメとして放っておいた氷刃を活かすという咄嗟の機転。

 見事な伏線回収のように思えるけど、これは違う。

 だって一匹目の龍と相対してる時に、灰龍の存在は無かったわけだからトドメの氷刃を刺したところまではノープランだったはずだ。

 灰龍が現れ、そこから反射シールドを展開する相手と分かった時に、状況を把握し使える物の中に自身が放った氷刃があることを閃いたのだろう。

 個人的には、計算ずくの伏線回収より、こっちの方が凄いと思う。

 伏線回収は凡人でも後ろから考えて配置すれば行えるのに対し、こっちは状況把握と論理思考、それと経験や天性による閃きでしか行えないものだからだ。

 例えなら、料理みたいだなと思う。

 伏線回収はレシピから材料を用意するのに対して、閃きは既に用意された材料から料理を作っていくイメージ。

 どちらも美味しいものは作れるし、あんまり料理出来ない僕からすれば十分凄いことなんだが、個人的には後者の方がより凄いと思う。

 だって無いものを生み出していく行為。

 ゼロから一を作り出すのが難しいことなのは、みんな一度は思い知らされることだろう。

 それを踏まえて、あの場で何重もの思考を重ね、氷刃の反射連撃という閃きに至ったジークさんは、本当に凄い人だと思う。

 きっと普段から十数個の魔導具を合わせて使うことで、発想力が磨かれているのだろうな。


 ジークさんの凄さは、十分に分かった。

 何重もの作戦を同時に行う彼の手には、今見ると無限の手札があって見える。

 まあ、実際にあの人は無限とも言える魔導具の組み合わせを持ってるわけなんだけど。

 話はひと段落したかのように思えた。

 が。


「だが、ジークの作戦はこれで終わりではない」

「えっ……?」

「四段階目。有り得たかもしれない未来だ」


 有り得たかもしれない未来……?

 まさか。


「片割れを中に入れなかった場合だ」

「そんなパターンも予想していたって……そんな馬鹿な」

「いやジークなら、おそらく考えていただろうな」


 エリッサさんはそういうが、まださらに考えを巡らせていたとはとても思えない。


「じゃあ、どんな策を」

「それは、本人に聞かねばな。私にも分からん」

「……えっ?」

「あくまで第四の策を、彼は練っていただろうという確証を持っているだけに過ぎん」

「……なんだ。驚かなさいでくださいよ」


 あくまで、エリッサさんがそう思っているだけか。

 第四段階。

 もし、氷刃が中に無かったら。

 そしたら、どうやって攻撃を中に。


「でも彼は、終い、と呟いていた。彼が勝ちを口にする時は、確実だ」

「そう、ですか」

「彼の発想力は、土壇場のユーリに近しいくらいだ」

「えっと……それはどっちを褒めてます?」

「両方だ。君たちは、私の想像の二手三手先を行く。きっと私なんかの想定を軽々覆してくれるだろう。そんな若者がいるのなら、未来がとても楽しみだな」


 エリッサさんの想像を、覆すくらいの未来か。


「できるかな」

 

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