クエスト受注
僕が手に取った依頼書は。
「Sクラス 未踏破迷宮 スラハナ 最奥までの護衛。報酬金、四億」
どこかも分からない未踏破の迷宮。
その最奥までの護衛。
「どうしてこれに?」
「えっと、一番は額面。他のSクラスの依頼に比べて低かったから。簡単なのかなって。それに加えて、この依頼書何回か報酬金のところが書き直されてるんだ」
報酬金のところに、赤のインクで何度も訂正線が。
「そう、だね。それが?」
「多分考えられる理由としては、誰も依頼を受けてくれなくて泣く泣く何度も直したか、もしくは、元々下のクラスとかにあって何度も失敗して危険度が上がってそれに伴って報酬金も増額したかの二パターン。仮に前者なら、未踏破の迷宮なのにSクラスが付くとは思えないんだ」
「確かに、誰も挑んでないのに最難関クラスに分類されるのはおかしいね」
「だから、多分後者なんだよ。下位のクラスで失敗して上がってきた依頼なら、多分だけど多少は情報があるはず。今から無策で竜に挑むよりは、情報のある迷宮に潜る方が確実かなって」
僕ができる範囲での推測は、これくらい。
もちろん竜に挑んだっていいんだが、相手が相手だし、右も左も分からないなら、可能性がありそうな方で経験を積んでからの方がと思ったんだ。
「……悠里くん、すごいね」
「何が」
「いや、たかだか訂正線の二、三本でそこまで推測できるとは。しかもギルドの依頼に関して知識がほとんどない中でだよ。すごいなぁ、いつの間にそんな賢くなっちゃったの」
暁音さんは、たまに僕をべた褒めすることがある。
いやまあ、ちょっと冴えてるかもってのは自分でも思ったが、流石にわざわざ言葉にするほどじゃあない。
それにギルドの依頼だって、こっちに来る前にラノベとかで知識はあったし、色々システムとかさんざん妄想してきたんだ。
決して僕が一足飛びに賢くなったとかそういうんじゃない。
仮に賢くなったのならば、それはあの勉強の日々のおかげだろう。
つまり、暁音さんやゼラさんのおかげでもあるということだ。
「多分悠里くんの推測は合ってる。悠里くんが受験勉強してた間に、私この依頼をA+クラスで募集してたのを見たもの。その時はギリギリ億いかないくらいだったわけだけど、ここ数ヶ月でここまで金額が脹れたとは」
「なんと……。そんな急に脹れたってことは」
考えられる原因は、多分……。
「奥に辿り着くまでに、何かしらのストッパーに出くわしたってこと」
「そう。多分セオリー通りなら十中八九ボスモンスター」
「ボスモンスター……」
「迷宮とかダンジョンとか、遺跡みたいな所の探索において、罠とか迎撃システムとかで詰まることはままあるだろうけど、大抵の場合ゴリ押せばみちはひらけるんだよ。ゲームとは違うからね、どんな障壁も大抵はこっちの火力でどうにでも出来る。問題はそのゴリ押しが通用しなくなった時。真っ向から相手して勝てないような存在。つまり、それがボスってこと」
明確に超えなければならない何かが居る、それが分かってるから求められるレベルも上がって報酬金が脹れ上がったと。
「じゃあこの迷宮探索は、言い換えれば」
「ボス討伐ってことになるね」
迷宮内に眠るボスの討伐。
探索よりも戦闘を求められてる、と。
「あくまで護衛なんだよね。だから、詳しいことは依頼主から聞けるんじゃないかな」
「そうと決まれば、暁音さん、受注しよう!」
「やる気だね、分かった。じゃあ悠里くん受注してきて」
ボードから、依頼書を剥がして、僕は受付へ。
「こんにちは。依頼の受注ですね」
「は、はい!」
「でしたら、ここに冒険者登録したお名前をお書きください」
指示されるまま、僕は自分の名前を書く。
「イシガミ ユーリ様ですね。少々お待ちください……」
受付の彼女は、後ろの棚から分厚い本を取りだし、そこから僕の名前を探しているよう。
こういう事務作業も、現代なら機械とかで一瞬で終わるけど、このくらいの時代だとなかなか大変だよなぁ。
「イシガミ ユーリ様、確認取れました。あっ……」
僕の名前を膨大な書類の中から見つけたようだったが、彼女は少し表情を曇らせる。
「ユーリ様、お言葉ですがユーリ様は現在Bクラスとなっています。適正クラスから離れた依頼にはなりますが、よろしいでしょうか」
まあ、そうだよな。
Bクラスなりたての僕が、わざわざSクラスの依頼を持ってきたら、そんなことも言わなきゃだよなぁ。
「ごめんなさい、でも受けないといけないので」
「……分かりました。そうしましたら、こちらが依頼書の写しと、必要書類になります。依頼主様が即日の出立を希望されていますので、用意が出来ましたらまたお声かけください。無事の帰還をお祈りしております」
諸々を受け取った僕は、暁音さんの元へ。
「なんかすんなり受けられちゃったけど」
「まあ、私の時もそうだったし、クラス超えの挑戦する人も珍しいってほどじゃあないんじゃないかな」
そういうものなのか、と半分くらいの納得で済ませる。
「さてと、依頼を受けられたなら、次は……パーティメンバー集めだ」
「流石に魔法職二人だけだと、苦しいものがあるよね。どうするの? 何かツテが」
「ツテはまあ無いわけじゃないけど、今日は頼らずにかな。とりあえずここは私に任せてよ」
そういうと、暁音さんは、僕の手を取って酒場の方へ。
酒場、冒険者ギルドと地続きになってるそこは、多くの人たちで賑わっている。
街には他にも酒場があるので、わざわざここで飲んでるってことはほとんどの場合冒険者かその周辺の職についてるはず。
つまりパーティメンバー集めにはうってつけの場所というわけだ。
酒場のエリアに入って真正面にはカウンター席。
向かって左にはテーブル席がこれまたズラっと。
その席は昼間っから酔っ払った悪い大人たちでだいたい埋まっているが、ここで遊んでるってことは経済的に割かし余裕があるんだろう。
人は見かけによらないとはまさにこの事だ。
「なぁ、今日もいるぞ……」
「ほんとだ、今日は男連れだぜ。兄弟か何かか……?」
聞こえてくる話し声はなんというか……。
「ねえ、なんか僕ら周囲から噂されてない? 未成年なのに酒場なんかほっつき歩いてるからかな」
「別に私たちより若い冒険者もいるし、お酒は年齢で止められてないから。多分、私のせいだよ」
「私のせいって……」
なんで暁音さんが噂されるんだろうか。
いつものパーカー姿の彼女が噂される理由……。
よく分からないまま、僕らが向かうのは酒場の右奥。
そこにお目当てのものがあるからだ。
「わあ、壮観だね」
ババンっとあるのは、E〜Cクラスのボードより大きなボード。
クラスも雑多に混じってるそのボードは、おそらくパーティメンバーの募集に使う掲示板なんだろう。
「備考欄にちょちょいっと募集内容を書いてっと。よしっ、貼るよ」
多くの人がそこを見守る中、暁音さんは、受付で貰った依頼書の写しをそこに。
すると……。
「おい、アカネがクエスト貼ったぞ!」
まるで雪崩が起こったかのような人の流れが、ボードに向かって起こり始める。
「えっ、ちょっ!?」
あまりの出来事に僕はその人混みに巻き込まれ、揉まれた。
数十人が一斉に押し寄せる物量は生半可なものじゃなく、一瞬の内にズタズタに。
何とか抜け出すと、僕を待っていたのは人の波を華麗に回避していた少女、暁音さん。
「悠里くん、大丈夫?」
「大丈夫……。ねえ、あの人だかりは何? 誰かがパーティメンバー募集する度にあんなことになるの?」
「いいや、多分私のせい」
「また、私のせいって……」
暁音さんは、この光景を見てもさほど驚かない。
その上この人だかりを私のせいだと言い切る。
噂されるのといい、暁音さんは一体このギルドでこれまで何をしてきたんだろう……。
しばらくすると、人混みの中から十数人が抜け出してこっちへやってくる。
「アカネさん。今回は前衛募集スっか」
「それなら是非俺らと組みましょうよ!」
「いや待て、お前らはまだBクラスだろうが。Aクラスの俺たちがっ!」
「何を言ってる、ここはSクラスの私が」
「バカ、お前も弓持ちの後衛だろうが! 前衛二人って言われてるんだ。やっぱ俺たちが」
ぼくらの前でピーチクパーチク。
一体何が理由でこんなことになってるんだ……?
だって、さっきまでこの依頼書には誰も目もくれてなかったはずだ。
それなのに、暁音さんが募集をかけた途端この盛り上がりよう。
一体どんなタネがあるって言うんだ。
「ごめんなさい。今回は少数精鋭で行こうと思ってるの。だからなるべく実力のあって、盾持ちの前衛さんがいいなって」
暁音さんの言葉に、素直に従い引き下がる彼ら。
中にはSクラスの人もいたというのに、Aクラスの暁音さんが会話の主導権を握ったまま。
「依頼書に何か細工でもしたの?」
「いいや。書いたのは至って普通の募集要項。前衛二人、報酬金はきっちり四等分にしますって。それだけ」
うーん、それだけなら別に至って普通の募集要項な気もするが。
やはり、暁音さん自体に何か理由が。
しばらくして、何人かこっちに来るが、理想のパーティメンバーは現れず。
いや現れず、とは言ったものの、合いそうな相手は何人か来てる。
さっき来たAクラスの前衛とか、結構やり手に見えたしいいと思ったんだけど暁音さんは、ごめんなさいね、と断ってしまった。
選り好みしてるように見えるが、なぜそんなことが出来るくらいに希望者が押し寄せてくるのか。
謎だ。
気づいたら希望者の列ができてて、一人一人暁音さんがジャッジしてるみたいな様相に。
ごめんなさい、ごめんなさいと、何人も断っていく中、とうとうお眼鏡にかなう人が現れたようで。
「数日ぶりだな。アカネ」
「ああ、ライテールさん。まさかライテールさんが参加してくれるんですか」
「ああ。ちょうど次の狩りまで時間があってな。腕をなまらす訳には行かないだろう? アカネとならば即日で帰れる、ちょうどいいと思って志願した」
背中に大きなハンマーを背負い込んだおじさん、名前はライテールというらしい。
腕の筋肉はパンッパンで、その背中のやつが飾りじゃないぞってのを自然体で示してる。
「ええーっ。そっかぁ。ライテールさんじゃ役不足な気もしちゃうけど、でもライテールさんより頼れる人なんてなかなか居ないしなぁ」
「もう一人にはシールダーの弟子を連れてくるつもりだ。経験を積ませると思って、ひとつ宜しく頼む」
「それなら分かりました。じゃあライテールさん、よろしくお願いします」
どうやら、そのライテールっておじさんにパーティメンバーは決まったみたいだ。
「知り合いなの?」
「うん。ちょっと前に一緒にパーティを組んだんだ。頼れるおじ様。六十超えて現役の、猛者中の猛者よ」
へえーっ、って六十歳か!
すごいな、ピンピンしてるとかってレベルじゃないくらいの生命力をしてるよ、おじ様。
「じゃあ悠里くん。このまま迷宮潜っちゃうけど、なにか忘れ物とかない?」
「忘れ物って……いや、特にないと思うけど」
「じゃあ受付のお姉さんに声掛けてきて。私とライテールさんたちは、先に依頼主さんところ向かってるから」
「はぁ」
なんかトントン拍子に話が進んでいくが、持っとこう苦戦みたいなものがあるもんだと勝手に思ってた。
パーティメンバーが集まらなくて〜みたいな悩みを抱えたりするんじゃないかと思ったが、押し寄せるくらいに人は来るし、頼りがいのあるおじ様がポンっと現れてくれるしで、なんというか全然壁にぶち当たらない。
迷宮に潜ってからが本番だと思うが、もうちょい苦戦もあっていいんじゃとは思うな。




