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 やはり杖……といっても時間もない中、半年の訓練はしてる時間がない。

 なら短剣とか……でも、短剣で戦えるほどの機敏さと筋力は持ち合わせていないし。

 他の武器は使うまでのハードルが高くて手が出せないし、そもそも論魔法を打つために試験勉強頑張ったわけで……。

 


 迷いに迷った中で、横から一声。




「クラフタさん、私と同じのを彼に」



 

 暁音さんは、悩む僕を置いてそう言ってしまった。


「同じのって……」

「ベースは悠里くんが決めて。武具は私特注のとびきり使いやすいのにするから」


 特注って、一体どんなのを。


「あれでいいのか」

「はい、あれで」

「あれで、って何?」


 暗黙の了解のように続く会話にまたもや一人だけ置いていかれる。


「あれなら、ベースにもよるが渡すのは明日でいいな」

「明日でいいの!? 特注なのにですか……?」


 明日には渡せる特注品、ますますよく分かんなくなってきたな。


「そうと決まればだ。ユーリ少年、ベースを決めるぞ」


 何がなんだかわからないまま、僕はショーケースに連れていかれる。

 暁音さんの特注だから心配はいらないんだけど、なんて言うか完成系がふわふわしたままで怖いな……。


――――――――――――――――――――――――


 翌日、まさかの形になっていた完成品を受け取り、僕と暁音さんは早速ギルドに赴いた。

 一度訪れたことがあるから新鮮さこそ半減したが、それでもギルド、沸き立つ興奮は一入だ。


「とりあえず形だけでもクラスをあげよっか」


 受付に魔導具使用許可一級の合格証を見せると、僕のクラスはBになった。


「とりあえず暁音さんに追いついた」

「と、思うじゃん? 悠里くんが勉強してる間に行った依頼で、私Aまで上がっちゃったんだよね〜」

「何っ!?」


 システムこそまだあんまり分かってないが、依頼をこなしたことで実力が認められ、彼女は一足先にAクラスに。


「まあ、私たちにとってクラスなんて飾りみたいなものだし、AだろうがBだろうが変わらないんだけどね」

「でも、羨ましいよ?」

「まあ、その気持ちはわからんでもない。せっかくだし、悠里くんがAクラスに到達するまで、ちょっと威張っちゃおっかなぁ」


 なんて冗談を言い合いながら、僕らは依頼書の貼られたボードの前に向かう。

 奥の方にあるのがE〜Cクラスのまとまったボード。

 たくさんの依頼が一度に掲示されてるから、このギルド内でも一番の大きさ。

 上の方にある依頼書は、何個か置かれてる木製の脚立っぽい足場を使わないと取れないほど。

 たくさんの冒険者たちが依頼を前に吟味を重ねている。

 報酬金は、だいたい一万から、高くて数十万程度。

 この世界の物価で言うと、最低クラスの依頼だとしても無駄使いさえしなければ三日は宿暮らしの生活が送れるくらいだ。

 内容で言うなら、人探し物探し、簡単な護衛の仕事や田畑を荒らす害獣の駆除など。

 どちらかといえば、冒険者というより便利屋な気もしてくるラインナップだが、稀に混ざる強力なモンスターの討伐依頼なんかも。

 小さな依頼で身銭を貯め、装備を整え、いざ討伐依頼へ。

 そのサイクルで少しずつ経験を積んで、クラスを上げる。

 おそらくこれが、一般冒険者のセオリーだ。


 本当は僕も、冒険者になったばかりだし、そんな小さなステップを踏んで気ままな冒険者ライフを送りたいところなんだけど、どうも時間がそれを許してはくれない。


「とりあえずBからAクラスのボードだね」


 このギルド二、三番目の大きさのボードの前に僕らは立つ。

 左からB、Aクラスのボード。

 E〜Cとは異なって、それぞれ数人、眺める冒険者がいるだけ。

 僕らも彼らに混ざってボードを眺める。

 

「やっぱり討伐系の依頼ばっかりだ」

「緊急なんて文言がついてるのもあるね。モンハンだったらこれやればハンターランク上がるけど、流石にここじゃそれだけでクラスは上がらないみたい」

「どうしたら上がるのかって、詳しく説明されなかったんだけど、そこら辺どうなってるの?」


 クラス昇格の説明があまりされなかったけど、純粋に気になるな。

 

「なんかね、Aクラスまではこなした依頼の難易度と貢献度合いを見てギルド側が判断するんだって。だから正確な指標みたいなのはシークレット」

「へぇ……。評価基準が分からないってのは、がむしゃらにやっていくしか無いって事なのかな」

「まあでも噂的に囁かれてるのは、ポイント制なんじゃないかって話」

「ポイント制?」

「あくまでも説なんだけどね、依頼に割り振られた依頼のクラスにそれぞれポイントが割り振られてるって話。例えばEクラスの依頼なら一ポイント、Dクラスの依頼なら十ポイントみたいに。それを積み重ねて一定まで溜まったらクラス昇格みたいな」

「なんかゲームみたいでわかりやすいね」

「タダでも一概にそうとは言いきれないらしくてね。人によってばらつきがあるみたいだし、同じ依頼を一緒にこなしていたとしても必ずみんな同時にクラス昇格みたいなことにはならないらしいんだ」

「そのばらつきは、貢献度合いってやつなんじゃない。依頼にどれだけ貢献出来たかみたいな評価軸もあるんでしょ」

「まあそうなんだけど。その貢献度合いってやつも中々難しくてね……」


 まあ貢献度合いってどう測るんだって話だよね。

 相手の角を折ったら何ポイントみたいな、完全にゲームみたいなことは出来ないだろうし。


「まず依頼って誰か一人が受けるんだ。その依頼に対して全責任を持つ代表者みたいな人が一人だけ必要なの。その人が依頼を受けたあと、向こうの酒場とかでパーティメンバーを募集する。集まったら依頼に向かうんだけど、難しいのは帰ってきてから。依頼を達成して帰ってきたら、報告書ってのを書かなくちゃいけないの」

「報告書……なんか事務仕事だね」

「その報告書には、倒した相手の詳細な位置や、周囲の状況みたいに主に依頼の事を書くんだけど、そこの下の方にパーティメンバーについても書く欄があるんだ。参加したパーティメンバーの名前と簡単な説明、そして貢献度って欄がE〜Sまで」

「じゃあそれがそのままクラス昇格に繋がるってこと?」

「多分ね。でもさ、報告書を書くのは基本的にはその依頼の受注主なんだ。だから、その人から見たパーティメンバーの評価って話になってくるの。これが難しくてね。評価の仕方なんて千差万別、十人十色もいいところなの。極端な例なら、前衛はS、後衛はBみたいな付け方をする人もいる」

「そんな。別に減るもんじゃないんだし、みんなにS評価をつけてあげればいいんじゃ」

「そういう考えの人もいる。でも、評価を自分で付けられる立場ってのになると色々考える人もいるんだ。例えば、S評価を確約する代わりに分配する報酬を減らしますとか。基本一律でE評価しか付けないけど、自分に気にいられたらその人だけS評価とか。みんなクラスを誇りに思ってるからこそ、簡単にはSを渡したくないみたいな考えが働くこともある」

「難しいね……。そういえばその代表者の評価はどうなるの? 誰かが評価する訳じゃないよね」

「代表こと受注主は問答無用でS+評価、ってのが最も有力な説だね。受注主を沢山してた冒険者が早くクラス昇格したって話は有名らしいんだ」

「なんか受注主に有利なシステムじゃない? こんなのみんなが受注主になって、受注主で溢れちゃうんじゃ」

「まあ、それが狙いなんじゃないかな」


 それが狙い……?

 

「受注主って、色々面倒なんだよ。ただでさえ依頼の全責任を負うって立場に加えて、報酬金の分配とか報告書の作成とか。正直、本来なら誰もやりたがらない役割なんだよ。でも、そこに受注主に有利なシステムがあるとどうなると思う」

「釣り合いが取れる……ってこと?」

「少なくとも誰も受注主をやりたがらないっていうのは無くなるよね。評価を受注主につけさせたのはそれが狙いだと思う」


 面倒な受注主という立場をやらせるために、評価付けっていう権限が与えられる……か。

 

「たかが定められたクラス一つで色々動かされてるって思うと、手のひらの上で転がされてる感が半端ないな……」

「社会って案外そういうものだよ」


 そういうものなのか……。

 なんというか、知れば知るほど社会ってものがどんどん苦手になっていく実感があるな。


「ちなみに、面倒な作業をギルド側に全て一任する制度もあるにはあるみたい。ただ、報酬金の何パーセントかは持っていかれちゃうみたいだからあんまり使われてないのが実情なんだけどね」

 

 

 クラスやギルドの内情について色々教えてもらったところで、僕らは依頼書の内容に踏み込んでいく。

 

「クラス通りに行くなら、僕と暁音さんはここら辺を受注するべきなんだけど……」


 目を通していくと、まあ心躍る文言の数々。

 そのモンスターの危険さを表すために、依頼主たちが特徴とかを短く書いてくれている。


「まあ、見てるだけでも楽しいよね」

「元の世界にはいなそうな生き物ばっかりだよ……!」


 とてもなサイズのサイみたいな一本角のやつに、羽の生えた蛇、氷を吐く豹、あとは七色の尻尾を持つ大狐。

 B、Aクラスにまでなってくると、相手が相手。

 魅力溢れる強敵揃いだ。


「えぇっ……会いに行きてぇ」

「動物園に行くのとは違うんだよ?」

「危険も承知だけど、やっぱ一目みたいじゃん。空想レベルの生き物だよ! きっと珍獣ハンターってこんな気持ちなんだろうなぁ」


 目移りする依頼たちを眺めてはときめき、妄想しては戦慄いて、そんな夢のような時間を過ごせていた。


 でも、そんな時間もいよいよ終わりを告げる。

 

「えー悠里さん。現実と向き合うお時間です。こちらをご覧ください」


 暁音さんの指が指し示す欄。

 そこは。

 

「報酬金、一千二百万」


 B〜Aクラスの強敵たちに掛けられた報酬金は、せいぜい数百万から、数千万程度。

 いやまあ十分高額ではあるし、魅力的な額なんだが。


「いい、私たちが稼がなきゃいけないトータルは、二百五十億。期間は約一年。割ると一日あたり、約七千万は稼がないといけないの。だからこの程度の依頼じゃ……」

「到底稼ぎきれないと」

「そういうことになるね」


 僕らのクラスの通りなら適正レベルな相手だったとしても、額面では足りてない。

 僕らが挑むべき相手、それはより強大で恐ろしい……。


「私たちが挑むのは、Sクラスだよ。見てごらん。桁が二つくらい違うでしょ」


 暁音さんに促され、隣りのSクラスのボードへ。

 依頼書の枚数が明らかに少ないそのボードの内の一枚を見ると、そこには。

 

「報酬金、二十七億。巨岩石竜 ファフニール」


 相手は、さっきまでとは一段格の違う存在、竜。

 同じファンタジーな生き物だとしても、その種族差は明らかにある。

 竜か、それ以外か。

 そんな区分を無意識の内にしてしまうほど別格な存在。


「私たちが相手するのは、基本的にこのレベル。基本的には竜もといドラゴンか、あとはそれに匹敵するだけの規格外な生物」

「分かってはいたけど、そっか、竜か」


 下を向いてしばらく黙った僕を見て暁音さんは、心配そうに声をかける。


「悠里くんは、一度ドラゴンとやり合ったことがあったよね。だから身をもって知ってると思う。怖気付いてもおかしくは無いよ」

「……そうだね」


 身体も無意識に震えてて、今の気分は正直よく分かんない。

 でも、一言言えるのは。


「怖いし、身震いしてるけど、でも僕、ここまで来たんだな」


 異世界に来て一年と半年。

 不甲斐ない自分を変えたくて来たこの世界で、ようやく竜とやり合えるまで来たんだ。


「ごめん暁音さん、やっぱり嬉しい」

「ふふっ、そっか」


 立ち向かうべき相手に不足は無い、むしろ強大すぎて畏怖を覚えてしまうほど。

 でも、そんな相手と真っ向からやり合えるまで、僕は成長出来たんだ。

 今は、そんな自分が、ただ嬉しい。


「どうしよう、早速受けちゃおうか!?」

「まあ、慌てない。とりあえず初回だから、魔導具に慣れるところから始めようよ」

「それもそっか……。じゃあ何にしよう、やっぱりA〜Bに戻る? でもそれじゃあ一日の稼ぎが」


 吟味する体勢に入って、ボードを隅から隅まで眺める。

 十三億、七億、十六億、三十二億……。

 額面だけを見れば即決できるが、それに伴って難易度だって上昇するはずだ。

 今、階段の一段目として選ぶなら。


「これ、かな」


 

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