応用演習 2
「そして、ここから応用の話。実はね、応用ってのは、なんと、無限にあります!」
「また無限!?」
基礎が無限に深ぼれるって話だったんだけど、応用も無限に深ぼれる……。
もしかして、勉学って終わりが無いのでは?
「基礎の無限は下に掘ってく掘削のイメージだけど、応用の無限は空に伸びていくような無限。要素の掛け算って言えばいいのかな?」
「えっと、どういうことかしら?」
何故だか、自然と上品な口調になるほどに、僕は戸惑ってる。
「応用っていうのは、要は基礎の上にできるパズルのようなものなの」
「パズル……?」
「基礎のこの分野とこの分野を掛け合わせた複合問題とか、問われ方がいつもと変わってくるような問題とか、暗記だけじゃどうにも解けないような、理解を求められる範囲。それが応用。問われる問題は、ほとんど初見のものだと思って」
「初見って……」
「対策のしょうがないってこと。無限に空に拡がっていく問題の種類を全部対策しようってのは無理な話でしょ。だからその時に応じて対応が求められる。応用にも、一応テンプレートみたいなものは存在する。水溶液のパーセントを求めよみたいな問題とかは、応用範囲だけど問われすぎてお決まりみたいになってるし。そういうのは取りこぼさない方がいいけど、実際の応用問題は、だいたい全部はじめましてになるんじゃないかな」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
話を聞いてると基礎以上に無理ゲー臭がすごいんだけど。
「初見に慣れる、そして……」
「……そして?」
「無理なもんは無理だと捨てる!」
「それでいいの?」
「仕方ない場合もあるんだよ。どう考えても思いつかないようなやばい問題はある。だからそんな問題がでてきたら捨てるしかない。ただ、タダで転ぶわけじゃない。次回以降類題が出てきたら死んでも落とさないようにする。そういう問題は手品みたいなもので、タネさえ割れればあとは計算だけみたいなものも多いから」
「へ、へぇ……」
「まずは、いかに初見に弱いか自覚するところからはじめよっか」
これまででも充分打ちのめされてきたつもりだけど、ここから更になのか。
勉強ってつくづく終わりがないんだな。
「さて、ここに過去問から引っ張ってきた応用問題が山のようにあります。悠里くんには今からこれを解いてもらうわけだけど、安心してね、まあ多分解けないから」
「そんな思いっきり言う?」
「言うよ、事実だもん」
「事実って……万が一の確率で解けるなんてことは」
「まあ無いわけじゃないよ。応用ってのは、あくまで基礎の範囲を元にしたパズルだって言った通り、基礎が正しく身についていれば、あとは柔軟な発想で解けてしまうことはままある。ひらめき次第っていえばいいかな」
「ひらめきか……クイズ番組とかの頭を柔らかくして、みたいな問題なら得意かも」
「そうなの? じゃあ期待しておこうかな」
そうして手渡された問題を見て、僕は手を動かそうとする。
が、なかなかどうして手は進まない。
確かに、既に勉強した範囲ではあるんだ。
それは分かってるんだけど……。
「どこから手をつけていいものか……」
「困るよねぇ。だってそういう問題ばかり選んできたんだもん」
「なんか現実にありそうな状況で出されてるのが多いね。今まで勉強してきたのだと、なんの公式使うのか分かってれば、あとは数値を入れるだけみたいな問題ばかりだったんだけど、空気摩擦でちょうど炎が消えるとか、習ってないような出題の仕方ばかりな気がするんだけど」
「習ってないわけじゃないよ。摩擦の話はやったはずだし、ちょうど消えるってことはエーテルエネルギーの総量がゼロになるってことだから保存則から式が導ける」
「ああまあ、言われればそうだけど」
「要は問題文の翻訳が必要なんだよ。自分が知ってる形に問題を読み替える必要がある。知識だけで解ける問題ならそんなことしなくていいんだけど、応用レベルになると学んだ物と出題される物の形が異なってくることがある」
いつだかゼラさんもそんなことを言っていたな。
「そこで必要になってくるのが問題の翻訳。ここでは何を求めて欲しくて、自分が知ってる知識だとどんな物で置き換えられるのか。問題文を訳す力が求められるの」
「訳す力って……」
そうは言われても、そんな日本語から日本語に訳すみたいなむちゃくちゃなスキル、どう身につければいいんだろうか。
「どうすれば、そんな魔法みたいな発想が出てくるの?」
「魔法じゃないよ。まず初めはたくさん問題に触れること。十秒悩んで手が動かなかったら、答えを見るくらいでいいんじゃないかな。ちょうど炎が消えるっていうのは、つまりどういうことなのか。答えとにらめっこして、翻訳の仕方を学ぶ。英語の勉強と同じだよ」
「英語かぁ……苦手だったな」
「色々経験してパターンを学べることもあるだろうね。そしてある程度翻訳できるようになってきたら、あとは、初見の問題を自力で解けるよう訓練。間違えたり発想が浮かばなかったら、次は間違えないように答えを見て学ぶ。その繰り返しだよ」
「要は、答えから学ぶしかないってことだよね」
「そうだね。分からないことは学ぶしかない」
平たく言えば勉強あるのみという、なんとも愚直な結論にはなったが、まあそんなの今に始まったことじゃない。
応用範囲でもやること変わらずなのは、むしろ性に合ってるな。
ところで、ここまで暁音さんの話を聞いてきて、一つ疑問が僕に湧く。
「答えから学べばいいってのは分かったけどさ、応用問題って無限に広がっていく訳だし、対策してもまた知らないところが出てって、イタチごっこにならない?」
「ああ、それね……。難易度高い試験だと、どうしても出題者との知恵較べみたいな状態になるのは否定できない。出題側は間引くために試験問題を作ってるわけだから、難易度上げようとしたら、広がった枝先の受験者が対策してないような問題を出すことも出来ちゃうんだよ」
「じゃあどうしたら」
「一問一問、慎重に対処するしかないってのが結論かな。発想力は、経験で補うことはできるけど、相手の発想力がその経験を上回った時にはどうしようもない。もしそんな問題が試験に出たとしたら、解ける人なんて中々いないしスルーが安定だけど、どうしても解かなきゃってなった場合には、視野を広く持つことを心がけて。これまで蓄えた知識を総動員して、何が使えそうか吟味する。もしくは、全て捨て去ることも必要かもしれない」
「全て捨て去る……?」
「根本からガラッと変わるって可能性があるってこと。問題の種類が全然違うかもしれない。図形の問題だと思ってたのが、実は関数の問題だったみたいな。そんなことが有り得るんだよ」
捨て去る、か。
今までに蓄えた知識を全て捨てて、常識すら一変させる必要がある問題。
そんな難題を前にした時、僕はそんな選択が取れるんだろうか。
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