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-第15話-隠れる



頭を押さえ、ポケーとしてしまっている私をみて


「どうかしました?」


と、リリィ様が声をかけてくれた。


しまった!と慌ててリリィ様たちのほうを向くと、目の前にはシマシマ柄の服を着た小さな可愛い男の子がユンと一緒にふよふよと浮いていた。




(お前なにボケっとしてんだよー!主様の一大事かもしれないんだから主様のためにしゃきしゃきしやがれー!)

(主様にそのような口の利き方、死にたいんですか?)



このやりとりに、異常事態にもかかわらず、思わずほわーんとしてしまう。


威勢がいい、このツンデレな男の子はトラの精霊で、リリィ様の精霊のジェイル君である。

この会話を聞くとおり、ユンとの仲は最悪というか、ユンがつらく当たっていることがあるのが問題だが、つらく当たられている当の本人であるジェイル君は、どんなことをいわれてもあっけらかんとしているため、まあこれも仲がいいってことで静観している。


そして!なんといっても、ジェイル君の耳は、トラ耳なのです!

これは誰だって萌えー!と叫びたくなるってもんだ。

リリィ様もどうやらトラ耳に心奪われてジェイル君と契約したのだとか・・・。

さすがリリィ様。


この子たちはどうやら前の騒動に気づいてここに集まったらしい。

この子たち精霊には旅をするにあたって、後方の監視を頼んでいる。

フィンリィには前方の監視を頼んでいるのだが、まだ状況が把握できていないのか、こっちにこない。

それがさらに不安をよぶ。


なにが起こっているのか、しかし団長さんには動かないようにいわれているし・・・うーむ・・と考えていると、頭を打ち付けたところをユンがなでなでしてくれていた。


(いたくないですか?薬草関係の精霊が近くにいればいいんですが、ここは岩ばかりで精霊たちが見あたらないんです。はやく主様の手当てをしたいのに・・・。)


ああもういい子!癒されるなぁ。

団長さんがなでた部分を、ほこりをおとすようにはたき落としているのも、ユンなりの愛の形・・・だと思いたい。



「とりあえず、精霊たちに前の状況をみてもらいましょうか。」

とリリィ様が言われたために、ユンとジェイル君に前の状況をみてもらいにいくことになった。

二人がふよふよとでていくのを見届けると、みんなは一様に暗い顔に戻る。

「あんまり危ない状況になってないといいんですが・・・。いったいなにがあったんでしょうか。」



思わず、というようにライラさんがつぶやくとリリィ様は不安な顔をにじませながら言う。



「ここの辺りは、私が嫁いだアランガード国とディルダイン国の国境近くで、そこにつながるように小さな国が1つあります。そのため、この3つの国がつながる場所ということで、よく山賊がでると聞きます。一番商人が通る道でもありますし、山賊による被害状況が国によってバラバラで、状況の把握が難しく、ことによっては国際問題にも発展するため手出しが難しいのだと・・・。」



ということは・・・今いる場所=山賊がよく出てくる=危険ってこと、ですよね。

前方で騒いでいるのが、もし山賊の襲撃によるものならうかうかしていられない。

フィンリィがなにかしら騎士の人たちに力添えしてくれているならいいが、フィンリィが戻ってこないということは、フィンリィ自身になにかされているという心配もある。



ユンとジェイル君を前方のほうへ見に行かせたのは、もしかしたらまずい選択だったかもしれない。

ここは今騎士の方々が五人ほど馬車を囲むように守ってくれているため、リリィ様を守るという点では、丸腰ではないことに安心するべきか。









と考えていたとき、いきなり馬車の周りまでが騒がしくなってきた。

外を見ようにも砂埃が舞い、なにがなんだかわからなくなっている。



雄叫びと、悲鳴と、金属同士が当たって響く独特の音。

乱闘が繰り広げられている、と瞬時に分かるような状況の中、馬車の中で座っているしかないというのは、なんともいえない恐怖が襲う。



しかし、この馬車にはリリィ様とライラさんがのっている。

二人をみると、二人とも恐怖の顔を浮かべていた。二人だって怖いだろう。しかし、なにもいわず、ひたすら口をつぐんでいる。

その様子をみて、私はこの人たちを守ることに神経を注ぐのだ、と自分に言い聞かす。

それが、私の今やるべきことだ。





そんな時、ふいに馬車のドアが開けられた。

きゃぁ!とライラさんが叫ぶも、顔を出したのはなんと団長さんだった。

お、驚いたー。しかし、団長さんがきてくれたということで、リリィ様たちはほっとしたようだった。



「ここら辺りまで戦闘が拡大しています。このままでは目立つ馬車にいるだけで狙われます。私が誘導いたしますので、あなたがたは離れた場所に避難してください。」



息一つ乱れず、相変わらず涼しい顔をしながら、リリィ様に手をのばす。

次々と降りていき、前を団長さん、後ろを二人の騎士のひとたちに固めてもらい、戦闘に巻き込まれないように馬車の後ろのほうへと小走りで進む。

戦闘が行われている方をちらりとみると、そこには黒いローブをすっぽりときた男たちと、騎士の方たちが互いに攻撃をしあいながら戦っていた。




やがて、喧噪が遠ざかってきこえる位置までくると、団長さんは騎士二人に、ここの護衛をいいわたす。

「こちらの騎士二人はいずれも実力のある男たちです。安心してください。」

とリリィ様にいうと、突然こちらをむいてきた。いつものように、じーっとみつめてくる。





ちょ、今は緊急事態なんじゃないんですか!と思うも、なんといっていいのかわからず、とりあえず、団長さんの目を見返す。

これは、いつものやりとりであり、日常的に行われていたのだが、そういえばこの旅にでてから、団長さんの目をまっすぐみるのは、今が初めてだなぁと、ふと思った。




ほんの三秒程度ではあったものの、いつもの見つめ合いが終了し、ほっとしたところでなんと団長さんは、あの無表情を崩して、ふっとわらったのであった。





わ、笑った!団長さんが笑った!





この衝撃は私の中をかけめぐったのであったが、一瞬後には身を翻し、また戦いに出て行った。

なんとも不思議な人である。

ただ、ふっと笑った顔は、いつもの近寄りがたい印象を払拭させるかのように、柔らかい感じだった。いつもあんな風に笑ってればいいのに。

と、思うが、今更ことあるごとに笑顔でいられても、逆に怖い、うん。




ただただ、今願うのは、この戦闘が終わること、そして騎士さんたち、精霊たちが無事に帰ってくることである。

奇襲をかけてきた、あの黒いローブの人たちのねらいはなんだったのか。

あれがよく出没するという山賊ならば、貴族が乗っているような豪華な馬車はかっこうのえさだったのだろう。


しかし、多くの騎士の人たちが厳重に警戒しているという時点で、よほどの勝算がないかぎり、山賊たちは戦いを挑んだりするのだろうか?

もしくは、騎士との戦いを選んででも強襲をかけたかったのか。たとえば考えたくはないがリリィ様を狙っての襲撃だとも考えられなくもない。

もしそうならば、リリィ様を全力でお守りしなくては。





このとき私は、まったくもって気づいていなかった。





これは山賊でも、リリィ様を狙うものによるわけでもなく、異世界からきたという娘、つまり私を狙った襲撃だということを。


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