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第12話 年下の部下に翻弄される

 ほろほろと零れ落ちる涙。

 頬を伝うこともなく落ちていくから一粒が掴めそうなほど大きいんだろうかとどうでもいいことを考えてしまう。

 泣いて化粧が崩れたせいか、それとも気を許した証拠なのか。普段にはとても見れないような幼い顔をした彼女がそこにいた。


 涙で潤んだ瞳が俺を見つめる、その瞳に欲情する。職場ということでなんとか保てている理性が壊れそうだ。


 自分にもっと強かになれ、そう言った俺の言葉に素直に返事をした彼女。


「……はい」

 その返事した声は小さかったけど、覚悟を決めたような澄んだ声だった。


「派遣だからとか――もう言うな」

 まっすぐ見つめてくる彼女の視線を同じように見つめ返すとまた「はい」と頷く。


 そんな素直になった彼女がとても可愛いくて、このままどこかに連れ去りたくなる。

 それでも彼女の瞳からは涙が止まらなくて、どこまで派遣というレッテルに縛られてきたのか、そう思ったら自然と言葉になった。


「……関係ない、派遣だからってそれがなんだって感じ。俺からしたらそんなことはどうでもいいよ」

 彼女の大きな瞳がまたさらに見開かれる。


「社員の名前にぶら下がって仕事しないやつよりよっぽど信頼してる」

 そう言ったらまた泣かせてしまった。


「……仕事、続けてもいいですか」

 ぽつりとつぶやいた言葉はそれだった。


「止める理由がない」

「辞めますって言ったのに……」

「言葉で言っただけのことになんの制限もないし、俺は認めてもない」

 認めるつもりもないんだ、なんなら説得してる。辞めさせるわけがない。


「久世さんは……いつか本社に戻るんですか?」

 唐突な彼女の質問に本気で首をかしげてしまった。どういう意図があっての質問なのか。


「さぁ……辞令が出たらあるかもね。なんで?」

「……本社に戻りたいのかなって」

「戻りたいかは……どうかな。別に今は今で開発の仕事も嫌いじゃないし与えられた仕事するよ。声上げてまで戻りたいとか考えたことないけど」

 素直な気持ちを返すと彼女はホッとしたのかまた涙を滲ませて。ゆびさきで拭うけれど取りこぼす涙が零れ落ちる。



(ダメだ。この涙、腰に来る)



「もう泣くのやめない?」

 このままだととてもじゃないが冷静でいれなくなる。


「だから……泣かせてるのは、久世さんだもん……」



(急に敬語をとるのとか可愛すぎるからやめてくれ)



 さっきまでは殺気だった猫みたいだったのに、一変してとたんに懐くように可愛くなるのはなんなのか。



「まだ……久世さんの下で働きたいです」

 しかも言うことも可愛い。


「……すき」

 一瞬聞き逃してしまいそうなほどにその言葉をこぼすから「え?」と間抜けな声をあげてしまった。


「すき」

 そう言って顔を両手で隠して俯く。隠しきれてない耳が真っ赤に染まっていた。

 そんな彼女が可愛すぎて、グッと身体を引き寄せて抱きしめると首筋に熱い息が吹きかかる。



(やばい、可愛すぎるな、これ)



「……もう一回言ってくれる?」

「ぇ……」

 耳元で囁くような声に熱が含まれたようでなんてことない言葉がやたら艶っぽい。無意識にそんな声を耳元で吐くなよと思うのに、この声でもう一度好きと言われたい。


 腕の中に包まれた彼女は少し身体をこわばらせていたがためらうように自分の腕をそっと背中に回してきた。


「二回、言いましたっ」

 素直に言わない彼女。その感じもまた可愛くて、結局は可愛いしかない。


 言葉の代わりに背中に回った手が制服をキュッと掴むといつかのことを思い出す。


 あの時ためらいながら裾だけをつまんでいた手が、今は力強く俺を掴んでいる。離れないように、離さないように掴むから、だったらと俺も思う。



 俺だって、もうこの手は離さない。

 仕事だけじゃない、彼女自身をもう捕まえてどこにもやらない。



(絶対に手放さない)



 そう心に決めてもう一度彼女の口にくちづけた。


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