SS 謹賀新年
五巻終了時のお話です
一年の最後~二年の最初、アルメリア迷宮攻略後の、のんびりしたお話です
「エリー? いい加減、そこから出なさい?」
コタツに完全敗北したエリーへ、クラリスが呆れ半分に声をかける。
「……無理……コタツ……みかん……最強……」
もっとも、電気仕掛けの文明の利器というわけではない。
魔石に細工を施し、穏やかな熱を放たせたものを卓の内側に仕込み、上から布団をかけただけの簡易式。それでも一度入れば、心まで溶かされる魔性の空間だ。
「もう……じゃあいいわ。マルス、一緒に街を回りましょう? 行きたいところがあるの」
そう言って、同じくエリーと隣同士でコタツに入っている俺の肩に、クラリスがそっと手を置く。
「行きたいところ?」
「ええ。おみくじが引ける場所があるんですって。そこに行きたくて……お義兄さんとお義姉さんも誘って、みんなで行こうかなって」
おお、おみくじか。
それはいいかもしれない。
「じゃあ、行くか――」
と、立ち上がろうとした瞬間――
「……ダメ……マルス……一緒……ゴロゴロする……」
エリーはそう呟くと、隣に座る俺にしがみつき、そのまま横になる。
視線を上げれば、そこにいるのはクラリス。
当然、ミニスカートの隙間から、淡いピンクの生地が嫌でも目に入るわけで……
もちろん嫌なわけはなく、内心では何度もガッツポーズを決めているのだけれど。
「ちょ、ちょっと!? マルス、どこ見ているのよ!?」
「ご、ごめん。でも今のは不可抗力だから」
「……そ、そうね。でも代わりに一緒に行ってもらうからね」
「うん、そのつもりだったし。まあ、今ので大吉は確定かな」
「……バカ」
頬を朱に染め、クラリスはアイクたちを誘いに部屋を出ていった。
「エリーは行かない?」
「……マルス……行くなら……行く……」
まだコタツの温もりが恋しいのか、なかなか出てこないエリーの手を引っ張り、なんとか脱出に成功する。
マジでコタツは気持ちいいのだが、出るときが本当に大変なんだよな。
部屋を出ると、すでにクラリスとアイク、そして眼鏡っ子先輩こと――義姉が待ってくれていた。
「私、おみくじなんて初めて」
そう言ったのは眼鏡っ子先輩だ。
確かに、この世界におみくじなんてものが存在するとは思っていなかった。
もしかして、転生者の可能性もあるのか?
念のため、クラリスに少し警戒するよう伝えてから、俺たちは家を出発した。
辿り着いた先は寺――
ではなく、冒険者ギルド。
なんとここで、冒険者向けにおみくじが販売されているらしい。
かなり好評のようで、冒険者たちは皆、羊皮紙に書かれた結果を見ては……
揃って沈んだ表情を浮かべている。
どうやら、相当辛口な仕様のようだ。
「おい! 大吉どころか中吉すら出ないじゃないか!?」
「インチキだろ!?」
「吉が最高なんじゃねぇのか!?」
どうやら冒険者ギルド側も初めての試みらしく、
「だ、大吉は必ず入っています!」
と返すものの、
「何枚入ってるんだ!?」
という質問には、
「い、一枚……ですが……」
どうやら、客を無闇に喜ばせるつもりはなかったらしい。
だが、それでいいのかもしれない。
うっかり大吉を量産したら、浮かれてアルメリア迷宮の二層や三層にまで挑んでしまう冒険者が出かねないからな。
捨てられたくじに目をやると、冒険者たちの身を案じるような文言が、そこには綴られていた。
内訳を出せと冒険者たちに迫られたギルド職員が表を張り出すと、そこには予想をはるかに超える数字が並んでいた。
大 吉 ―― 一枚
中 吉 ―― 五枚
小 吉 ―― 十枚
吉 ―― 千枚
末 吉 ―― 千枚
凶 ―― 二千枚
大 凶 ―― 百枚
半分以上が凶以下という鬼畜仕様である。
マジで儲けるつもりはないらしい。
まあ、俺は屋敷ですでに大吉を見ているから、わざわざ引かなくてもいいか。
そんなことを考えながら、みんなの最後尾に並んでいると、
「じゃあ、早速やってみるか」
トップバッターはアイクだった。
引いたくじを見ると――
「おっ!? 中吉だ!」
アイクが叫ぶと、ギルド内に歓声が湧き起こる。
まぁこの確率からすればそうなるよな。
「いろいろ書かれているみたいだな。どれどれ……戦闘面では、目標に近づけそうで近づけない歯がゆいことが続くかもしれないが、努力は実を結ぶ……か。なかなかいいことが書いてあるな」
さらに視線を下へ走らせる。
「で、次は恋愛運か。想い人と結ばれる……けど、相手の気持ちをもっと考えろ……か。もっとエーデの立場になって考えろ、ということだな」
他にもいろいろ書いてあるようだが、すでに眼鏡っ子先輩がくじを引き、開いていた。
「私は小吉だったわよ。でも、十枚しか入っていないのなら、いい方よね?」
アイクと眼鏡っ子先輩が、それぞれのおみくじを見せ合いながら微笑み合う。
その光景に、ギルド内の殺伐とした空気が少し和んだ。
「……次……私……大吉出す……マルスと……むふふ……」
エリーがくじを引くと――
「……中吉……」
ここに来て当たりが連発し、ギルド職員がほっと胸を撫で下ろす。
だが、エリーのくじには良いことだけでなく、気になる内容も書かれていた。
それをクラリスが読み上げる。
「エリーのは……戦闘面は著しい成長、だって。恋愛面は……順調。でも、総合のところに大いなる災いって書いてあるわ。乗り越えられれば、一生幸せに……だって」
大いなる災い、か。
エリーのことは、しっかり守ってやらないとな。
そして、次はクラリス。
「えっ? 私も中吉!?」
おいおい、この四人で当たりの四分の一を引いてるじゃないか。
どうなってるんだ?
……いや、【運】の良さが違うのか。
「私のも、戦闘面はいいみたい。恋愛面は……」
そう言って言葉にしながら読み進めた瞬間、クラリスの表情がぱっと華やぐ。
「絶好調だって! 近いうちに、好きな人と結ばれるって!」
その笑顔に、ギルド中の視線が引き寄せられる。
しかし、さらに読み進めた途端、その表情が曇った。
「総合では……近いうちに大いなる悲しみが襲うだろうって……どういうことかしら?」
クラリスは、不安そうな表情を浮かべる。
「じゃあ、その悲しみが起きないように、頑張らなきゃな」
「うん、そうね……じゃあ最後に、マルスが引いて?」
「俺も? うーん……なんだか、みんなに悪い気がするんだけど……」
なんとなく、出る気がしていた。
それでもクラリスに急かされ、引いてみると――
「……大吉だ」
やっぱり、そうなるよな。
一瞬、ギルド内がどっと盛り上がる。
が、すぐに微妙な空気へと変わった。
「す、すごいな! クラリスとエリーの二人を娶る奴はさすがの運気が違う!」
「でも、大吉がなくなって、中吉が三枚、小吉が一枚出ちゃったら……」
「もう、残された希望は少ないんじゃないか?」
まあ、そうなるよな。
誰が当たりのなくなったくじを引くのか、という話になるわけで。
ま、俺がそれを気にしても仕方ないか。
そう思い、くじに目を通そうとした――その前に、クラリスから提案が出る。
「ねえ? 恋愛面だけ隠して、最後に読もう? きっといいことが書いてあるはずだから」
「……うん……楽しみ……最後……」
そう言われては仕方ない。
恋愛面が書かれている部分を折って隠しながら、読み進める。
「まずは戦闘面……飛躍の年って書かれているな。新しいことにチャレンジするのがいい、か」
もっと特殊能力を学べるということだろうか。
体術レベルも上がってきたし、次は別の分野にも挑戦してみるか?
「次は金銭面……これもすごいな。本人が望まなくても大きく稼げるって……」
俺が一文読み上げるたびに、クラリスたちだけでなく、ギルド内の冒険者たちまでざわつき始める。
「次は健康面か……病気など一切しないだろうって」
まあ、神聖魔法使いだしな。
元からあまり心配はしていない。
「次は仕事運……トップになるだって……何のトップなんだろうな?」
一応、冒険者ではあるが、本分は学生だ。
このまま序列一位を守れる、ということか?
「総合運は……誰もが羨む生涯を送るだろうって……」
ここまで、悪いことは一切書かれていない。
というか、これぞ大吉! って感じのものばかり。
「じゃあ、最後に恋愛運を読んで?」
クラリスが俺の右腕を抱き、くじを覗き込む。
するとエリーも、同じように左腕を抱いてきた。
もう、この時点で大吉だろ。
そして、くじを開くと――
「恋愛面は……既存のパートナーと関係が非常に深くなる。それと……信じられないほどの美女が何人も近づいてきて、望むがままに手にすることができる……ええと、誰もが羨むハーレムを形成し、その数はなんと……」
そこまで読み上げたところで、クラリスが勢いよくくじを取り上げる。
「も、もう! そんなに増えるわけないでしょ! これは間違いね!」
「……うん……でも……一人……二人……心当たり……」
「ちょっとエリー!? 不吉なこと言わないの。一人だけよ……たぶん……」
「一人? カレンかミーシャのどっちかってこと?」
「あの二人はもう確定枠。私たちが言っているのは……」
そこでクラリスは言葉を詰まらせる。
代わりに、エリーが続けた。
「……アリス……ソフィ――」
「ちょっ――!? 言っちゃダメ! 言霊ってのがあるんだから!」
アリスって、あのリスター祭で俺に神聖魔法使いだと告白してきた子だよな?
エリーが言いかけたのは、おそらくソフィアだろう。
でも彼女はアリスの姉で、確かドミニクの想い人だったはずだ。
「マルス? 今の話は全部忘れて。いい?」
「え? あ、うん……でも、そのおみくじはどうする?」
しばらく悩み込んだ末、クラリスは小さくため息をついた。
「私たちにとっては不吉だけど……不安なのは恋愛運の一部だけよね。ここは結んでおくのがいいかなって思うんだけど……はぁ……来るべきじゃなかったかしら?」
「うん……コタツ……みかん……マルス……最強……」
「そうね。じゃあ、帰ったら三人でコタツに入りましょう」
こうして俺たちは屋敷に戻り、二人で並んで入るのにもキツイコタツに三人で寝転がりなりながら入る。
「二人とも、今年もよろしくな」
「うん、でもカレンとミーシャ、アリスまでにしておいてよね?」
「……私の領地……譲らない……」
二人を抱き寄せながら、俺はゆっくりと目を瞑るのであった。
新年あけましておめでとうございます!
【追憶の紋章】
https://ncode.syosetu.com/n3407lk/
もパンツ回、こっちもパンツ回で本当に申し訳ないです
めでたいということで許してください
冗談はさておき、今年もよろしくお願いします!
次のSSは戦闘回かなぁと思っていたり。
今年もよろしくお願いします!!!
https://amzn.asia/d/inGpQOt










