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こんげーむ!  作者: 我楽太一
第五章 狐士無双
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7 反撃開始②

 斎藤忍には憑き物が憑いている。


 与人のこの読みは、ズバリ的中していた。


『これは……』


 忍の憑き物――タマは静かに呟く。


 淡々と喋るタイプだから分かりにくいが、忍は彼女の声に動揺が入り混じっているのを感じ取っていた。もっとも、状況が状況だから、自分でなくても彼女の機微には気づいただろうが。


 南一局、与人は宣言通り、配牌を伏せたまま打ち始めたのだった。


 いや、それだけではない。彼はその後にツモった牌も、伏せたまま手牌に加えていた。


 つまり、与人は自分が使う牌を一切見ずに麻雀を打っているのである。


 はたから見れば、全くの暴挙か奇行かというところだろう。しかし、タマはその能力で、与人が憑き物使いであることを既に看破していた。だからこそ、動揺していたのだ。


『相手は物を変化させる以外に、透視能力もある……ということ?』


『それはないでしょう。もしそうなら、こちらのテンパイに振り込むはずがないですから』


 忍はタマの説を言下に否定する。それから、相手の意図を読み取ろうと考えを巡らせた。


『逆に、こちらの能力を透視と疑っての行動ではないでしょうか。牌を伏せたまま全く見ていないので、彼自身も手牌がどうなっているか分かっていません。だから、自分たちが彼の手牌を把握できれば透視ということになるでしょうし、把握できなければ読心ということになるでしょう』


『なるほど』


 忍の推理を聞いて、タマは感心したように言う。


 しかし、その一方で、与人に対して脅威を覚えているようだった。


『結構詰め寄られてるね……』


『…………』


 確かに、与人はタマの能力の核心に大分迫っているようだ。いずれ見破られてしまう可能性もある。その点で、忍も不安がないとは言わない。


 だから、その不安を振り払う為にも、忍は攻めていく。


「リーチ!」


 リーチした=テンパイした、ということである。振り込まないようにする為に、与人も自分の手牌を確認せざるを得ないだろう。


 そう思っていたから、忍は彼の行動に肝を潰していた。


「えーと……じゃあ、これ」


 与人は相変わらずツモを含めた十四枚の牌を伏せたままにして、運頼みとばかりに適当な手つきで捨てる牌を選んでいた。


 その上、与人の切った牌は八筒。五巡目に忍の捨てた現物――絶対の安全牌である。


「俺は幸運に守られてるからな。適当に切っても振り込んだりしないんだ」


「…………」


 おどけるような与人の言動を、忍は黙殺する。


 ただ、タマはこれが気になるようだった。


『ハッタリ……?』


『それ以外にないでしょう。取り合ったら負けです』


 本気にして怯えるのも、嘘だと腹を立てるのも間違いだろう。そう考えて、忍はただ自分の和了に専念するように淡々とツモを行う。


 その気持ちが功を奏したのか、忍は十三巡目に和了牌を引くことができたのだった。


「ツモ。リーチ、ツモ、タンヤオ、清一チンイツ。4000・8000」


 前局跳満(1万2000点)で奪われた点を奪い返す倍満バイマンツモ(1万6000点)。これで、忍と与人の点差は3万4800点にまで広がった。


 麻雀で3万点オーバーのリードというのはほぼ安全圏だと言える。タマの能力があれば、振り込むことがないから尚更である。残り三局ということも併せて考えると、もはや与人の逆転は難しいだろう。


 しかし、次の南二局に入っても、与人の行動は変わらなかった。


『また伏せたまま……』


 配牌を開かず、ツモを確認せず、手牌を一切見ずに打つ与人。その様子にタマが言う。


『やっぱり、私の能力を探ってる?』


『そうでしょうね』


 単に勝負を捨てたのなら、わざわざあんなことをする必要はないだろう。与人はまだ逆転を諦めていないからこそ、ああして足掻いているのだ。


 そして、彼のこの行動は、単にタマの能力を探る以上の効果を上げていた。


『私の能力だと、ああして牌を伏せられると困るんだけど……』


『そうですね』


 タマの言葉に、忍はそう相槌を打った。与人たちのような行動を取られると、タマの能力の性質上、どうしてもそれが制限されてしまうのだ。


 しかし、忍はそのことをとりたてて問題視していなかった。


『でも、それだけですよ。あんな風に手牌を見ずに打つということは、つまり和了を放棄したということです。むしろ、普通に打たれるより、自分たちに有利なくらいじゃないですか』


 また、タマの能力はあくまでも制限されただけである。全く使えなくなってしまったわけではない。


 だから、与人が和了を放棄して能力を探っている間に、こちらは悠然とリードを広げていけばいいのだ。


 そう考えて、忍が牌を切った矢先のことだった。


「――ン」


 忍は思わず聞き返す。


「は?」


「だから、ロンだよ」


 与人はそう答えると、伏せていた手牌を表にする。


一通イッツー。2600」


 同じ絵柄の数牌を、「一萬、二萬、三萬」「四萬、五萬、六萬」「七萬、八萬、九萬」のように、一から九まで全て揃えて面子を作る一気通貫イッキツウカン


 与人が表にした手牌には、その宣言通りの役が作られていた。

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