『――Past・ShrineMaidens――』
突然ですが、私の名前は『鳳凰 暦』。鳳凰一族の人間で、ここフレムヴァルト帝国を治める鳳凰鈴華様の付き人です。今回はこの場をお借りして私の……いえ、私達の昔話をさせていただきたいと思います。
今より遡ること約七年前――鈴華様が七歳の時のことです。
その日、私を含めた鈴華様の付き人は儀式のための準備を整えていました。この日は私達にも鈴華様にとっても大事な大事な日だったのです。しかし、不幸は突如として起こりました。日が最も高い位置にある頃、異変は起こったのです。
「あははー、こっちだよー李々ちゃん! ほらほら、ぼくを捕まえてみなよー!」
「うぅ~待てぇ~! ボクが捕まえてやる~!」
そう言って私を囲むように周囲を追いかけまわる幼き二人の少女。二人の名前は『鳳凰 瑠々』と『鳳凰 李々』。双子の姉妹である二人はいつも元気に社の中を駆け回っていました……今日までは。
「こら二人共。今日は大事な日なんですから遊ぶなら外で遊んでください」
「え~、いいじゃんこよみちゃん。こよみちゃんも一緒にあそぼ?」
瑠々が大きくて丸い瞳を潤ませてそう誘いの言葉を投げかけますが私には役目があったので、早々に断らせてもらいました。
「また、別の日に……」
「ぶー、もういいよ! いこ、李々ちゃん」
「う、うん」
双子の姉である瑠々に手をひかれながらも私のどこか浮かない顔を心配そうに見つめる李々。
「さて、私もこうしてはいられません。早く準備を整えなければ」
その場に立ち上がった私はシワが出来ないように巫女装束の袴をはたいて、シワを伸ばしました。
ちなみにここはフレムヴァルト帝国の中の鳳凰一族の砦――というよりは社です。ここには私を含めて鈴華様を筆頭に十五人の巫女がいます。私達は主に人々の悪しき悪行を浄化したり、魔を滅したりする仕事に着手しています。表ではそのように言われていますが、実際の所は違います。大昔、まだ四帝族が確率するよりも以前、私達は巫女族というものに分類されていました。
巫女族は産まれたその時点より不死身の力を受け、死ぬことのない肉体を得ます。ただし、その効力は純潔を失うと同時に失われます。そのため、私達は余程の事がない限り死ぬことはありません。元来私達は神族である神々の御子を産むために存在していました。そして神が不死身であるのは私達が子を産む際にその力を子に譲渡するからなんです。
ただし、譲渡すれば不死身ではなくなる。つまり死の確率が出てくるのです。私達はその事を覚悟して産まなければならず、生半可な覚悟では挑めないのです。現に今まで何人もの巫女族がそのせいで亡くなりました。本来死ぬことのない私達が死ぬことは私を含めて大勢の巫女族に影響を与えました。そのため、永遠に不死身で居続けるために神族からの『御子産み』の申し出を断るものも大勢いました。
時は流れてある日のこと、私達にとある一人の巫女が伝承を伝えました。
《よろしいですか、皆さん。今からわたくしが話すことをよーく聞いておくのですよ? 今よりも遥か前、古の時代……わたくし達の祖、『巫穹 燐廻』様は神族の悪しき愚物の集まり――魔族の中でも凶悪な魔神族と鬼神族の間に生まれた七体の魔豪鬼神と対峙し、七つの力を得ました。それこそがわたくし達の持つ七力です。この力は魔豪鬼神それぞれの力を封じ込め具現化した結晶の様なものだと言い伝えられています。燐廻様は魔豪鬼神の精を己の身体に注ぎ、それを巫女の霊力を駆使してこれを作られたのです。七つの力全てを所有した燐廻様は霊力を失う代わりにこれを得ました。そして、子孫であるわたくし達はこれを授与されました。これが七力の伝承です》
そう、私達の全ての始まり――原点は祖、巫穹燐廻様にあるのです。燐廻様がどんな御方かは存じませんが、少なくとも私はとても崇高な御方だと思っています。
場所は変わって、社の中央にやってきた私は儀式場の準備を整えることにしました。扉を開ければ、そこには既に何人か巫女が準備を整えている最中でした。
「あらあら、ようやく来ました? お待ちしていましたわよ、暦さん?」
頬に手を当て微笑を浮かべる大人びた雰囲気を醸し出す女性。彼女は私の先輩に当たる『鳳凰 環』さん。濃い紫色の髪の毛の横髪が肩から垂れていて、日の光に反射してキラキラ光っています。思わず、その綺麗さに呆けていると、今度は後ろから誰かが私の胸を鷲掴みにする人物が。
「ひゃっ! や、やめてください!」
「うふふ、また大きくなったんじゃないの暦ちゃん? お姉さんにはまだ劣るけれど、随分成長しちゃって……」
そう言って五指をわしゃわしゃ動かしているのは同じく私の先輩に当たる『鳳凰 巴』さん。私達十五人の巫女のお姉さん的立ち位置にいる彼女ですが、どうも先程の様に少々変態じみた行為が欠点です。まぁ、本人は成長の確認だと言い張っていますが。
「あうっ!」
気の抜けた様ななんとも言えない声がしてそちらを見やれば、そこには栗毛にチョコ色の双眸をしたアホ毛の少女が何もない所でコケて腰をさすっている姿がありました。彼女の名前は『鳳凰 薺』ちゃん。いつも落ち着きがなくおっちょこちょいなのが悪い所であり彼女の特徴でもあります。ツインテールに髪の毛を結っていてその結び目に金色の鈴をそれぞれ一個ずつ付けているので、歩く度にリンリンと鈴が鳴るのですぐに私達はどこに薺ちゃんがいるのか分かります。また、音がするので一層その音が大きくなると彼女が今コケたということも分かってしまいます。
「ちょっと、あんたはまた何もないトコでこけてるワケ? 少しは成長しなさいよね。ほら、立って! 準備の邪魔よ」
「あうぅ~、ごめんなさい」
藍色の髪の毛をポニーテールに結った少々強気な少女が薺ちゃんの手を引きながら言います。金色の双眸を持つ彼女の名前は『鳳凰 要』さん。私より少し年上の先輩で、胸が発展途上なのを気にしています。なので、私の方が若干発育がいいせいか、最近よく絡まれます。
「何、暦。さっきから人の事ジロジロ見て……。なっ、まさかあんた、自分よりも胸がペッタンコな私を嘲笑してたのね? そうでしょ、そうなのよね? そうなんでしょ?」
「えっ、い、いや……私は」
と、私が弁明するよりも先にややツリ目の要さんが素早く私の背後にまわり、私の胸を揉んできました。これで二度目です……。
「んあっ。や、やめてください……か、要さ……んっ!」
「な、何よ。文句言いながらも可愛い声あげてるじゃない。はは~ん、さてはあんた……胸、弱いんでしょ?」
「へっ?」
思わず変な声をあげてしまう私に勝ち誇った様な笑みを見せる要さん。顔を紅潮させた私は、慌てて言い訳を言おうと口を開きますが――。
むにゅん。
「ひゃんっ! だ、ダメ……です。そんな、わ、私が何をしたっていうんですか……」
「これみよがしにその胸見せつけてたでしょ!?」
「そ、そん……なっ! い、言いがかりです……んぅ」
妙な事を言われて私はさらに抵抗を強めますが、どうも自分の弱点を攻められて体に力が入りません。
すると、そこに助け舟が。
「そんな事やったってあなたが惨めになるだけよ、要?」
「な、何よ! あんたは羨ましくないワケ? あんたも私と同じぺったんこでしょ!?」
私の胸を掴みながらそう文句を言う要さん。しかも、今ので余計に痛いくらい強く握り締められたので、さらに私は甲高い悲鳴をあげてしまいました。
「はぁ、分からないの? 女は胸が全てではないわ。それに、貧乳が好きな人も多い」
「そ、そうなの!?」
アイス片手に半眼の瞳を向けてくる少女、『鳳凰 鑑』に、要さんは驚きの声をあげて私の拘束を緩めました。その隙を狙い私は彼女から慌てて離れました。
「あっ、ちょっと」
手を伸ばし私を捕まえようとしますが、その魔の手をかいくぐり何とか私は無事貞操を守りきりました。
「要……、それでもあなたは無理に胸を大きくしようとして胸が大きい人を妬むの? それに、妬むのなら暦だけでなく、環や巴、後……命も妬むべきなのではなくて?」
「うっ、……し、仕方ないじゃない! 環や巴は年上で先輩だし……命には何言っても笑顔で迫られるだけで適わないんだもん! だから消去法で暦を――ふふっ!」
「ひぃっ!」
自身の防衛本能が即座に働き、さっと自分の胸を庇う私。すると、さらに鑑が続けます。
「はぁ、学習のない子ね。そんな事をしたって無駄だって言ってるのに。ほら、御守を見なさい? あんなにも一生懸命にバカを貫いているわよ?」
鑑の指差す方を向くと、そこには確かにせっせと準備を進めている赤茶髪に黄緑色の双眸を持つ『鳳凰 御守』の姿がありました。
「あっ、おはようございますですー。今日もいい天気ですねー。今日みたいな日は準備がはかどりそうなのですー!」
荷物を目的の場所に置いてふぃーと額の汗を拭いながらそう私達に伝える御守。その姿を見て要さんは何故か口ごもっていました。それから数秒経過してはぁと盛大に嘆息すると、ブツブツ何やら独り言を言って持ち場へと戻っていきました。
「ふぅ、でも何だったのでしょう? よくわかりません」
「暦が気にすることはないわ。それよりも、アイスがなくなっていたのだけど、いつになったら入荷するの?」
「入荷って……社はお店ではないんですよ? その事分かっているんですか?」
「もちろん分かっているつもりよ? だけど、わたしはアイスがなければ動けないの。機動力なの。そのこと、重々承知しているのかしら?」
何やら遠まわしにアイスを要求している鑑に、私は半眼でこう言いました。
「ですが、アイスを食べ過ぎるとカロリーの摂り過ぎで太ってしまいますよ?」
そう忠告しますが、ふっと笑ってドヤ顔で鑑はこう返します。
「わたしは食べても食べても太らない体質なの。気にすることはないわ」
「なっ、何ですかその羨ましい体質はっ! 私なんてこの間もまた体重が増えて……って、それよりもダメなものはダメです! それに、儀式の準備中にアイスを食べる巫女がいますか!」
思わず話が逸れそうになりそれを軌道に戻して私は鑑を注意します。
「ふぁ~、朝から元気ですねぇ~。わたしぃ、まだ眠いんですけどぉ~」
そう言って急に会話に割り込んできた気の抜けた声で話しかけてくるのは先程名前が出た『鳳凰 命』さん。一応、私の先輩にあたる人ですが、どうもこの方はあまり先輩らしくないと言いますか……常にニコニコ笑顔で悟りを開いているような微笑を浮かべていて、十五人の中で最も寝てばかりいる人物です。桜髪に碧眼……と言う話ですが、常に笑顔で目を閉じているのでその瞳の色を見たことがある人物は少ないのだとか。私も今まで一度も見た事がありません。
「さっきわたしぃの話してなかったぁ~?」
「あ、ああ。要さんがちょっと……」
「えぇ~? かなめちゃん、わたしぃに何か用でもあったんですかねぇ~?」
ゆったりした調子で話し続ける命さん。どうもこの人と話しているとあっという間に時間が過ぎそうで怖いです。
「さ、さぁ。一応要さんなら向こうに行きましたけど?」
私は要さんが向かった方角を指差してそう教えます。すると、嬉しそうに笑みを向けた命さんがありがとう、と言って要さんがいると思われる方へ歩いて行きました。
「すごい、暦。今ので過去最高記録、命のゆったり口調が一つのセリフでどれくらい時間がかかるのか」
「い、一応何分だったんですか?」
あらかじめ秒ではなく分で訊く私に、相も変わらずのポーカーフェイスで鑑が頷き口を開きます。
「二分と三十秒。一番短いセリフでも十五秒はかかっている。これ、最高」
その時間に私は度肝を抜かれました。まさか、それほど会話に時間がかかっていたとは驚愕です。
くいくいっ。
ふと何かに巫女服の裾を引かれて私はふと後ろを振り返ります。そしてその存在が少し小さい事を感じて視線を下に下ろしていくと、そこには巫女服から両手を出さずににこやかな笑みを浮かべている少女、『鳳凰 神楽』がいました。
「どうしたんですか?」
私がその場に屈むと、神楽は口を開いてこう言いました。
「ねぇねぇ、あたしも何か手伝いたいの! 何か手伝うことない?」
明るい表情でそう私に尋ねます。ああ、要さんも神楽くらい協力的だったらよかったのですが。と、愚痴は置いておいて。
「そうですね……では、神楽にはあの仏像を動かしてもらえますか?」
「うん、分かった!」
コクリと盛大に大きく頷いた神楽はテテテ、とその場から駆けていった。
「まるでお母さんみたい」
「んなっ、私はまだそんな歳ではありません!」
顔を真っ赤にしてボソリと呟く鑑に文句を言う私。すると、今度は何やら可愛い怪獣の様な声が聞こえてきました。
「がおー! こよみー、ちーと遊べー!」
そう言って私にぶつかってきたのは髪の毛の一部を三つ編みにしている土色に黄色の双眸の幼い少女、『鳳凰 千歳』。神楽とは一歳違いで年上なのですが、どうも千歳の方が子供っぽい部分が抜けていないようです。
「ごめんなさい、千歳。ですが、今は儀式の準備で忙しいのです。今晩までに準備を終えなければ儀式に間に合いません。千歳も手伝ってくれませんか?」
「えー、ちーは忙しいから遠慮するのだ! そうだ、かがみー。ちーと遊ぼー?」
「悪いな、千歳。わたしも少し忙しい。アイスを食べないといけないから」
「こら、鑑。訳の分からない理由を作ってはいけません。ちゃんと働いてください!」
断る理由がおかしいので少し怒った顔で私は鑑を注意します。
「まぁまぁそう怒らない。それじゃあわたしは用事があるのでこれで」
「あっ、こら! もう……。そうです、愛李ー、愛李はいませんかー?」
私は声を張り上げて一人の少女の名前を呼びます。
「なにぃ?」
ひょっこり部屋の外から顔を覗かせるのは長い前髪を水色のゴムで結っている幼い少女で『鳳凰 愛李』。鈴華様と同じ年齢で、よく遊び相手になっている子です。
「ちょっとすみませんが、千歳と遊んでもらえませんか? 儀式の準備が進まないので……」
「しょうがないなー。うん、いいよ? さぁ、あいと行こ、ちー姉?」
小さな手を伸ばし千歳に遊びに行こうと促す愛李。その表情に千歳も一瞬面食らった様に呆然とするが、すぐにハッとなってコクリと頷きます。ふぅ、これでとりあえず準備を進められそうです。
こうして私を含めた十代及び二十代の巫女達と一緒に準備が行われていきました。はぁ、本来ならばもっと多くの巫女で行われるはずだったのですが……。
こうなったのも大昔のあの事件が発端でした。
というわけで、いきなり新キャラの暦ちゃんが進行役を務めてくれました。
新キャラが早々に進めてくれるってなかなかないですよね。んでもって、登場人物が全員女の子ってェ……。とまぁ、それはさておき、暦は最後に大昔のあの事件が発端と仄めかしてますよね? そう、これ続きます。




