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『――Mefatos・Goust――』

 我が名は『神崎(かんざき) 斬覇(きりはる)』。斬覇と書いて「きりはる」と読む。突然ストーリーを止めてしまって申し訳ないが、少々我が重たいエピソードに付き合ってもらいたい。其方達には分かるだろうか? 我がエピソードがどれほどまでに辛く哀しいものであるかを。


「斬覇、お前はもう用済みだ」


 そう言う一人の漆黒のボロボロローブを羽織った男。やつの名は『ジョーカー』。我とはちょっとした知り合いの関係で、仕事もよく共にこなす仲であった。だが、そんなある日我はやつに裏切られた。そう、騙されたのだ。我も詳しくは覚えていないが、気づけば我は神界の者共に狙われ、居所を気取られれば襲撃を受ける毎日であった。全く持って歯がゆく許しがたい行為だ。我はどうにかしてやつを道連れにしようと下界へと降り立った。逃げ惑う我に追撃する神族の者共により多少深手を負ったものの、力は使える状態。これならばやつと対等に渡り合える計算だった。だが、現実はそう甘くはなかった。


「これで終わりだ、斬覇!」


 ジョーカーはキヒ、と真っ白な歯を光らせ不気味な赤黒い巨大な鎌を顕現させると、我に向かってその鎌を放った。振るわれる鎌は空を切り、我が脇をかすめとる。


「ぐッ! おのれ、ジョーカー……例え我が身が朽ち果てようとも其方への恨み怨念は消えぬぞ!」


「キヒ、それがどうした? オレはただテメェが気に入らねェから殺すだけだ! さぁ、遺言はどうしたァ? まァ、訊く気もねェけどよォ~! あばよッ!」


 上半身を捻りより威力をつけようと豪快に得物を振るう。鎌はジョーカーの手を離れ、我の方へと回転しながら直進してきた。


「くっ、顕現せよ我が半神!」


 言葉と共に我の隣に出現する七本の槍。


「貫け!『ヘプタ・スピア』!!」


 七本の槍は空を舞い、七方向から中心にいるジョーカーへと放たれる。しかし、やつは避ける素振りも見せずただ不気味な笑みを浮かべるだけだ。


ブスブスブスッ!


 次々にやつの肉体へと突き刺さる七本の槍。槍の威力は強く、標的の肉体を貫き先端がその先まで突き出ていた。宙に浮くやつの肉体から滴り落ちる真っ赤な真紅の液は地面を赤く染めていき、やがて小さな血だまりとなる。


「やったか……」


 その時、我は油断していた。敵の生死を確認せず背を向けてしまったのである。その隙をやつが逃さぬ訳がない。


グサリッ!


「ぐふッ!? ぐほァ、じ……ジョーカー……ぁ!」


 バタンッ!!


「キヒ、ヒーッヒヒヒヒヒヒ!! ヒヒヒヘハハハハハハハハハ!!! バカだァ、テメェやっぱバカだよなァ!? フツー、敵に背ェ見せるかァ? キヒヒ、こうやって敵の生死をしっかと確認しねェとなァ!!」


 霞む意識の中、やつは我に七本の槍をそれぞれ急所に突き刺した。多量出血で我が命はここで尽きた……そう思ったのだ。だが、我が命はここでは尽きることはなかった。

 次に我が目を覚ますと、そこは薄暗い建物の中。周囲を見渡すと目の前に一人の鎧男がいた。男は言う。


「貴様、わしのために力を尽くさんか?」


 その言葉の真意は分からない。だが、我が新たな人生を歩む事が出来るのならばこれほどまでに美味しい話はない。そう思った。しかし、これがまた我の油断にして馬鹿な選択だった。我はどうも悪しき者と良き者の区別が付けられぬらしい。

 時は流れ、我は一つのイベントに参加した。どうやら我は鎧一族と呼ばれる一族に入っているらしい。面々は誰もが全身に鎧を身にまとっており、我も気づけば鎧を身につけていた。


「さぁ、メファトスよ。貴様の力をこやつらに見せつけてやるのだッ!!」


 メファトス。どうやらここでは我の名はメファトスというらしい。だが、新たな人生を始めるのならば名前も改名しなければならないだろうと言うことは薄々わかってはいた我はコクリと首肯し、鞘より我が剣を引き抜いた。

 我としては我が半神であるヘプタ・スピアを用いたかったが、どうやら半神の姿はない様だ。

 気づけば我は真っ赤な血の海の中にいた。鎧を身に纏っているためそんな感じはしないが、鉄臭い臭いがする。決して鎧のせいではない。血生臭い……そう人間の血。どうやら我はいつの間にか同胞を切り捨ていたようだ。これでは以前のジョーカーと変わらぬのではないかと我は嘆き、その場に崩折れた。すると、そんな我の肩に手を置く何者かが立っていた。気を感じ取る限りどうやら三人いるらしい。あの激しく酷い戦いの中で三人も残ったというのか。

 我は一目その人物を見ようと面をあげ振り向く。


「なるほど、お前が四人目か。よろしくな、惨殺の騎士」


「けっ、せいぜいオレらの足を引っ張んなよ新入り?」


「お前らよさぬか。こやつとて勝手が分かっておらんのだ、そうであろうゴウストよ」


 三人がそれぞれ口を開く。我も口を開こうとするがなかなか言葉が出ない。しかし、ようやくのことで第一声が洩れる。


「ああ、よろしく頼む」


 後に分かったことだが、やつらの名は順にファントム、フェニックス、スパイダーというらしい。にしても、ここは何かがおかしい。周囲にこんなにも大量に屍が転がっているというのに、誰一人としてその事についての話題をしない。それどころかその屍をまたぐどころか踏み越えてゆくのだ。我には考えられなかった。これほどまでに酷いものなのか、下界は……。まるで、ジョーカーの意思が乗り移った人族の吹溜まりだった。

 それからも残虐な事件は続く。まず我らのトップに君臨する男――オルガルト帝による大量の残虐事件。これによりやつの治めるエレゴグルドボトという帝国の民達が反乱を起こした。だが、所詮はただの力なき庶民。歯が立つはずもなく、無残にも屍人となっていった。我はその光景を目の当たりにして気がどうにかなりそうで恐ろしかった。

 この世界には誰も心優しき人間はいないのかと絶望した。女子供関係なく殺されていく。中には鎧一族の面々により庶民の若い女性達が次々に性的被害に遭うこともあった。泣き叫ぶ女達は容赦なく殺し、飛びかかる男共を気の済むまで殴り飛ばし最期に止めを刺す。これが同じ人間のやることか……。言葉も出ない。ただ、我は見ているしかなかった。

 その後、我らの砦の地下にクロノスと呼ばれる研究組織が建造された。何でも何やら様々な発明品を作らせるためにオルガルト帝が取り込んだらしい。

 そんなある日我はオルガルト帝に呼び出された。


「メファトス……貴様、今回の大量虐殺に参加していなかったそうだな?」


「い、いやそのようなことは……」


 我は口篭った。実際、事実だからだ。


「ではなぜ、貴様の刀からはゴミクズ共の死臭がせん?」


「そ、それは……」


「まぁよい。貴様にはこれをつけてもらう」


 そう言って我は首に何やら首輪を取り付けられた。聞けばこれは『奴隷の首輪(カラー・スレイヴ)』というらしい。首輪の一部に鎖がつき、その先がオルガルト帝の手に握られている。


「ふっ、さぁ……お仕置きの時間だッ!!」


「何を――」


 刹那――。


 ビリッ、ビシャァアアアアアッ!!!


「ぐぁあああァアあああァアあああ!!?」


「……分かったか? わしに歯向かえばこうなる。その事その身によく刻みつけておくがいい。下がれ」


 オルガルト帝は我が電撃に痺れその場に突っ伏しているのを面白可笑しそうに見下ろすと、我にそう告げた。

 我は何か間違っていたのだろうか? ただ、何の罪もない人々を殺すのが嫌だっただけだ。

 あれからしばらくして、我は神族からはぐれ神族が現れ下界に落ちたという話を聞いた。恐らく我の事だろう。はぐれ神族……か。それも悪くはないかもしれない。ただ気がかりなのは我が妻だ。どうも気になる。

 さらに時は流れ、クロノスに関連する工場からの排煙により、木々の生態が悪化し空気中にも有害物質が浮遊して庶民に重大な被害を及ぼした。これは後に人体破壊事件として庶民よりオルガルト帝へと告訴が持ち上がったが、その翌日告訴してきた人物及び、その関係者は何者かによる襲撃を受け皆殺しにされたらしい。恐らくこれもオルガルト帝の仕業であろうと我は踏んでいる。


「今日は貴様に以前紹介した鳳凰鈴華、霧霊霜水恋、嵐暗冷との定例帝族会があるのでな。席を外す」


 そう言ってオルガルト帝は砦から出て行った。先程名があげられた三人はオルガルト帝と同じく人族の中でも帝族と呼ばれる種族らしい。どうやら人族も神族と同様似たような制度をとっているようだ。

 それから数年後、我以外の最強四天王がある日仕事へと出かけた。何やらやけにニヤついた表情を浮かべていたが、何かあるのだろうか。我は気になりふとオルガルト帝に質問した。すると、やつはこう言った。


「ふっ、気になるのか? だがまだ貴様が知るには早い。まだその時ではないのだ。時が満ちれば教えてやろう」


 何やらもったいぶった言葉でそう告げられ我はよけいにその事が気になった。

 その日の夜、ようやく四天王の内の三人を含めた数百人の鎧一族が帰還したが、全員なにやら少しグッタリしながらも何か満足した様な異様な表情を浮かべていた。本当に何なのだろう。


「メファトスよ」


「はっ! お呼でしょうか?」


 我は片膝をつき、オルガルト帝に忠誠を示す。すると、面をあげろと言われて顔をあげるとやつの隣に見慣れる一人の赤髪の少女が我と同様カラー・スレイヴをつけてワインを注いでいる姿があった。


「貴様に紹介しようと思ってな。こやつは、今日から我の従順なるペットとなる女だ」


「しかし、その少女はどう見ても七歳程の幼き娘に見えるのですが……」


 事実そうだった。少女は何故か表情が乏しく、まるで何か洗脳を受けているような表情を浮かべていた。しかも服装が乱れ、その発育途中の肢体が見えてしまいそうだった。しかし、オルガルト帝はむしろその姿を楽しんでいるようで、少女の恰好を上から下まで舐めまわすように頬杖をつき、ワインを少しずつ飲み下しながら眺めていた。

 くっ、相変わらずの下劣な男だ。そう、我はやつを軽蔑するが決して口には出せなかった。出せば最期、庶民の様な非人道的な事をされて殺される。そう思ったのだ。

 それから数十日後のある日、我はある噂を頼りにオルガルト帝の連れているあの赤髪奴隷少女の正体が以前我も目にした鳳凰鈴華帝王だという事が判明した。同じ帝族でありながらこの様な事をするとはいよいよ我慢がならなかった。それもあれほどまでに幼い少女を本当に虫けらの様に扱うあの男。帝族どころか人族であることすら反吐が出そうだ。

 我はとうとう冷静さを失い、オルガルト帝のいる帝王の間へと向かった。扉を激しく開け放つと、やつはあろうことか帝王鳳凰鈴華を自身の膝の上に座らせその肢体を撫でさすっていた。


「くッ! き、貴様ぁああああああ!!! そこに直れ、帝王オルガルトッ!!」


 我は今までにない叫び声をあげた。鞘から剣を引き抜きオルガルト帝に突きつける。


「ほう、これは何の真似だゴウスト……ん? 何のマネかと訊いているのだッ!!」


「や、あんっ!」


 部下の反逆にその紅蓮の双眸を一層強く光らせ鳳凰鈴華のか細い腕を締め付ける。そのため、鳳凰鈴華は辛そうに悲鳴をあげた。


「貴様、その穢れし手を離すのだ! 其の者は彼のフレムヴァルト帝国の鳳凰鈴華であろう!」


「ぐふははははは、ようやく気づきおったか! その通り、こやつは鈴華だ。訳あってここに連れてきたのだよ」


「では、やはりあの時の我以外の面々が向かったのは――」


「ご明察、如何にもフレムヴァルト帝国の鳳凰一族の砦に向かわせたのだ。傑作であったぞ? 燃え盛る神社の中で泣き叫ぶ巫女達と嬲り殺しにされていく巫女共の悲鳴は! ふっ、っはっはっはっはっは!! 愉快だ! いつ貴様が気づくか今か今かと待っておったわ。もう少し気づくのが遅ければこやつにも口では言えん事をしておったかもな!! くく……」


 拳が強く握られる。我が右手が震える。剣を取り、今すぐにでもこのベラベラと下品な言葉しか口に出来ぬこの男の首を切り落とせと我が体が命じている。だが、ここでやつを敵に回せば他のメンバーから襲撃を受けかねない。そう思った我は穏便に事を済まそうとやつにこう申し出た。


「今すぐに彼女をフレムヴァルト帝国に返すのだ!」


「ふっ、それは叶わん願いよ。ゴウスト……貴様は記憶を取り戻したのだろう? 元々貴様は心優しき神族の身。はぐれ神族というのも、あの暗黒の神によって謀られただけなのだろう? くく、我は全て分かっている」


「もういいッ!!」


 我は下唇をギュッと噛み締めその場から去った。無論このまま引き下がるわけがない。これから向かう場所は――フレムヴァルト帝国だ。




「うっ……あァ、ここは?」


「ふっ、ようやく目覚めおったか。貴様……やってくれたな。貴様が鈴華がここにいるという情報を流したせいでフレムヴァルトの連中がここへ襲撃しに来おった。これは戦争だ。貴様には重大な罰を受けてもらわねばならん! その優しき心……その心が邪魔なのだ! 我が使い捨ての駒共に生半可な心など与えておるからこうなるッ! だから貴様には心を捨ててもらう!!」


 心を捨てる? つまり、ただの抜け殻になる? 冗談ではない。心がないなど冗談ではないのだ。我はこんなありえない死に様を迎える男ではない。

 だが、体を動かそうにも何故か気だるく動かない。腕を見ればそこには何かを注射された跡が何箇所もあった。


「くく……薬品投与だ。どうだい、気分は? 体の自由が聞かないのではないか? まぁそれも無理はない。これもほんの少しでも痛みを和らげるためだ。分かってくれたまえ」


 そういうのは一人の白衣姿の男。薄い銀髪に黄土色の双眸。老婆がかけていそうな小さなレンズのメガネをかけており、その常に怪しい事を考えていそうな口の端を釣り上げた様子は不気味以外に言葉が出ない。


「貴様には幻滅したぞ、その優しき心も汚れたな。貴様のせいでここへやってきたフレムヴァルトの連中は死に堪えるのだ。我が屍霊の軍勢によってな?」


「し、屍霊だと? ま、まさか……そうか。何かおかしいと思ったらあの時死んだ鎧一族の面々は――」


「さよう、クロノスの科学力によりこの世に再び生を成した捨て駒共だ。ぐふふ、つまりあの巫女共の純潔はあの屍霊共に奪われたも同様! ぐふふ、ふははははは! たまらん、たまらんぞ、愉快でたまらんわ、ぐふははははははは!!」


「くッ! オルガルトッ! くっ、今すぐにこの拘束具を外せ! その汚れ切った舌、其方の頭蓋から切り落としてくれる!!」


 しかし所詮は叶わぬ望み。オルガルト帝はこれみよがしに我が鎖の先端を握ると電撃を浴びせた。


「ぐぁあああああああッ!!」


「貴様の役目は終わりだ。後は心を失い本物の我が従順なる下僕となるがいい。貴様の本当の役目はまだ後なのでな……。我が崇仰なる計画には貴様の様な心の持ち主は邪魔以外の何者でもない。消えてもらう! さぁやれレイヴォル」


「了解」


 レイヴォルと呼ばれる先ほどの白衣男がレバーを下ろすと同時に何やら漆黒に塗られた大型の機械が奇怪な音を立てて回転しだし、それに取り付けられている四つの球体が青白く光ったかと思うと我が体へと鎖から流れる電撃の倍の威力の電撃が浴びせられた。

 これが本当の地獄……。我は後悔した。何故あの時冷静さを失ってしまったのか。あそこで下手な事をしなければ上手くやっていけたのかもしれない。だが、もう遅い……全て遅いのだ。我は気が遠くなった。

 何かが肉体から剥がされるような感覚……そうか、これが心を破壊するということ……。くっ、貴様らに破壊されるくらいなら――この我自身の手でッ!!!


「ん!? なっ、オルガルト帝下がれ! やつめ、最後の力で自ら心を破壊するつもりだ!!」


「何ッ!? どうなるのだ?」


「わからん! もしかすると、使い物にならなくなる可能性も……」


「それはまずい! やめろ、今すぐやめるのだゴウスト!! いや、神崎斬覇ッ!!」


「ふっ、ははははははははは! そうだ、我が名は斬覇! 神崎斬覇だ!!! 其方の、其方の思い通りにはならんぞ、帝王オルガルトッ!!」


 最期の言葉……それ以降は声が出なかった。ブツン! と何かがショートする。完全に我の体から何かが抜き取られる。これ、ほどまでに、心を失うと、……何も感じないのか。……痛みさえも。感情……が、……なくな――かも、しれない。

 ……じょ、ジョーカー。……どう、やら……我は……本当に馬鹿……らし――。

というわけで、神崎斬覇の登場です。誰やねん、っていう人もいるかと思いますが、名前は恐らく今回が初出かもしれません。そう――最強の鎧一族四天王の一人であるゴウストの正体です。まぁ、サブタイにも書いてありますからね。今回の話は結構流れに重要な部分を表しています。時系列は一話よりももっと前になるので混乱する人もいるかと思いますが。まぁ、要はこの人が神崎王都と神崎妃愛の父親ってわけです。納得しましたか? つまり、鎧一族の四天王の一人は神族で既に心を失っているわけです。だからあんなんなんですね。

てなわけで、次は度々出ていた鳳凰一族、そしてその元となる巫女族の過去をやります。七力のことについてもここで触れると思います。これを見れば、なぜ鈴華が七力を全て持っているのかも分かるかと。

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