第三十一話「天文台の少年と天使九階級」・1
私――光陽斑希は、残り一人の伝説の戦士を探しにエレゴグルドボト帝国の『トゥインクル・ギャラクシー天文台』を訪れていた。あの後、何とか船は大陸にたどり着き、私達は何日かぶりの陸地に足を踏み入れた。
「ここが、その天文台か……」
腰に手を当て上を見上げる砕狼。その言葉に私も天文台の方を向く。確かに砕狼の言う通り、その天文台は凄く大きくてっぺん辺りには光を遠くまで届ける装置が設置されていた。しかし、外見はただの塔で天文台には見えない。何でもこの天文台は、随分前に管理人である老人が亡くなって以来封鎖されることになったはずらしいのだが、それが今現在何故か活動を再開している。扉も開いていて、まるで入ってこいと言わんばかりだ。
「どうする、入ってみる?」
メンバーの意見を確認しようと私はみんなに訊いた。すると、一番最初に返事が返ってきたのは癒宇さんだった。
「そうでございますね、このままここにいるのもいささかアレですし、それに残すところは後一人……その人物がどこにいるかは既に明確なのですから、行かないという選択肢は取りようがありません」
相も変わらず悟りを開いた様な柔和な笑みを浮かべて癒宇さんが言う。その言葉を皆の意見だと感じ取った私は、ゆっくり頷き先頭に立ってトゥインクル・ギャラクシー天文台の中へと足を踏み入れた。
「結構薄暗いんだね……」
「そうだな」
葡豊と乱火が照明がついてないのを訝しげに見つめながら呟く。私も確かにそれには不審感を覚えた。普通なら電気を点けてそうなのに、節約でもしているのだろうか? そう思いつつ私達はさらに奥へと足を踏み入れる。
すると、誰かがこちらに駆けてくる足音が聞こえてきた。
音のする方へ顔を向けてみれば、奥の暗闇から何やら光を纏った誰かがこちらへ近づいてくる。しかし、よく見るとその人物は何者かに追われている様な感じだった。
「だ、大丈夫ですか?」
私は思わず相手に声をかけてしまったが、相手から聞こえてきたのは悲鳴めいた助けを求める声――ではなく、
「あははは! こっち、こっちだよー、けいー!」
「待て待てぇー! つかまえちゃうぞ~!!」
赤髪ツインテールに金色の瞳を持った少女がキラキラ輝いたオーラを発して――ていうか、ホントにキラキラ輝いている!?
私は驚きを隠せなかった。何せ、目の前にこちらへ満面の笑みを浮かべて楽しそうにはしゃぎながら走ってくる女の子が、キラキラオーラを纏うどころか本当にキラキラした何かを発しているとは思わないだろう、普通ならば。
「何であの少女はあんなにも楽しそうなのだ?」
「それよりも、まずはあのオーラについて疑問を抱くべきですよ!」
いまいち観点がズレている彪岩さんに私は少し口調を強める。
「あれは人間の類ではございませんね」
癒宇さんが少し真剣な面持ちで語る。その言葉に他の皆も一気に気を引き締めて緊張感を高める。
「人間じゃないってどういうことですか?」
私が尋ねると、癒宇さんはコクリと頷いて説明を始めた。話によると、何でもあのツインテールの女の子から発せられる気が人間の物とは違い、別の生き物の気配なのだとか。魔力を測定して誰なのかを特定することは私にも出来ない事はないが、生き物の特定だとか人族かどうかの識別などは専門外だった。
「ってことは、あの嬢ちゃんは妖精とかなのか?」
妖燕さんが顎に手を添え独り言の様に呟く。その言葉に私も考え込んだ。確かに体から輝くオーラを放つなど、妖精以外に考えられない。しかし、となると彼女は妖精――即ち神族の者となる。だとすると、どうしてあの少女はあんなにも楽しそうに人族の男の子と遊んでいるのだろうか? 現に私達が色々と思考している間も、恐らく十歳いくかいかないかくらいの齢の、星の様な金色の髪を持つ少年が謎の少女と楽しそうに追いかけっこをしている。あの子が人族ならばまだ暖かな眼差しで眺めて和むことも出来るだろう。だが、その女の子が神族だというのならば話は別だ。私達人族は神族の事を激しく憎んでいた。理由は単純。全ての始まりは神によるものだと、幼い頃に私達は教わった。でも、それがどこから伝わり今の様に知識を得たのかは分からない。ただ神族は、私達人族にとっては憎むべき存在であり、いつか強い力を得た時に滅する対象なのだとか。
ただ私は今も疑問を抱いている。それは少し前に遡るのだが、以前彪岩さんと初めて会った時、彼は私の母であるフィーレの事を“太陽の神”だと言った。
太陽の神といえば、世界の力バランスを保っていたという四人の神の一人である。しかし、そうなると必然的にお母さんの妹であり月牙の母親でもあるルナーさんも神族である事になる。さらに、親が神族ならば子も神族のはず――。なので、私と月牙も神族である可能性が浮上してくるのだ。ただその可能性を私は信じるに信じきれなかった。いや、認めたくなかっただけなのかもしれない。なにせ、私が神族であることが周囲にいる皆にバレてしまったら、その時私は神族を恨んでいる彼らに殺されてしまうかもしれないのだから。恐れるのも当たり前だ。せっかく集めた仲間に殺されるのはとても辛い。もしもそれが実現したりすれば、私の心は深く傷つき、傷ついた心が癒える事は決してないだろう。
「斑希さん、どうします?」
雷落に名前を呼ばれハッとなった私は、思考するのを止めて首を傾げる。
「ん、何が?」
「ですからあの女の子ですよ! 正体、確かめた方がよくないですか?」
「う~ん、それもそうね。でも、大丈夫かしら?」
「何か不安な事でもあるの?」
不思議そうな顔で訊く砂唯に、私は少し深刻そうな雰囲気で言った。
「もしも仲間がいたら? 私達が有利だとは思うけれど、もしも……の可能性を思慮に入れておかないと」
「確かに、それもそうですね」
葡豊が私の意見に賛成して頷く。すると、いてもたってもいられないのか、鋼鉄が拳と拳をぶつけ合いながら私に言った。
「んなことよりもよ斑希! あの女をとっ捕まえて正体無理やり暴こうぜ! その方が手っ取り早ぇ!!」
「んなっ、だ、ダメよそんなの! あの子が可哀想じゃない」
あんな可愛い女の子に乱暴を働こうなど許さない。別に殺しはしないだろうが、いろんな意味で手の早い鋼鉄の事だ。恐らく、十代前半であろう少女相手だろうが容赦なく拳を振るい、暴力に物を言わせるだろう。それだけは何としてでも阻止しないと、少女によって神族側にチクられたりでもしたら再び戦争が起こりかねない。なので私は、どんな手を取ってでも鋼鉄を制止させなければならなかった。
「チッ! だったら早くしてくれよ!! オレは早く相棒をぶん回してぇんだからよ!!」
そう言って小指で耳の穴をほじりながらダルそうに声を荒げた鋼鉄は、鋼鉄球を引きずりながら天文台の外へと出て行ってしまった。
「あ、おい兄貴!」
「何だお前たち、そんなにも腕が疼くのか? ガハハ。どれ、おれも混ざろうではないか!」
そう言って筋肉バカ従兄弟三人は天文台の外へと姿を消した。
「はぁ……」
「前途多難だな、斑希とやら」
「まぁこのメンバーのリーダーなんだ、仕方ないよ兄さん」
嘆息する私の後ろから双子の声。聖龍と俊龍である。全く、私の苦労が分かっているなら少しはもっと労わる様な言葉をかけてほしいものだ。
「溜息ついて元気ないの、お姉ちゃん?」
一気に気だるい気分が一掃されるような感覚を感じ顔をふとあげてみると、目の前にムードメーカーと言う立ち位置にいる私の天使――もとい光蘭が心配そうに眉を垂れさせて潤んだ瞳で私に訊いてきた。
その今にも泣き出しそうな顔に、慌てて私は光蘭と同じ視線になるようにその場に屈んで頭を撫でながら答えた。
「ううん、平気よ。光蘭の顔見てたら疲れなんてすぐに吹き飛んだわ! ありがとう」
「うん! えへへ、よかったぁ」
嬉しそうに頬を赤らめ笑顔で喜ぶ光蘭を見て、私も思わず笑みを零す。すると、そこにイヤミの様にこの一言――。
「やっぱロリコンだな」
「んなっ! だから私はそんなんじゃないって!! それに、シスコンのあなたに言われたくないわ!」
「だぁれがシスコンだコンニャロー!」
そう、道端に捨てられていた少女――雪羅の義理の兄である氷雨だ。血が繋がってないとはいえ、妹を溺愛しすぎている重度のシスコンの氷雨だが、そんな氷雨に私はよくロリコン呼ばわりされている。確かに光蘭や雪羅や小さい女の子を可愛がってはいるが、そんなはずはない。そんなはずがないのだ……多分。
「シーッ! お兄ちゃん静かにして。あの人に聞かれたらどうするの?」
「お、おぅ。ワリィ、ゆき」
このように妹に注意されるとコロッと態度を変えてペコペコする愚兄。なぜだろう、少し兄という存在に憧れを感じる自分がいた気がした。
「とにかくこのままじゃ埓があかない。訊くならとっとと訊こうぜ?」
その乱火の一言でようやく状況が動き出した。丁度タイミングよく少年がどこかに姿を消して女の子だけになっていたからだ。
足音を立たせて徐々にその二人との距離を縮める私達。すると、私達を視界に捉えたのか、それとも存在の気配を感じたのか少年よりも早くその赤髪ツインテールの謎の少女がこちらを一瞥した。そして直後に少々険しい表情となる。やはり、警戒しているのだろうか?
とにかく私達が敵対心を抱いていないことを相手に分かってもらうことにする。
「怖がらないで? 私達はただ、あなたたちに話があってきたの」
【何ですって? あたしに話? 何の話なのかな? あたし今、けーやベル達と遊んでて忙しいんだけど?】
少し不良めいた口調でそう言う少女に、私は少女の雰囲気が一気に変化したことに気づいた。そこには、先程まで満面の笑みを浮かべて楽しそうにはしゃいでいた年相応の女の子の面影は微塵もない。あるのは、どこか不気味な不思議な印象を与える謎の雰囲気だけだ。
「私は光陽斑希、あなたは?」
【ん? ふれあ? どっかで聞いたような……まぁいいや。えと、あたし? ふふ、聞いて驚かないでよ? あたしはネメエル。『ネメエル=T=フォルーズ』……神族の天族で『天使九階級』の一人だよ】
ネメエルと名乗る少女の言葉に、私を含めメンバー全員が驚愕した。やはり予想通り少女――ネメエルは神族だったのだ。しかも、神族の中でも天族に分類される天使……。これであの体から発せられる輝かしいオーラの理由も分かった。だが、一つだけ分からないことがあった。
「天使九階級って……何?」
その質問に、ポカンとした顔になるネメエル。
【は? え? ちょっと待って? え、何? それホントに言ってるの?】
「そ、そうだけど」
ネメエルは凄く動揺していた。それほどまでに動揺することなのだろうか?
そんな風に思っていたその時、ボソボソとネメエルが何かを呟いた。が、よく聞き取れなかったため、何を言ったのか訊こうと口を開く。
「え、何?」
【あんた、ぶぁっかじゃないの!?】
いきなり罵声を浴びせられた。年下にそんなことを言われたのは産まれて初めてだった。いや、氷雨にも言われたことあるけど……。
「な、何よ! 悪い? 問題でもある? ホントに知らないんだから仕方ないじゃない」
思わずムキになる私だが、後ろに葡豊や乱火達がいることを思い出してハッとなり、冷静になろうと平常心平常心と内心で唱える。
「ふぅ……それで、結局天使九階級って何なの?」
【はぁ、仕方ないわね。愚直なあなた達下等な人族にもわかるように教えてあげる! 天使級階級ってのはね――】
そう言って長々と説明が始まった。かいつまんで話すとこうだ。
というわけで、最後の伝説の戦士を仲間にやってきたトゥインクル・ギャラクシー天文台ですが、そこで出会ったのは美しい少女天使でした。というわけで、何か伝説の戦士を仲間にするはずが、メインが天使の話になってます。完全に肝心な人物が蚊帳の外状態ですね。
てなわけで、天使九階級の一人ネメエルが登場しました。さて、残り八人一体どんな天使が出るのか。今回は三部構成でお送りします。




