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第四話「霧霊霜一族現当主と雨の村の長」・2

「アイテムは自分のだけではなく、相手のも上手く利用しないとな?」


 倒れている男に向かって上から目線でそう口にした月牙は最後の一人の目の前に立った。


「最後は……俺だ」


 その男はサングラスをかけており、少し長めの髪が特徴的だった。月牙はその気迫を肌で感じ取り、相手との距離を十分に取ると剣を握った。


「で、では開始!」


 少し焦り出しながら水恋の開始の合図が送られ最後の試合が始まった。開始早々、月牙は真正面から突っ切って剣を振り上げると、その剣を一気に振り下ろした。空を切るようなビュンッ! という音が鳴り、衝撃波が巻き起こる。しかし、その攻撃を男は一歩後ろに下がって横に少し動くだけで躱してしまった。


「くっ!」


 月牙は悔しそうに自分の目の前にいる敵を睨み付けた。

 と、その時、男が無言のまま月牙の顔の前に手を振りかざした。

 刹那――赤い光が手のひらの中心に収縮され、月牙のすぐ目の前で爆発した。直撃は必須、煙が舞い上がり月牙の安否は分からない。周囲の観衆の少女達も緊張感を漂わせる雰囲気だった。すると、舞い上がる煙の中から一人の人影が――。そう、月牙だ。ボロボロの姿で命からがら脱出した月牙は、三回戦目の疲れも出ていて体力の限界も近づいていた。


「くそ、あれしかないか……」


 月牙は呼吸を整え、ポケットから何かを取り出した。それはビー玉サイズの綺麗な玉だった。そう、パワーストーンだ。月牙は力を籠めそれを砕いた。同時に魔力が急激に上昇する。


「何かするつもりのようだな」


 静かな声で月牙に話しかける男は、その場から一歩も動かず、腰に提げていた剣を抜き取って月牙へ向けた。

 一方で覚醒モードに突入した月牙は、「うぉおおおおおっ!!」と大声を上げて気合を高めた。そして、目力たっぷりの状態で「秘技! 第一段階『陰暦十二使徒』!!」と叫んだ。すると、月牙の隣に一人の少女が姿を現した。


「お呼びでしょうか、ご主人様(マスター)……」


 月牙よりももっと薄い黄色の髪の毛を持つ少女は、月牙がボロボロ状態なのを見て訊いた。


「卯月、今回の獲物はあの男だ!!」


 そう言って、震える手でサングラスをかけた男を指さす月牙。


「了解しました」


 卯月はコクリと頷くと、何もない場所から短剣を取り出した。それを見た男は口元に笑みを浮かべて言った。


「面白い……二対一ということか。望むところだ、かかってこい!!」


 大きく手を広げ二人を挑発するサングラスの男。


「じゃあお言葉に甘えて行かせてもらうぜ?」


 月牙は、卯月と同時に男に向かって攻撃をしかけた。しかし、男は二人の攻撃を一本の剣で全て受け止めていた。というよりも、促していたと言う方が妥当かもしれない。

 それからしばらくの間、三人が戦いあっているうちに、月牙があることに気付いた。なんと相手の剣が一本から二本に増えていたのだ。


「な、何ッ!?」


 月牙は驚愕している間に、その隙を相手に突かれ吹き飛ばされた。


「ぐわあっ!!」


ご主人様(マスター)!!」


 卯月は月牙の方を向いて声をあげた。その隙をサングラスの男が見逃さないわけがない。案の定敵は、一本の剣を上空に投げその剣が宙を舞っている間に、手から卯月の腰に向かって魔力の波動を打ちこんだ。


「ぐうっ!?」


 腰を押さえながら後ろに押し下げられる卯月。


「なんて強さだ。こうなったら第二段階に行くしかないな!」


 月牙の言葉に、男は少し反応した。


「まだあるのか?」


「これから行う第二段階で、俺の強さはさらに上昇するんだ!」


 何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる月牙に、サングラスの男だけでなく周囲の観衆までもが息を飲んだ……。

 月牙は深く深呼吸し、目を見開いて叫んだ。


「第二段階、解放!!」


「……来るか」


 サングラスの男は剣を構え防御態勢に入った。しかし、その行動に月牙は言った。


「そんなもんじゃ俺の第二段階を防ぐことは出来ないぞ!」


 体中から大量の魔力があふれ出し、小さな小石が浮かび上がる。


「こいつはすごいな……だが、そんなお遊びもここまでだ。次の攻撃は手抜きではない、本気だ……!!」


「そう来なくっちゃな」


 やる気満々の月牙。


「先攻は俺から行かせてもらおう!」


 男は身の危険を感じたのか、自分から攻撃を仕掛けてきた。しかし、そんなことは想定内の月牙は、剣を振り上げ力をこめると勢いよく剣を振り下ろした。同時に、凄まじい衝撃波が地面を抉り男を襲う。


「ぐわあああああああ!!」


「どうだ、第二段階の威力は? これこそが第二段階の力『ユニバーサル・サテライト』だ! 言っておくが、この必殺技は後もう一段階あるからな」


 月牙の言葉に男は息を呑んだ。あまりにもの戦力差を感じたのか、男は放心状態に陥って剣を手放してしまった。そんな男に、月牙は容赦なく剣を振り下ろした。しかし、ギリギリのところで水恋が月牙の剣を武器で防いだ。


「ほぉう、俺の剣技を受け止めるとは……なかなかの腕を持っているみたいだな」


「これ以上私の仲間を傷つけるのはやめてください! 何が目的なのですか?」


「よく言うぜ。周囲の人間を巻き込んでおいて……」


 水恋は、月牙の怒った顔を見て訝しげに口を開く。


「何の事ですか?」


「しらばっくれても無駄だ! お前達の戦いのせいで何の関係もない一般人が死んだんだ!! 戦いの巻き添えをくらってな。何が自分の仲間を傷つけるなだ! 周りの人間に気配りも出来ないような王になんかな、誰もついってたりなんかしないんだよ!!」


 拳を握り言う月牙に、水恋は大きなショックを受けた。


「そ、そんな……。ですが、あれは――」


「言い訳は聞きたくない! とにかく、伝説の戦士であるお前には何としてでも一緒に来てもらう!!」


「で、伝説の戦士? な、何ですか、それ?」


 首を傾げ、伝説の戦士が何なのかを訊ねる水恋。


「あくまでシラを切るつもりか? おとぎ話として伝承されてもいるこの名前を、うぉータルト帝国の帝王であるお前が知らないとは到底思えないがな。まぁいい、そこまでいうなら教えてやる。伝説の戦士ってのはな、神の力を持つと言われている戦士のことだ。お前の持つ力はさっき俺が腕を掴んだ時に感じ取った。間違いない!」


 ほぼ推測でそう決めつける月牙。しかし、覚醒状態の月牙の剣技を受け止めたのだから間違いなく青髪の少女――水恋も戦士の一人であろう。すると、水恋は少し顔をしかめて言った。


「そんな話信じられません!! 第一、伝説の戦士はただのおとぎ話で――」


「とにかく来てもらう!!」


「ひ、人の話を聴いてください!!」


 自分の意見など完全無視で話を進める月牙に水恋は文句を言った。さらに、気になることが一つあったため月牙に確認の質問をとる。


「ところで、あの……あなたお名前は?」


「名前?」


「……まだ訊いていなかったので」


 俯き気味に水恋が訊く。


「月牙……『塁陰(るいいん) 月牙(げつが)』だ」


 自分の名を名乗った月牙は、森の方へ歩いて行った。


「さっさと荷物をまとめろ、出発するぞ!!」


「えっ? で、ですが……私は帝王ですし、それに霧霊霜一族を治める役割が――」


 水恋が最後まで喋りきろうとしたその時、どこからか巨大な雨の槍が飛んできた。その槍は、目の前の少し太めの木の幹に突き刺さると同時に元の水と化した。


「これは!?」


 その水の槍に思い当たるところがあったのか、水恋が驚愕の表情を浮かべ目を見開いた。すると、後ろから足音が聞こえてきた。月牙が振り向くと、そこには三人の水の槍を持った兵隊らしき男達と、見るからに位の高そうな少女が姿を現し口を開いた。


「こんにちは、水恋さん? 今日は誰かと戦っていたみたいですけれど……随分と被害は甚大のようですわね?」


「そちらこそ、今日は何の用なんですか?」


 むっとして言い返す水恋の言葉に、傘を持った少女が口元に笑みを浮かべて言った。


「うふふふ。い~え、ただ先程の話を少し聞かせてもらっただけですわ! 何でも、新しい帝王を決めるのだとか? もしよろしければ、私がこのウォータルト帝国を治める王になってもよろしいのですけれど?」


 少女の何かを企む笑みにイラッと来た水恋がきっぱりと言った。


「いいえ結構です! 新たな王はこちらで決めますのでそちらは黙っていてもらえませんか?」


「あら、そうですの? こちらは親切で言ってあげただけですのにね……。それでは御機嫌よう? お~ほほほほ!」


 水色のドレスに片手に扇子、もう片方に傘を差して持った少女は、くるりと踵を返してお嬢様特有の高らかな笑い声をあげた。


「いずれこのウォータルト帝国は私達の物になりますわ。そのこと、よめよめお忘れにならないように。それと、そこの旅のお方? 戦うのは勝手ですけれど、周りに危害の加えない範囲にしてくれませんこと? はっきり言って迷惑……ですわ!」


 扇子を口元に運び、偉そうな目で月牙を睨めつける少女。


「そういうお前は誰なんだ?」


 月牙は年下の少女に偉そうな態度を取られムッとして言った。


「貴様! 靄花様に何という口の利き方だ!」


「おやめなさい! いいんですのよ。あなたはまだ私の名前を知らないのでしたわね? 私の名前は『潤木(うるき) 靄花(あいか)』。このウォータルト帝国の一角である『レイニー・ヴィレッジ』を治めているものですわ。まぁ、自己紹介はこのくらいで済ませておきますわね。ということですので、お遊びも程ほどにお願いしますわね」


 扇子を仰ぎ、水恋と同じような青色の髪の毛をした少女――靄花は、元の場所へと帰って行った。


「……それで、準備は出来たのか?」


 とりあえず今は伝説の戦士の件が最優先だと月牙は、水恋の準備を急がせた。水恋は未だに迷っている様子だった。

 その時、ウォータルト帝国の住人であり、霧霊霜一族の一人である少女が歩み寄ってきて口を開いた。


「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ここは私に任せてお姉ちゃんはこの人と旅をしてきて? どうやら重要な役割を担う事になりそうだからね!」


「み、水兎(みなと)


 目元を潤ませて水恋は妹の名前を口にした。どことなく、水兎と名乗る少女は目元辺りが姉である水恋に似ていた。


「でも、あなた達に大変な事を任せて自分だけ自由に過ごすなんて……」


 申し訳なさそうに言う水恋。が、そこに顔をしかめた月牙が言った。


「何言ってるんだ? 言っておくが、旅はそう楽じゃないぞ? 寝床が無い場合は野宿……しかも運が悪ければ雨の中だろうと野宿することもある!」


「えっ!?」


「それだけじゃない。風呂に何日も入れない場合もあるんだ。その事を承知の上で、自由な旅が出来ると思うのであればそれでも構わんが?」


 月牙の例え話を聴いた水恋は身震いした。今まで自由気ままな生活を送ってきた帝族育ちの水恋にとって、自分で食べ物を手に入れたり、寒い外でバチバチと火の粉を舞い上がらせながら燃えている炎に当たって寝る生活など考えもしなかったからだ。


「ち、ちなみに……旅の目的は?」


 少し不安な気持ちになりながらも一応訊いてみる水恋。月牙は間髪いれずに答えた。


「ああ。三十一人の伝説の戦士を探すことだ! まぁ、俺とお前で二人。後、斑希を入れて三人ってことで、少なくとも後二十八人だな」


「ええ~? そ、そんなにいるのですか? そ、そんなの簡単に見つけられませんよ!」


 水恋が泣き言を言ってその場にしゃがみだす。


「とにかく、ここにいつまでもいたってしょうがない! さっさと、次の仲間を探しに向かうぞ!!」


「ええぇええ!?」


「ほら、早くッ!」


「は、はい……」


 元気のない声で水恋はそう返事した。

 こうして、月牙は伝説の戦士の一人である『霧霊霜(むりょうそう) 水恋(すいれん)』を一人目の仲間にしたのであった……。

というわけで水恋が仲間になりました、半ば強引にですが。これ、幼馴染の斑希が見たらどうなるんですかねwktk

そして、率直な月牙の戦力。まじ、つえェ。陰暦十二使徒を使うことの出来る月牙。まあ、陰属性ですからね。ちなみに、卯月が出たとなればみなさんもう分かりますよね?

そして、旅に出るために妹の水兎ちゃんに仕事を任せる姉。まぁ、周り全員とびきり可愛い美少女ばかりなので、族内で暴動は起こらないでしょうが、外部からが――心配ですね。四人衆も一人だけになってしまいましたし。

さらに、もう一人の濃いキャラ登場、靄花さんです。お嬢様ですね、高飛車ですね。そんな彼女は今後も絡んできます。ではまた次回。

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