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第二十八話「ツウィン・アイランドの龍族と竜族」・3




 それからしばらくして、ようやく乱火が目を覚ました。ちなみに乱火は私のベッドに寝かせてあげた。ここが私の部屋という訳もあるが、何よりもベッドが近かったため、ここに寝かした。自分よりも年下のため、男の子でも何とか抱えられる体重で助かった。


「ん……あれ? 俺、何でベッドに?」


 ゆっくり目を開ける乱火と私の目の視線が重なる。


「うわっ、ふ、斑希!?」


「ふふ、どうしたの? まるで何かイケナイ物を見たような目して……」


 私はベッドにひじを起き、両頬を支えるように頬杖をして笑みを浮かべ乱火に訊いた。


「い、いや……その」


 乱火は視線を落として私のある一点を見ているようだった。すると、私の真後ろに立っている雷落がすかさず横槍を入れる。


「ちょっと、何斑希さんの胸見てるの!?」


「えっ!?」


「んなわけねぇだろ!!」


 不意をつかれ、思わず初々しい少女の様な反応をしてしまった。我ながら少し恥ずかしい。しかし、まさか乱火が私の胸を見ていたなんて……。そういえば昨日、乱火が私がお母さんに面影が少し似てるって言ってたわね。胸も似てたってこと? って、そんな訳ないわよね。

 乱火は顔を真っ赤にしてその顔を見られたくないのか、布団に顔を隠す。私がその仕草を少し可愛いと思いながら見ていると、真剣な顔をした乱火が何かを言いたそうにしていたので、どうしたのかと尋ねた。


「いや、その……くんくん、このベッド……斑希の匂いがする」


「い、いやあぁああああああ!! や、やめてえぇえええええっ!!!」


 私は顔を最大限に真っ赤にして乱火を止めにかかる。当たり前だ。ただでさえ何日も風呂に入ってないのだ。体臭を特に気にする私は、それを乱火に嗅いでほしくなかった。


「わ、悪い」


「うぅ……。く、臭かった?」


「え?」


 自分でも何を聴いてるのかと思った。だが、相手にそう思われてるのかはっきりさせておきたかった。すると、乱火から返ってきた答えは意外なものだった。


「別に臭くなんかないぞ? むしろいい匂いがする。面影が似てると匂いも似るのかなぁ、なんか……母さんの匂いに似てる」


ドキッ……。


 一瞬、一瞬だが、なぜか心が熱くなった。


「このぬくもりも何もかもが懐かしい。昨日も斑希に抱きしめられて寝てた時、母さんの夢見たんだ。とっても嬉しかった。ありがとう、斑希」


 満面の笑みを浮かべて言う乱火のお礼の言葉に、私は言葉が出なかった。ただ、何か返さなければと思い、とりあえず出てくる言葉を口にした。


「と、とりあえずいい加減匂いを嗅ぐのはやめてくれない? 臭くないのは分かったけど、それでも少し恥ずかしいから」


「ああ、うん」


「あの……私、すんごく蚊帳の外って感じなんですけど?」


「あぁ、ごめんね雷落? えっと、起こしに来てくれたのよね? ありがとう」


 そう言って私は、お礼の意味を込めて笑みを浮かべて雷落の頭を撫でてあげた。


「なっ……あ、その……ありがとうございますっ!!」


 なぜか逆にお礼を言い返されてその場から駆け出してく雷落。気のせいだろうか、振り返り際に頬を染めていたのは……。


「とりあえず、皆待ってるみたいだから行こうか」


 私は後ろを振り返り、乱火にそう言った。乱火はコクリと縦に頷き、私の後に続いて皆の待っている船室へと向かった。

 金属の壁で囲まれた船の廊下を歩いていき、ようやく私達二人は皆の待っている場所に辿りついた。


「あっ、遅かったですね斑希さん。どうかしたんですか?」


 そう私に尋ねてきたのは、乱火と同年代である草植系属性を持つ葡豊だった。


「え、ええ、何でもないわ。少し着替えるのに手間取っちゃって……」


 頭をかきながら作り笑顔を浮かべて言い訳をする私。しかし、真実を知っている雷落は何故か乱火を庇うようなその態度が気に食わないのか、私に言い寄る。


「ちょっと、何で乱火を庇うんですか? ホントの事言わなくていいんですか?」


 その言葉に葡豊がきょとんとした顔つきで首を傾げながら訊く。


「ホントの……事?」


「な、なんでもないのよ! ちょっと雷落!!」


 少しムッとした顔で雷落を叱る私に、雷落はさらに不機嫌になってどこかへ行ってしまった。乱火と私が同じ部屋にいたのを知ってからだ。まさか……なわけないわよね?


「所で、島に到着するのはいつなんですか?」


 場が静まり返るのを肌に感じ、咄嗟に話題を変えようと私は別の話題を持ちかけた。すると、彪岩さんが答える。


「うむ、もう到着しているぞ?」


「え?」


 固まってしまう私に、ガハハ! と笑いながら彪岩さんが続ける。


「もうかれこれ三十分前にこの場へ着いたのだがな? なかなかお前が起きんからこうして皆で待っていたのだ」


「そ、そうだったんですか? すみません……皆もごめんね?」


 私はまず目の前の彪岩さんに謝り、その後他のメンバーにも謝った。それを見て他のメンバーはとんでもないと言った表情で私に返してきた。


「まぁそう言うなって! 俺達もお前が今までずっと頑張ってきたのは知ってんだしさ」


「そうだぜ? 兄貴の好意を無にすんなよ。島に着いたつってもまだどんな島なのか、その全体像もつかめてねぇんだ。今、調査に出ようと思ってるトコなんだけどな」


「そ、そそそうだよ! 斑希ちゃんも疲れてるんだから、少しは寝かせてあげようと思ってね」


 砕狼、鋼鉄、砂唯の三人が私を気遣うようにそう言った。確かに私もずっと旅を続け、黄金の地図を頼りにあちこちの国や村、街へと向かった。そうこうしてようやくこれだけの伝説の戦士を集めてきたのだ。現に昨日の夜も、何故かすごく眠たかった。まるで、睡眠薬でも入ってたみたいに……。


「んで、そろそろ調査に出ようと思うんだが、どうする? お前も来るか?」


「そうですね。とりあえず、光蘭達は危険が及ばないように残っててもらって……私達だけで行きましょうか?」


「えーっ、あたしもみんなと一緒にいきたいよー!」


 私の言葉を聞いてプーッ! と頬を膨らませて怒る光蘭を少し可愛いと思いつつ、私は相手と同じ視線になるように屈んでその頭を撫でながら言った。


「あのね? 光蘭は私達にとって大事な存在なの。そんなあなたが傷ついたりしたら私達はすごく悲しいわ」


「別にオレはそんなこと微塵も思ってねぇぞ?」


「黙ってて」


「お、おう……」


 横槍を入れてくる鋼鉄を黙らせて私は話に戻る。


「だからね? 雷落や砂唯達とここに残ってて?」


「う、うん。……だけど、お姉ちゃん、今きげん悪いんだ」


 雷落の話になって表情を暗くする光蘭に私はある質問をする。


「どうして機嫌悪いのか知ってる?」


「え? お姉ちゃん知らないの? 雷落お姉ちゃんはお姉ちゃんが好きなんだよ?」


「……へ?」


 一瞬私の思考が止まった。もしかしたら聞き間違いかもしれないともう一度光蘭に尋ねる。すると、今度ははっきりした口ぶりで光蘭は言った。


「だから、雷落お姉ちゃんは、お姉ちゃんのことが大好きなんだよ!」


 今度ははっきりと伝わった。そのせいで私は、最大限に顔を真っ赤にして目を泳がせた。


「あ、あああ、そ、そそ……そうなんだ。で、でででもどうして?」


「お姉ちゃん言ってたんだ、お姉ちゃん見てると胸が熱くなるって。ドキドキするって。それに、お姉ちゃん見てるとすごく親密な相手に見えるんだって」


 それを聞いて、さらに私は体が熱くなるのを感じる。で、でも、私には女同士と言うそっち系の趣味はなかったため、何とかしてそれを分かってもらおうと雷落本人を呼んだ。


「ね、ねぇ! 雷落ー! どこにいるのー? いるんでしょー?」


 調査に向かうメンバーは先に船の外へ行ってしまったため、船内には私と年の近い人はあまりいない。誤解を生むようなことを言ってしまわないかどうか不安な面もあったため、様々な経験を持っているかもしれない恐れのある年上の人物はより警戒する必要があった。しかし、今確認した所、その危機はなくなったようだ。

 私の確認が終える頃、ようやく雷落が姿を現した。何やらモジモジしてその仕草がどことなく初々しい。だが、チラチラとこちらに目配せする様な行為をしている事から、やはり私に多少なりとも好意を抱いていることは認識出来た。にしても、私もとことん年下に好かれるらしい。どうして大人っぽく振舞っているのに年下に好かれるのだろうか? 月牙はよく子供っぽいと言うのだが、それが私には理解できない。


「な、何ですか、斑希さん」


「その……光蘭に聞いたんだけど、あなた、私のことが……その、あの……好きなの?」


「ふぇっ!? や、ややややだなぁ~そ、そそそ……そんなこと、な、ないですよぉ~!!」


 あまりにもの挙動不審に私は確信する。


「やっぱり……好きなんだ」


「いや……その。別に、そういうわけじゃ――」


「でも、好意はあるんでしょ?」


 いまいち曖昧な感じにする態度にいてもたってもいられなくなった私は、はっきりと雷落にそう言った。


「まぁ、ないと言ったら嘘になります……ね」


 視線を落として私と目を逸らそうとする雷落。私は理由を尋ねようと一歩近づいた。すると、雷落はビクッと体を震わせて後ろに下がった。


「どうして逃げるのよ」


「別に逃げているわけじゃないんですけど……。実はその……この気持ちが好意なのかがわからないんです!!」


「え?」


 突然の告白に私はきょとんとする。好意なのかが分からない。つまり、雷落が今まで感じたことのない感覚を今、心の内に抱えているのだろう。ただ、その正体が分からず、ひとまず恋心なのかもしれないと勝手に思い込んでいるだけ……だとすれば、その正体が分かれば――。でも、それで本当に恋心で私に対する好意なのだとしたら、私はその時雷落にどう言えばいいのだろう。きっぱり断れば、失恋が心に大きな傷を作り戦闘中に本領を発揮出来ないという可能性も無きにしも非ず……。


「雷落はそれをどう思ってるの?」


「恋心? ってやつじゃないかとは……思ってるんですけど」


 後半になるにつれて徐々に小さくなる声。末には声を出しているとも思えないくらいの声量だった。


「光蘭はどう思う?」


 私は第三者の意見も聞いてみようと、近くにいた光蘭に意見を求めた。


「う~ん、あたしはお姉ちゃんへの好きって気持ちだと思うけど?」


「ち、ちょっと光蘭!」


「えへへ。だって、あたしもお姉ちゃんのこと大好きだよ?」


「え? それは――」


 雷落が最後まで言おうとして口篭る。はっきりとは言えないが、私も光蘭が言う“好き”というのは好意という意味ではなく、優しい人への信頼感などから来る気持ちなのだと思う。第一、この歳で恋心を持っているだなんて恐ろしすぎる。私だってまだはっきりとした気持ちになったこともないのに……。まだ十歳にも満たない幼い少女が――って、そんなことを言っている場合ではない。


「ありがとう光蘭。私も光蘭のこと好きだよ」


「ほんと? うれしい!」


 そう言って満面の笑みを向けてくれる光蘭。あぁ、本当に光蘭の笑顔は癒される。光属性であることが関係しているのかは定かではないが、私は少なくともこの子の笑顔が永遠であることを心底祈っている。


「それって、憧れ……じゃないですか?」


 突然の第四の声。声の方を向けば、そこに立っていたのは葡豊だった。


「葡豊……、憧れってどういう意味?」


「だからその……盗み聞きみたいで感じ悪いかもしれないですけど、偶然聞いてしまって……。それで、その、雷落ちゃんの言う好意かもしれないっていう気持ちの正体の事で――」


「それが、憧れから来る好意だっていうの?」


「いえ、はっきりそうだとは言えないですけど。私も初めて会った時、斑希さんの姿を見て綺麗な人だなぁって少し憧れちゃいましたし……」


「え? ほ、ほんと? い、いやぁ……面と向かって言われると少し照れるなぁ」


 私はお世辞でも嬉しいと頬をかきながら視線を逸らした。


「それで、雷落ちゃんはそういうのじゃないの?」


「う~ん、どうなんだろ。私、研究ばっかでそっち方面のこと今まで考えたことなかったし……」


「いや、まだ十五でしょ? なら知らなくても――」


「え、斑希さん! 十五ならもう知っててもおかしくない歳ですよ!?」


 そんなことも知らないの? と言った風な顔で言う葡豊に、私は顔を真っ赤にして謝った。


「そ、そうだったの!? ご、ごめん。私、あまりそう言う事詳しくなくて」


「気にしないでください。誰にでも得意不得意ありますから」


「う、うん……」


 私は、何故か葡豊に慰められていた。


――▽▲▽――


「はぁ……」


「どうかしたのか?」


「ううん、何でもない」


 私は彪岩さん達と一緒に島の調査に出かけていた。

 メンバーは、私と彪岩さんと妖燕さんと癒宇さんと鋼鉄の五人。男四人に対して私一人というのはいささか嫌な予感がするが、皆いい人だから大丈夫……だと思う。まぁ、鋼鉄は私達が温泉に入っていた際に覗きに来たけどね……って言っても、あれはまぁ私たちの誤解だから違うか。


「どうした? ニヤニヤして気持ちワリィな」


「んなっ、ひっどーい! そんな言い方ないんじゃないの?」


「はんッ、少しキツいくらいがお前には丁度いいぜ。それより、この島にホントに伝説の戦士がいんのか?」


 鋼鉄が腕組をしながら眉根にしわを作り私を問い詰める。


「えっと、それは……」


――なんて言おう。確かな確信はないし……かと言って、このまま何も言わなかったら面倒くさいとか言い訳繕って船に帰っちゃいそうだし。



 私は考えに考えた末、いい方法を思いついた。


「そ、そう! ええ、この島には絶対に伝説の戦士がいるわ! しかも二人も! おまけにこの二人はすっごく強いのよ? だから、もしかしたら私たち五人だけじゃ危険に陥るかもしれないわ!!」


 あまりにも無茶苦茶なことを言い過ぎてしまったが、これで鋼鉄も分かってくれるに違いない。と、思っていると――。


「何、オレ達だけじゃ危険に陥るくらい強ぇやつだと!? そいつはおもしれぇ!! っしゃ、そいつにあったらすぐさま勝負に持ち込んでオレと相棒でこてんぱんにやっつけてやるッ!!」


 拳と拳を打ち合い気合を高める鋼鉄に、私は鋼鉄を落ち着かせようと別の話題を振る。


「で、でも……やっぱり私たちだけで倒せるって場合も――」


「その時でもオレがまっさきに攻撃をしかけてやるぜ!!」


――まずい、どうしよう。せっかく伝説の戦士を見つけても、すぐに戦って仮に倒してしまったら後が大変だわ。どうしよう……。



 私が考えあぐねていると、前方を歩いていた癒宇さんが鋼鉄に話しかけた。


「鋼鉄さん、まぁそう気を昂らせないでさしあげてください。斑希さんも困っているではありませんか。ここは冷静に事を対処しましょう。それに、わたくし達の今回の目的はあくまでも島の調査……伝説の戦士との戦闘ではございません。例え戦闘になったとしてもまずは相手の出方を窺い、その上で決定するべきです。軽率な行動は不幸への道を辿るだけかもしれませんよ?」


「ったく、相変わらず悟りを開いた様な笑みを浮かべやがって……」


「ははは、わたくしは寺の住職ですからね。こう言った笑みを浮かべているのは癖のようなものなのですよ。それに、長年この表情を浮かべていたらもう別の表情を浮かべるのは難しくて」


 軽く冗談めいた物を呟きながら錫杖を突きながら歩き続ける癒宇さん。

 私たちはその後もどんどん歩いて、大体の島の構造を把握した。妖燕さんのそろそろ飯時だという言葉を合図に私達五人は来た道を戻り、船へと帰った。

というわけで、雷落が抱く斑希への思いなどが明らかになりました。さらに、次の日になり、ようやく島の探索へと動き出すメンバー。

てなわけで、次回あたりに新キャラが出ます。

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