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第二十七話「病貧弱の姫君の契約」・1

今回は四部構成です。

 人族の中でも王族に分類される七つの小さな王国。その内の一つに、名前の言いにくい国で有名な『キキルニスタクト王国』が存在する。この国は六代目王である『マーリス=リリルロラストス』という女王が収めており、国は主に五大帝国で言う所のリーヒュベスト帝国に含まれていた。そのため、マーリス女王はリーヒュベスト帝国を治める嵐一族の現当主の嵐暗冷と知り合いの立場にあった。

 しかし、このキキルニスタクト王国は七つの国の中でも最も貧弱で弱小の国だとされてきた。それは、六代目王となったマーリスが原因だった。実は彼女は、生まれながらにして病弱で風邪をよくこじらせては寝込んでいたのだ。これでは無論、統制など出来る訳もなく、どんどん国の財政は衰え、ついには国内で内戦が起こる始末……。それを何とか(いさ)めてくれたのが暗冷なのである。これにより、何とか争いが起こることはなくなったものの、マーリスが女王である以上再び争いが起こらないという保証は出来ないに等しかった。かと言ってマーリスから王位継承者の証を取り払った所で、次の世継ぎが居なければ国をまとめるものが居らず、国がまたしても乱れることとなってしまう。

 結果、次の世継ぎが現れるまで仕方なくマーリスを女王として置いている次第であった。

 そんなある日のことである。マーリスは自身に自信が無くなったのか、ある騒動を起こした。それが、嵐一族を代々守護してきた一族――五十嵐一族の末裔である『五十嵐(いがらし) 青嵐(せいら)』を連れ去り、自分の護衛にしてしまうという何とも言い難い物だった。なぜそのようなことをしたのか理由は不明だが、一つ不可解な噂がある。それは、マーリスが今までのマーリスとは違うというものだ。何者かに操られている可能性があるという説もある。詳しく聞くと、マーリスの瞳は本来富士の様な薄紫色なのだが、現在のマーリスの瞳は蛇の様に鋭い黄金色の瞳らしい。

 ここは、そのマーリス=リリルロラストスが住む城。そこには、マーリスと金属の拘束具がか細い腕に取り付けられ体を拘束されている五十嵐一族の末裔である五十嵐青嵐がいた。


「起きて……。起きなさい、五十嵐青嵐」


 ふと聞こえる女性の声。マーリスだ。すると、その声に反応してゆっくりと青嵐が目を覚ました。


「こ……ここは?」


 まだ寝起きで頭が上手く働いていないのか、青嵐は目を半開きにさせたままそんなことを呟いた。


「ここはあたしの城よ、青嵐」


「あ、あなたは……?」


 目の前にいる女性に目を丸くして尋ねる青嵐。そんな彼女に、マーリスは口元に笑みを浮かべながら言った。


「あたしの名前はマーリス=リリルロラストス。ここ、キキルニスタクト王国の六代目女王よ」


「そ、そんな人がうちに何の用なの? うち、早く嵐くんの所に戻らないといけないんだけど」


 少し困った様子の表情を浮かべて言う青嵐は、噂にあった瞳の色の変化を確認する。しかし、マーリスの瞳は何も変化することなく薄紫色のままだった。

 マーリスは笑みを消さずに続ける。


「そうね。そうしてあげたいのは山々なのだけれど、生憎とそういうわけにはいかないの……」


 そう言ってマーリスは、青嵐を指差した。


「な、何?」


 いきなり指を刺されて少しビックリしている様子の青嵐。まぁ、無理もない。突然来たこともない様な場所に連れてこられた上に、大事な主人である“嵐くん”こと嵐暗冷がいないのだから。

 現に青嵐は、そう言った理由から不安がる気持ちがどんどん募り始めていた。


「これからあなたには、あたしの側近になってもらうわ」


「え? どうしてうちがあなたの側近にならないといけないの? 側近くらいいくらでもこの国から募集すればいいじゃない!」


 青嵐はまさかわざわざ連れ去られてまでこんな所に来た理由が、たかが強制的に自分を側近にするためだけだったのかと思い、そう言った。少し強めの言葉で返されたマーリスは、首をゆっくりと左右に振りながら言った。


「それではダメなの。絶対にあなたでなくては……。もちろん、無理に側近にならなくてもいいの。ただ、側近にならなくてもいいから、ここに残って欲しいの。決してリーヒュベスト帝国の暗冷の所には返さないわ」


 その言葉に青嵐もさすがに耐え切れず、怒りが頂点に達すると同時に声を荒げて相手が身分が上なのも構わず怒鳴り散らした。


「それってただの理不尽じゃないっ!! どうしてうちがここにいなきゃなんないのよ! うちは帰りたいの!! 側近として、いつまでもこんな所にいるわけにはいかないのよ!!」


 最後まで言い切り、冷静になってから今言った言葉を振り返った。その瞬間、自分が身分の高い相手に対して明らかに失礼極まる言葉遣いで話していたことに顔面蒼白となる。

 マーリスは嘆息しながら言った。


「確かにあなたの言うとおり、一方的だったかもしれないわね。でも、本当にあなたを返すわけにはいかないのよ! 別にあなたでなくとも、暗冷を拘束しても良かったわ。だけど、それだと帝国に支障をきたすわ。だからこうして側近であるあなたに標的(ターゲット)を変更したのよ。分かった? ある意味これは、暗冷のためでもあるの。あなたが犠牲となってここに残ることで、暗冷は安心して帝国の手綱を取ることができるの」


 マーリスの言う意味不明な言葉に、青嵐はだんだんと頭が混乱し始めていた。イライラが募り過ぎていることも関係しているかもしれない。しかし、青嵐は自分の考えを曲げることなく自身の意思を貫いた。


「それでもうちは、あなたの言うことはきけません! うちは嵐くんだけの側近ですから、帰らせてもらいます!!」


 そう言って帰ろうと踵を返す青嵐に、急に焦り出すマーリス。


「あっ、ちょっと――ゴホゴホッ!!」


 青嵐を引き止めようと一歩前に進み出た刹那――急に咳き込み出すマーリスに、違和感を覚えた青嵐は、体を下の方向に戻して訊いた。


「風邪ですか?」


 その一言に、マーリスは咳き込みながら答える。


「ゴホゴホッ、ええまぁ……。あたしは小七カ国の王の中で一番体が弱いから。だから、あたしが弱っている所を誰かに闇討ちなんかされたら……ゴホッ、……即刻アウトよ。それであなたを側近にしたかったの。でも、ゴホゴホッ……それはあたしの二つ目の願い。重要な一番大事な望みは、あなたをある人物の手から遠ざけることよ!」


 だんだんとキツそうな顔つきになり、表情も若干やつれ気味となるマーリスを、青嵐が心配そうな顔で見つめながら言った。


「ある人物って誰ですか?」


「それは……」


 俯き気味になりながら青嵐の質問に答えようとするマーリスに、悲劇が起こった。突然激しく咳き込み、口から血を吐いたのだ。そう、吐血だ。一体マーリスの身に何が起きているのか。そう考える青嵐の頬に、マーリスの血が付着した。


「あ、……あ、ああ」


 目を見開き恐ろしい物を見るかのようにマーリスの血を指で拭い取り見つめる青嵐。


バタンッ!!


 吐血してからもしばらく咳き込み続けたマーリスは、口の周りに真っ赤な血をベットリと付けたままその場に倒れた。


「マーリスさんっ!?」


 慌ててその場に駆け寄る青嵐だが、一人ではどうにも出来ない。とりあえず誰かに助けを求めようと考えた青嵐は、声を張り上げて言った。


「誰かいませんかぁー! マーリスさんが大変なんです!!」


 何度も繰り返し助けを求める青嵐を嘲笑うかのようにシンと静まり返る城内。今を思えば、どうしてこんなに大きな城に人が一人もいないのかが凄く気になっていた。普通ならマーリス以外に人がいてもおかしくはない。なのに、それが一人もいないとはこれ如何(いか)に。 


「だ、誰か――」


 その内声が掠れてもう限界が迫ってきたというその時、青嵐の足首をガシッ!! と何かが掴んだ。飛び退いて足元を見やると、そこにはハァハァと呼吸を乱しながら何とか体を起こすマーリスの姿があった。


「ま、マーリスさん!? 起きて大丈夫なんですか?」


 吐血までして倒れたマーリスが、まさかこんなすぐに起きるとは思っていなかった青嵐は、ビックリしながらマーリスの容態を気にかけながら尋ねる。


【ふ、ふんっ……。人間の小娘風情に気にかけられるとは、この子も随分容態が悪いみたいだねぇ】


 返ってきたのは、マーリスの口から出た聞き覚えのない声だった。口調も明らかに異なっており、別人としか言えなかった。よく見ると、マーリスの瞳は薄紫色から蛇の様な黄金色に変化していた。噂は本当だった。てっきり嘘の事だと思っていた青嵐にとっては、この事実は大きな驚きだった。


「あ、あなたは……誰?」


 恐る恐るマーリス? と思しき人物に話しかけてみる。すると、瞳が一層黄金色に光り輝き、青嵐の顔を鋭い眼光で睨んだ。その目力に思わず気圧される青嵐だが、何とか踏ん張り気をしっかり保ちつつ相手を睨み返した。


【あたしの名前は『アルドニア=ヴィニッシュ』……天魔族の龍族さ】


「天魔族の龍族!?」


 アルドニア=ヴィニッシュと名乗る人物に目を見開き驚く青嵐。


「それって確か、神族に存在する四つの種族の内の天族と魔族との間に生まれた種族よね? 亜種とも言われてるって、聞いたことがあるわ……」


【よく勉強しているじゃないかい、お嬢ちゃん? でも、まだ基礎は出来ても応用は出来ていないみたいだねぇ。あたしの名前に聞き覚えはないかい?】


「アルドニア=ヴィニッシュ……あっ! その名前って、龍族の中でも希にしか現れないメスドラゴンの代表名!?」


 青嵐がさらに驚きの声をあげるのを聞いて、龍族であるアルドニアはニヤリと口元に笑みを浮かべた。


【そうさ。あたしはレアな存在なんだ。昔はメスドラゴンなんて弱っちぃだの何だのと蔑まれてきたが……人族であるあんたらのおかげで下等生物から上等生物へと格上げさ!  感謝ってワケじゃないけど、少しは礼を言ってやるよ】


 偉そうに威張った態度で青嵐に接するアルドニア。しかし、青嵐にはまだ腑に落ちない事があった。それは、何故アルドニアがマーリスの体で喋っているのか……、そこにあった。


「一つ聞いてもいいかしら? あなたはどうしてマーリスさんの体にいるの?」


【う~ん、なかなかいい質問だねぇ、お嬢ちゃん。いいだろう、答えてやるよ。あたしはねぇ、この子……マーリスと契約を交わしたのさ!】


「――っ!?」


 それを聞いて、青嵐はあまりにもの驚愕に声が出なかった。冥霊族とは契約することが出来ると主君である暗冷にも聞いたことがあったが、まさか天魔族である龍族とまで契約を交わせるとは知らなかったのだ。


【驚いているようだねぇ。まぁ、この事実は今までず~っと隠され続けてきたことだからねぇ。そのことをどうしてマーリスが知っていたのかは謎だけど、あたしもこの子に呼ばれてしまったからには契約内容を聞かないといけない。……それが契約召喚上の約束だからねぇ】


 そう言ってマーリスは、青嵐に訊かれた訳でもないのに突然昔話を始めた。




 六年前……。場所、キキルニスタクト王国のキキルニスタクト城。


《いよいよ、ね……ゴホゴホッ! 急がなければ時間がないわ。言われた通り、準備は全て整えた。後は契約召喚を執り行うだけ……。でも、ゴホッ……本当にこんなことが成功するのかしら? いいえ。ここで疑えば、それこそ後がなくなってしまうだけ。ここが正念場よ!》


 そう言って紫髪の一人の女性が頭にティアラを乗せ、何か魔方陣的な物が描かれた場所に(かが)んだ。


《我、契約召喚を望みし者。契約代償に払いしは我が赤き液。これと引き換えに、我、天と魔との狭間に生まれし類希な聖なる生き物を所望す! 龍族アルドニア! 我が召喚に応じ給へ!!》


 刹那――女性が叫んでから少し遅れて、地面に描かれた契約召喚の紋章が光り輝きだした。そして、そこから大量の白い煙が舞い上がり、女性を含めたこの場所を真っ白に包み込んだ。


《ゴホゴホッ! こ、これは……!? どうなったの? 成功したの?》


 急に視界が悪くなり、一人きりのためか心細くて戸惑う女性。すると、何か黒くて大きな黒影が目の前に姿を現した。僅かながらに生き物の気配を感じ、女性は警戒した。


《あたしを呼んだのは、あんたかい?》


 図太くもないが、明らかに自身の体の奥底にまで響き渡る様な声に、女性は身震いする。上を見上げれば、視界が徐々に良くなって黒影の正体が明らかとなった。その正体は、女性が契約召喚で呼び出したドラゴンだった。


《……あなたが、アルドニア=ヴィニッシュね?》


《ああそうさ。あたしがアルドニア=ヴィニッシュだ。そういうあんたは?》


 龍族アルドニアは、自分に話しかけてくる女性の名を訊いた。女性は答える。


《あたしはここキキルニスタクト王国の六代目女王であるマーリス=リリルロラストスよ。あなたを呼び出した理由は分かっているわよね?》


 一応念のためにと首を傾げながら確認を取るマーリス。アルドニアは、自分よりも遥かにサイズの小さなマーリスを上から見下すかのような眼差しで言った。


《ああ。だが、一つだけ質問がある。あんた、どうやってあたしを呼び出したんだい?》


《? 何言ってるの? 契約召喚に決まってるじゃない!》


 そんなこと当たり前でしょ、と言わんばかりの口調でそう言うマーリスに、アルドニアは怪訝そうな表情でさらに質問を重ねる。


《契約召喚では冥霊族しか呼び出せないと、教えられてこなかったかい?》


《確かにその通りだけど……この方法はある人から聞いたのよ》


《ある人?》


 気になる部分に怒ったような顔をするアルドニアに、マーリスは少し怖気づき後ずさる。すると、それを見たアルドニアがマーリスの反応につい笑ってしまい言った。


《そんなに構えなくてもいいさ。気楽にやんな。呼び出された者は、呼び出した相手に危害を加えることは出来ない。それが掟にあるだろう?》


《ええ、そうね。つい構えてしまったわ。何せ、ドラゴンを見たのは生まれて初めてですもの!》


 初めて見るドラゴンに感動を示し、マーリスは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。それを見たアルドニアも少し表情を柔らかくして機嫌を良くしていた。


《それで、本題に入ろうじゃないかい。あたしを呼び出した理由は何さ?》


 黄金色の双眸でマーリスを見るアルドニア。


《それは……》


 話そうと口を開くが、なかなか言い出そうとしても言葉が喉から出てこない。


《落ち着きなって! そんなに無理しなくてもいいんだ。話したくなけりゃあ、話さなきゃいい――あっ、でもそれじゃあ契約を交わすことは出来ないねぇ。少し酷かもしれないが、話してみてくれないかい?》


 アルドニアに優しくそう言われると、少し気が楽になったのかマーリスは深呼吸してゆっくりと話しだした。


《……実は、あたし……ゴホゴホッ!》


 そのマーリスの咳にアルドニアは真剣な面持ちとなった。


《あんた……風邪でもひいてるのかい?》


 心配そうにマーリスに尋ねるが、その時のアルドニアの表情は険しくも真剣な顔だった。何か、気になる部分があるのだろう。

というわけで、前回が短かったので今回が長くなりました。というのも、今回は王族が絡んでたからです。恐らく、今まで出てきた王族の中で二番目に話せば分かってくれるんじゃないかみたいな感じの人だと思います。ちなみに、サブタイにもあるとおりすごく体が弱くて一生治らない病気を持っています。なんだか、可哀想です。そんなマーリスさんですが、Ⅱで出てたのを覚えていますか? あの人がこの人です。全然キャラが違いますよね。

まぁ、理由としてはネタバレに近くなりますが、Ⅱではずっと体はマーリス中身はアルドニアだったわけです。

前回に続いてまたしても神族も絡めてます。後は契約召喚の話をちょろっとしました。これはⅤへの布石に近いです。

てなわけで、月牙たち伝説の戦士はもう少し後ででます。

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