第二十六話「操られし天使(とも)と邪悪なる修道女(しすたー)」・2
今回は二部構成です。
「お、お前!」
「ふっ、お前だけにいいカッコはさせねぇぜ? オレだって戦いたくてウズウズしてんだ!! よーはあのバッキャローを倒しちまえばいいって話だろ? だったらラクショーだぜ!!」
「はぁ……そんなこと言ってるけどなお前……、あいつは堕天使だ! そう簡単に倒されてくれるようなヤワな相手じゃない! そこんとこ分かってんのか?」
「テメェこそオレをナメてんのか? オレは四帝族の一つ、嵐一族の現当主にしてリーヒュベスト帝国の王だぜ? たかが神族一匹ごときに負けやしねぇよ!!」
と、自信たっぷりに言い切る暗冷に、俺はある意味その自信がどこから来るのかという疑惑の念を感じた。
「くたばりやがれぇぇぇぇええええええぇぇぇぇッ!!!」
気づけば、いつの間にか攻撃を開始している暗冷。
――相変わらず手を出すのが早いやつだ。そんなに早いとこ攻撃したって当たるわけ――
チュドオォォォォォォォォオオオオオオォォォォンッ!!
轟音が響き渡り、敵の堕天使から爆炎が巻き起こる……。
――あ、当たったァァァァァァァァァァァッ!! い、意外にも当たりやがった! まさか当たるとは思わなかったよ。こんなことってあるんだな。
と、今起こっている現象がなかなか信じられずにいる俺のことは露知らず、暗冷は腕を組んでドヤ顔をキメていた。
「あのな……。お前あまり余裕ぶっこいてるとやられるぞ?」
「ふっ、何言ってんだ? 今見たろ? あいつはもう死んだ。オレが勝ったんだよ!」
自慢げに自分を指差し鼻高々になる暗冷を、半眼で見つめながら俺はさらに言う。
「まだ死んだとは限らないだろうが!!」
「んなわけ――」
【お前ぇぇぇぇえええええ、よくも……よくもぉぉぉぉぉぉおおおおお!! くらえ、『邪悪なる波動球』!!】
ブオォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!
どす黒いオーラが発生し、どんどん周囲の物質を吸収して巨大化していく。その大きさがついには七回建てマンションを超えるものとなる。しかも、気づけばやつは先ほどの不意打ちで操っていた少女の肉体から分離して、元の姿と思わしき姿になっていた。漆黒の翼を広げ、真っ赤な瞳がこちらを鋭い眼光で睨みつける。
「おいおい暗冷! お前があいつに不意打ちするからだぞ!?」
「ああ!? 違ぇだろ! あいつが普通に攻撃を避けねぇからいけねぇんだよ!! 第一、あんな攻撃簡単に切り落としてやらぁ!!」
切り落とす? 聞き間違いだろうか? いや違う。暗冷は間違いなく今“切り落とす”と言った。それは即ち、あの巨大な波動球を切り裂くということになる。だが、おかしい。暗冷の武器は二丁拳銃だ。
と、思っていると――。
「あぁ、やべぇ間違えたわ。切り落とすんじゃなくて撃ち落とすだな……」
――やっぱり間違いか。よかったよかった――って、よくねぇよ!! あの波動球を二丁拳銃だけで撃ち落とすってのか!? そんなの神業に近いよ!! そんな芸当こいつに出来るのか?
と、信じられない表情を浮かべながら暗冷を見ていると、本当に懐から二丁拳銃を取り出しマガジンを入れて銃弾を装填すると、俺に向かってこう言い放った。
「いいか? 一瞬で終わらせっからよ~く見とけよ?」
年上に対してのこの物言いは仕方ないとして、よほどの自信だ。これで成功しなかったらこいつはどうするんだろう? という、逆に失敗した時のことを予想する俺もどうかと思うが、この状況でのこの余裕。これが四帝族ゆえの強さなのだろうか? だが、それでは水恋のことに説明がつかない。あいつはそこまで余裕ではない。余裕というか、逆に常に冷静さを保ち続けているくらいだ。
暗冷は、二丁拳銃の銃口をそれぞれ波動球に向けると、ゆっくり引き金を引いた。バンッ!! という効果音と同時に銃弾が波動球に向かって飛んでいき、波動球に直撃した。すると、波動球から眩い光が出現し、その次の瞬間、大爆発を起こして周囲に波動球の残骸オーラが飛び散った。おまけに、その残骸オーラにも少しダメージを受けるパワーが含まれているらしく、地面に当たったりすると各々小さな爆発を起こした。
俺と暗冷の二人は、その攻撃を障害物で何とか防御し、全ての攻撃を防ぎ切った所でルーシェルの方を見た。
ヤツは呼吸を乱し、地面すれすれを何とか浮遊する状態にあった。その状況を見て何を思ったのか、暗冷が鋭い眼光で銃口をルーシェルに向ける。そこへ、他のメンバーも集まってきた。
「お、お前ら、危ないから下がってろって!!」
「何で私達があんたの命令なんか聞かないといけないのよ!」
「そうですわ! 判断は自分たちで行います。あなたこそ、そんな堕天使一人相手にいつまで手間取ってますの?」
凛と靄花の二人が、揃って俺に対して文句の言葉を洩らす。
「月牙さん大丈夫ですか? 敵はどうなったのですか?」
「ああ、あいつはまだ生きてる……」
そう言って俺はルーシェルの方を見やる。ルーシェルはすっかり疲れきった表情を浮かべており、今にも倒れてしまいそうな状態だった。まさに瀕死の状態と言っていいだろう。まぁ、あれだけ巨大なオーラを作り出した上に暗冷から不意打ちをもらったんだ。相当なダメージと疲労が蓄積しているといっていいだろう。
「げっちゃん、あっくんはあのおじさん殺しちゃうの?」
「ああん? 誰があっくんだ、てめぇ!」
「ふぇ~、こ、怖いよ、すいちゃん!」
風浮が暗冷の恐喝顔に恐れを抱いて、慌てて水恋の影に隠れる。
「ちょっと暗冷くん、風浮くんが怖がっているではないですか! 謝ってください!!」
涙目の風浮を慰めながら水恋が姉の立場になって言う。
「けっ! 何でこのオレがこんなガキに謝んねぇといけねぇんだよ!! やなこった!!」
舌打ちして腕組をしそっぽを向く暗冷。しかし、そんな暗冷に対して水恋は、片眉をピクリと動かした。
刹那――。何やら不穏な空気が立ち込め始める。一体何事だというのか。すると、急に暗冷がブルブルと震え出し、さっきまで水恋の方を向いていなかったのにそちらへ顔を向けた。水恋に何か関係があるのかとそちらへ顔を向けると、形容し難いオーラを放ち、怖いほどの笑顔を浮かべている水恋の姿があった。
「お、おい、すいれ――」
「バカテメェ! き、気安く今の水恋に話しかけんじゃねぇ! い、今のこいつには関わんねぇ方が身のためだぜ?」
さっきまで余裕をぶっこいていた暗冷のたじろぎ様に、俺も言葉を失う。それほどまでにキレた水恋は怖いというのか。確かにこのオーラは薄ら寒い感じがするのだが……。
見れば、水恋の従姉妹である凛と霧矛も顔面蒼白となっている。即ち、この光景を経験済みということだ。ここは経験者に倣って黙っておくことにする。
「す、水恋……。わ、分かった! お、オレが悪かった!! 謝る! すまねぇ!!」
「――て」
「え?」
「私ではなく、この子に謝ってください!」
顔を下げたままスーッと風浮を前に出す水恋。
「くっ! ……わ、分かった。おい、ガ――ボウズ……悪かったな。許してくれ」
「何やってるのですか? 土下座で謝ってください」
「あ? 土下座だと? 誰が土下座まですっか!!」
さすがにそこまでやるのは帝族の一人としてプライドが許さないのだろう。が、容赦なく水恋が首をゆっくりと傾けながら口を開く。
「……すみません。よく聞こえませんでしたが、今もしかして“土下座はできない”と言いましたか?」
「うぐっ! ま、待て待て、分かった! 土下座だな? やりゃあいいんだろやりゃあ!!」
暗冷はついに投げやり状態となり、拳銃を放り投げて地面にひれ伏した。謝られている風浮も状況が状況なので、戸惑い困り果てている様子だ。すると、その状態がしばらく続いた後、ようやく冷え切った空気が消えて元の雰囲気が返ってきた。
「よかったですね、風浮くん!」
「え、う……うん!」
少し拍子抜けの表情を浮かべる風浮。先ほどの出来事とのギャップに困惑しているに違いない。俺も新たな水恋の顔に度肝を抜かれた気分だ。これを幼馴染である暗冷は既に経験しているわけだから、今の様な行動に移ってしまうのも何となく頷けてしまう。
「ちっ、嫌な汗かいちまったぜ……。あっ、しまった! そーいや、あのクソ堕天使は!?」
そう――ルーシェルのことをすっかり忘れてしまっていた。見ると、何やらパワーを溜めている。恐らく最終兵器か何かを使うつもりなのだろう。だが、そんなことされたらここら一帯は吹き飛ぶかもしれない。それを防ぐためにも何とか止めないといけない。しかし、どうする?
と、その時、天空から眩い光がルーシェルに向かって降り注いだ。その光はルーシェルの肉体や翼を燃やすほどの光熱でそれを一気に浴びた漆黒の翼を持つ男はうめき声をあげた。
【ぐぅわぁぁぁぁあああああぁぁぁぁッ!!! こ、この光熱はまさか……天使……か?】
【その通りです、堕天使ルーシェル。私がここに来なければいけない程、あなたは悪事を働いたんですよ? そのこと、重々理解していますよね?】
金髪碧眼のストレートロングヘアの少女が、純白の羽を広げながら降臨する。片手には金色に塗り染められた杖が握られていた。頭の上には天使特有の輪っかがある。まさにイメージ通りの天使だ。
「わたしが呼んでやったです!」
声のする方を見れば、そこにはルーシェルが先程まで操っていた少女をおぶった、翡翠の姿があった。
「その子が天照ちゃん?」
ルーシェルの攻撃を避けるために教会へ退散していた咲夜さんが、おぶられている少女――天照の寝顔を覗き込みながら確認する。
「はいです。無理やり体を乗っ取られた上に結構な力を消費してやがりますから、ぐっすりと眠ってます。でも、分離が早かったおかげで後遺症は残ってないみてぇです!」
そう言って少し安堵する翡翠に皆の表情も和らいだ。俺も少し安心している。さてと、残りはルーシェルについてだ。見れば少女天使が何やら饒舌な口調でルーシェルに話しかけているようだが、なんて言っているのかまでは聞き取れなかった。すると、話を終えたのか、今度はこちらにやってきた。フワリとジャンプしただけで、まるで宇宙空間でジャンプしたときの様に少女にだけ若干の浮遊時間が存在する。
【あなた方のおかげで被害は最小限で抑えられました。本当にありがとうございます。シスター・アマテラス。いえ、翡翠さん。通報の件、ありがとうございます。今まで探していた男を、ようやくこうして捕まえることができました。我々の仕事が一つ減って本当に嬉しい限りです】
丁寧な透き通った声で話す少女に、翡翠は手を振りながら言う。
「いえいえ、とんでもねぇですよ! わたしはただ、友達を助けたかっただけです! 助けてもらったのはこっちの方ですし……」
照れ隠ししてこちらを見る翡翠。すると、今度は天使の視線がこちらに向けられる。
【あなた達が噂に聞く伝説の戦士ですか? 何でも伝説によれば、かつて神族と人族の戦いを止めてみせたとか……】
「いえ、俺達がやったんじゃないんですけど」
と、俺は少し目を合わせられず目を少しそらしながら答えた。
と、その時、天使が何やら不思議そうな顔をしてハッとなったかと思うと、急に目の色を変えて俺の顔に両手を当てた。すごくスベスベで暖かい。これが天使の包容力というやつか?
「え、な……何ですか?」
【目を逸らさないでください!】
「え?」
完全に硬直状態の俺。そりゃそうだ、眼前に金髪碧眼超絶美少女天使がいるわけだからね? 漂ってくる匂いも温かい気持ちになるし。
【あなた……どこかでお会いしませんでしたか?】
「ひ、人違いじゃないですか?」
会ったとしたらこっちが絶対に覚えているはずなので、俺ははっきりとそう答えた。すると、少女は少し残念そうな顔で【そうですか】と答えて踵を返した。しかし、なぜそんなことを訊いたのかの理由が気になったため、逆にこちらから聞き返した。
「どうしてそんなことを?」
【いえ。あなたの顔や雰囲気が、ある偉大な方に似てらしたものですから……】
振返り様笑みを零す少女天使。その笑顔を見ただけで心を射抜かれた感覚を感じてしまう。これが一目惚れというやつだろうか? だが、もう二度と会うことはないだろう。だったらせめて、名前だけでも聞いておきたい。そう俺は思った。
「あ、あの!」
【はい?】
不思議そうな顔で首を傾げる少女に、俺は意を決してそれを言葉にする。
「お名前は?」
【……ヴィリアエル=フィリル。皆からはベルって呼ばれてます。それではさようなら、伝説の戦士のみなさん】
そう言って上空から降り注ぐ光に入っていくベルちゃん。すると、天界へ帰る途中にもう一度こちらに視線を向けてきた。
【そういえば、こちらもあなたのお名前を聞いていませんでしたね?】
ハッとなって明るい笑顔を向け小首を傾げながら訊いてくる。
「あ、月牙! 塁陰月牙です!!」
と、声を張り上げて答えた。するとベルちゃんは、ハッとなって再び笑みを向けてきた。
【やはり、あなたがあのお方のご子息でいらっしゃいましたか。お慕いしております、月牙様】
そう言ってベルちゃんはルーシェルを連れて天界へと帰ってしまった。しかし、消える際に言った最後の一言、“お慕いしております月牙様”とは一体どういうことだろうか? 名前は教えたとしても、いきなり慕われることまではしていない。それに、“様”をつけられるとは思ってもみなかった。周囲を見てみると、他のメンバーもこちらを怪しい目で見ている。
「月牙さん、あの人とは一体どういう関係なんですか?」
水恋がジト目でこちらにそう質問を投げかける。
「いやいやいや、違うって! ホント初対面なんだって!!」
「その焦り様はますます怪しすぎます! 第一、どうして初対面なのにあそこまで笑顔を向けられるのですか!! おかしいですよ!!」
「そ、それは――」
途端に言葉を失ってしまった。こういう時、うまい言葉が見つからないから困る。その後、結局俺の罪は晴れず、男子メンバーに助けを求めたが、役に立つ男子は一人もおらず、俺は案の定裁きの鉄槌を女子メンバーから受けるハメとなってしまった。
こうして気苦労の絶えない俺の一日は、また一日終りを迎えたのである……。
というわけで、神族が少し絡んできた今回の話。ちなみに、堕天使に操られていた天使の天照は、ハーフエンジェルです。そして、これで月牙チームは残り伝説の戦士は一人のみとなりました。にしても、またもや女子が二名追加とは。残り一人は一体女、男のどちらなのか。みなさんにはもう想像できているかと思います。
そして、さらに天界から降臨したベルことヴィリアエル=フィリル。月牙はこの子に月牙様と呼ばれていましたが、一体なぜなのか。その真実ももう少ししたら判明します。というか、母親があの人の時点でもうわかるかと。
てなわけで、次回二十七話で月牙チーム最後の一人がでます。




