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第四話「霧霊霜一族現当主と雨の村の長」・1

 俺――塁陰月牙は、斑希を失った悲しみから何とか立ち直り、仲間も一人も連れないまま一人寂しくトボトボと暗い道を歩いていた。

 その時、俺は向こうで騒ぎが起こっていることに気付いた。


「何かあったのか?」


 ふとそう思った俺は、その場に急いで向かった。

 しばらくして、だんだんとその場に近づいてくると、向こうから青い髪を揺らしながら一人の少女がこちらに走ってきた。しかも、その少女は俺の存在に気付いていないのか、そのまま真っ直ぐ走ってきた。俺は躱そうとしたが、向こうも僅か数センチというところで気付いたのか躱そうとして、運悪く同じ方向に避けてしまったため正面衝突してしまった。互いに尻餅をつき、俺はゆっくりと体を起こした。相手の少女も腰を優しくさすっている。


「いたたた。ごめんなさい、急いでいますので!」


 少女はそう言ってその場から切り抜けようとした。しかし、それを俺が許すはずがない。俺はガシッと少女の白く細い腕を掴んだ。同時に俺は、彼女の腕から自分の体に流れてきた魔力の反応と量から、伝説の戦士ではないかとまで推測した。そして、さっそく単刀直入の質問を少女に向かって投げかけてみる。


「お前、まさか伝説の戦士か?」


 その言葉に反応するかのように少女はこちらに視線を寄越した。その言葉に反応し何かの確認を取るように少女はじっと俺を見つめる。しかし、しばらく俺を見た後、瞑目して小さく嘆息すると、腕を振り払って言った。


「放してください! 今私は急いでいるのです! 邪魔をしないでください!!」


 そう言い放った少女は、青い髪を振り乱しながら再び何処かに走って行ってしまった。


「何かに追われてるのか?」


 俺はそう思いながら先へと進んだ。すると、その先にはとんでもない光景が広がっていた。たくさんの人達が血まみれで倒れていて、既に死んでいる状態だった。しかも、その上から冷たい雨が降り注いでいた。雨に流された血が地面のくぼんだ部分に溜まり、真っ赤な血の池の様になっている。まさか先程の青髪の少女がやったのだろうか。とてもそうには見えなかったが。


「惨いな」


 俺は服の袖で鼻を覆い激臭に耐えた。その先を進んでいくと、一人の生き残りを見つけた。といっても、既に虫の息状態だが……。


「おい大丈夫か? しっかりしろ! 一体ここで何があったんだ?」


 俺がその男に訊くと、重傷を負った男はゆっくりと口を開いた。


「……水と、雨の……戦い」


「水と雨の戦い? 一体なんだそれは?」


 よく分からないと言った表情で俺は男に訊いた。


「この近くに……住んでいる二つのリーダーがいて、……その二人が争った……んだ。俺は、その戦いに……巻き込まれた……。頼む、こんな……戦いをこれ以上続けないためにも、……あの、二人を、あの女達を止めて……くれ!」


「あの、女達?」


 謎のキーワードに疑問を抱いた俺は、もう一度男に訊ねようとした。しかし男は、俺の腕の中で息を引き取った……。


「おい、しっかりしろ! おいッ!! ……くそ、あの女達って……まさかさっきの?」


 俺は、ついさっきぶつかってきた少女の事を思い出した。


「だとすると、もう一人の女ってのは……誰なんだ?」


 ふとそんなことを考えながら、息を引き取った男の死体に手を合わせると、その死体を木陰に移動しその場を後にした……。


――▽▲▽――


 その頃、霧霊霜一族の砦では、先程月牙にぶつかった伝説の戦士らしき人物が随分と高そうな椅子に座っていた。雰囲気的に恐らくここのリーダー的存在なのだろう。そんな彼女達の集まりに、月色に似た金髪の青年が姿を現した――月牙だ。


――さっきの女は霧霊霜一族の者だったか。だとすれば、あいつは水属性を持っているはず。陰属性の俺にとって決して不利な相手とは言い切れないが、油断は禁物だ。



 心の中で自分に言い聞かせた月牙は、人混みをかきわけ前に進み出た。


「おい、お前! ここのリーダーのようだな。俺と勝負しろ!!」


「い、いきなりなんなのですか!? ――って、あなたさっきの。何のつもりですか? もしも、先程ぶつかったことに恨みがあるというのなら謝ります。しかし、そうでないと言うのであれば、その言葉はあまりにも無謀です! 今ならまだ許してあげますけど?」


 青髪の少女の言葉に上から目線で月牙は言った。


「随分と自分の力に自信があるようだな」


「貴様、水恋様に何という口の利き方だ! 身の程をわきまえろ!!」


 一人の女性が槍の先を月牙に向けて叫んだ。


「やめなさい! 冷静で純粋な考えを持つと言われる、古より続いてきた四族の一つである『霧霊霜一族』の名が廃ります」


 水恋と呼ばれる少女が女性を止める。


「申し訳ありません、水恋様!」


 女性は素直に水恋に謝り後ろに下がった。

 霧霊霜一族というのは古より存在する四族の一つで、昔から一族の血を受け継ぐ者は必ず女しか生まれない。そのため、砦にもほぼ女しかいないので一族以外の男と結婚して子孫を繁栄させてきた。その代わり、生まれてくる子供は必ず霧霊霜一族の血を引き継ぐため、女だけしか生まれることはなかった。これがどうしてなのかは今の所判明しておらず、未だに謎に包まれている。


「お前、水恋っていうのか?」


「そうですが?」


 水恋はだから何? という顔で月牙を見た。


「なるほど。お前が四族の一つ、霧霊霜一族の『霧霊霜(むりょうそう) 水恋(すいれん)』だったのか」


「へぇ……。私のことを知っているのですか? まぁ有名ですからね」


「自分で言うんだな」


 偉そうに頬杖をつき、玉座に座っている水恋を見ながら月牙は言った。


「どうしても引き下がらないというのであれば仕方ありませんね。あなたの相手をしてあげます。でも、まずは小手調べとして四人衆と戦ってもらいます」


 そう言って水恋は、白くて細い人差し指と親指でパチンと指を鳴らした。同時に、月牙の目の前に見るからに強そうな四人の男が姿を現す。


――こいつらは、霧霊霜一族の人間じゃないな。



 髪の毛や肌の色で判断したのではない。ただ単に霧霊霜一族には男は存在しないからだ。何よりも特徴となる青髪と白い肌をこの男達は受け継いでいない。それだけでもそう判断することは容易だった。

 月牙は剣の(つば)に親指をあてがい、挑発混じりにこう発言した。


「何だ、お前自身が戦うんじゃないのか?」


「もしも、この四人衆全員を倒すことが出来ればこの私自身が戦ってあげますよ」


 ニタリと笑う水恋。そしてスッと左腕を上げると試合開始の合図を送った。


「よぅ兄ちゃん! まずはこの俺が相手になるぜ! 先攻はあんたに譲ってやるよ!!」


「そうか……。じゃあさっそく――」


 刹那――先攻を月牙に譲った四人衆の一人は、一瞬にしてその場に倒れた。


「う、嘘……一瞬で!?」


 霧霊霜一族の人間が、四人衆の一人が一瞬でやられたことに驚愕する。


――まさか、あの四人衆の一人を一瞬で倒すなんて。これは久しぶりに面白くなりそうですね。



 水恋は心の中で何かしらの策を練りながら、四人衆と月牙の戦いを見届けた。


「さぁ、次は誰が相手なんだ?」


 月牙が指でクイクイと挑発する。すると、四人衆の一人の大男がノッシノッシと歩いてきた。一歩一歩進む度にその重さが分かる。


「次はオイラが相手だ! お前みたいなヒョロヒョロは、すぐにオイラが捻り潰してやるッ!!」


 自慢の腕を巧みに使用し、月牙を掴む大男。


「ヘッヘッヘ、捕まえたぜ? これでお前も終わりだ!!」


 大男は、両手で月牙の体を強く掴むと力任せに握った。


「ぐ……うッ!?」


 両手ごと体を拘束されてしまった月牙は、体を動かせず剣技を使えない状態にあった。


――く、くそ……迂闊だった。一応こいつは四人衆――手を抜きすぎたか。出来るか分からないが、一か八かやってみるか!!



 苦悶の表情を浮かべながら、月牙は強く魔力を練り始めた。


「くらえ! 『月光の円壁(バリア・フリー)』!!」


 勢いよく溢れ出した月牙の魔力は、陰属性――即ち月の力によって凄まじい衝撃波を生み出し、四人衆の大男の太く大きな腕を吹き飛ばした。


「ぐぅわあぁああああああああッ!!!? お、オイラの腕がぁあああ!!」


 叫び声を上げる大男は、吹き飛ばされた腕の切り口から大量の血を地面に落とした。そして、その隙を狙って月牙は大男にトドメを刺した。


「や、やめ――」


ズブシッ!! ッブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

 一瞬にして月牙はその場から移動し、気づけば大男の横を通り過ぎていた。同時に、時間差で大男の体から鮮血が飛び散り大男は前かがみに倒れた。


「これで二人だ……」


 月牙は剣を振って、付着した血を振り払い呟いた。


「おい、お前の自慢の四人衆とやらも、後二人になったぜ? そろそろ武器の準備とかしといた方がいいんじゃないのか?」


 その言葉に、水恋は悔しそうにしながらも言った。


「残念ですが、後の二人はなかなか手ごわいですよ? あなたと同じく剣技を使いますので頑張ってください?」


 水恋はそう言って試合開始の合図を出した。すると、月牙の目の前に残った二人の内の一人が進み出た。


「次はこの俺が相手だ。さっきの剣捌き――全て見切らせてもらった!」


「何ッ!?」


 月牙は少し驚いたが、すぐに冷静になり剣の持ち方を変えた。


「ほう、少しはレベルが違うということが分かっているようだな」


「ふん、この持ち方が楽なだけだ!」


 鼻で笑った月牙は、片足を強く踏み込み攻撃を仕掛けた。相手は剣をグルグルと回転させながら攻撃をし返す。


「くそっ、これじゃ迂闊に近づけない!!」


 そう言って一旦身を引いた月牙は、すぐさま連続技に切り替えた。


「これならどうだ!!」


 剣を勢いよく振り回し連続で剣技を叩き込む月牙。しかし、その攻撃を全て受け止めた男は口元に笑みを浮かべた。


「さっきも言っただろう? お前の技はさっきの戦いで全て見切った、と」


 男は剣を巧みに使いこなし、月牙の持っている剣を弾き飛ばした。


「しまった!」


 月牙の剣はクルクルと回転し、放物線を描きながら地面に突き刺さった。同時に小刻みに揺れる剣。それを見た月牙は「くっ!」と下唇を噛み締め、急いで得物を取り戻そうとその場に向かった。だが、男が月牙の行く手を阻んだ。


「ここから先へは行かせん!」


 剣を振り回し、なるべく月牙の得物から遠ざけようとする男。周囲には、霧霊霜一族の人間が観衆として佇んでいる。すると、男が剣を振り上げたかと思うと、もう片方の手から謎の液体を月牙の体にぶっかけた。


「わっ!? な、何だこれは……」


「っくっくっく、これはただの液体じゃない。見せてやろう!」


 男はそう口にすると、指を鳴らした。

ボォオオオオオオオンッ!!

 刹那――月牙の肩に大量にかかっている液体が光り輝き爆発した。


「ぐあっ!!?」


 慌てて自分の肩を震える手でギュッと押さえる月牙。


「い、今のは……?」


「分かっているんだろ? これは爆弾だ。この液体に特殊な加工を施して爆弾にしたんだよ! 戦士たる者、武器だけではなくアイテムも使いこなさなければなぁ~?」


 男は笑いながら月牙をバカにするような目で見下し、何度も何度も液体を月牙に向けてぶっかけた。月牙は逃げ回りながらその液体から逃げた。


――くそ! これじゃあ特殊攻撃をしかけることも出来ないッ!! こうなったら――これだけはやりたくなかったんだが……。



 月牙は何かの策を思い付いたのか急にその場に立ち止まると、自分の剣があるのとは逆の方向へ走り出した。


「っくっくっく、逃がさんぞ!!」


 足を強く踏み込んだ男は瞬間移動して月牙の前に先回りすると、すぐさま液体を真正面から月牙に向けてぶっかけた。しかし、タイミングよく月牙は体を反転させた。液体は顔などに付着することなく背中全体に万遍なくかかった。


――な、何だ? こいつは一体何を?



 疑問符を浮かべながらも男は構わず指を鳴らした。


「これで最後だ!!」


 指が擦れてパチンという音が鳴ったと同時に月牙の背中が光り輝き爆発した。爆発と同時に発生する爆風に吹き飛ばされる月牙。


「はっはっは!! これで俺の勝ちだ!! ふははははは!!」


 歓声を上げる男。しかし、観衆の一人が指をさして叫んだ。


「あ、あれを見て!!」


 その言葉に一番に反応したのは、四人衆の三番目の男――月牙と戦っている最中の男だった。そして月牙が飛ばされていく方向を見た瞬間、男は顔を青冷めさせた。月牙が飛んで行った先には、彼の得物があったのだ。


「ま、まさか!?」


「くっ!? この方法は痛いから、出来ればやりたくなかったんだがな……!!」


 ヒリヒリと痛む背中を擦りながら月牙は剣を握った。そして、驚きのあまり隙だらけになっている男を月牙は容赦なく切り倒した。


「ぐぅわああああああああああああッ!!!」


 男はその場に大の字に倒れた。


「く、くそ……ッ!!」


 掠れた声で月牙を睨み付ける男。

というわけで四帝国の内の一つ、ウォータルト帝国にやってきた月牙。すごいですね、斑希の事から立ち直れるなんて。自分にはとても無理です。そして、突如ぶつかってきた青髪の少女――霧霊霜水恋。さて、皆さん覚えていますか? そう、六代目十二属性戦士の雫の先祖です。先祖というのも何か変な感じがしますが。そして、女しかいない霧霊霜一族へとやってきた月牙。よく入れましたね。

と、いきなり戦いを宣言し四人衆と戦い出すという。軽く月牙戦闘狂ですね。後半もバトル続きます。

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