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第二十五話「殺戮の暗殺者と黒影の暗殺者」・5

「おい、如月……少しは遠慮してやれよ。大事な仲間が欠けたらどうすんだ!」


「あはは、ごめんね? だって、初めてじゃないなんて私の美学に反するんだもん! 私はファーストキスを奪うのが好きなんだから! もちろん、女の子のね!!」


――駄目だこいつ。完全に考えが腐ってやがるぜ! しかし、まさかホントにキスしたことあったのか。だが、一体誰とだ? ま、まさか――四帝族の関係がある暗冷と!?



 俺はサッと本人の方を振り返るが、逆に睨まれてしまった。相手の方が年下なのにビビッてしまう俺。何だか情けなく思う。

 すると、背後からザッザッと歩み寄る誰かの気配を感じ取った。

 もしかしたら水恋かもしれないと思って、笑顔で振り返り声をかけようと口を開く。


「さっきは悪かったな、す――ぶべらッ!!」


 最後まで俺は喋れず、気づくと俺は地面に頬をくっつけていた。


――暗冷達が横に立って見える……。いや違う! 俺が倒れたんだ!!



 ゆっくりと立ち上がって何事かと周囲を見渡すと、すぐ目の前に凛がカンカンになって仁王立ちしていた。海の浅瀬のような色の髪の毛に深海の瞳、そしてヒトデを模した大小二つの髪飾りに銀色のティアラを頭に乗せているお姫様――もとい、王女様。

 そんな凛は、腰に手を添えてこちらをジーッと見ていた。眉毛を吊り上げているその表情は、初めて凛に出会った時と同じ顔をしていた。


「あんた、どこまでデリカシーってものがないの!? 信じらんない!! そんなあんたを――な私も許せない!! こんな自分が嫌になったわ!! サイッテーよ、この駄犬っ!!」


 そう言い切った凛は、俺に向かってパーではなくグーでスクリューパンチを繰り出してきた。


ドゴッ!!


 鈍い音が俺の耳の近くで聞こえる。今ので俺は、右と左……両方の頬を凛によって殴られたことになる。しかし、一瞬俺の目に見えた凛の涙を浮かべた表情は気のせいだったのだろうか? いや、嘘なわけない。


「……イテテテ。わ、悪かった凛。俺も悪ノリし過ぎたかもしれないな……。ほら、如月も謝れ!」


「ちょ、ちょっと!! うわわっ!!」


 俺は、自分の手にスッポリ収まる程度の大きさの如月の頭をつかみ、強制的に謝罪させた。


「ホントに悪いと思ってるなら、お姉ちゃんに直接謝って!!」


 腕組をしてそっぽを向く凛の態度は、相変わらずのツンデレだなと思った。


「分かった。ほら行くぞ如月!」


「だ、だから待ってってばぁ~!!」


 如月は、動きの速い俺について行けず、オットット状態になっていた。



――▽▲▽――


 俺と如月の二人は、黄金の地図を元にして水恋を探していた。どこかにいるとは思うのだが、なかなか見つけ出せない。しかし、そう思っていると如月がこんなことを口にした。


「私の匂いがする……」


 意味不明な言葉に俺は訝しげに如月に訊ねた。


「どういうことだ?」


「はぁ、忘れたの月牙くん? 水恋ちゃんは私とキスしてたんだよ? 匂いの一つや二つ、ついてておかしくないよ」


 それを堂々とした態度で言うのもどうかと思うぞ? と、心の中で思いつつ、俺は曖昧な言葉を返す。はっきりと言ってしまったら如月がどんなことをしでかすか分からない。ただでさえこの状況下だ。なるべく事を大きくはしたくない。


「それで、その匂いは何処から漂ってくるんだ?」


「向こうの方だよ! 行くなら早く行こ?」


「ああ……」


 俺は如月に手を引かれ、水恋がいるらしい場所へと向かった。




 そうして俺達がたどり着いたのは、森の奥深く……入り組んだ茂みの中に彼女――水恋はいた。


「月牙さん……」


 消えてしまいそうなくらいの声で俺の名前を呼ぶ水恋。目には涙が溜まっていた。今にも泣き出しそうな感じだ。そこまで俺達は水恋に苦痛を与えてしまったのか……。こいつは謝っても謝りきれないかもしれないな。だが、ここで謝らないといけないことに変わりはない!


《ホントに悪いと思ってるならお姉ちゃんに直接謝って!!》

 

その凛の言葉がふと脳裏に思い浮かぶ。凛の言うとおりだ、ここで謝らないと!!


「悪かった!!」


「……え?」


 俺が謝るのに対して、水恋はきょとんとした顔になっていた。目に溜まった涙の滴を拭い取りながら俺に質問を投げかける。


「どうして謝るのですか?」


「だ、だって、俺のせいで泣いてんだろ?」


 てっきり俺は半ば無理矢理に水恋に好きな奴がいるということを聞き出したことが原因で逃げ出したのだと思っていた。だが、話はそこから百八十度転換する。


「ぷ――あははははは! やだもう、何言ってるのですか月牙さん! 私は別に泣いてなんかいませんよ!!」


「え? だ、だって悲鳴あげてあの場所から逃げ出したじゃんか!!」


「あれは、足元に蛇がいたからです!」


「あぁ、そういうことか……。いや、でも今泣いてたじゃんか!」


 俺は一つ理由が確認できたが、泣いてた理由が理解出来なかったため、そのことについて追求した。すると水恋は少し恥ずかしそうにしながら答えた。


「実はその、お恥ずかしい限りなのですが……道に迷ってしまって、このまま一人で孤独の森にいたら飢え死にしてしまうのではないかと思ったら、急に視界がぼやけてきて……」


 鼻を(すす)りながら言う水恋の足を見てみると、靴が泥だらけのボロボロ状態で、既に歩き回っていたことが見て取れた。


「大変だったんだな……」


 俺はそう言ってなるべく暖かい眼差しを浮かべて水恋の頭を撫でてやった。


「げ、月牙さん――って、私を小さい子供みたいに扱わないでください! 私はもう大人なのです!!」


 水恋は最初俺に撫でられて嬉しそうな安堵の笑みを浮かべていたが、急にハッとなると俺の手を振り払って文句を言った。


「あぁ、悪い悪い……。つい、な」


 思わず水恋の頭を撫でてしまったのには理由がある。似ていたのだ。どことなく水恋の今の顔が、斑希の幼かったあの時の表情に……。




 それから俺達は元の場所に戻り、待っていたメンバーと水恋についての一部始終を語り、それから師走と如月に忍者少女の引換代償による蘇生術を行わせた。準備を整えるために如月と師走は一旦森の奥へと姿を消し、一時間後に元の道から戻ってきた。如月は満足そうな笑みを、師走は疲れきった表情をそれぞれ浮かべて――。


「さて、一億五千万の魔力は確かにいただきました。多少強引なやり方ではありますが、引換代償による蘇生術を行いたいと思います! 皆さん、これから少しばかり荒療治になりますので離れていてください!!」


 俺達は師走に言われた通り、その場から離れた。如月は今日だけで相当満足できたとか何とか言って元の世界に戻っていった。ったく、いつも自分勝手なやつだ。


ピイィィィィィィィ!


 急に俺の耳元に何かが光り輝く音が聞こえてくる。ふとそちらを見やると、師走が忍者少女に蘇生術を施している姿があった。真っ白な光に包まれてそれが一層眩しく光り輝いたかと思うと、次の瞬間、師走が少し幼くなって現れた。両手にはお姫様抱っこのような状態で忍者少女を抱いている。


「成功……したのか?」


「はい、わたしの体が幼くなっているのがその証拠です」


「どうしてそんなことに?」


「少々わたしの力も使わせていただきました。体型が退化してしまったのはその代償です」


 少し首をかしげながら笑みを浮かべる師走に、俺は申し訳ない気持ちで言う。


「本当に良かったのか?」


「ご安心くださいマスター。心配せずとも十二日が経てば元の姿に戻ります。ただし、召喚せずに十二日が経てば

の話ですが……」


 その話を聞いて俺は疑問混じりで師走に尋ねる。


「それじゃあ、もしも俺が五日後に一度お前を召喚したら、また零日ってことか?」


「そういうことになりますね……」


 俺の例え話に冷静な表情でコクリと頷く師走。彼女自身が大丈夫だというのだから問題はないのだろう。ならば心配はない。もしもの時はどうしようかとも思ったが、これで万事解決ということ――ではなかった。


――ぞくっ!



そう何かが俺の背筋をさす。振り返ればそこには、怒り心頭の五人がいた。


「月牙さん!」


「月牙さん」


「庶民!」


「月牙くん!」


「駄犬っ!」


 若干二名の呼び方はともかくとして、俺は皆に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。地面に膝をつき全員を見渡す。


「みんな、本当に悪い! ファーストキスを奪ったりして!! ホント、お前らの優しさにはもう頭が上がらない!!」


 そう言って俺は頭を地面に擦りつけるようにして謝った。


「……。そ、そんな……そんな言い方、ズルいですよ月牙さん! そんな風に言われてしまったら、許さざるを得ないじゃないですか!」


 水恋は顔を少々赤らめながらそんなことを言う。他の皆も似たような表情を浮かべていた。


「確かに……わたしも初めての人が女の子だなんて気絶ものだけど、それでもこの子を助けるためだったら別に構わないよ」


 霧矛も水恋の後に続くように必死に声を振り絞る。いつもならここまで長くは喋らずに短いセリフしか言わないのだが。これも成長なのだろうか?


「わたしは……その、なんかすんごく惨めな気分を味わったけど、そもそも未来を見て引換代償のことを言いだしたのは自分だから自業自得だと思うし、別にいいよ?」


 未來も人差し指同士をツンツンぶつけあいながら俯き俺を許してくれた。

 が――。


「ふんっ! 私は許せませんわ!! 例えそこで寝てらっしゃるお嬢さんのためとはいえ、く、唇を奪われるだなんて!!」


「そ、そうよそうよ! 私も許せないわ!! な、何でこの私がペットであるあんたなんかの言うこと聞かないといけないのよ!!」


 どうやら高いプライドをお持ちのお二人には、許す気持ちが微塵もないようだ。こいつは参った。


「頼む! 本当に悪かったって……」


 ひたすら俺が謝り続けて一、二分が過ぎた頃、ようやく進展があった。あの忍者少女が目を覚ましたのだ。ゆっくりと瞼を開き、キョロキョロと周囲を見渡す少女の視線が俺に合う。


「ようやく目覚めたか」


 安堵のため息を洩らしながら呟く俺に、少女はゆっくりと上半身を起こして口を開いた。


「そなたらが拙者を助けてくれたのでござるか?」


 その声に俺は答えた。


「ああ、俺が陰暦十二使徒っていう技を使ってお前を助けたんだ!」


「そう……だったのでござるか。いやはや、助かり申したでござる! 拙者の名前は『影虎(かげとら) 影明(えみ)』。忍者組織の一人で、ある任務の途中だったのでござる。しかし、何故にござるか?」


「何がだ?」


 俺は少女――影明の言葉に首を傾げる。影明は言った。


「拙者はそなたらの仲間を暗殺しようとしたでござる! そんな人間をわざわざ助けるなど、聞いた事もないでござるよ?」


「俺だってあんな事実を知らなきゃお前を助けはしなかっただろうさ」


 “あんな事実”という言葉に訝しげな顔をする影明に対して、俺は表情を和らげながら答えた。


「お前が俺達と同じ伝説の戦士だってことだよ!」


「で、伝説の戦士? 何でござるかそれは? 拙者も聞いたことがない言葉でござる。新たな勢力か何かでござるか?」


 その言葉に周囲にいたメンバーも思わず笑っていた。俺はやれやれと言った感じで答えてやった。


「伝説の戦士ってのは神王族が立ち上げた『プロジェクトS.O.L』の影響によって出現した、神の力を持った人間のことだ! そんでもって、そいつらは俺が持ってるこの黄金の地図に点滅する赤い点として表示されるんだ! ほら、ここに密集してる赤い点と少し離れた点があるだろ? この少し離れた点がお前のだ!! つまり、お前は俺達と同じ伝説の戦士だってことなんだよ」


「せ、拙者が……伝説の戦士。にわかには信じ難い話でござるな。しかし、かと言って主らが虚言を言っているようにも見えぬでござる……」


 どうやら蘇生して早々に俺達の仲間になるように言われる影明は困惑しているようだ。まぁ、無理もない。いきなりこんなこと言われて「はいそうですか」と答える方が逆におかしい。

すると、影明は言葉を続ける。


「……拙者、拙者は其方(そなた)に助けてもらったでござる!」


 そう言って影明は、目をウルウルさせながらこちらに感謝と尊敬の視線を向けてくる。


「其方の名前は?」


「え? ……月牙、塁陰……月牙だけど」


「月牙殿でござるな? 記憶したにござる! 拙者は御身に助けられた身でござるからして、この命は御身に捧げる所存でござる!」


 ササッと俺から少々距離を取ったかと思うと、影明はその場にサッとしゃがみ、片足を立てて俺に敬意を示した。


「不詳、影虎影明……。御身――塁陰月牙殿に忠誠を誓うでござる!」


「え………ええぇぇぇぇぇえええええええええッ!!?」


 急に俺に感謝と敬意の思いを示していたかと思うと、今度は忠誠を誓い出す影明……。


――いや、確かに俺はこいつを助けた。厳密的には俺と周りの女の子たちと。それは紛れもない事実である。だが、だからと言って忠誠を誓う上に命まで捧げるって!!



 俺は慌てて両手を振りながら影明の言葉に対して物申す。


「ちょっと待て! 確かに俺はお前を助けたが、命を捧げられる覚えはない! 命まで捧げたら俺がお前を助けた意味がないだろうが!! それに、お前の命を救えたのは俺だけじゃなくここにいる五人が引換代償に必要となる魔力の補助をしてくれたからだ!! だから、お前が死んだらこいつらにも申し訳が立たないだろうが! 分かったか? 分かったら死んじゃダメだ!!」


 強めな口調で俺は影明に(さと)すように言った。なるべくそうしておかないと、後ろの五人――特にプライドが無駄に高いお二方がうるさいだろうから。


「……そうでござるか。であれば、拙者は御身の盾となることを誓うでござる! 無論命は捨てぬ物としてでござるが」


「そうか、それなら大丈夫だ! いいか? 絶対に命を棒に振るようなことはするなよ?」


 俺の言葉にはっきりコクリと頷いた影明は、笑みは浮かべず口元を緩めた。普段忍者として活動する影明にとっては、感情を殺すことが絶対。今の影明は先ほどのそれが精一杯の笑顔なのだろう。

 こうして俺たちは、何とか死の世界から忍者の少女――『影虎(かげとら) 影明(えみ)』を助け出した。これで残る探さねばならない伝説の戦士は三人となった。




 それからしばらくして、俺達は咲夜さんの案内の元、ようやくドーナカイ村に到着した。暗冷達の住んでいた城からここまで様々なイベントがあったため、思ったよりも時間を喰ってしまった。


「な、何だよこれ……」


「これはあまりにも酷すぎます」


「一体、誰がこんなことを?」


 突然俺達の眼界に入ってきたもの――。それは、住居が全て焼き払われ草地も焼け焦げた後の荒れ果てた大地だった……。

というわけで無事に蘇生に成功しました。さらに水恋が泣いていた理由は蛇だったと。

そして、月牙は哀れにも二度凛に頬を殴られるという。

まぁ、これで月牙の持つ地図に乗っている点で仲間にしていないメンバーは残り三人となりました。

てなわけで次回は二十六話は、神族が出ます。

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