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第十八話「能天気な幼馴染」・3


――△▼△――


 サルパストナム王国を後にした私達は、南下してウォータルト帝国へ向かう途中だった。と、そこへ向かうまでの道中で、私はあるものに(つまず)いてコケてしまった。


「イタタタ・・・・・・もーぅ、なんなのよー!」


 痛い部分をさすりながら後ろを振り向き何に躓いたのかを確認すると、そこにあったのは特殊な超合金で作られた線路だった。


「これは・・・・・・線路? でも、どうしてこんなところに線路なんか・・・・・・」


 私がそう呟いていると、後ろから「あっ」と声がした。その声に反応して後ろを振り返ると、目をオロオロさせて明らかに動揺している様子の乱火がいた。私が声をかけると、乱火は息を飲んでこう言った。


「この線路・・・・・・もしかすると――」


 そこで声は途切れた。というよりも、かき消されたという方が正しいかもしれない。

 刹那――聞こえてきたのはピーッ! という汽笛とプシューッ!! という蒸気を出す音だった。その音量に乱火の声はかき消されてしまったのだ。

 慌てて線路から離れると、自分たちの二倍くらいの大きさの機関車がガタンゴトンと音を立てながら巨大な車輪を回転させ迫ってきた。

 そして自分たちのいる手前に来ると、そこでブレーキがかかり列車はストップした。


「これは一体・・・・・・何でございましょうか?」


 癒宇さんも初めて見るのか、いささか訝しげに列車の車体を眺めている。隣にいる葡豊も同様だ。

 メンバー全員がきょとんとなっていると、列車の機関室から一つの人影が見えた。列車の車輪の辺りから溢れ出る大量の蒸気で顔が隠れていて誰なのかがよくわからない。すると、タイミングよく風が吹きその蒸気を吹き飛ばした。それにより、人影の正体が露わとなった。

 その人物は上はTシャツ、下は工場の作業服のような格好をしていて、太い首からは真っ白なタオルを、頭には“安全第一”と書かれたヘルメットを被っていた。所々ヘルメットから覗いている髪の毛は乱火に似たオレンジ色よりも少し薄めの色だ。

 男性はふと顔を上にあげヘルメットを取り外した。その瞬間、私は驚愕した。

 目の前にいたのは、あろうことか乱火によく似た、というよりも乱火の将来の姿の様な人物だったのだ。


「あ、あの・・・・・・あなたは」


「おぉー! これはまた陽気な雰囲気を出したお嬢ちゃんじゃないか!!」


 男性は太く逞しい腕を伸ばして私に握手を求めてきた。私は少し遠慮がちに握手に応える。

 握手を交わし終えた私は、もう一度男性に訊ねた。


「あ、あの・・・・・・あなたは誰なんですか?」


「ん? おお、俺か? 俺はな――」


「ぉ・・・・・親方、親方ッ!!」


 そう言って私の横を通って前に進み出たのは、乱火だった。親方――父親だろうか? 確かに似てはいるが・・・・・・。


「乱火、おめぇもいたのか。それよりも、その親方というのはいい加減やめたらどうだ?」


「俺はこれの方が呼び慣れてるんだ。親方と呼び続けさせてくれ!」


「まぁ、仕方ないな・・・・・・可愛い従弟の頼みだ!!」


「二人は従兄弟なんですか」


 ようやく分かった。――二人の関係が。しかしこれは驚きだ。従兄弟でもこんなにも顔が似るものなの? と私は思った。


「おうよ! 俺の名前は『炎耀燐(えんようりん) 妖燕(ようえん)』。こいつは、相棒の『|豪華の炎・急行列車《ヘルファイア=エクスプレス》』だ!!」


 そう言って男性――妖燕さんが紹介したのは、自分が乗ってきた列車だった。――ヘルファイア=エクスプレス・・・・・・。名前からして熱そうな感じが漂っている。確かに雰囲気的にも熱血的な性格でありそうな妖燕さんにはぴったりの相棒かもしれない。

 その時、私はある疑問を感じた。


「すいません。あの、このヘルファイア=エクスプレスって、どうやって手に入れたんですか?」


「おお、こいつか? これはフレムヴァルト帝国の俺の故郷(ふるさと)――コルタルン火山群の死の釜で手に入れたんだ。何でも、超合金で出来ているみたいでな? こいつがなかなか頑丈なんだぜ!!」


 私の質問に気前よく答えてくれた妖燕さんは、バンバンと列車の車体を平手で叩きながら高笑いする。


「ん? そういえば、なぜ乱火と一緒なんだ? それに、お前は?」


「あっ、紹介が遅れました。私は光陽斑希です。それで――」


 妖燕さんに言われてハッとなった私は、慌てて自分から順に自己紹介を済ませた。

 自己紹介が終わり会話も弾んできたところで、妖燕さんは単刀直入に言った。


「おめぇら、困ってるみてぇじゃねぇか!!」


 突然のその声に私は目を見開き言葉を失った。まさか、自分たちの状況をわかっているのか? そう考えるだけで私は妖燕さんが凄い人物なのではないかと思ってしまう。


「どうして分かったんですか? 私達が困っているって・・・・・・」


 ふと質問を投げかけると、妖燕さんは間髪いれずに答えた。


「おめぇらの顔を見れば分かる! そんな浮かない表情してたらフツーバレるに決まってんだろ!! まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ!! それに、久しぶりに乱火にも会えたしな!! うしっ、おめぇらを特別にヘルファイア=エクスプレスに乗っけてやんよ!!」


 気前の良い妖燕さんは、ニッと白い歯を見せてそう言った。私達は互いの顔を見て、きょとんとした顔になった。

 彪岩さんの場合は、使い魔として白虎のヴァロンがいる。まだ一度も見たことはないけれど。だから、それを使えば簡単に移動出来るのだけれど、一方で私達は使い魔などは全く持って使役していない。そのため、唯一の移動手段は自分の足しかなかったのだ。そこでの妖燕さんの“乗っけてやんよ”はまさに鶴の一声とも言える言葉だった。


「いいんですか?」


 皆が思っていることを代表して私がそう妖燕さんに訊ねる。


「もちろんだとも! 乱火の友達――いや、仲間なんだろ? ならば俺の仲間も同然だ!! 仲間が困っているのだから助けねば漢が廃る!! さぁ、乗れ!!」


 そう言って妖燕さんは私達の背中を押して半ば強引にヘルファイア=エクスプレスに乗車させた。


――△▼△――


 業火の炎・急行列車――ヘルファイア=エクスプレスに乗車した私達一行は、客車の中でこれから何処へ向かうかを決めていた。とりあえずエレゴグルドボト帝国の領地からは出たいとの雷落や光蘭からのお願いもあり、私は黄金の地図を見て目的地をウォータルト帝国に決めた。

 今現在この客車にいるのは、私と乱火と葡豊と癒宇さんと雷落と光蘭と鋼鉄と彪岩さんと砂唯の九人だ。無論、妖燕さんは列車の運転をしているわけなのだが、では砕狼はどこに行ったのか。妖燕さん曰く、砕狼は見た目からの体つきなどから相当見込みがあるということで、ボイラーに石炭を()べる役目を担うことになった。最初はえぇ~!? いやだな~、メンドくさいな~と言った表情をとっていた砕狼だが、今ではあまりそんなにも文句も言っていない様子だ。文句を言っているのならば今頃騒いで周囲に当たり散らすはずだからだ。


「目的地は決まったのか?」


 妖燕さんは、客車の座席でくつろいでいる私達にそう声をかけてきた。


「はい、一応ウォータルト帝国に行こうかと・・・・・・」


 その国名を聞いて、笑顔を浮かべて光蘭の頭をよしよしと撫でていた妖燕さんの手の動きが止まり、表情が一気に強ばってしまった。


――あれ。もしかして私・・・・・・何かいけないこと言っちゃったかしら?



 恐る恐る妖燕さんに声をかけると、浮かない顔をしたまま口を開いた。


「すまんが、ウォータルト帝国へは行けん」


「どうしてですか!?」


 意外――その一言に尽きた。なぜ、ウォータルト帝国へ行くことが出来ないのか理由がどうしても気になった私は、妖燕さんに理由を問いただす。すると俯き気味にこう答えた。


「俺の相棒――ヘルファイア=エクスプレスは線路の上しか走ることが出来ん! それは分かってるな?」


「はい・・・・・・」


 コクリと私は縦に頷く。


「ウォータルト帝国にはその線路が敷かれてない。だから、走ることが出来ねぇんだ!!」


「ちょっと待ってください! でも、ここら一帯には線路が敷かれてるじゃありませんか!!」


 少しムキになって私は強く言う。すると、やはりその質問が来たかと言って妖燕さんは説明を始めた。


「もともとここらに敷かれてる線路も最初はなかったんだ。そこに俺が線路を敷いたってことさ。しかも、この線路はちとばかし特殊な物で出来ててな・・・・・・。こいつの素材も、コルタルン火山群の死の釜で見つけたヘルファイア=エクスプレス同様、謎の特殊合金で出来てたんだよ!! だからこいつはなかなか手に入れることが出来ねぇ!! しかし、そうなれば線路の上でしか活動したくない俺には不都合だ。そこで俺は考えた。どうにかしてこの線路を作れねぇか――とな。案の定俺の考えはうまくいった。こうして俺は特殊合金の線路を大量に手に入れることが可能となった」


「じゃあそれを使って線路を敷けば・・・・・・」


「忘れたか? それぞれの国には主な属性などがある。そして、それぞれの国の気候なども大きく関連しているんだ、その国によってな・・・・・・。中でも俺はフレムヴァルトの人間で炎属性だ。そんな俺が水系属性の多くいるウォータルト帝国なんかに線路しけっか!! 下手すりゃ攻撃されっかもしんねぇんだぞ!? それに、俺だけじゃねぇ!! こいつだって水は天敵みてぇなものなんだ!! ゼッテーにウォータルト帝国だけはご勘弁願いてぇな・・・・・・」


 客室にそれぞれ設置されたテーブルにバンッ!! と両手を置き真剣な目で妖燕さんは頭をそのテーブルにこすりつけるようにして懇願してきた。年上が年下に対して土下座に似た行為を行う、これがどれほどまでに屈辱的なものであるかを私は知っている。自分だって年下に対して今妖燕さんが行っているようなことはしたくない。


「でも、そしたら私達は一体どうすればいいんですか?」


「わりぃが、ウォータルト帝国とフレムヴァルト帝国との国境で下ろさせてもらうぜ? それ以上先にはさすがの俺も行けねぇや」


 そう言って操縦室へ引き返す妖燕さん。そんな彼の背中は、どことなく悔しげに見えた。本当は妖燕さんも私達をウォータルト帝国へ連れて行きたい気持ちはあるのだ。しかし、どうしても天敵の属性が多くいる場所ということで凄んでしまう。すると、その妖燕さんの大きな手を、光蘭が小さく真っ白な手で引き止めた。


「うん? お、お嬢ちゃん・・・・・・何のつもりだい?」


「ねぇ、おじちゃんお願い! お願いだからあたし達をウォータルト帝国へつれていって? お姉ちゃんは伝説の戦士を探してるの! 早く集めないと、この世界が大変になっちゃうかもしれないんだよ?」


 金髪の髪の毛を振り乱し、必死に説得しようとする光蘭。これもサンダルコ街跡での恩返しなのかもしれない。

 そう思うと、よけいに私は光蘭のことを愛おしく可愛らしいと思ってしまった。まさに光蘭は私にとっての癒しの存在だ。どうも光蘭が自分の妹に見えて仕方がないのだ。

 すると、雷落も出てきて一緒に妖燕さんにお辞儀していた。


「私からもお願いします! 上司がまさかこんなことをやっているとは思わなくてずっとほったらかしにしてましたけど、もう我慢の限界です!! 一度フィグニルト博士にはっきり言う必要があると思うんです!! だから、私はそのためにも早く伝説の戦士を集めないといけないんです、お願いします妖燕さん!! 私達をウォータルト帝国へ連れて行ってください!!!」


 二人の懸命なお願いだった。二人とも深々と頭を下げて目の前の深刻な表情を浮かべた妖燕さんに頼み込んでいる。


「親方・・・・・・なぁ、俺からも頼むぜ。親方だってもっと広い大地を冒険してみたいと思うだろ? それに、天敵がなんだってんだ!! 俺は確かに火属性で少しばかり火力が弱いかもしれない。だが、親方は炎属性だ! 漢字で書いたら火が二つ――つまり火力二倍だ!! だったら、火力が少ししかない俺がこんなに頑張ってんだから、親方がもっとそれ以上に頑張らないと意味がないじゃないか!!」


 雷落と光蘭の二人の必死な姿を見て何かを思ったのか、乱火も必死に自分の従兄にお願いしていた。

 すると、今までずっと口を一文字に結んで沈黙し、顔をしかめっ面にしていた妖燕さんが口を開いた。


「・・・・・・・・・はぁー。ったく、おめぇらには適わねぇぜ。ふっ、美少女二人と可愛い従弟に頼まれて断れるわけねぇじゃねぇか」


 妖燕さんはゆっくりと、ただしはっきりとそう口にし、人差し指で鼻と口の間をこすりながら鼻をすすった・・・・・・。

というわけで、今回は乱火の従兄の妖燕が出ました。まぁ、喋り方――からは少しわかりにくいかもしれませんが、癒宇よりも年上の人が登場です。これで、斑希チームには今最年長が妖燕、その次が彪岩、癒宇と続くことになりました。斑希と鋼鉄がその次あたりですかね。ちなみに、妖燕は20代を過ぎてます。はい、だからおじさんでもそこまで違和感はないのです。

てなわけで次回はウォータルト帝国に――と思いましたが、ここで休憩がてらクロノスの方々を出します! 幹部さん全員出ます。

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