第十八話「能天気な幼馴染」・1
ここはサルパストナム王国の中で最も砂嵐が酷いと呼ばれている町――『コーパス』。とある有名な冒険家、『コーパス=ミスト』という人物が近場でオアシスを見つけ、そこに最も早く行ける場所としてこの町を作ったのだという。また、このサルパストナム王国には、他に三つオアシスがあり、『オルダンクの森』、『ソルダー砂漠』、『レイモール砂丘』という名前が付けられている。名前の由来はどれも冒険家の名前。
ちなみに、私達がさっきまでいた場所は、その一つでオルダンクの森である。
余談だが、乱火がお腹を膨らせるために用いた食材には、オルダンクの森にしか生えない『ミキルの木』で採れる『ジュクの実』が使用されている。
また、四つのオアシスにはそれぞれ効能があるらしいが、そこまではさすがの私も知らない。
というわけで、私達はコーパスの町の入口付近へとやってきた。
どうしてここに来たのか……。
それは少し前に遡る……。
《……ところで、どうして私の上に乗っかっていたんですか?》
《何ッ!? 兄貴、斑希に何やってんだよ!!》
《違う違う、これにはきちんとした理由があるのだ!!》
手を激しく振って弁解させるよう言う彪岩さん。話によればこうだ。
何でも彪岩さんはとある噂を耳にした。それが近頃サルパストナム王国内で巨大な白虎が暴れまわり、人々に多大な被害を及ぼしているというものだった。無論、国の人々は対策を立てたらしいのだが、それはどれもこれも無意味に終わったのだと言う。丁度その時、彪岩さんは巨大な白虎とはどんなものなのかと興味を示していたため、その獣を一目見てみようとこのサルパストナム王国を訪れたらしいのだ。
それにしても、興味本位でこんな場所までやってくるとは、彪岩さんは本当に危険な事件に首を突っ込むのが好きなタイプのようだ。私からしてみれば、御免こうむりたいくらいなのだけれど……。
そして、予定通りサルパストナム王国へとやってきた彪岩さんは、現国王――サフィスト=サンドラーに白虎と戦わせてもらうよう頼んだ。
王はあっさりと了承したが、それには裏があったのだとか……。何でも無事に白虎を倒し、おまけにその白虎を使い魔にまでしたらしいのだが、同時に国王にその実力を買われて側近――即ち、用心棒的な仕事をやらないかと持ちかけられたらしい。
私的には嬉しい事かとも思うけれど、彪岩さんは束縛されるのが嫌いらしいので、それは嫌だったようだ。自由な旅をしたいというのも理由にあったのかもしれない。
とまぁ前半はこんな感じ……。なんとなく理解は出来た。しかし、問題は後半からだった。
《王の衛兵を蹴散らして逃げ出そうとした瞬間、白衣を身に着けた少女が襲ってきたのだ!!》
彪岩さんは拳を強く握りしめてそう言った。まるで誰かに言い聞かせるように語る彪岩さんに、私もすっかり聞き入ってしまっていた。すると、“白衣”というキーワードに同じく白衣を身に纏う雷落が反応した。
《その少女ってどういった特徴がありますか?》
雷落の質問に踵を返して振り返り、彪岩さんは口を開いて答えた。
《そうだな。特徴としてはお前と同様の白衣を着ていて、バッジの様な物も付けていた。そう、今お前が着けているのと同じ物だ!!》
指の先を見てみると、なるほど確かに雷落の発育途中の胸が白衣を押し上げ、その押し上げられた白衣の辺りにキラリと光る黄金色のバッジが輝きを放ちながら着けられていた。
《……他には? その……髪の毛とか!》
《う~ん、おーそうだ!! 確か蜜柑色の髪の毛で檸檬色の瞳だ!!》
《みかん……れもん……はっ! もしかしたら、それってクロノスの幹部でJACKの一人――ジェシカ博士じゃありませんか?》
《お~、確かそんな名前だ!!》
合点と片方の手をグーにして手のひらの上で叩く彪岩さん。
――クロノスの幹部? JACKの一人、ジェシカ? 誰それ? 私にはついていけない話だわ。
などと話しについていけない自分を戒める反面、そんな自分に嘆息していた。すると、私や他のメンバーが困惑している表情を浮かべているのに気付いたのか、雷落がコホンと咳払いをして説明を始めた。
《とりあえず、私が知っているだけでもクロノスについて教えておきますね!》
側に落ちていた木の枝を鉛筆代わりに、地面にカキカキカキ……と図を書きはじめた。
《じゃあまずはクロノスの基本的なことから学んでもらいます。クロノスにはフィグニルト博士の地位と、十三人の幹部が成ることの出来る地位と、私の様な者が成れる地位の三つがあります。今回彪岩さんが出逢ったのが、その十三人の幹部の内の一人でJACKの一人――ジェシカ博士です》
《そのJACKとかいうのはどういう意味なの?》
私は疑問に思ったことを即座に口にする。そんな私の疑問にも雷落は普通に答えた。
《幹部には“WORLD”、“GAUN”、“JACK”の三チームが存在するんですけど、今回はその内の一つでJACKのメンバーだったということですね。このチームには、確か他に『アリス博士』、『コルベッド博士』、『コナン博士』の三人がいるはずです。それぞれの頭文字がチーム名になってるんです》
《全員女性なの?》
《確か……はい、そうです! ……でも、それがどうかしたんですか?》
《いえ、何でもないわ》
何かが脳裏によぎったのだが、それが上手く思い出せなかったので私は何でもないと笑顔で雷落に返した。
《それで話を続けると、階級がそれぞれにあって、私はその中でも一番下の下っ端ってことになります》
《それじゃあ、鋼鉄の過去の事を知らないのも無理ないわよね。だって、そのことは幹部の人達がやったことなんでしょう?》
《は、はい……。多分そう思うんですけど》
少々浮かない表情を浮かべ、弱気な声で呟く雷落。私はなんて声をかけてやればいいのか上手くは分からなかったが、その肩を抱いてこう言った。
《雷落は何も悪くないわ。すべてはそのクロノスのボスがいけないのよ!》
と精一杯雷落を励ますような言葉をかけてあげた。すると、それを聴いて少しは気持ちが楽になったのか、ぱぁ~っと表情を明るくして雷落が「そうですね」と応えた。
それから三十分後……。ようやくクロノスについて概ねのことが分かった。まぁ、中には理解できていないメンバーもいるが。それは追々理解してもらうとする。
《それで話を戻しますけど……彪岩さんはその後どうしたんですか?》
腕組みをして地面に胡坐をかいて座っている彪岩さんに私は質問する。彪岩さんは間髪入れずに説明を始めた。
《まぁ、その後は大体想像出来る通りだ!》
《いや、想像出来ないから訊いているんですけど……》
と、私は半眼で呟くが、彪岩さん当人は笑って誤魔化す。しかし、さすがに私がふくれっ面になるとしょうがないと言った様子で語り出した。
《初めは使い魔にしたヴァロンで逃げようとも考えたのだが、なにぶん図体がデカいからその分リスクも大きくてな……。足で逃げていたのだ。だが、オルダンクの森に入ったはいいが、外に出られなくなってしまってな……。それで途方に暮れていると、どこからか美味しい匂いが漂ってきたのだ! 小腹も空いていたおれは、その匂いに思わず無我夢中で駆けた。その結果、途中の木の根で足を引っ掛け飛び出した先に寝ているお前が居て、ぶつかってしまい気絶したと……まぁそういうことだ!!》
《なるほど、それであの体勢に……。でも、あまりにも都合が良すぎじゃありませんか?》
《ん? そうか? まぁ、細かいことは気にするな!! こうして従弟に逢えたのも何かの縁だ! 旅か何かをしているのか?》
胡坐をかいた状態でその足に両手を置き、グイッと身を乗り出してくる彪岩さん。どうやら、相当“旅”という響きが気に入っているらしい。
私は砕狼や鋼鉄と彪岩さんが従兄弟の関係にあることを思い出し、ふと黄金の地図を手にする。すると、それを視界に捉えた彪岩さんがさらに顔を近づけて来て言った。
《これは懐かしい、黄金の地図ではないかッ!!》
その言葉に皆が驚愕した。
《ど、どうして彪岩さんが知ってるんですか? もしかして、この地図と何か関係が……?》
《いや、特に関係はないぞ? むしろ、関係があるのはお前の方だ斑希!!》
《どういう意味ですか?》
本当にその言葉が理解できなかった私は、頭上に疑問符を浮かべ彪岩さんに訊いた。すると、彼からは驚きの答えが返ってきた。
《何せ、この黄金の地図を製作したのは、太陽の神と月の神だからなぁー!!》
驚愕だった。目を見開き口をあんぐりと開けて私は続ける。
《でも、何の為にこの地図を?》
《目的は無論、伝説の戦士を集めるためだ!! 居場所がどこなのかを全く知らない彼らにとって、唯一の手がかりが黄金の地図だ!! まぁ、それ以外にもたくさん探すための手立てはあるそうだが、それは詳しいことは知らん。とまぁ、このぐらいだな……》
《そうですか……ありがとうございます。でも、この地図をお母さんが作ったなんて驚き――》
刹那――私は黄金の地図の中に記された点滅の点の位置を確認して目を見開いた。その場所には、私達以外の点滅する点が――そう、豪地彪岩さんも私の想像していた通り、伝説の戦士の一人だったのだ。
《ひ……彪岩さん》
《ん? どうしたのだ?》
《ふーっ、落ち着いて訊いてください》
真剣な目で私は彪岩さんに言う。相手もなかなか真剣な顔つきになっている。そして、深呼吸を済ませた私は相手につられて真剣な顔つきになると、同時に口を開いた。
《彪岩さんは、私達同様伝説の戦士です!》
《……》
――あれ、聞こえてなかったのかしら?
《彪岩さんは、私達同様伝説の戦士です!》
念のためにもう一度同じセリフを口にしてみるが、やはり返事が返ってこない。そう思っていると、ようやく彪岩さんが口を開いて話し始めた。
《……ふ、がははははは!! そうかそうか、おれがあの伝説の戦士の一人とはな……! いやしかし、驚きだな。まぁ、フィーレ達が作った代物だ。嘘をついているわけではなさそうだ》
そう言って彪岩さんはもう一度地面に座ると、うんうんと頷いてしばらく考え込み「よし決めた!」とその場に立ち上がった。本当にいちいちリアクションが激しい人だ。まぁ、明るいことは悪い事じゃないのだけれど……。
《おれもお前達の仲間になろう!! まぁ、伝説の戦士を探す旅というのも悪くはない物だ!!それに、あちこちを回れそうだしな、ガハハハハハ!!!》
腰に手を置き、高らかに胸を反らして大声で笑う彪岩さん。こんなに豪快に笑う人を見るのは生まれてからこの人が初めてかもしれない。
そんなことを考えていたその時である。ふと彪岩さんが気になる事を呟いていた。
《何でも、最近“有属性者狩り”が流行っていて物騒らしいからな! ここから先は伝説の戦士を探すのも一苦労になるかもしれん!!》
《有属性者狩り? それはわたくし達みたいな特別な力を持った人のことでございますか?》
《おうよ! 恐らくあのなんつったかな……あの蜜柑色の――》
《ジェシカ博士ですか?》
《そう、それそれ!!》
物の様に扱われるジェシカと呼ばれる幹部の一人。何だか哀れにも感じる。
《そいつと同じ服装を着た連中が、コーパスの町辺りをウロチョロしていてな……》
彪岩さんが状況を説明していたその時、突然砕狼がある言葉に反応して立ち上がった。
《こ、コーパスの町だとッ!?》
《どうかしたの?》
《あそこには馴染みがいるんだ!!》
《幼馴染のこと?》
私は首を傾げてそう砕狼に訊いた。
《ああ。あいつはいつも能天気で抜けてる部分があっからなぁ~。もしかすっと、有属性者狩りに襲われてるかもしんねぇ!! 助けてやんねぇと!!》
普段からはとても想像できない砕狼の言葉の連続に、私は感動すら覚えた。
《め、珍しい……。砕狼が他人の心配をするなんて……。しかも、助けるって言うなんて……。どうしたの? いつもの砕狼らしくないわよ?》
クスッと口元に手を運んで小さく笑いながら私は言った。
《とにかく、俺は助けに行くぜッ!!》
《いいわ。困ってる時はお互い様……。その幼馴染を助けてあげましょう!》
そう言って私達はコーパスの町に出掛けたのである。
というわけで、幼馴染の登場回でしたが、ほぼ彪岩が斑希の上に乗っかっていたまでの経緯とコーパスの町にまでやってくる経緯をやりました。過去はここまでなので、二部からは現在の時間軸へと戻ります。




