第十六話「潜入! ゴルガルゴストス城!!」・3
――▽▲▽――
あれからさらに数時間が過ぎ、私達はようやく最上階へと足を踏み込んだ。
扉を開き中に入ると、そこは夢鏡城に似た感じで玉座の間らしき場所があり、そこを奥へと進んでいくと、玉座――ではなく王冠を被った二代目国王と思われる人物が車椅子に座ってい私達を凝視していた。しかし、見るからにその国王は殆ど栄養を取っていないとばかりに体はやせ細り肉もついておらず、骨と皮と言った状態だった。
「だ、大丈夫ですか?」
「無礼者!! 俺様に触るなッ!!」
国王は涸れた声で私に怒鳴り声をあげた。私は足を止めてその場に立ち止まると、眉を吊り下げて訊いた。
「柄の事お窺いしますが、あなたがこのゴルガルゴストス城の城主ですか?」
「いかにも……。俺様こそがこの城の城主にして二代目国王『ツェイク=ギルスキュトス』だ。貴様らは俺様の城へ一体何をしにきた?」
「ちょっと待って……あなたの他に衛兵達はいないんですか?」
「ふんっ……愚問だな。彼らは連れて行かれた」
鼻で笑い、二代目王は言った。その言葉に私はすかさず続ける。
「連れて行かれたとは、どういうことですか?」
「俺様の部下共は全員クロノスのやつらに連れて行かれたのだ!! ……ゴホッ!」
大声をあげてから一つ咳をした王は、私達をもう一度強く睨み付けた。その眼には明らかに近寄るなという感じの意志がこめられた眼差しだったため、私達は一歩も前に出る事が出来なかった。
「それはいつのことですか?」
「もう、かれこれ数か月前のことだ……」
「そうですか……。では、そのお体は栄養失調ということですか?」
「いや、それだけではない。俺様はもう歩ける状態ではないのだ。おまけにこの車椅子も油を差さねば動ける状態ではない。ふっ、哀れな物だな……。どうせこうなることは解っていた。民を父親から救うために、良心を殺してまで自分の父親を殺し王になったのは良かったが、そこから先がダメだった。政治は上手く行かず、どちらにせよ民は苦しむだけ……。そんな最中、俺様は一つの病気になった。それが『脆弱筋症』という不治の病だった……」
脆弱筋症――。それは分かりやすく言うと、主に体の筋肉が脆くなり切れやすくなる病気のことだ。
つまり、このツェイク――なんとかさんは、筋肉に関する病気にかかって車椅子に乗るハメになったらしい……。
「これも天からの罰かもしれんな……」
「どういう意味ですか?」
「俺様は父親を殺した。母親を早く亡くした俺様に誰よりも優しく接してくれたのは父だ。その父を殺した俺様は、死ぬも同然の罪を犯しているのだ。ふっ、おまけにこの病気は死ぬことには何ら関わりがないためによけい面倒だ。どうせならば心臓に関する病気にかかれば容易く死ねたというものを……」
暗くネガティブ思考になってブツブツと語り出す王に、私は言った。
「そんなのダメです!」
「何?」
「どうせならば、父親の分まで生きるというのがせめてもの罪滅ぼしです!! あなたはその責任をも果たさずに放棄して死ぬつもりなんですか?」
どうしてこうまでも私がムキになるのかは分からなかったが、ここで言っておかなければいけない……そんな気がした。すると、またしても王は鼻で笑って言った。
「言いたいことはそれだけか?」
「えっ?」
「去れッ!! 異国の者に俺様の人生をとやかく言われる筋合いはない!! さもなければ、ここで貴様らを殺すぞ!!」
どうみても動ける状態ではないはずなのに、そのようなことを言う王に私は何かを感じた。しかし、それが何かは分からない。とりあえず、潜入には成功したということで私は引き返そうと踵を返した。
「俺の用事は済んでねぇ!! やい二代目国王!! よくも民をクロノスのヤロー共に売り飛ばしやがったな!?」
「何の話だ? 俺様はクロノスの者共に民を売りとばした覚えはないぞ?」
「ウソつけ!! じゃあ何で!! 何で、オレの両親はつれていかれたんだ!!」
「俺様とてやつらのやり方ははっきりいって気に食わん。だが、この体だ。逆らうことは出来ん……。だから衛兵共も全てやつらに連れて行かれた。しかし、まさか民までもが連れていかれていようとは……。まぁいい、今更何と言われようが俺様はもう長くはない……。栄養を取らず数ヶ月経っている。もう手を動かすことも出来ん。せめて動かせるのは口くらいのものだ。だが、この口角筋がいつまで持つやら……」
もう絶望しきったような表情を浮かべて王は言った。
「そんなにも俺様に恨みがあるのならば、ここで俺様を殺すがいい……。どうした?」
「くっ!!」
鋼鉄は一瞬動こうとしたが、どうにもやりきれず、踏みとどまり床に拳を打ち付けた。
「くそっ!! 何でだ、何で……!!」
悔し涙を流す鋼鉄に王が一言言った。
「貴様の親は生きているのだろ? ならば親を助ければいいだけのこと……」
「簡単に言うな!!」
顔を伏せたまま鋼鉄は叫んだ。
「確かに簡単ではないかもしれん。だが、諦めることなく目標を持って行けば、あるいは突破口が見つかるやもしれん。貴様……名は何という?」
「……くっ、鋼鉄……金井鋼鉄だ」
「鋼鉄よ……、目標を持て。そして強くなって俺様の代わりに民を救い、クロノスを滅ぼせ!!」
そう言って王は口を閉じると目を瞑った。私は何度も王に声をかけたが、聞こえてはいないようだった。それ以上は無駄だと判断した私達は、何だか心の中にモヤがかかったようなギクシャクした気持ちでゴルガルゴストス城を後にした……。
――▽▲▽――
【クックック、どうやらあの者達は帰ったようだな】
「ん? 誰だ貴様は……」
突然どこからともなく聞こえてきた声にツェイクが反応する。すると、不気味な笑い声をあげながら姿を現したのは、白衣を身にまといポケットに手をつっこんだフィグニルト博士だった。
「俺か? 俺はレイヴォル=カオス=フィグニルトだ。お前に用があって来たんだ……」
「俺様に用……だと?」
苦しそうな表情を浮かべながらツェイクは顔を上にあげた。すると、目の前に佇む青年の姿に目を見開いて驚きの声をあげた。
「どうした? 俺の顔に何かついているのか?」
冗談半分にフィグニルト博士はそんなことを口にしてみる。
「貴様の後ろにいる者達……それは貴様の連れか?」
「ああ?」
何を言っているんだこいつは、と言った顔をしてフィグニルト博士が後ろを振り返ると、そこには鎧を身にまとった何人もの騎士が剣を構えて立っていた。
「てめぇら何のつもりだ? 俺は護衛なんてつけた覚えはねぇぞ?」
少し荒い口調になったフィグニルト博士が顎を突き出して眉間にしわを寄せる。
「申し訳ありませんフィグニルト博士。しかし、オルガルト様からのご命令ですので」
騎士の一人がそう言って敬礼する。
「チッ、あのクソジジイが!! ……まぁいい。とにかく俺の邪魔はすんなよ? さてと、話が逸れちまった。くく、ゴルガルゴストス王国二代目国王ツェイク=ギルスキュトス……。お前に一つ提案だ。俺達に協力しないか?」
「うっ……く、き……協力だと? どういう意味だ! 俺様は誰にもつきはせん!! 俺様は一人で生き、一人で死ぬ!! これ以上俺様の邪魔をするな!!」
「くく……分かっていないな。お前の力を使えば伝説の戦士をあの世へ葬り去ることも出来るというのに……」
額に手を当てやれやれと言った表情を取るフィグニルト博士に、ピクリと青筋を立てるツェイク国王。
「伝説の戦士だと? あの英雄をなぜ俺様が殺さなければならんのだ!」
「この世界に破滅を呼ぶとも言える存在だからな……」
「破滅を呼ぶ、だと? どういう意味だ?」
「くく……気になるか? ならば教えてやろう! ハルムルクヘヴン帝国と夢鏡王国の仲介役となった神王一族……。その帝王こそが神崎王都という男だが、こいつの持っていた七つ……いや、とある一つの黄金の鎧が各国に封印された」
「封印?」
「くく……王ならば知っているだろう? 七つの秘宝くらい……」
「――ッ?!」
フィグニルト博士が口の端を吊り上げて言うと、ツェイクは目を見開き何か心当たりがあるかのような顔をした。
「なるほど……貴様はアレが目的なのか」
「まぁ、俺が必要なのではなくクソジジイが必要だというわけなんだがな……」
「さしずめ鎧の帝王というわけか……。よかろう、持って行くがいい。だが、俺様は貴様らに加担するつもりは毛頭ない! さっさと鎧を持って立ち去るがいい!!」
動かぬ体を無理やり動かそうとするが、悲しくも動くのは顔の筋肉のみだった。それを既に知っているのか、ニヤッと不敵な笑みを浮かべたフィグニルト博士は、突然片方の手をあげると、パチン! と指を鳴らした。同時に謎の浮遊物体がツェイク国王の周囲をぐるりと取り囲んだ。
「ぐッ!? な、何のつもりだ貴様!!」
「くく……悪いな二代目国王……。クソジジイの目的は秘宝の一つだが、俺の欲しい物は“お前”……なんだよ」
そう言ってフィグニルト博士はもう一度指を鳴らした。
刹那――浮遊物体が電撃を放ち、電撃の牢を作り出すとツェイク国王に向けて電撃を放った。
「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
凄まじい電撃とツェイク国王の叫び声が重なり、ゴルガルゴストス城に響き渡った。
数分後、ようやく電撃攻撃が終わり、ツェイク国王の体からバチバチと電気が走った。
「うっ……くっ!」
体が痺れているせいか、上手く言葉を発する事の出来ないツェイクは、唇を噛み締めフィグニルト博士を睨み付けた。
「くく……そうだ、その眼だ! 俺に反抗するその眼……それが見たかったんだ!! さぁ、俺の仲間になるがいい!!」
片腕を頭上に掲げると同時にツェイク国王の体は車椅子ごと何処かへと消えた。
「なっ!! フィグニルト様!! これでは秘宝の在り処が――」
「案ずるな、策は既に講じてある……」
計画通りとばかりにニヤッと笑みを見せるフィグニルト博士を鎧をまとった部下が訝しげに見ていると、空間が歪み白衣に身を包んだ一人の少女が姿を現した。両手で何かを抱えている。よく見るとそれは、彼らが集めていた七つの秘宝の一つ『黄金の上半甲冑』だった。
「ほぅ、見つけたか……」
「は、はい……こちらが七つの秘宝の一つです」
よほどあちこちを探し回ったのか、息を切らしながらその少女は秘宝をフィグニルト博士に手渡そうとした。
「くく……」
「ひゃあっ!!」
刹那――聞こえてきたのはその少女の悲鳴だった。何事かと思えばフィグニルト博士が秘宝を受け取るフリをして十代後半と言ったぐらいの年齢の少女の胸を掴んでいた。
「ち、ちょっと、何するんですか!!」
「ほぅ? 俺に刃向かうのか? ……ただの実験動物風情が」
「そ、それは……」
上からの物言いで少女を見下すフィグニルト博士に、少女は言葉を失った。
「まぁいい。今はそれどころじゃないんだ。新たに楽しめる実験動物を手に入れた。今回は少しばかり楽しめそうだ。他の各国の王の情報は?」
「着々と揃いつつあります」
少女は胸を庇うようにしながら報告した。それを聴いたフィグニルト博士は、鎧を着た部下に秘宝の一つを投げ渡した。
「うわっとと!! 危ないじゃありませんか!!」
「ああ? ……てめぇも俺に歯向かうのか?」
「い、いえ。……そういうわけでは――」
「ふんっ、実験動物風情が俺に楯突くんじゃねぇ……!」
白衣のポケットに手を突っ込んだフィグニルト博士は、そう言って一足早くその場を後にした……。
というわけでお久しぶりのツェイク=ギルスキュトスさん登場です。Ⅱとは違ってこの時はまだ優しい人だったんですね。まぁ、父親殺しちゃいましたが、それにも理由があったんです。そのせいで、思わず鋼鉄も殺すに殺せなくなると。さらに新事実を知って雷落はクロノスに絶望。
さらに、ここであの有名人レイヴォル博士登場です。名前出され過ぎて我慢できなかったんでしょうね。呼んだー?みたいな感じで登場してます。
そして、もう既にボロボロなのにツェイク王は連れ去られます。お前が欲しいってなんか怪しい台詞なんですけど。
さらにレイヴォル博士も変態でした。いきなり空間歪ませて現れた少女の胸を揉むってとんだ変態でしょ。
ちなみに、ここで七つの秘宝の二つ目ゲットです。残り五つ。
さて次回十七話は小七カ国の一つであるサルパストナム王国へ向かいます。Ⅱに出てたあのじいさんも登場です。また、新キャラも登場です!




