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第十七話「白虎と戦う赤獅子」・1

 ここはフレムヴァルト王国に含まれる小国――『サルパストナム王国』。周囲には砂漠が広がり、一日中砂嵐が吹き荒れる。住民のほとんどが髪の毛に砂がつかないようにターバン的な物を巻き、服もローブに似た物を着用して街を出歩いている。貿易はそこまで栄えてはいないものの、治安は至って安定していた。

 しかし、近頃この国では小さな事件が多発している。それは『白虎』と呼ばれる巨大な猛獣に襲われるというものだ。名前の通り白い虎なのだが、これがまたとてつもなく凶暴で、住民を幾度も襲撃しているという。死亡者も多い。そのため、その事件の話を聴いたサルパストナム王国の国王『サフィスト=サンドラー』が誰かに白虎を倒してもらおうと勇者を募った。

 そして、今そのサルパストナム城に一人の勇者が参上していた。と言っても、容姿は勇者というよりかは武闘家に近い。髪の毛は凄く長く、風来坊な雰囲気が漂っている。手にはグローブを着け、ボクシングなんかを(たしな)んでいそうだった。そのせいもあってか、腕の筋肉もほどよくついている。

 その勇者は鋭い――まるで獣の様な眼差しで国王を凝視した。


「ほぅ……なかなかいい眼をしておるではないか……。ぬしが勇者か?」


「勇者……そんな大層なものではないが、白虎と戦えると聞いてな……。一度でいいからそんな猛獣と相対してみたかったのだ!!」


「ほっほっほ……なかなか見込みのあるやつじゃ! よかろう、ぬしを勇者と認め、白虎と戦う事を許可しようぞ!」


 サンドラー王は顎に蓄えたひげをいじりながら愉快そうに笑った。


「だが、一つ条件がある!!」


 男が手を前に突出し一言物申す。


「何じゃ、言うてみぃ……」


「その白虎を倒した暁には、おれにその白虎をもらえないだろうか?」


 その言葉に周りは騒然となった。ペットにするような感覚で言うこの男に誰もが驚愕を露わにしていた。

 愕然とした空気にさらに男は続ける。


「おれは動物が大が付くほど好きでな!! 特に獅子や虎などと言った凶暴な動物は大歓迎なのだ!!」


「ますます面白い男じゃ。そう言えばまだぬしの名前を訊いてなかったのぅ……」


「おれか? おれの名前は『豪地(ごうち) 彪岩(ひょうが)』だ!!」


 男の言葉に衛兵の一人がえっ、と声をあげた。


「どうしたのじゃ?」


 首を傾げ衛兵に訊くサンドラー王に、衛兵の一人はかしこまって答えた。


「はっ! この豪地彪岩という男は、噂に聞く“眠れる赤き獅子”かと思われます」


「眠れる赤き獅子じゃと?」


「はい! 噂によればとてつもない力と魔力を兼ね備えており、その力は壮大! 拳を振るえば大地が振るえるとまで言われております! 襲い掛かる敵を難なく蹴散らすその姿は、まさに獅子のようだと……」


「いやぁ~、噂の広がりというものは恐ろしいものだな、がははは!!」


 彪岩と呼ばれる男は照れくさそうに頭をかきながら豪快に笑った。確かに彼からはどことなく触れるだけでも危険そうなオーラが漂っていた。


「なるほどのぅ、しかし……それほどの男がいかようにしてこのような場所に来たのじゃ?」


「なーに、少しばかり立ち寄っただけのことだ!! その道中で国の者から話を聴いてな、ここへ来た次第なのだ!!」


 男は腕を組み、うんうんと頷き言った。


「よし、ではさっそくぬしに白虎と戦ってもらうとしようかのぅ!」


「はっ!! 急いで準備に取り掛かります!!」


 衛兵が敬礼し、他の衛兵を集めてその場を後にした。


――▽▲▽――


 時刻は昼過ぎ……。サルパストナム王国の人達は、とある広場に人だかりを作ってガヤガヤと騒いでいた。


「おい聴いたか? 何でもこれからあの白虎と勇者が戦うらしいぞ?」


「うそ、ホントかい? そりゃあまた威勢のあるやつが来たもんだ!」


「何でも、噂によれば相当な実力の持ち主なんだとか……」


「そりゃあ楽しみだ!」


 人々が会話をし、ますます盛り上がる広場にサンドラー王が衛兵を引き連れて姿を現した。


「皆の者、これから余興を始めるぞい! 皆の者を苦しめてきたあの忌まわしき白虎を、勇者殿に倒してもらおうではないか!!」


『おぉおおおおおっ!!!』


 サンドラー王の言葉に住民がドワッと歓声をあげた。

広場は今や会場と化して賑わっている。


「エサは用意したかのぅ?」


「はっ! 指示通りに餌の生肉をたんまりと……」


「うむ、これで準備は整ったわい! 後は白虎がこの場に現れるのを待つばかりじゃ……」


 会場に緊張が走り、その緊張が賑わっていた観客を一気に静まり返らせる。すると、ドスドスと大きな足音を立たせながら姿を現したのは、家一個分と大きさが大して変わらない物凄く大きい巨大な白い虎だった。


「ウガァアアアアアアアアアア!!!」


 大きく口を開けて住民を震え上がらせるような咆哮をあげる白虎に、サンドラー王がすかさず生肉を与えるよう指示を出す。

 指示を聴いた衛兵の一人は、すぐさま生肉をロープで縛り、ロープ投げの様にして住民を誰から食おうか鋭い赤い双眸でキョロキョロと見渡す白虎の眼前に投下する。それを視界に捉えた白虎は、ドタドタと荒い音を立たせながら地響きを鳴らし生肉に食いかかった。よほど腹が減っていたのか、貪り食うように生肉が噛み千切られていく。もしも自分があの生肉の立場だったらと思うだけで身の毛がよだつ観衆達……。

 サンドラー王は生肉に気を取られている今がチャンスとばかりに勇者――即ち彪岩を呼んだ。

その声に待ってましたとばかりに彪岩が姿を現す。同時に住民の歓声がドッと沸いた。


「やーやー皆の衆! ありがとう!! ちょっとこれからちっとばかし荒れるかもしれないから下がっていてくれ!!」


 歓声に感謝するように手を大きく振り、笑顔で彪岩が白虎の前に仁王立ちする。

 白虎は生肉を平らげ、標的を目の前の彪岩一人に絞った。


「ガルルルル……」


 唸り声をあげて今にも襲い掛かりそうな勢いを見せる白虎だが、それでもなお彪岩はその場から微動だにしない。


「本当に大丈夫なのでしょうか?」


 心配そうな顔で衛兵の一人が小声でサンドラー王の耳元で囁く。


「心配するでない! ぬしも見たであろう? あの凄まじい闘気……。あれは本物じゃ!あやつならばあの白虎に勝てるじゃろう!」


 二人がひそひそ話していると、彪岩があっ! と、何かを思い出したかのように慌てて荷物を漁りだした。


「ど、どうしたのじゃ彪岩とやら? 白虎が今にも襲い掛かろうとしておるというのに……」


 サンドラー王の心配そうな声に、彪岩はすまんすまんと言いながら何かを取り出した。それはよく見ると、ゴングだった。


「はて、そのような物何に使うのじゃ?」


「いや~、おれはこいつがないと試合は気合が入らんのだ! おい、そこのお前!!」


「え、俺?」


 衛兵の一人が自分を指さしてきょとんとした顔になる。


「おう! ちょっとこのゴングを鳴らしてくれんか? その方が俄然気合が入るという物だ!!」


「は、はあ……」


 困惑した様子の衛兵だったが、王にやってやれと促されたので渋々ゴングを力強く打ち鳴らした。

カンッ!! と試合開始を告げるゴングが鳴る。


「うぉおおおおおおおおおおッ!! 燃えてきたぁあああああああッ!!!」


彪岩が両手で握り拳を作って背中を反らし、白虎に対抗するかのように声を張り上げて叫んだ。まるで咆哮のように……。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「うらぁああああああああああああああッ!!!」


 互いに駆け出し、先制攻撃を与えたのは彪岩の方だった。力強い一撃が白虎の腹の辺りに決まる。しかし、少し蹲っただけでまた動き出す白虎。それを見たサンドラー王始め観客は嘆息したが、当人の彪岩は完全に楽しんでいる様子で、すかさず第二撃を放とうとする。

 刹那――ビュシッ!! と鮮血が飛び散った。白虎が彪岩の第二撃が決まる前に攻撃してきたのだ。相手は巨体の上に腕も大きくリーチがある。そのため向こうの攻撃が先に決まったのだ。鮮血の正体は白虎が持ち前の鋭い鋭利な五本の爪で彪岩の顔を引っかいたものだった。


「ペッ! へへっ、なかなかやるではないか! ますます燃えて来たぞ!!」


 口に溜まった血を地面に吐き捨てた彪岩は、手の甲で口元を拭い取るとニッと口の端を吊り上げた。

 それからも戦いは続き、戦闘開始から一時間が経とうとしたその時である。


ドガッ!!


 鈍い音が会場に響き渡り、次いでズズン! という大きな物体が倒れる音が鳴り響いた。見ればそこには、片方の拳をグッと天を仰ぐかのように突き上げて勝利のガッツポーズをキメる彪岩の姿があった。

 そう、彪岩があの巨大な白虎に勝ったのだ。見事勝利を収めた彪岩は、一瞬シーンと静まり返った会場からドッと歓喜の声をあげた観客から詰め寄られた。


「おーおー押すな押すな! 握手ならちゃんと順番を守ってだな……」


 彪岩はやれやれ参ったなこりゃ、と言った表情で観客に対応していた。その様子を見る人物が一人――サルパストナム王国の国王であるサンドラーだ。


「陛下。あの男、やはり成し遂げました」


「うむ、見ればわかるわい! 例の話の準備は出来ておろうな?」


「はっ、仰せの通りに……」


 衛兵の一人が敬礼をして王に言う。それを聴いたサンドラー王はうむ、と頷くと今一度彪岩を一瞥した。

 彪岩は倒れた白虎の近くにやってくると、白虎の顔の前で屈み話しかけた。


「よぅ、白虎……だっけか? どうだ? おれの使い魔になるつもりはないか?」


 その彪岩の言葉に観客が騒然となった。

 白虎はガルル……、と低いうなり声をあげて彪岩を威嚇し続けている。

 しかし、彪岩としばらく視線を交わしていると、牙を見せて完全に威嚇モードだった白虎が大人しくなり、少しばかり表情を和らげた。それを了承の合図だと認識した彪岩は、契約の証明書を懐から(おもむろ)に取り出した。


「ここにサインをくれ! そうすればお前はおれの使い魔――即ち仲間だ!!」


 その“仲間”という言葉に白虎はピクッと表情をわずかながら変化させ、地面に置かれた紙に爪で何かのマークを書いた。すると、それが眩い光を放って輝きだし、光が収まると同時に彪岩の左手首にはブレスレットが、白虎の首には首輪がそれぞれ出現した。


「うぉおおおおお!! これが噂の契約の腕輪かー!! うむ、実にカッコいいではないか!!」


 歓声をあげる彪岩に白虎がすかさず口を開く。


【おいお前! まさか、その腕輪欲しさにわしと契約したわけではなかろうな?】


「当たり前だ! おれはお前の強さに惚れた。元々おれはペットが好きでな、特に大型の動物を飼いたいと思っていたのだ!!」


【わしは愛犬か何かかッ!!】


 白虎はガルルルと彪岩に牙を向ける。


「よせよせ、落ち着くのだ! おっ、そういえばまだお前に名前をつけてなかったな。う~んそうだな……。おっ、『ヴァロン』というのはどうだ?」


【むっ? なるほどな……それはなかなか良い名だ。よかろう、その名前気に入ったぞ!では、今日からわしはヴァロンだ!!】


 そう言って巨大白虎――ヴァロンは天を仰ぎみて大きな咆哮を一つあげた。

 そして事態が収拾したと思いきや、突然周囲にいた観客が彪岩に詰め寄った。


「おぉ? ど、どうしたのだ皆!? な、何だサインが欲しいのか? しょうがないなー、よし一人ずつ前に出るのだ!!」


 気前の良い彪岩は、拒むことなくサインを書いてあげた。


 一方で、タイミングを見計らったサンドラー王はそろそろ頃合いかとばかりに観客の人混みを衛兵にかきわけさせ強引に道を作ると、その道を通って彪岩の前に進み出た。


「ん? どうしたのだ? お前もおれのサインが欲しいのか?」


「そうではないわい!! わしはぬしに話があって来たのじゃ!!」


 疑問符を頭に浮かべ首を傾げる彪岩に、コホンと一つ咳払いをしたサンドラー王は話を始めた。


「どうじゃ? 白虎を倒したぬしじゃ……。その実力は重々理解したつもりじゃ。代金はきちんと払う、わしの側近にならんか?」


「側近だと?」


「そうじゃ! ぬしの力があればわしは何があっても平気じゃ。それだけではない、わしの世継ぎもおぬしがおれば安心というもの……。そうなれば、この国――サルパストナム王国は安泰じゃ!! どうじゃ、悪い話じゃないじゃろう?」


 サンドラー王の提案に彪岩はう~んと唸り声をあげたが、しばらくして顔をあげるときっぱりと言った。


「悪いなサンドラー王よ、おれはその話には乗れん! つまり、断らせてもらう!!」


「な、なぜじゃ? 金はたんまりと払うのじゃぞ?」


「おれは金になど興味はない! おれが望むのは自由と旅、そしてスリル満点のイベントだ!!」


 快晴の青空に向かってうぉおおおお! と唸り声をあげる彪岩に、サンドラー王は心の中で思った。


――な、なんて馬鹿な男じゃ! このわし自ら大金を払ってまで側近という大層な待遇にしてやろうと言うておるのに、断るとは……。こやつはとんだ脳筋バカじゃ!!



 と……。しかし、さんざん陰口を言われているのにちっともそんなことには気付かない彪岩は、がははと高らかに笑い続けている。

というわけで、今回は開始早々に新キャラが出せました。そして、Ⅱ以来お久しぶりのご登場、サフィスト=サンドラー王。

また、今回の話は全くと言っていいほど、斑希達は出てきません。台詞もほぼ男ばっかりです。なんか、むさい感じがしますが我慢です。

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