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第十四話「夢幻の占い師の予言」・2

「どうした小童? 怖気づいたか?」


「け、けっ! そ、そんなことあっかよ! とりあえず、オレは戻らせてもらうぜ!!」


 フェニックスは慌てた様子でその場からさっさと退散した。


「ふんっ……この程度ですくむほどの器であったか……。まぁいい」


 オルガルト帝がドカッと深く玉座に座り直すと、指を鳴らして鈴華を呼び寄せた。すると、さっきまで自我があったはずの鈴華は再び目から光を消失させて無表情になると、僅かに痙攣しながらも自身を呼ぶご主人様(マスター)の元へと歩み寄った。


「は、はい……ご主人様」


「肩が凝った、……揉め」


「かしこまりました」


 鈴華はペコリとお辞儀をしてオルガルト帝の背後に回ると、両手をオルガルト帝の両肩に置き、ゆっくりと肩もみを開始した。すると、突然どこからか声が聞こえてきた。


【フフフッ、相変わらず人間を人間扱いしないやつだ】


 そう言って姿を現したのは、白衣に身を包んだ青年だった。

 黄土色の瞳をしており、その目力は相当強かった。レンズが小さいメガネをかけており、フレーム部分はビーズ状になっている。


「お前か――フィグニルト。何をしに来た?」


 突然現れたフィグニルトと呼ばれる男に少しも驚きを見せず、冷静な態度で声に接するオルガルト帝。


「つれないやつだな……。俺様のおかげでその巫女の小娘を操れてるんだぞ?」


「ふんっ、そう言えばそんなこともあったな……。だが、今はわしの物だ。この事実は変えられぬ。それに、貴様とてわしの援助がなければ今の待遇はないのだぞ?」


 オルガルト帝はフィグニルトの言葉にも屈せず、逆に脅しにかかった。


「おいおい、あれは和睦協定の意味で援助してくれたんじゃないのか? 少なくとも俺はそう思っていたけどな……。まぁいい。それよりも、その首輪の件だが……どうだ? 調子は良好か?」


 フィグニルトがチラッと鈴華の首につけられている首輪を一瞥する。


「ああ、そうだな……。前よりも効力が強くなった気がするわい」


 オルガルト帝は、たっぷりと蓄えた顎鬚を撫でながら自慢気に質問の答えを返す。


「くく……それはよかった。まぁ調子が悪くなったら俺様がいつでも直してやる」


「偉くなったものだな……。よほどの自信があるらしい……」


「それよりも、まだそいつの力を全て計測し終えたわけじゃないんだ。また少しその小娘貸してもらうぞ?」


 淡々と喋りながらフィグニルトは鈴華の顎に手を添え、クイッとこちらを見るようにした。マインドコントロールのせいで感情を表に出せない鈴華は、ただ半眼の眼差しで若干辛そうにしながらフィグニルトを凝視した。

 そんな二人を見たオルガルト帝は、ニヤッと白い歯を見せて口を開く。


「またか……。鈴華はなかなか使える奴隷(こま)なのだがな……」


 組んでいた足を組み直しながらオルガルト帝は鈴華を嘲笑った。


「ふっ、仮にもフレムヴァルトの帝王を駒扱いか……。さすがは帝王から皇帝へと格上げしただけのことはあるな。まぁ、せいぜい調子に乗り過ぎないようにすることだな……。というわけで、この小娘は借りてくぞ?」


 フィグニルトは、まるでこの場からさっさと出て行くかのように鈴華の手を引いてオルガルト帝から距離を取った。すると、背中を見せるフィグニルトに対し、オルガルト帝がニヤッと悪質な笑みを浮かべて小馬鹿にするように言った。


「壊さないように気をつけろよ若造……。貴様のせいで計画が破綻となるわけにはいかんのでな……」


 それを聞いたフィグニルトは、その場に立ち止まりふっと振り向くと、オルガルト帝に言った。


「ああ分かってる。あの計画は俺も賛同しているんだ。クロノスのボスである俺の力を使えば、クロノスの優秀な人材が腕を振るって最強の発明品を作りだすだろうよ! はっはっはっは!! 伝説の戦士が全員揃うのがお互い待ち遠しいな? ったく、あの時あんな馬鹿なことして心を壊さなけりゃ、こんな面倒なことにはならなかったのによ!!」


 意味有り気に最後の部分のセリフを強調して口にするフィグニルトに、オルガルト帝はピクッ! と少し(しゃく)(さわ)ったかのように眉毛を動かした。


「それは言わぬ約束のはずだ……あまり調子に乗るなよ? フィグニルト……」


 オルガルト帝は声色を一層低くして喋った。同時に玉座の腕置きの先端部分を手のひらで強く握りしめる。


「くく、これは俺様の性分なんでなぁ~。そう簡単には直せねぇや、おっちょこちょいなジイさん?」


 それでもやめなかったフィグニルトに、オルガルト帝は玉座の先端部分を手のひらで破壊した。


「くッ!!」


 先程まで冷静を装っていたオルガルト帝も今の一言には堪忍袋の緒が切れたらしく、凄まじい殺気と禍々しいオーラを解き放つ。

 その殺気とオーラは強烈なパワーとなり、オルガルト帝が玉座から立ち上がり、ふんっ!! と力を込めてパワーを解き放つと、強力な威力を誇る光線となってフィグニルトへと一直線に飛んできた。しかし、フィグニルトはその場から微動だにせず、ただ口元に笑みを浮かべて両手を白衣のポケットに手を突っ込んで佇んでいるだけで一向に躱そうとしない。

 すると、光線はフィグニルトの真横ギリギリ数ミリを通り過ぎて奥の壁へと激突した。

 壁は崩壊し、明るい日差しが暗がりの広間に差し込む。


「ちっ、外したか……」


 悔しそうに舌打ちしてオルガルト帝は再び玉座に座る。すると、急にフィグニルトが含み笑いした。


「ふふっ、くく……ははははははははは!!!」


「何がおかしい」


 再び怒りのパラメーターを上げ始めるオルガルト帝。


「はっはっは……“外した”だぁ? それは違うな……。本音を言えば外したんじゃなくわざと外したんだ。お前は俺様を殺せないからな!」


 そう言って自慢気に高笑いするフィグニルトは、そのまま高笑いしながら鈴華を連れて広間を出て行った。


「ふんっ……。わしにはフィグニルトを殺せない――だと? ぬかせ若造が……。あやつは忘れておるな……。あやつとてわしにとってはただの駒の一つにしか過ぎぬ。用が済めばただの用無し……。用無しに与える飯などあるはずもない! ましてや、用無しの駒には命も与える必要無しッ!! 用が済めば貴様もわしの滅びの波動に平れ伏すのだ、ぐふふふふ……ぐっはっはっはっはっはっはっは!!!」


 玉座に背中をもたれかけ高笑いしたオルガルト帝は、ワイングラスに入った赤く生臭い飲み物を一気飲みした。


――▽▲▽――


 ここは小七ヶ国の一つである夢鏡王国の最果て……。小さな町『ドムリトア』……。

 そこの町の中心に一つの建物があり、“夢幻の館”と書かれた看板が飾られていた。すると、一人の男性がその夢幻の館へ入って行った。

 奥に進んでいく男性は、長い廊下を進んで突き当たりにある扉の取っ手に手をかけた。

 扉を開けると、そこは廊下と違って照明は全くなく、あるのは数本の壁にある燭台に灯ったロウソクの灯りと目の前の赤い布を被せられた台座に乗せられた水晶玉の妖しい輝きだけだった。


「今回はどのようなご用件ですか?」


 そう言って暗がりから姿を現したのは、薄いピンク色の髪の毛をした背の低い童顔の少女だった。胸には何かの形を(かたど)ったアクセサリーをネックレスにしてぶら下げており、両手の五本の指にはそれぞれ宝石が埋め込まれた指輪を着けていた。顔には踊り子の様に透けている布を着け、頭には帽子の様な物を被っていた。


「さぁ、そちらにお座りください」


 少女は真っ白な手を差し伸べ男性に椅子に座るように促した。

 男性は言われたまま軽く一礼して椅子に座った。少し遅れて少女も椅子に座る。

 二人は対面する位置に互いに座り、互いの瞳を凝視した。男性は少女の淡い紫色の瞳に心を見透かされるのを感じ、びっくりして視線を逸らした。


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ? さて、今回はお悩み相談ですか? それとも、未来の予言ですか? それとも――」


「未来の予言でお願いします……」


 そわそわした様子で男性はボソリと口にした。男の言葉にニッコリと笑顔を作った少女は首を縦に動かした。


「分かりました。では、未来の予言を行いますのでいつの時間帯にしますか?」


 水晶に手をかざしながら少女は男性に質問する。


「あっ、明日の晩辺りで……」


「分かりました。では始めます」


 コクリ頷いた少女は、水晶玉から手を離し一切触れずに瞼を閉じて瞑想した。精神集中して何かを読み取ろうとしているようだ。

 しばらくして少女はこめかみ辺りからタラ~ッと一筋の汗を流した。そしてカッと目を開けると、急にグタッとなってテーブルの上に突っ伏した。


「うぅ~……」


「あ、あのー……大丈夫ですか?」


「は、はい……。すみません、少し体力を奪われて――」


「そ、そうですか」


 少女は男性に気を遣わせないようにと必死に平然を装った。ゆっくり体を起こしコホンと一つ咳払いをすると、グイッと身を乗り出して男性の顔に自分の顔を近づける。

 そうやって淡い紫色の瞳でじーっと男性の目を凝視していると、訝しげに男性が声をあげた。


「な、何ですか? 私の顔に何かついてますか?」


 目を泳がせて女性に目を合わせまいとする男性に、少女はすかさず声を張り上げる。


「わたしの目を見てください!!」


「は、はいッ!!」


 突然強く言われた男性は、ビシッと体を硬直させて少女の目を見た。しかし、長時間見ているとだんだんと照れてきて、最終的には顔を少し赤く染めてそっぽを向いてしまう。


「もーっ、ちゃんとしてください! これはあなたの占いなんですから。それと、あまりいやらしい目でわたしを見ないでください」


 いやらしい者を見るような眼差しで男性を凝視する少女。


「す、すいません。その、娘に似た顔立ちで綺麗だったものですから……」


 申し訳なさそうにこめかみ辺りを人差し指でかきながら、男性が謝罪を含めて少々お世辞を言った。しかし、それがまずかった。


「なっ、そ、それは……わたしが童顔だってことですか!?」


 少女はどうやら小さな子供扱いされるのが嫌いらしく、激しく拒絶反応を示して怒り出した。


「いや、その……」


「わたしを子ども扱いしないでください!!」


「えっ、あっはい……すいません」


 男性は何が何やら理解できず、困惑した感じで再び少女に謝った。


「それでは占いを続けますよ! さあっ、ちゃんとわたしの目を見て!!」


「は、はい……」


 言われるがまま男性は何とか耐えて少女の瞳を見つめた。

 そして数分後、ようやく少女が「もういいですよ」と男性に許可を出した。

 男性はぐったりして「それで、どうですか?」と訊いた。

 少女はさっきまで怒っていたのが嘘のように、まるで女神のような満面の笑みを浮かべて答えた。


「そうですね……。どうやら明日は娘さんの誕生日のようですね?」


「そ、その通りです! よく分かりましたね!」


 驚愕して目を見開き男性は言った。


「もちろんです。わたしは占い師ですから。それで、その娘さんの誕生日に何を買えばいいのかが分からない。と、そういうことですね?」


「そこまで分かるんですか?」


「今わたしがあなたとずっと互いに見つめ合ったのがその意味です」


「あれは、このためだったんですね?」


 男性は先ほどの見つめ合う行為が何の意味があるのだろうと疑問に思っていたため、一つ疑問が解消できてほっと安堵した。


「はい……。それで、先程未来を見させてもらいましたところ、どうやら娘さんはクマのぬいぐるみが欲しいみたいですよ?」


「クマのぬいぐるみ……。あっ、あの時買い物に出かけた時に見かけたあのぬいぐるみか!!娘はあれを欲しがってたんですね?」


「わたしが言っているのとあなたが言っているのが合っているか分かりませんので、これからこの水晶玉に映します、それでご確認ください……」


 少女はようやく水晶玉を活用し、その水晶玉にぬいぐるみを映した。それを見た男性は確信を得るや否や声をあげた。


「これです! 間違いありません!!」


 歓喜の声をあげる男性は子供のようにはしゃいでいた。それを見た少女が再び優しい笑みをこぼす。


「では急いで買ってきてあげてください。娘さんもきっとお喜びになると思いますよ」


「はいっ、そうします! ありがとうございました、未來先生!!」


 未來先生と呼ばれる少女に一礼した男性は、大喜びで夢幻の館を出て行った。


「……ふぅ、疲れたぁ。今日だけで何件来るんだろう……? もうクタクタだよ。あっ、そうだ。今日はもう閉館にして、さっさとお風呂に入って寝ちゃおう!」


 急に口調を一変――。普通の少女の様に振舞う未來は、そのままルンルン気分で風呂場へと向かった。


――▽▲▽――


「ふぃ~……。あ~、いい湯加減だった!」


ぐぐぅ~。


「あっ、そういえば、昼ごはんの時間帯物凄く混んでたから結局お昼ご飯食べてないんだった!! うぅ……お腹が減って力が出ないよ~、そうだ!」


 急に何かを閃いたのか、架空の豆電球に光を灯し未來は何処かへと駆け出した。


――▽▲▽――


「確か、この辺に――あっ、あった!!」


 そう言ってわたしはお菓子の入った袋を見つけた。


「ダイエット中だからおやつは厳禁にしてたけど……お腹ペコペコだし、いいよね? うん、いいに決まってるよ!」


 と、自問自答して、わたしはさっさとおやつの袋を開けた。スナック菓子を口いっぱいに頬張り、美味しそうに味を噛み締めるわたしの姿、口調を誰かに見られたら、またしても幼い子供のようだと笑われるに違いない。自分でも自重しようとは思うのだが、どうしても一人になったりすると自我が出てしまうのだ。

 数分後、一袋どころか十袋ほどおやつをたいらげたわたしは、空っぽの袋を見て顔面蒼白となった。


「や、やっちゃった!! ど、どどどどうしよう~……一袋でやめとくつもりだったのに、ついつい美味しくてどんどん食べちゃったよ~! このままじゃせっかく減り続けてた体重が一気に増えてリバウンドしちゃう!! よしっ! もう食べない食べない!!」


 ピチピチと自分の頬を叩き気分を入れ替えようとしたが、すぐ側にあるお菓子の袋を見てわたしは思わず手を伸ばしてしまった。


「はっ、またわたしお菓子食べようとして――。ううん、ダメダメ、こんなんじゃだめ!! こうなったら……そうだ! 水晶玉を使って未来を見よう!!」


 手をポンと叩いた私は、台所から移動して先程の占い部屋へと入った。そして、妖しく光る水晶玉に手をかざし目を瞑ると未来を見始めた。しかし、突然何かが見えて思わずわたしは慌ててその場から立ち上がって水晶玉からササッと離れた。


「はぁ、はぁ……。な、何今の? 今のってさっきの男の人だよね? で、でも、どうしてあの人が? しかも、あれってリストラされた貴族の衛兵? マズい、このままの未来を進んだらあの人死んじゃう!!」


 先程夢幻の館を訪れた男性の身に死の危険が及ぶという未来を見たわたしは、慌てて夢幻の館を飛び出して男性を追った。

 しかし、小さいながらも住宅地ばかりで入り組んだ道なので、普段決まった道しかあまり通ったことがないわたしは、すっかり迷ってしまった。


「ど、どどどどうしよう~!? 自分の住んでる町なのに迷っちゃった! このままだとあの人が!!」


 とにかく闇雲に辺りを捜索するが、気力と体力を削られるだけで男の人の姿はどこにもなかった。

 と、その時、大通りのはるか遠くにあの人の後姿を見つけた。


「あっ、いたっ!!」


 わたしは足が痛いのも構わずに必死に走った。すると、はるか遠くの男の人が鎧を身に着けマントを羽織っている男にぶつかったのが見えた。


「あれは、未来で見たリストラされた貴族の衛兵!? ヤバイ、もう間に合わないっ!!」


 声を出そうとも思ったが、走り続けているために息が苦しく声が出なかった。


「おい、てめぇ! 一般市民がぶつかって謝りもなしかっ、ああ!?」


「で、ですから先程謝って――」


「謝るってのは土下座しろってんだよ!! んなこともできねぇのか? おら、さっさとしろよ!!」


「そ、それは――」


「あん? 貴族に逆らおうってのか?い い度胸だな、てめぇみたいなやつはさっさと()ね!!」


 そう言って元衛兵は抜刀した剣を振り上げ、腰を抜かしている男の人に向かって振り下ろした。

 と、そこで、ようやく声の届く範囲まで走ってこれたのでここぞとばかりにわたしは必死に声を振り絞って叫んだ。


「や、やめてぇえええええええええええええええっ!!!」


ガキィイイイイインッ!!!


 刹那――わたしの叫び声と重なって金属同士のぶつかる音が聞こえた。恐る恐る目を開けてみると、そこには月の様な黄色い髪の毛をした青年が、元衛兵の剣を押さえている姿があった。

というわけで、新キャラが登場です。オルガルト帝に対して然程敬うような態度の見えない白衣男。そう、レイヴォルです。さて、まだフルネームが出てませんが、この人Ⅲで名前のみ登場してます。ちなみに、この人も重要人物です。

そして、ドムトリアの夢幻の館にて登場を果たした童顔少女、未來。

さらに、男を助けた青年。果たして青年の正体とは――。まぁ、もうバレバレですが。

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