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第十四話「夢幻の占い師の予言」・3

「んだ、てめぇは! 今俺はイライラしてんだ。邪魔してっとてめぇから切り落とすぞ!!」


「ほぅ? お前こそ元衛兵だったくせにそんなことしていいのか? そんなんだから衛兵の仕事も辞めさせられるんだよ!!」


 そう言ってその青年は月を象ったキーホルダーのついた刀を振り上げ、元衛兵の剣を薙ぎ払った。

 剣は宙を舞い、わたしの目の前に落下して地面に突き刺さった。


「きゃあっ! んもぅっ! どこに投げてんの!? 危ないじゃない!!」


 と、わたしはその青年に向かって文句を言った。しかし、青年はそれどころではないらしくこちらを見もせずに声を荒げた。


「今忙しいんだ! 文句なら後にしてくれ!!」


 そう言ってわたしを、襲われていた男の人と一緒に下がらせる。


「待たせたな、クソ衛兵!」


「あん? 俺がクソだと? なめてんじゃねぇぞ、クソガキィイイイィィィィィィィ!!!」


 衛兵は眉間にしわを寄せ、地面に刺さっていた剣を取ろうと走り出した。しかし、その僅かな隙を青年は逃さず突いた。


ガキィィィンッ!


「ぐわぁああッ!! くっそぉ~、覚えてやがれ!!」


 甲冑を身に纏っていたため外傷は大してないものの、年下の男にやられ赤っ恥を書いた男は、精神的ダメージを負ったのかその場から逃げ出した。


「ふぅ……」


「月牙さーん!! 大丈夫ですかー?」


「ああ、平気だ」


 どうやらこの少しカッコいい雰囲気を醸し出している青年は、月牙という名前らしい。

 わたしは危機は去ったと感じ、おそるおそる話しかけてみた。


「あ、あのぅ……」


「あ?」


「ひぃっ! ご、ごめんなさい!! やっぱいいです!!」


 月牙と呼ばれる青年は振り向くと同時に少し怖い顔でこちらを見てきた。わたしは思わず悲鳴をあげてしまう。


「あぁ、さっきの子供か。ゴメンな? びっくりさせちまって……」


「えっ、あの……」


「てっきりまた別の敵が来たと思って……」


 こちらには喋らせずどんどん喋り続ける相手にわたしは少し苛立ちを覚え、思わず声を張り上げて叫んだ。


「人の話を聞いてぇえええ!!」


 言った後にハッとなって顔を俯かせるわたしに、月牙とかいう人は優しく声をかけてくれた。


「大丈夫か? 悪いな、ついつい喋っちまって……。それで、君の名前は?」


「さっきから君とか子供とか、わたしは子供じゃありません!!」


「えっ、君子供じゃないの? 身長も低いし、胸も……」


「うっ、胸のことは言わないでください! それと、身長が低いのも親譲りです!! こう見えても私は十七歳なんですから!!」


「え、俺と同い年!?」


「驚きです、まさか私よりも年上だったなんて……」


 月牙さんと隣にいる青髪の綺麗な少女が驚愕の表情を浮かべる。


「人は見かけによらないんです! それで、あなた達は誰なんですか?」


「俺達は旅の者みたいなので、俺は月牙っていうんだ」


――やっぱりこの人が月牙さん……。ん? ていうか、同い年って言ってたから別にさん付けする必要はないんだよね。でも、同い年でこの身長差……。何だか惨めな気分になってきた、うぅ~。



 わたしは月牙さ――月牙くんと自分の身長差に落胆した。すると、わたしが気を落としているのを心配したのか、先程の青髪の少女がわたしの肩をぽんぽんと優しく叩いてきた。


「大丈夫ですか? 随分落ち込んでますけど……」


「あぁ、何でも……。ところで、あなた幾つ?」


 さっきから気になるこの少女の年齢を、わたしは単刀直入に訊いた。


「えっ、と……十五ですけど……」


――が、ガーーーーーーンッ!!! う、うそ……嘘でしょぉおおおおおお!? こ、こんなに身長も胸もでかいのに、わたしよりも年下!? な、何なのこのプロポーションの差は!? 陰謀だ、これは間違いなく神の陰謀に違いない!!



 わたしは年下の少女に完全に負けたと敗北感に覆われた。心の傷がどんどん広がっていく。こんなところでこんな屈辱を味わう事になるとは思ってもみなかった。


「あなた名前は?」


「す、水恋です……」


「よしっ、覚えたわ!! いい? いつか必ずわたしはあなたに勝つから!!」


「な、何の事ですか?」


――ふっ、とぼけた顔したってムダなんだから。今は確かにわたしの方がすべてにおいて負けてるかもしれないけど、必ずいつかあなたを越えてみせる!!



 わたしはいつの間にやら闘争心に燃えていた。しかし、そんなわたしの心情など気にせず、月牙くんはわたしに質問してきた。


「ところで、さっきから思ってたんだが、あんた誰だ?」


「わたしは『紅夢(くれむ) 未來(みらい)』。ここ、ドムリトアの中心で夢幻の館を開いて占い師をやってるの。よかったらあなた達も何か占ってあげようか?」


 我ながら優しいと思った。ここで親切にしていたらもしかしたら神様もわたしの日頃の行いを称えて体の成長を促進させてくれるかもしれない。

 と、一人で納得したわたしは強引に彼らを自分の家に招き入れることにした。


――▽▲▽――


 突然現れた未來と名乗るピンク色の髪をした占い師につれられて、俺達一行は夢幻の館と呼ばれる場所に訪れていた。どうやら、ここが未來の家らしい。

 にしても、随分と大きな家だ。まるで、大富豪の家にお邪魔したような気分になる。

 俺達は未來に案内されて薄暗い部屋にやってきた。


「ヒヒッ、ここは私の研究所と同じくらい暗いねぇ~。ここなら何をしてもバレなさそうだ」


 という猛辣のとんでもない一言に俺はすかさず注意する。


「おい猛辣、水恋達が怯えるからやめろって!!」


「ヒヒッ、しょうがないじゃあないかい。これは私の性分だからねぇ~。どうにもやめられないんだよ……」


 猛辣は相変わらずの不敵な笑みを浮かべて不気味に笑った。すると、ガチャッ! と扉が開いて未來がやってきた。手にはお盆を持っていて、そこには人数分の紅茶が入れられていた。香ばしい香りが俺の鼻孔をついてくる。


「お~、いい香りだ」


「これは近くに住んでるおばさんが占いをした際にくれたんだ。わたしもこの匂い気に入ってるんだよ?」


「へぇ~そうなのか。結構占いも人気あるんだな」


「当たり前だよ、何せわたしは未来を読むことの出来る占い師だからね!」


 その一言に俺は会話を止め、疑問を未來に投げかけた。


「未来を読める占い師? って、とういうことだ?」


「何て言うのかなぁ~。要は未来予知して、自分の身に何が起きるのかとかを予測することが出来るんだよ!」


 未來は得意げに説明した。俺はその説明を聴いて、これは間違いなく伝説の戦士に違いないと、急いで黄金の地図を眺めた。

 実は、ここ――ドムリトアに来たのもそれが理由だ。

 そして、地図を確認した俺は驚愕して目を見開いた。それに気づいた凜が俺の肩から地図を覗き込む。


「どうかしたの、犬?」


「犬っておい……」


「ペットなんだからいいでしょ? それとも、ベロンタスがいい?」


「それは遠慮しておきます……」


――何だか明らかに立場が逆転してるような気がする。王女の(さが)のせいか、俺も逆らえないし……。



 ちなみに、ベロンタスというのはイグアナとカメレオンを足して二で割った感じの生き物のことを言う。とっても臭い息を吐き、長く斑模様の舌を伸ばして食事をとり、気候で模様が変化するという特性がある。

 見た目はとてもグロテスクなのだが、一部の動物愛好家にはペットとして一目置かれている。それがなぜなのか、俺には理解できない。

 なので俺は、ペットの種類でベロンタスと呼ばれるのだけはご勘弁いただきたかった。そんな俺の焦った表情を見て凜は楽しそうに笑っていた。


――まぁ、笑ってくれるならいいか。これで少しでも心の傷が癒されてくれるなら……。



 と、俺は心の中で少し凜を甘やかした。


「で、結局何してるの?」


「ああ、これ見てみろ」


「見てみろ?」


「見てください……」


「し、しょうがないわね……。どうしてもって言うなら見てあげるわよ!」


――メンドくさいやつだ。



 と内心で思いながらも口には出さない。出せばまた罵詈雑言が始まるに決まっているからだ。


「これだ」


 俺は地図を指さして位置を示した。それを見た凜も驚いて目を見開き、驚きの声をあげないように口元に手を当てて近づいてくる。


「これって本当なの?」


 俺の耳元で囁きながら凜はそう訊いた。


「ああ、間違いない。今までだってこうやって見つけてきたんだ」


「ってことは、あの未來さんっていう未来予知できる人が八人目の伝説の戦士?」


「……てことになるな」


 コクリと俺は頷いて答えた。にしても不思議なものだ。こうも連続で、しかも一発で伝説の戦士当人を見つけるとは――。つくづくツイているものだ。まぁ、凜とかによくひどい目に遭わされることもあるが……。まぁ相手は喜んでるからよしとしよう。


「どうするの?」


「もちろん仲間になってもらうさ! 伝説の戦士は全員集めないといけないからな」


「けど、そう上手くいくかしら?」


「大丈夫だ、俺に任せとけ!!」


 そう言って俺は胸をトンと叩いて未來の近くに歩み寄った。

 と、その時だった。暗がりだったために思わず足元にいた猛辣に気が付かず、足がぶつかってしまい体勢を崩して近くにいた水恋に抱き着いてしまった。


「きゃああっ!! ち、ちょっと月牙さん! どこを触ってるのですか!!」


ドゴッ!


 俺はきつい一発をモロにくらった。水恋――ではなく凜から。しかも顔面に。グーパンで!!鼻血を噴きだしながら俺はヨロヨロとよたついた動きで後退した。


「あっ、危ない」


 霧矛が俺に言ったが、時既に遅しだった。

 俺は後ろにいた未來に気付かず押し倒してしまった。


「いやあああっ!! や、やめて! お、襲わないでぇえええええええ!!」


「ご、誤解だ! こ、これは――ん? なんだ、この洗濯板みたいな感触は――」


「いいいいいいぃぃいいやあああああああああああああああああああっ!!!」


ドガ、バキ、ゴシャ、ドグァッ!!


 蹴り、パンチ、あらゆるものをくらった俺は、ボロボロの体で起き上がった。


「うぅ~……触られちゃった。しかも、触るだけならまだしも揉まれた。同い年の、それも男の子に……。おまけに洗濯板ってバカにまでされて……うわ~ん、わたしもうお嫁にいけないよぉ~」


 顔を真っ赤にして胸を両手で覆うようにしてその場にペタンと座り込むと、未來は涙を流して子供の様に大泣きしはじめる。


――こいつ……本当に俺と同い年なのか? とてもそうは思えない。とりあえず泣き止ませないと、俺が悪い事したみたいに……。いやまぁ実際そうなんだが。



「月牙さん、女の子を泣かせるなんてひどすぎます!!」


「いや、これは……」


「責任を取るべき」


「そうですわ」


「ペットが何発情してんのよ!!」


 今回は三人どころか四人に罵声を浴びせられた。どうやら今度ばかりは霧矛もあちらの味方のようだ。


「ヒヒッ、君もなかなかのラッキースケベのようだねぇ~」


「ち、違うんだぁあああああああああああああ!!」


 結局俺は、泣きじゃくる未來に何度も何度も土下座し体に触れる事を禁じられた。伝説の戦士のことについては水恋に説明してもらうことになった。 そして、その話を聴いた未來はびっくりしたように声を失うと、しばらくして口を開いた。


「何となく、そんな感じはしてました。未来を見ましたから」


「あっ、そっか……。未来予知をすればこうなることも分かったよな!」


「……」


――あれ? シカト? あっ、そうか……。禁じられて――って、喋る事も許されないのかよ!! 理不尽すぎる。くっそ~、俺が最年長のはずなのに~。未來も最年長のようだが、あの容姿とあの童顔からそうは思えない! あ、そういえば猛辣は何歳なんだ? あの体だけど風浮みたいに十才は絶対にないだろうし。うう~ん……。にしても、何でこうも俺の集める伝説の戦士はどいつもこいつも女ばかりなんだ? 今んトコ、男は俺を含めて風浮と猛辣の三人しかいないぞ? それに対して、女は水恋に靄花に霧矛に凜、そして未來。やべぇ、さすがに次は男来てくれ! ウェルカムトゥーボーイ!! 何だかこれだとホモの気があるように思われそうだ……。



 俺は心の中で独り言を呟き、それを水恋達がひいた様な目で見ていた。


「あっ、いやこれは……」


「……」


――ダメだ、言い訳しようとしても無視されるから出来ねぇぇえええええ!!



 それから数分間、俺は黙り続けるという拷問の様な時間を過ごしたのだった……。

というわけで、青年の正体は月牙でした。そんな月牙ですが、いきなり未來に対して胸小さいはセクハラ発言でしょう。斑希に怒られますね。

ちなみに今回はなんか未來視点で話進めてましたが、この人のモノローグものすごいことになってます。思い切り年下の水恋に敵対心むき出しです。

さらに、押し倒されて胸を触られる未來。うん、さんざんですね。

おかげさまで月牙はもれなく喋ってもシカトの刑に処されました。

さて、そんなわけで次回はちょっと未來との会話を挟んで斑希チームに移ります!

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