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第十三話「毒薬とマッド・サイエンティスト」・1

 俺達六人は、脱出の準備を整え最初に俺達が連れてこられた際に使われたという船に乗り込んだ。これは、大きな水圧にも耐えられる超合金で出来ているらしい。

 そして、凜を操縦士となって俺達は小七カ国の一つであるトロピカオーシャス王国を脱出した。


「おいおい、操縦するのは構わねぇけど、お前免許とか持ってんのか?」


「はぁ? そんなもん持ってるわけないじゃない!」


「ちょっ、それ大丈夫なのか?」


「何とかなるわよ!!」


 操縦桿を握り、それにグッと顔を近づけたまま凜は言った。全く持って不安だらけなんだが、と俺は思ったが、どちらにせよ俺は操縦の仕方など皆無なので、ここは仕方なく任せることにした。

 と、その時、突然大きな揺れが船内に起こった。


ドドドドドッ!!


「うわッ!」


「きゃっ!!」


「何なんですのこの揺れは!?」


「お姉ちゃん、ちゃんと操縦してよぉ~」


「ちゃんとしてるってば!!」


「わ~、目が回るぅ~!!」


 俺、水恋、靄花、霧矛、凛、風浮の六人はそれぞれ声を発し、船内でガヤガヤと騒ぎ立てながら文句を言い合った。

 刹那――硬い何かが俺の側頭部に直撃。俺は目を回して気を失って倒れた。


――▽▲▽――


 目が覚めると、そこには鉛色の空ではなく青空が広がっていた。


――船内じゃ……ない? ということは、脱出出来たということか?



「あっ、目が覚めたみたいね!」


 急に目の前が暗くなったかと思うと、顔が逆さまの凜が映った。


「うわぁっ!!」


 俺は慌てて飛び起き凛から離れた。


「な、何よ! そんなに逃げなくてもいいじゃない……」


「あっ、わりい……」


 シュンとなる凜を見て、俺は少し罪悪感を感じて謝った。


「ところでここは何処なんだ?」


 ふと思った素朴な疑問に、凜も周囲を見渡す。


「さぁ……どうやら無事にトロピカオーシャスは脱出出来たみたいだけど、ここが何処かは――」


「他のやつらは?」


「どうやら、さっきの衝撃で船が壊れて何処かで離ればなれになったんでしょうね」


 淡々と凜は説明した。しかし、このままではまずい。水恋達がいないのでは頼りになるやつがいない。いや、別に凜が役立たずと言っているわけではない。ただ、人数が足らなければ、この先強い敵が出た際に一人で戦わなければならなくなるということだ。

 と、その時、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「……さーん! 月牙さーん!!」


 それが水恋の声だということにはすぐに気付いた。凜も従姉の声が聞こえたらしく、キョロキョロと辺りを見渡している。すると、こちらに大きく手を振りながら走ってきている水恋達の姿があった。


「あっ、お姉ちゃーん! こっちよ~!!」


 隣で凜が笑顔で手を振りかえす。


「あのな……」


「な、何よ!」


「いや、別に……」


 一瞬、一瞬だが元気にはしゃいで水恋に手を振る凛の姿は、どことなく幼げに見えた。だが、すぐにいつもの顔に戻ってしまったため、本当にそう見えたかは確信性に欠けた。


――▽▲▽――


 ここは月牙達が辿りついた島の中心部。

 そこには、生い茂った森に隠された一つの建物があった。木々が生い茂っているため、陽の光も届かず薄暗い場所。そんな建物の中に一つの人影があった。その人影は凄く小さく、風浮とあまり変わらない程の身長しかなかった。その一見少年に見える人物は、紫色の髪の毛に真っ白な白衣を身に着けていた。しかし、体が小さいため、大きい白衣がずんだれていた。思わず踏んづけて転んでしまうか、擦り過ぎて破けてしまいそうなほどだった。


「ヒヒッ……まさか、このような誰もよりつかないような島に人間がやって来ようとは……。私もツイているねぇ~。ヒヒッ、この際だ。人間を知るのにはいい機会かもしれないねぇ~。さぁて、じゃあひとまずウェルカムと言う意味で歓迎のご挨拶といこうじゃあないかぃ……ヒヒッ!」


 独特の喋り方と笑い方をするその男は、見た目とは違って思いのほかしゃがれた感じの声で喋った。

 そして男は、モニタールームで月牙達を見ると、ニタリと白い歯を見せて人差し指で何かのボタンを押した。




 一方、そんなことは露知らずの月牙達は、ここが何の島なのかをずっと考えていた。

 と、その時、水恋が急に顔を青冷めさせた。それに気づいた霧矛が心配そうな表情で水恋に訊いた。


「どうしたの?」


 その声に水恋が口を開き答えた。


「ここは、もしかすると『ヴィポルニア』ではありませんか?」


「ヴィポルニア? 聞いたこともない国だな」


「国ではありません! 島の名前です! もしもここがヴィポルニアならば、恐ろしい科学者がいます!! 気を付けないと」


「そんなに恐ろしいのか?」


「とんでもない実験を繰り返していて、開発された物はどれも恐ろしいものだと言われています」


 ブルブルと身震いしながら水恋は月牙に話した。

 月牙はそんなにその科学者は恐ろしいのか、と思い息を呑んだ。しかし、ここで怖気づいて引き返す訳には、どうしてもいかなかった。

 一つは島から脱出する方法が分からないから。もう一つは、黄金の地図に写っている赤く点滅する点がこの島を示していたからだ。つまりは、ここにいるというその恐ろしい科学者が伝説の戦士の一人だということだ。

 これら二つの理由があるため、月牙はどうしてもその人物のいる場所に訪れなければならなかった。例え、水恋達が拒絶したとしても――だ。


「俺も本当はこんな賭けみたいなことはしたくないんだが、その科学者に会ってみないか?」


「ちょっ、し……正気ですか月牙さん!? 相手は恐ろしい科学者ですよ? どんな力を用いてくるか分かりませんし、あまりにも危険すぎます!!」


「水恋さんの言うとおりですわ! べ、別に怖いとかそういう訳じゃありませんけど、そんなどんな人物かも分からない人の懐に潜り込もうだなんて、無茶にも程がありますわ!!」


「水恋お姉ちゃんの言うとおりだわ! 風浮って子が寝てるせいで、今霧矛は歩ける状態じゃないのよ? どこかの誰かさんがかわいい従妹に怪我させたせいで! そんな状態でそんな奴の所に行けるわけないじゃない!! わざわざ死にに行くつもり!?」


 三人の女子メンバーから一気に罵声を浴びせられる月牙。助けてくれる人はメンバーの中に一人としていない。ただ一人――霧矛だけが哀れな目で月牙に視線を送るだけだった。


「そ、そうは言ってもよ……。伝説の戦士は全員仲間にしないといけないんだ! お前らも分かってるだろ?」


「そもそも、全員揃えて何の意味があるのですか?」


「私もそのことについて前々から疑問を持っていましたわ! 集めた所で何の意味があると言うんですの?」


 今度は疑問を投げかけられた。罵声を浴びせられたり疑問を吹っかけられたりなど、月牙は答えるのに必死でもう疲れ切っていた。出来る事なら開き直ってリーダー的役割を誰か別の人に任せたいところだが、そんな無責任なことを言っているわけにもいかなかった。自分がメンバーの中で最年長ということもあるが、ほぼ女子だけのメンバーを守らなければという責任の気持ちがあったからだ。


「俺と幼馴染の斑希って奴がいるんだけど、その俺らの母親に伝説の戦士を集めるように言われたんだ。何でも、この世界を脅かす存在がいるらしくて、それをどうたらこうたらするみたいでな……」


「そのどうたらこうたらの部分は何なのよ!!」


 と、凜が顔をしかめて訊いてきた。


「そ、それは――よく分からねぇが……」


「ただの役立たずね! ホント、あんたはただのペットじゃない!!」


 凜は腰に手を当て年上である月牙に向かって罵声を大量に浴びせた。月牙も思わず萎縮してしまっていた。


「と、とにかくだ! 頼む!! もしも攻撃されたりしそうになったら俺が守るから!!」


 月牙は最年長の威厳など失くして、ただただ年下の――しかも女相手に必死に懇願して手を合わせた。


「そ、そこまで言うのでしたら……」


「まぁ危険になったらあなたを犠牲にすればいいだけのことですし……」


「ペットならちゃんと主を守って死になさいよね!!」


 と、三人がまるでこちらが上の立場であるかのように上からの物言いで月牙に言った。その様子を、霧矛ただ一人が疲れてしまったのか寝ている風浮の頭を撫でながら見ていた……。


――▽▲▽――


 俺達はヴィポルニア島と呼ばれる謎の科学者が住んでいる島を歩き回っていた。

 黄金の地図を頼りにその科学者の居場所を探そうとしているのだが、なにぶん大きい島のためになかなか目的の人物が見つからない。おまけに足場が悪い場所や木々が生い茂って通路を封鎖しているのが重なって、体力も大幅に削られていた。

 そして、現在俺を含めた六人の伝説の戦士(風浮は寝ている)は山を登っていた。少し目線を下に移すと、森の木々が小さく見えた。それほどまでに俺達は標高の高い場所にいる。標高が高いせいか息も苦しい。だが、それだけが理由ではない。体力が限界を迎えているのだ。特に俺の場合、風浮が寝てしまって風の絨毯を消してしまったので、霧矛をおぶるハメになってしまっていたのだ。まぁ、霧矛に怪我を負わせてしまった俺の責任ではあるのだが――。

 と、その時、パラパラと上から小石が転がって来た。俺はふと嫌な予感がして上を見上げた。すると、山の頂付近にあった岩が落石となって降ってきた。勢いよく斜面を転がり落ちてきた岩石は、危機一髪俺達の脇を猛スピードで通り過ぎて行った。

 俺達は地面に伏せるような状態になって難を逃れた。


「ゴクリ……。っぶねぇ~! 危うく命を持っていかれるところだった!」


「ちょっと、ちゃんと私を守りなさいよ!! あんたは私のペットでしょ!?」


「だからペットじゃねぇって!!」


「はぁ? あんた私と約束したでしょ? ちゃんと務めを果たしなさいよ!!」


 何を言っているのこいつは、と言う表情で俺を凝視した凜は言った。


「あれってそういう意味だったのか!?」


 と、俺は以前凛と交わした約束の本当の意味をようやく理解する。


「ふ、二人とも喧嘩してる場合ではないですよ!」


 水恋に(いさ)められ、従妹である凜は少し大人しくなり俺の方を向く。


「まぁ、無事だったから今回はよしとするわ!」


 指さして相変わらずの物言いで凛は許してくれた。俺はそう易々と約束を交わすものではないと思った。


ブゥゥゥゥン……。


 俺は、ふとある虫の様な羽音を聞いた。目を凝らして辺りを見てみると、一つの飛行物体があった。それは凄く小さく、一見ただの虫の様に見えるが、よ~く目を凝らしてみるとそれは虫ではなく、虫の様な形をした小型メカだった。


「凜! あそこに向かって水飛ばせるか?」


「私に命令しないで!!」


 と、凜は口では抵抗するものの、ちゃんと小型メカに向かって水を飛ばしていた。素直じゃないところは靄花に似ている。

 勢いのある水は小型メカに見事命中し、そのまま飛行する力を失って墜落した。

 ボンッ! と小さな煙が舞い上がり、小型メカは破壊された。

 俺はメカに近寄りゆっくりそのメカを拾い上げた。その小型メカにはこれまた小さな小型カメラが付いていて、まるで俺たちを撮っていたかのようだった。


「これ何?」


 俺におぶられていた霧矛が、ひょっこりと顔を覗かせて小型カメラを指さす。


「ああ、どうやらカメラみたいだ」


「でも、どうしてそんなものが?」


「さぁな……」


 首を傾げて答えた、まさにその時だった。


〈ヒヒッ! ……まさかこの私の作ったメカの正体を見破るとは、大した侵入者だねぇ~〉


 突如聞こえた機械を通しての声。特徴的で不気味な感じを思わせるその笑い方に、俺は直感的にこの声の正体がこの島に住む科学者の物だと察知した。


「お前がヴィポルニアに住む恐ろしい科学者か?」


〈恐ろしいというのは少しばかり気に入らないねぇ~。私はマッド・サイエンティストだよ〉


「それって自分で言うものか?」


〈そんなことは私の勝手さぁ。とにもかくにも、これ以上この場所でウロチョロされると私としても非情に迷惑なんだ。さっさと出て行ってくれないかぃ――と言うつもりだったけど、気が変わったよ。人間がこの島にやってくるのは久しぶりなんだ。というわけで、君達を私直々に招待してあげよう。さぁ、君達が今いる場所から私の研究所への入口は非常に近い。そのまま上に上がっていくと、隠れスイッチがあるからそれを押したまえ。そうすれば入口への扉が開く。そこから先は、着いてから連絡させてもらうよ……ヒヒッ〉


 長々と話した後、不気味な笑いを一つ残して声は消えた。同時に小型メカも完全に壊れてしまった。


「い、今のが恐ろしい科学者ですの?」


 顔面蒼白で靄花が俺に訊いた。水恋程肌白いわけではないが、今の靄花はそれ以上だった。それほどまでに自称マッド・サイエンティストの男は恐ろしいのだろうか。

 そう思うと、俺は自然とその男に興味が湧いて来た。


――▽▲▽――


 俺達はマッド・サイエンティストと言う男の元に向かっていた。俺はてっきり研究所は島の上に立っているのかと思っていたが、実際は違った。実際の研究所は島の内部――即ち地下にあったのだ。これでは見つからないのも無理はない。にしても、一人でこのような大きな研究所を設立することは果たして可能なことなのか? エレベーターで運ばれながら俺はふとそんなことを考えた。

 そうこうして俺達がやってきたのは、研究所のとある一室だった。中に入ると、そこには照明は無く、あるのは大量のコンピュータと一つの小さな人影。その人影はコンピュータの画面の照明によって照らされ不気味に光っていた。


「いやぁ~、よく来たねぇ~。ヒヒッ、わざわざ来てくれて私もありがたいよ。紹介が遅れてしまったねぇ。私がマッド・サイエンティストの『猛毒雲(もうどくうん) 猛辣(もうら)』だ」


「お、おう。俺達は旅の者で、俺は塁陰月牙だ。寝ている子供は旋斬風浮だ」


「潤木靄花ですわ」


「……幻宮霧矛」


「私は浜海凜よ」


「む……霧霊霜水恋です」


 互いに自己紹介を終え、一息つこうと思ったその時、突然猛辣が口を開いた。


「ん? 霧霊霜? ……あの四帝族の?」


「は、はい……」


「それはそれは、ヒヒッ……。こんなところでお目にかかれるとは、光栄だよ……」


 水恋の名前を聞いて、突然猛辣は回転椅子から降りて片膝をついた。意外にも猛辣の身長は風浮と対して変わらない身長だった。こんな男が本当にマッド・サイエンティストなのだろうか? 俺にはとてもそうは思えない。しかし、猛辣に挨拶されて水恋がさらに顔を青冷めさせているあたりから、本当なのだろう。


「なぁ、光栄ってどういう意味だ?」


「霧霊霜一族とは結構な関係を築いていたからねぇ~」


「関係?」


「まぁ話せば長くなるけど、かいつまんで言えば、貿易みたいなことだよ。私が開発した薬などを買ってもらっているんだ」


「へぇ~、そうなのか」


「買っているというか、はっきり言って買わされているのです!」


「買わされている!?」


 買うのと買わされるのとでは意味が違う。それはあまりにもひどいやり方だ。だが、古から続いている四帝族に弱みなどあるはずもない。なのに、どうして買わされるはめになるのだろう。何か原因があるのだろうか。


「ヒヒッ……。まぁそういうこともあったね。まぁ細かいことは気にしないようにしたまえ。ところで、君達はここに何をしに来たんだい?」


 猛辣はゆったりとした喋り方で俺達に訊いてきた。

というわけで少し更新が遅れました。トロピカオーシャス王国から脱出した月牙達ですが、道中で事故に遭い気絶。そのままそれぞれバラバラになったかとも思ったのですが、意外にも普通に同じ島に漂流していました。

そして、島――ヴィポルニアで新たな伝説の戦士を発見。

サブタイにもあるとおり、マッド・サイエンティストの登場です。

水恋の喋り方からも少しわかると思いますが、この男と水恋にはある関係があります。今回も三部構成です。

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