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『―Devil and Demon―』

 皆さん再び挨拶をさせていただきます。鳳凰一族の巫女が一人、鳳凰暦です。今回はかつて存在していた巫女族の歴史そしてどうして私達が今鳳凰一族として暮らしているのかを語らせていただきます。

 あれはもう何年も前のことです。私達が子供の時、私達が現在使用している社よりも大きな社で暮らしていた時代、私達はとある集団組織によって襲撃を受けました。後に分かったことですが、その集団組織は『ゴッド・レジスタンス』と言うそうです。主に神族の中でも悪行に手を染めた魔族達です。本来この場所は厳重な結界によって守護されていて私達以外には決して発見されることはなかったはずなのですが、何故かこの場所が敵に割れてしまっていたのです。敵は私達の社に火をつけ、一気に私達の逃げ場所を奪いました。この空間から逃げ出そうにも敵の強い結界によって私達は魔族に取り囲まれた状態で閉じ込められました。


《ギヘッヘッヘッヘ、これが不死身の巫女族かよ? 噂に聴いていた通りすんげぇ美人揃いだぜ!》


 一人のゴツい体つきをした巨漢サイズの鬼が口の端から涎を垂らしながら仲間の魔族と会話していました。恐らく鬼神族の類だと私達の仲間の一人が小声で呟き、私達はこれからどうなるのだろうと焦燥感に駆られ不安感を煽られました。

 既に何人かの巫女は泣いていて、目を赤く腫らしていました。すると、また一人今度は私達と同じくらいのサイズの騎士がやってきました。


《くく……、まったく貴様ら鬼神族は野蛮な輩が多くて困る。女性にはもっと紳士的に振舞え》


《あんだと、テメェ。魔神族のひよっこがナメてんのか? オレらをあまり怒らせねぇのが身のためだぜ? こんな巫女共、オレ一人でも全員オレのモノにしてやっからよ!》


《おいおい、オメェばっかズリィぞ? オレにも数人よこせよな? それに、オレの方が巫女を気持ちよくしてやんぜ?》


《ヘッヘッヘ、何言ってやがる。テメェはどうせ幼女専門だろぉ? あんなチビガキ共のどこがいいのか正直オレには理解できねぇぜ! それでいいんなら、幼女くらい全部テメェにくれてやんよ!》


 後ろから現れたもう一人の鬼神族の鬼がまだ幼い私達を舐めまわすように下劣な瞳で見渡します。私達は恐怖で声が出せませんでした。

 すると今度は別の魔族が声をあげる。


《ラヴイさんもゴーモさんもズッコイっすよ! オイラ達にも分けてくだせぇ!》


 後ろにまだまだ並ぶ大量の魔族が口々にそう叫ぶ。


《安心しろ、テメェらにはオレらが使った後のをくれてやんよ》


《うおおおおおおおッ!》


 ラヴイと呼ばれる鬼神族の鬼がニヤリとニヒルの笑みを浮かべてそう下っ端の魔族に伝える。使う? どういう意味なのでしょうか。疑問符を浮かべ、これからの状況が飲み込めない私達は、歓喜の声をあげる魔族の野太い不気味な声に耳を塞ぐだけでした。

 それからは酷いものでした。ラヴイを筆頭に私達の手前にいた巫女族の数人がそれぞれの魔族の連中に物のように投げ渡されると、その巫女装束をビリビリに引き裂かれました。


《きゃぁああああっ!》


《い、いやああぁあああっ!》


《ギヘハハハハハ!! やっぱり巫女族の肉体は堪んねぇぜ~! せいぜいこの細くて真っ白な肉体でオレらを満足させろよなぁ~!》


 ラヴイの不気味な声が漆黒に包まれた闇の空間に響き渡り、そこから巫女族である私達の悲鳴と魔族の歓喜の声が交互に鳴り響きました。がくがく震える幼い私達はただその場に蹲り俯いて泣きじゃくるしか出来ませんでした。先輩の巫女達が次々に魔族に投げ渡され、魔族によって今まで大事に大事に守り続けてきた純潔を散らしていきます。何人かの魔族に襲われた巫女はぐったりとしたまま地面に捨てられ、中には無残にも殺される者もいました。私達は恐怖で仕方がありませんでした。目の前で地獄絵図が広がっているのです。気づけばあまりにもの恐怖に涙が止まってしまっていました。ただ、真っ赤な血に染められていく様子を眺めているしかないのです。下劣な笑い声は一層大きくなり、魔族は巫女を人ではなく物同然に扱い、捨てていきました。一番私の心に根付いている恐怖は襲われたあげく五体微塵になっている巫女もいることです。あんまりだと思いませんか。私達はただの道具ではありません。神聖な体をこの世に授かり、使命を全うするためにここにいるのです。その私達がただ欲望の吐き捨てのために魔族の精を浴びせられ、不死身の力を失い命を散らしてゆく。これほどまでに酷く憎悪の感情に支配されることはないでしょう。

 ふと気がつくと、あんなにもたくさんいた巫女達はその数を減らし、地面には裸に剥かれ五体満足状態でない巫女の死体が散らかっていました。全員目から涙を流し、目を見開いたまま息絶えています。生き残っているのは私を含めた十五人の巫女と、七力の力を一つずつ持っている七人の巫女でした。彼女達は私達巫女族の中でも一番最強と呼ばれている霊力の持ち主で、何とか無事でいてもらいたいと思う方々です。

 魔族の方は最初よりもむしろ数を増していて、全員まだ物足りないと言った表情を浮かべ、口の端から体液を滴らせているものや、顔面を血しぶきまみれにしている魔族もいました。地面のあちこちから不気味にうねる触手がこちらに的を合わせ今にも襲いかかってきそうです。


《ギヘヘヘ、随分減っちまったなぁ。知ってるぜぇ? 巫女族ってのはそうそうなれるもんじゃねぇんだろぉ? しかも、巫女族が生まれるのは相当マレだっつー話だ。そんなレアな女とやれるなんてオレらも幸せもんだぜぇ、なぁテメェら!》

 

《うぉおおおおおおおおおおッ!!!》


 ラヴイの声に腕を真上に振り上げ同意の声を張り上げる魔族。すると、七人の巫女の内の一人である『鳳凰 (あかり)』様が声をあげました。


《確かに今までは多勢に無勢で手も足も出なかったわ。でも、それもここまでよ! 私達がいる限り、これ以上あなた達の好き勝手にさせたりしないわよ!》


 七力の一つである真紅の炎蛇鬼を持つ燈様は炎を身にまとい魔族へと突っ込みます。


《くらいなさいっ!》


 真っ赤な真紅の炎は燈様の動きに呼応するように動き、魔族の数名を炎の渦に閉じ込めました。


《な、なんだよこいつぁ! 聞いてねぇぜ、七力をここまで使いこなす巫女がいるなんてェェェエエエエエエッ!!》


《ギヤァアアア、まだ死にたくねェェェエエエエエ!》


《ギュワァアアァアアァワァアアッ!!!》


 燃えかすも残らず完全に塵芥と化した魔族。その威力にラヴイ他数名を除く大勢の魔族が凄み始めます。


《き、規格外だぜあの力はよぉ》


《や、ヤベェ》


 しかし、ラヴイはどうも気に入らないらしく、声を張り上げ叫びました。


《凄むなテメェらぁッ! それでも神族の連中に仇なす魔族の血を持ってんのか!? こんくらいで怯んでんじゃねぇ! こんなのはなぁ、こう――すんだよッ!!》


 そう言って次々に魔族を燃やしていく燈様の足を大きな手で叩き落としました。


《きゃっ!! ……うっ》


 言い方は悪いかもしれませんが、仲間の巫女達の死体がクッション代わりになって大したダメージは受けませんでした。とは言ったものの、少々軽傷を負った燈様はその場に倒れてしまいました。すると、今度は『鳳凰 (れき)』様が口を開きます。


《よくも、よくも燈をやったな? てめぇら、覚悟は出来てんだろうな! あぁん?》


 以前からキレると口が悪くなると噂されていた礫様は案の定仲間がやられて完全にマジギレしていました。完全に殺気めいた表情をしていて、その目は獲物を食い殺す女豹の様です。


《ゲヘヘヘ、年増に用はねぇ! 帰んな!!》


 幼女好き――ロリコンの鬼神族であるゴーモは、マジギレしている礫様を手でシッシッと適当にあしらい、逆に私達の方にデレッとした視線を向けてきます。


《くっ、このあたしを無視しやがったな? 覚悟しやがれっ!》


 拳を強く握り締めた礫様は巨大な岩の斧を生成し、それを使って魔族を一気に薙ぎ払いました。


《グヘァッ!》


《グウォッ!?》


 礫様を中心に一掃される魔族。見た目はか弱そうな巫女が予想外の力を持っている事にさすがのラヴイも動揺したのか、表情を引きつらせて咆哮をあげます。


《ざけんなテメェ! ただの不死身ってだけの巫女がいきがってんじゃねぇ!!》


 大きな拳が振るわれ礫様を潰そうとしますが、ギリギリでそれを躱す礫様。すると、その背後を狙って魔神族の騎士が長剣を横に薙ぎました。


《あっ、くっ……! て、てめぇ!》


《申し訳ないな、巫女よ。……さすがの我もこれ以上の勝手は容赦できんのでな。それに、我はまだやっていない。このまま我慢は貫けそうにもない。それに、偶然か我の好みは貴様の様に少々強気な娘がよい。くく、必然か……。さぁ、我が憤りを受けよ!》


《うぐっ!! んあっ、……もごっ、や、やめろ! ……てめぇ、ざけ……ごほっ! んむっ》


 ここからでは暗がりでよく窺えないが少なくとも魔神族の騎士に襲われているのだけは声で理解出来ました。酷い、紳士的に振舞うのではなかったのか。それとも、他の魔族に()てられて冷静さを失ってしまったのか。


《ギヘヘヘ、やりましたねリヘラヴァーン様。よっしゃ、俺らも他の巫女をやっちまうぜ?》


 人間の肌の色とは明らかに異なる色をした指の関節をボキボキと鳴らしながらこちらにジリジリと歩み寄る魔族。どうやら、まだ向こうが優勢であることには変わりないようです。


《くっ、ここから先へは進ませない! 刻、手伝って!》


《え~、でもぼくは暁と一緒にいたいし……》


《なっ、刻酷い……わたしというものがありながら暁を取るの? 許せない!》


 黄金色のセミロングヘアを風に靡かせながら文句を言っているのは、七力の一つ――黄金の雷馬鬼を持つ『鳳凰 (ひらめ)』様。七力の一つ――深緑の風鶏鬼を持つ『鳳凰 (きざみ)』様が好きでよくアプローチするものの、相手は七力の一つ――白銀の光鳳鬼を持つ、『鳳凰 (あきら)』様も好きだという、俗に言われるトライアングル?になっています。また、そのためか最近閃様はヤンデレ化しています。何でも噂によれば以前刻様が暁様と浮気していた際、彼女に毒を盛ろうとしたのだとか。


《おい、お前ら……何俺らを無視してんだ!》


《そうだそうだ! 無視してんじゃねぇやっちまうぞ!?》


《うっさい! わたしと刻の仲を割く者は雷霆を持って制裁する! 邪魔するなら死んでもらうっ!》


 指先を突き出し、その先端に何万ボルトもの高電圧の怒りの雷を迸らせる。その目は途轍もなく血走っていました。


《や、ヤベェ! こいつ、目がマジだ!!》


《死ねぇええええっ!!!》


 閃様は目の前の敵及び暁様に向かって雷霆を繰り出しました。


《ギヤァアアアアアア、アヂィ! 痺れるゥゥゥゥゥ! 体が灼けるゥゥゥゥウ!!!》


 魔族の面々は顔中を焼け爛れさせてその場で転げ回ります。


《きゃっ! ちょっと、何アタシにも雷落としてるの!? 仲間でしょ!?》


 慌ててその雷霆を避ける暁様は、驚愕して閃様を問い質します。すると、閃様は病んだ瞳で怪しい笑みを浮かべてこう言います。


《は、何言ってるの? 刻とわたし以外の面々は全員敵よ? 特に邪魔をするあんたは天敵だから一番に殺す》


 そう言って険しい表情で暁様を睨みつける閃様。当時幼かった私にはよく分かりませんでしたが、どうやら閃様は刻様のことをLIKEではなくLOVEとして見ているようです。しかし、肝心の刻様は双方好きな様で少々困惑して苦笑していました。


《まぁまぁ、閃も落ち着いて? 今は目の前の魔族を駆逐しないと。手伝ってくれたらご褒美……あげるから》


 その一言に鼻血を吹き出す閃様。顔も紅潮していて明らかに動揺の色が見えます。


《ご、ご褒美とは?》


《ふふっ、ナ・イ・ショ。さ、分かったら協力協力!》


《くっ、……勘違いしないでよね! 別にわたしはあんたを好んで協力するんじゃないんだから! 刻、そう刻のためなんだからっ!》


 人差し指と人差し指をツンツンしながら目をキョロキョロと泳がせた閃様は、先ほどとは電圧の異なる雷霆を用い、魔族を一掃しました。


《さ、さっきから俺ら別の意味で殺されて――ギヤァアアアアア!!》


《コバシィィィィィイ!! くっそ、俺らがこんな小娘共に……! そうだ!!》


 魔族の一人は何かを思いついたのか閃様の猛攻をかいくぐり、背後から刻様を捕らえました。


《いやあああああっ!!》


《き、刻!?》


《刻ぃっ!》


 刻様の悲鳴を一瞬で察知した閃様と暁様は慌ててその場へ駆けました。私達の真上の燃え盛る社の屋根瓦に仁王立ちする魔族の一人は不気味な笑い声をあげてこう言い放ちます。


《お前らの弱点はズバリ、この女……そうだろぉ? だったら、こいつをやっちまえばお前らは終わりだぁ!》


 その魔族の怪物は長い舌で舌なめずりすると、大きな手で拘束している刻様の顔をベロンと舐めました。刻様と怪物では怪物を私達と同じサイズに変えて例えると刻様はフィギュアサイズです。その大きさの差では手も足も出るはずもなく、刻様は両手を怪物の手で拘束され、怪物によって好きな様に弄ばれました。


《くっ、やめて! 刻を放して!!》


 屋根瓦の上に仁王立ちして見せつけるように悪行を働く怪物に、下唇を噛み締めて暁様が叫びます。それに対抗するように閃様も一言。


《くっ、あんた! 今すぐ刻を放さないと後が酷いわよ!?》


 礫様動揺少々キレ気味の閃様は拳を強く握り締めそう忠告します。その表情と気迫に私達は萎縮していました。


《ゲヘ、ゲヘヘヘヘ……なぁ~に言ってんだ! この巫女を拘束しちまえばお前らが手も足もでねぇことは分かってんだ! 放して欲しかったら……そうだなぁ~、その場で裸にでもなりやがれ!》


《分かったわ!》


《ゲヘヘ、そうだろぉ。裸になんかなりたく――な、ぬわぁああにいィィィイイイッ!?》


 思わず驚愕する怪物。私も驚きました。普通ならもう少し思案するはずなのに、躊躇うこともなく即座に裸になると宣言した閃様。すると、負けじと暁様も――。


《アタシも裸になるわ。それで刻が開放されるなら……》


 本来清廉潔白で純真無垢でなければならないはずの巫女族の人間が羞恥心をかなぐり捨てる様なあきれ果てたセリフを口にする……それは私だけではなく、怪物をも動揺させているようでした。


《げ、ゲヘヘヘ……そ、そうかよ。だったら裸になんな!》


 恐らく怪物も冗談半分に言ったのだろうが、相手が乗り気であれば今更やっぱいいと引き下がるのはプライドが許さないのだろう。動揺しつつも、そう命令します。閃様と暁様の二人は巫女装束に手を伸ばしゆっくりと一枚一枚その布を脱ぎ捨てていきます。他の魔族もふと二人の予想外の行動に動きを止めていつの間にか二人の巫女は下劣な烏合の衆の視線を一気に集めていました。

 すると、その隙を狙って行動している巫女が一人……七力の一つ、紫黒の闇龍鬼を持つ『鳳凰 (よい)』様です。彼女は背後から音もなくリヘラヴァーンと呼ばれていた魔神族の騎士が未だ礫様を襲っている現場へ赴くと、即座に暗殺剣で騎士の首を切り落としました。


《……あ?》


 抵抗も出来ず、声をあげることもなく騎士の首は地面に落ち、体は機能停止したロボットの様に膝から折れてその場に倒れました。


《ぷはっ……ゴホゴホッ! くっ、あんのクズ騎士が! あ? よ、宵じゃねぇか。な、なんだよ……》


《可愛い顔が汚れてるよ? これで、拭いて》


 ここからではよく聞き取れませんが、何やら宵様が礫様に差し出しているのは見えました。

 一方で、最後の一人――七力の一つである紺碧の水鮹鬼を持つ『鳳凰 (じゅん)』様は、未だ気絶している燈様を助け出していました。


《うふ、可愛い寝顔。……思わず食べちゃいたいくらい。あん、でもダメだわ。やっぱこの子は起きてる時じゃないと》


 何やら怪しい発言をする潤様は、口元の涎を拭い燈様をおぶるとこちらへ駆けてきました。


《暦ちゃん、燈ちゃんを見ててくれる? わたくし、これからあの三角関係の三人を見て来ないといけないから》


 口元に微笑を浮かべる様子はどことなく、今の環さんに似ていますが、当時の環さんにはそのような面影は少しもなく、普通に無邪気に遊ぶ女の子でした。今も私の近くで泣いています。

 戦況は一変していました。礫様と宵様が呆然と立ち尽くしている魔族を討ち殺していき、閃様と暁様が巫女装束を脱ごうとしている……というなんとも異様な光景。

 ゴッド・レジスタンスのリーダー?と思われる鬼神族のラヴイは何やらゴーモとコソコソと会話をしていてよく聞き取れませんが、一方で閃様と暁様の二人は既に赤い袴を脱ぎ去り、既に上一枚という所謂裸Yシャツ状態になっていました。


《お、おぉおおおおおおおッ! 偶然の産物とはいえ、やはり巫女は美しい。ゲヘヘヘ、魔族に生まれてきてよかったぜ》


 怪物はデレッとした下劣な笑みを浮かべて後一枚後一枚と二人を煽ります。他の観客と化した魔族もさっさと脱げなどと二人を急かします。

 しかし、閃様と暁様の二人もああは言ったもののやはり思春期の女の子。下劣で野蛮な鬼畜な魔族に産まれたままの姿を晒すのには抵抗がありました。でも、抵抗すれば大事な刻様を嬲り殺しにされる。それだけは嫌だったようです。

 と、その時――。


《ぎゃあぁああああああッ!!》


 突然怪物の腕から赤黒い血しぶきがあがり、辺り一面に生臭い臭いが立ち込めました。どうやら、怪物の腕が切り落とされたようです。すると、さっきまで拘束されていたはずの刻様の姿がなく、ふと視線を移動させると閃様と暁様に巫女装束を着せている刻様の姿がありました。そこで、私はふと思い出します。そう、刻様の持つ七力は颶風を巻き起こす力があるのです。その力を使って怪物を殺したのでしょう。


《ぐ、がぁ……お、お前ェエエッ!!》


 怪物は腕を押さえ、屋根瓦から飛び降りると、地面に降り立ち怒号の咆哮をあげると猛ダッシュで三人の巫女へと駆けていきました。しかし、閃様がさっと二人の前に進み出て雷を一気に敵の顔面へと放ちます。


《がっ、これは……ぐ、アガァアアアアダアアアアアアッ!!! お、お前ぇ……ァ……!?》


 ブシャッ!!!


 何か言おうと口を開いた刹那、突如怪物の肉体が膨張したかと思うと、有無を言わさず肉体が木っ端微塵になりました。肉片が周囲に飛び散り、腐臭を漂わせます。


《刻を傷つけた罰よ。……わたしの刻に手を出させはしない。あんたらもよく覚えておきなさい! これ以上わたしの刻――仲間を傷つけたらただじゃすまさないって!》


 その閃様の言葉に完全に敵は萎縮していました。後方へ下がり、今にも逃げ出そうとする魔族。しかし、そこにあの不気味な笑い声が聞こえてきました。


《ギヘッヘッヘッヘ、やってくれたなぁ巫女共ォ~。ただじゃ済まさねぇぜテメェら。完膚なきまで恐怖を植え付けた後、その純潔激しく散らせてやっからよぉ~!! テメェらも何怖気づいてやがる! オレらのバックにはあの御方達がいることを忘れたか!》


 ラヴイの下品な笑い声が響き渡り、さらにその声が魔族達に再び活気を与える。


《そ、そうだ。俺らには最強の魔神族『バルトゥアス』様と最強の鬼神族『デュオルグス』様がいるんだ!》


 初めて聞く二つの名。ただ、その名前を聞いて一気に活気づく魔族の様子から相当強い力を所持していると私は思いました。


《そうだぁ! オレらはこんな人族もどきの巫女族なんかに遅れはとらねぇ!! さぁ、こいつら全員やっちまえ!! 殺しはすんなよぉ~? 魔界へと強制連行してそこでバルトゥアス様とデュオルグス様の至高の玩具にしてやるぜ!!ギヘ……ギヘハハハハハハハハハハハハ!!!》


《おいおい、ラヴイ……幼女はオレによこせよ? ゼッテーだぞ?》


《あぁ、分かってる。安心しろ、さすがに幼女じゃぁあの御方達を満足させることは出来ねぇだろうしなぁ。だが、そこの七人の巫女共はイケそうだ。ギヘッヘッヘ、テメェら……後悔すんなら今の内だぜぇ? まぁ、今更泣いて詫びても許さねぇがなぁ~! 第一、テメェらはオレらの仲間を殺した……その事実だけであの御方達の怒号の連続突きを喰らうことは必至……ギヘヘヘヘ。テメェらの泣き叫ぶ声が楽しみだァ、ギヘハハハハハハハ!!》


《オレも幼女とのお楽しみタイムが待ちどおしいぜぇ、ギィヤハハハハハハ!!!》


 鬼神族の二人と魔族の怪物の笑い声が響き渡ります。徐々に歩み寄る敵に私達は動けず、七人の巫女もさすがに戦闘疲れで疲弊しているのかその場から動けませんでした。


《さぁ、準備はいいかぁ? おいでませ、魔界へ……テメェらは伝説になるんだ。何せ、あのお二方の相手になるんだからなぁ~。光栄なことだぜぇ~? せいぜい、尽くせよな。さぁ、帰るぞテメェら!!》


《御意ッ!!》


 鬼神族のラヴイを筆頭に魔族が両サイドへと並び、不気味な道を作り出す。その先には不気味な漆黒の穴があんぐりと巨大な口を開けて待ち構えています。これから私達はあの穴から魔界へと行き、そこでこの場で行われた悲劇以上の惨劇が繰り広げられるのかと思うと、多大な絶望感に打ちひしがれました。しかし、後悔してももう遅い……。


《そうは、……させないわっ!!》


 その声と共にその場に現れたのは当時巫女族の当主であった『鳳凰 華鉛(かえん)』様。今現在の当主である鳳凰鈴華様のお母様です。この時華鉛様は既に鈴華様を身篭っており、社内で産まれるのを待っていたのですが、そんな最中この襲撃が起きたのです。てっきり、私達は社に火を付けられた際に華鉛様もお亡くなりになられたと思ったのですが、どうやらご無事だったようです。


《か、華鉛様……》


 暁様が口を開き、無事だったことを嬉しそうにしています。他の五人の巫女も安心している様子でした。それもそうです。華鉛様の存在は私達に安心感を与えてくれるのです。

 一方で魔族の怪物達は口々に意義申し立てをしていました。


《ら、ラヴイさん! どういう事ッスか? 鳳凰華鉛は身篭ってて動ける状態じゃなかったんじゃ?》


《そうっすよ!》


《ば、馬鹿な……何故だ!?》


 ラヴイ本人も理解出来ていない様子で、焦りの色が伺えます。


《くっ、こうなったら七人の巫女だけでも……ッ!!》


 そう言ってラヴイは腕を振り上げ、頭上で指を鳴らすと同時に大勢の鬼神族を召喚しました。


《テメェら、この七匹の得物をデュオルグス様の元へお連れしろッ!!》


《ギィッ!》


《ギィッ、ギギッ!!》


 言葉を喋れない小さな鬼達は小瓶から触手を取り出すとそれを放ち、七人の巫女を拘束しました。


《きゃっ! くっ、放しなさい!!》


《ざ、ざけんな! テメェ!! んだ、このヌメヌメは! くそっ、斧が生成出来ねぇ!》


《やっ! やめてよ、き……刻ぃ~!》


《何なの、この触手! ちょ、どこ触ってんのやめっ……そこは刻だけ――ひゃっ!》


《こら、変態触手め! ぼくの閃と暁に手出ししないでよ!》


《あん、この触手……少々意思があるように思うのだけれど……って、そうも言ってられな――んんっ》


《………やらしい。でも、どうして影が薄いよいが見つかった?》


 目を覚ました燈様が真っ先に捕まり、礫様、閃様、暁様、刻様、潤様、宵様、の七人が次々に捕らえられ小鬼達に担ぎ上げられると、ラヴイの合図と共に魔界から現れた邪悪なオーラによって飲み込まれた。


《あっ、待ちなさいッ!! 逃がさないわ!!》


 華鉛様が慌てて七力の力を呼び出します。

 と、その時、オーラに飲み込まれながらも七人の体から七力が結晶化して飛来してきました。


《華鉛様、この力……一部だけですがお受け取りください!》


《あたしの力も、くっ……使ってくれ!》


《……少々、心配ですがわたしのも》


《閃にだけいいカッコはさせない!》


《二人がやるならぼくもこの力を贈与させていただきます!》


《うふ、お生まれになる御子に引き継いでいただきたく存じますわ》


《よいのも……影が薄いからって受け取り拒否だけは勘弁》


 七人が順番に言伝を伝え、その結晶化した一部の七力が華鉛様の今にも生まれそうな大きなお腹に溶けて消えます。どうやら、これが贈与……のようです。


《ギヘッヘッヘッヘ、七力を贈与しちまうとは馬鹿なやつらだぜ! 余計にこっちがやりやすくなったってことじゃねぇか!! ギヘハハハ、あばよぉ鳳凰華鉛! テメェの可愛い可愛い部下はオレらが美味しく食べてやんよ! ギヘハハハハハハハ!!!》


 そう言ってその場から闇のオーラと共に消えるラヴイ。


《ち、ちょっと待てラヴイ! オレの幼女はァアアアアア!?》


 他の魔族も消えていく中、ゴーモだけは名残惜しそうに嘆き悲しみの言葉を残しながら消えていった。


《……あっ、く》


 華鉛様はその場に呆然と立ち尽くし、ただ拳を握りしめ下唇を噛み締めていました。私達も途方にくれるしかありませんでした。その後、その七人の巫女がどうなったのかは分かりません。ただ、彼女達のことは私達十五人の中で伝説として語り継がれています。尚、その後お生まれになった鈴華様を残して華鉛様はお亡くなりになり、案の定鈴華様は奇跡的にも七力全てを引き継がれました。また、私達の不死身の力の仕組みを知られたからにはその存在を隠すしかないと悟り、私達は巫女族に縁があるという地で鳳凰一族として生きていくことに決めました。そして今に……至るのです。

 しかし、事件はあれで終わりでは……なかったのです。

というわけで、今回は神族のなかでも特に魔族を中心に出しました。鬼神族と魔神族ほか、何人かの魔族が巫女族を襲ったわけです。これにより、鈴華は七力を全て得たんです。

んで、今回の話でしたがはっきり言って色々ギリギリです。まぁ、あの後七人がどうなったかはご想像にお任せします。死後の世界というのは、そのうちやります。

そして、事件はあれだけではなかったと言っていますが、その事件というのは鈴華が七歳の時にさらわれた鳳凰一族襲撃事件のことです。鎧一族のやつらに襲われたっていうあれです。にしても、この人たち襲われすぎでしょ。一応、フレムヴァルト帝国は武器では名を轟かせているので対応の施しようはあったと思うんですが。まぁ、それはさておき、次回はサービス回で温泉に入ります。

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